ビジネスパーソンインタビュー
広告なんてほぼ「ナンパ師」。だからこそ…
「売れようと必死なヤツも、売れなくていい美学もどっちも嫌い」マキシマムザ亮君が語る新・広告論
新R25編集部
最近、いろいろな意味で「広告」が話題になることが多いように思います。
ただし、批判されてしまったり、「若者は広告を嫌っている」という文脈だったり、あまりいい意味では話題になっていない気も。
今週の新R25は、「いい広告って何だろう?」をテーマに、2人の広告人にお話を聞きます。三浦崇宏さんにつづきご登場いただくのは…
CDが売れない時代に売るための手を尽くす男、マキシマムザ亮君。
【マキシマムザ亮君(まきしまむざりょうくん)】ロックバンド・マキシマム ザ ホルモンの「歌と6弦と弟」担当。全楽曲の作詞作曲を担いつつ、CD・グッズなどのデザイン、プロモーション・キャッチコピーなどバンドに関わる全ての企画のディレクションに携わる
発表作品の累計売上は200万枚超え。音楽不況の時代において、トップクラスのセールス実績を持つロックバンド・マキシマム ザ ホルモン。
そのブレーンとして、全作詞作曲、CD・グッズ等のデザイン、プロモーション、キャッチコピーに至るまで、バンドに関わる全企画のクリエイティブ・ディレクションを担っているのが亮君なのですが…
新曲を「書籍」として書店で販売したり、テレビリモコンで操作するゲームをクリアしないと再生できないライブDVDを作ったりと、そのPR手法は超独創的。
広告クリエイターとしての手腕はビジネス界からも評価を得ており、日清食品の“アウトサイダー広告代理人”として「カップヌードル コッテリ―ナイス」のプロモーションを任された実績も。
いったいどんな「広告論」が聞けるのか…?
〈聞き手=サノトモキ〉
「売れようと必死なヤツ」も、「売れなくていい美学」もどっちも嫌い
サノ
今日は「愛される広告とは何か?」を教えてもらいたいのですが、まずは亮君さんの“広告クリエイター”としての素顔に迫らせてください。
アーティスト自身が全プロモーションを考えてるって相当珍しい気がするんですけど…
亮君さんは、どうしてそこまで「売ること」に力を入れるんですか?
マキシマムザ亮君
うーん、お金が欲しいというより…自分たちがやりたいバカなことを、真剣にやり続けるためですね。
そのためには結果を出すことが一番。実績があれば、次もまたバカなことも、さらにこだわってやらせてもらえるので。
見た目の圧にド緊張しながら取材スタート
亮君
ライブハウスに全然お客さんが集まらないインディーズ時代、当たり前ですけどバンドマンは全員「売れたい」と思ってるんですよ。
でもやっぱり同時に、「売れることに必死になるなんてカッコ悪い」みたいなアンダーグラウンド精神もあって。
サノ
ああ…「大人の言うこと聞いて売れる曲作るなんてダサい」みたいな。
亮君
そうそう! だからインディーズの世界って、「売れることなんて興味ない」「売れなくてもいいから自分の音楽を貫く」ってバンドが多い。
そっちのほうがアーティスト的だと賞賛されがちなんですが、僕は「売れようと必死なヤツ」も「売れなくていい美学」も、どっちも嫌いだった。
「必死なんていらない、必殺があれば売れる」って格言を信じてました。
「あっこれ、僕が考えた言葉なんですけど(笑)」
亮君
大衆に媚びて、無理やり味を変えたり薄めたりする事は僕も絶対にしたくない。
だから昔から、「上品で高級な食べ物より、見た目も悪く脂っこくて噛み切れないホルモンのほうが絶対にうまい!」と…自分の作るこってりな味こそが一番行列ができる“必殺”の味だと信じてやってきました。
でもいくら情熱を語っても、客が誰も食べに来てくれなかったら、そのうち電気もガスも止められるのが現実じゃないですか。
サノ
たしかに。
亮君
つまり、「自分だけがわかってればいい」のままだと、自分のやりたいことも結果的に制限されてしまうんです。
自分たちのやりたい音楽がある人間こそなおのこと、「食わず嫌いをしている人たち」や「今まで出会ってないだけで、実は凄く好きになってくれる可能性をもった人たち」を引き込む努力をしなくちゃいけない。
想像以上に冷静な分析だ
亮君
だから、僕らのメジャーデビュー1発目「ロック番狂わせ」って曲に「井の底に引きずり落とすような井の中の蛙であれ」って歌詞があるんですが…
あれは、「上で楽しんでるヤツらを、こっちのアンダーグラウンド側に引きずり下ろすぞ」って宣言なんです。
背伸びしたり、無理に自分を変えるつもりはないけど、相手を振り向かせる努力はしまくるぞと。
サノ
ホルモンの歌詞にそんな意味が…!
亮君
「売れたい」「信じた音楽をわがままに自由にやる」。ちゃんと両方叶えたかったんですよね。
マキシマムザ亮君が行ってきた“奇抜な”プロモーション施策とは?
サノ
「興味のない人を振り向かせる」ために、実際にどんな広告企画を仕掛けてきたんですか?
亮君
最近で言うと…ホルモンのYouTube番組「ガチンコ ザ ホルモン シーズン2」。
あの番組はそもそも、僕がコロナ禍で感じていた不安や深い悩みをすべてエンタメとして落とし込んで、ファンを楽しませながらも自身のモヤモヤを解決させるというのがテーマだったんです。
亮君
でも、それだけではただの自己満リハビリで終わってしまう。レコード会社に多大な制作費をかけてもらってる手前、ここでちゃんとバンドの新曲プロモーションを結びつけようと。
ただ今のご時世、自身のチャンネルで新曲MVをただ公開しても既存ファン以外にはなかなか届きづらいと思うんです。
そこで、番組の一番の山場で「俺ならこう歌う選手権!!」という、様々なミュージシャン、アーティストにホルモンの新曲のオケ伴奏とサビの歌詞だけを渡し、「メロディーを自由に考えて歌って」という企画に結びつけたんです。
サノ
あっ、それミスチルの桜井さんも参戦してるヤツですよね!? 観ました観ました!
亮君
そう!それです!
奥田民生さんにGLAYのTERUさん、YOASOBIのコンポーザーAYASEくんからCreepyNutsのR-指定くんに、芸人の粗品くんなど…
ジャンルや世代を超えて、ありえない豪華な顔ぶれが出演してくれたんですよ!
サノ
歌詞や伴奏が同じでも、歌う人が変わってメロディーのアプローチがそれぞれ違ったので、全く違う曲に聴こえてめちゃくちゃ面白かったです。
亮君
そうなんです! 出演してくれたアーティストさん達の素晴らしい個性と才能を視聴者に再認識してもらえたし…
なにより僕自身も「僕が作ったこの歌詞とメロディーをこんな風にホルモンが歌うからホルモンになるのだ」と、自分の本質の旨味を新曲と併せてファン以外にもアピールできた。
これ、今まで誰もやったことのない切り口のセルフプロモーションだったと思います。
【#7 ガチンコ ザ ホルモン2】「俺ならこう歌う選手権!!後編」謎の男とレジェンド3人ガチ歌公開!亮君によるホルモン原
▽再生リスト“ガチンコ ザ ホルモン~コッテリ、の その先へ~“はこちら!https://www.youtube.com/playlist?
桜井和寿、TERU、奥田民生、Ayase(YOASOBI)、粗品(霜降り明星)など異ジャンルのアーティストを巻き込み、YouTube急上昇ランキングも2位まで上昇。とんでもないプロモーションアイデアだ…
亮君
あとは、日清食品とのコラボCMも刺激的でしたね。
もともと僕、いつか日清カップヌードルとタイアップしたいと思って、「ハングリー・プライド」って曲を勝手に作って温めておいたんですよ(笑)。
サノ
想定シチュエーションがピンポイントすぎませんか?
亮君
ずっと片思いだったんで(笑)。
そこで、とある特殊ルートで日清食品重鎮の方達が出席する会議に参加させてもらえる機会をいただき、レコード会社やバンド関係なしに、一人の「アウトサイダー広告代理人」としてプレゼンをさせていただいたんですよ。
今までのホルモンのPR事例を動画にまとめて、勝手に作ったタイアップ曲「ハングリー・プライド」も聴いていただき、「日清さんとこんなコラボがしたいんです」と独自の構想アイデアを、日清の重鎮の方たちの前でTシャツに便所サンダル姿で熱く語って参りました(笑)。
日清のトップの方々と便サン姿の亮君…すごい絵になりそう
亮君
その結果…「おもしろい、ぜひやりましょう!」と、なんと異例の4商品、ホルモンの曲でのタイアップが決定しまして。
もう。「イヤッタアアアア!!!!獲ったどおおおおおお!!!!」「日清食品様、なんという懐の深さ! イケメンすぎワロタ! 抱いてくれ!」って感じでしたね。
ホルモンの曲で4商品タイアップって、普通じゃないですよ。やっぱ日清狂ってんぜ! 最高!!!!(笑)
当時の興奮を思い出したのかテンション爆上がりではしゃぐ亮君。妙なかわいさがある
サノ
コラボ自体が話題になってたの、僕も覚えてるもんな…
日清のカップヌードルなんてほとんどの日本人が知ってる商品だし、まさに「興味ない人を引きずり下ろす広告」だったんですね。
「視聴者からすれば、広告なんてナンパ師みたいなもん」。だからこそ必要なのは…
サノ
ただ…最近“広告が嫌われてる”と言われたり、問題になったりしてしまうことも多いですよね。
「愛される広告」って、どんなものなんでしょうか?
亮君
うーん、僕自身は広告大好きなんですよ。
たとえばCMって、ものすごいクオリティの「作品」じゃないですか。テレビ番組に絶対必要なものだし、「15秒でどんだけ表現するか」って観点でも最高に面白い。
僕、子どものころから映画館の最初の15分の予告編とかも大好きだったんですよね(笑)。
亮君
ただ一方で、「うざったい広告」がめちゃくちゃあるのもわかります。
見たくもないのに無理やり押させようとしてくるスマホゲームのバナーとか、僕も超うざったいです。
「ヤリたいだけの広告」は、僕も嫌いですね。
サノ
ヤリたいだけの広告?
亮君
「明らかにヤリたいだけやん」みたいなうっすい広告、めっちゃありません?(笑)
信念もメッセージもなく、「買わせたい」だけがダダ漏れ。振り向かせたい女の子がいるときに、「ヤリたい」しか見えてなかったらそりゃ嫌われるじゃないですか。それと同じ。
嫌われる広告は、「我慢汁出ちゃってる広告」。これですね。
「自分もそう思われてたりして…あー怖くなってきたー!」と急に不安がる亮君。
亮君
最近はとくに、見てるほうも下心を見抜く力がエグいんですよね。
広告代理店の人たちはプロだから最高のタイミングで広告しかけてナンボなんですが、それが見事にキマりすぎると、逆にドン引きされる事も多い。
サノ
たしかに、「作り手側の意図」を感じた途端にサムく思っちゃうこと、けっこうあるかも…
亮君
視聴者からすれば、広告なんて「タイミングの悪いナンパ師」みたいなもんですからね。
何かコンテンツを楽しんでるところに、突然現れて一方的に口説いてくる「邪魔者」。そりゃ警戒されるし、嫌われますよね。
巧みな言葉のテクニックで誘っても煙たがられ、誠実に「結婚してください」と告っても気味悪がられ、バカなふりしてど直球に「やらせろ」と言えば通報(笑)。そんなナンパ師と同じで、基本受け入れてもらえない。
基本的に広告って、めちゃくちゃマイナススタートなコンテンツなんですよ。
なぜこのタイミングでプロテインを一気飲みしたのだろうか
サノ
逆に、そんなハードルを越えられる「いい広告」ってどんな広告なんでしょうか?
亮君
“「イチ作品」として圧倒的なもの”。これ以外ないんじゃないですかね。
僕も自分でプロモーション企画を考えるとき、すごくそこは意識してるかも。
だからやっぱり、「必死なんていらない、必殺があれば売れる」を信じたい。
亮君
それが本当に「素晴らしいクオリティのコンテンツ」であれば、広告だろうが人は「いい」と思うんですよ。
最近だと、ポカリスエットのCMとか。女の子が学校の廊下を走っていくやつ。
あれはもう、圧倒的だった。
サノ
たしかに、SNSでもめちゃくちゃバズってました。
亮君
あのCM、「ポカリを飲め!うまいぞ」なんて一言も言ってないじゃないですか。商品の味も効能も一切語ってない。
下心丸出しで「ヤリたい」と近づいてくるやつらとは別モン、作品を創ってる事自体に興奮してるタイプ。
でも、まるで1本の映画を観たような…シンプルに「いいもの観させてもらった」ってたくさんの人が思ったからあれだけバズったと思うんですよね。
サノ
きちんと「視聴者を楽しませるコンテンツ」になっていれば、広告だろうが嫌われることはないと。
亮君
そうそう。やっぱり「心に届く広告」って、クリエイターとクライアントの「いいもの作りたい」「いいものを見せたい」って、「創ってる本人が脳汁出てる感」が伝わってくるんですよね。
邪魔者で嫌われ者だからこそ、「絶対楽しませるぞ」と作ってる本人が楽しんじゃってる広告は愛されるんじゃないかな。
あそこまで行くともうね、見てるほうが勝手に濡れちゃいますね!
下ネタのオンパレードだけどこれぞ“マキシマム ザ ホルモン”だ! 開き直って全部書いちゃいました!
腑に落ちる学びだらけだった前編につづき、明日公開の後編では「ファンが生まれる広告の作り方」をお聞きします!
・今の時代に「拡がる」コンテンツとは…?
・亮君が決めた、広告における「やる/やらない」の線引きとは…?
・「言えないこと」だらけの時代、広告のあるべき姿とは…?
お楽しみに!
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
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