中原 淳著『働くみんなの必修講義 転職学』より

人はどんなときに離職・転職を考えるのか。転職希望の度合いを知れる方程式「D×E>R」とは

仕事
副業・兼業に関心を抱く人も増えてきた今、転職は「当たり前」の選択肢になりつつあります

しかし私たちは誰からも「転職のやり方」を教わっておらず、キャリアが異なる人の経験も参考にしにくいため、いざ転職を検討するときに不安を感じる方もいるかもしれません。

よい転職をするためにはどうすればよいのか?

このシンプルながら難しい問いに科学の力で答えを出したのは、立教大学経営学部教授・中原 淳さんと、パーソル総合研究所、パーソルキャリアの共同研究。その成果が新著『働くみんなの必修講義 転職学』になりました。

今回は、『働くみんなの必修講義 転職学』(中原淳・小林祐児・パーソル総合研究所著)のなかより、その一部を抜粋してお届けします。

人が転職を考えるメカニズムは「D(不満)×E(転職力)>R(抵抗感)」

本記事を読まれている方は、多かれ少なかれ、転職になんらかの関心をもっていることと思います。

すでに転職を具体的に検討している方、転職が頭のなかにチラついているけれど、まだ先のことだと感じている方、いまのところ転職するつもりはないが、将来に備えてリテラシーを身につけておきたい方など、程度の度合いはさまざまでしょう。

「人はどのようなときに離職・転職を考えるのか」というメカニズムを知ることができれば、自分はいったいどの立ち位置にいるのか、という客観的な程度の度合いを把握することができるように思います。

最初に、最重要ともいえる考え方を紹介したいと思います。

それは、「人はどのようなときに離職・転職を考えるのか」のメカニズムを表す「転職の方程式」です。

この方程式は、それが表す英語の頭文字をとって、「D×E>R」と表現できます。

「D(不満)×E(転職力)」で、転職行動に近づく

いちばん左のDから説明しましょう。

Dは、「Dissatisfaction(不満)」を意味します。

人は働きながら、会社や仕事、置かれた状況に対してさまざまな不満を抱きますが、Dはその不満の強さを表しています。

この不満が高まれば高まるほど、転職したい気持ちも高まる、ということです。

続いて、真ん中のEは、「Employability(転職力)」を意味します。

エンプロイアビリティ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

近年、日本でも多用されるようになった言葉で、直訳すれば「雇用される可能性」とか「雇用される能力」となります。

これは「現在とは違う会社や仕事に移ることのできる可能性」のことです。

つまり、「D×E」の部分が表しているのは「不満(現職への不満が高まる)×転職力(外の世界で活躍できる可能性が高い)」ということになります。

この「不満×転職力」が大きくなるほど、不満が高まり、かつ外の世界に出ていけるので、人は転職行動へと近づきます

現在の会社に不満をもち、そこで転職することが可能ならば、転職を選択する人も多くなるのは当然です。

「R(抵抗感)」を「D×E」が上回るときに、転職行動に移る

とはいえ、人はこの「D×E」の大きさだけで転職行動を起こすわけではありません。

そこでもう一つ考えなければならないのが、方程式のいちばん右のRです。

このRは「Resistance(抵抗感)」を意味します。

転職とは、現在の労働環境を変えることであり、多くの人にとって、心理的にも、物理的にも負荷ストレスがかかります。

だからこそ、転職を検討するにあたっては、必ずこの「抵抗感」がつきまとうのです。

この抵抗感を「不満×転職力」の積が上回ったとき、人は転職を決意し、行動へと移る、と整理することができます

ちなみに、この方程式は人の意識や心を完全に数値化し、転職行動を予測・予想するものではありません。

それでも私たちが最初にこの式を示したのは、繰り返しますが、それがみなさん自身の現在位置を確認するための「座標」になるからです。

転職すべき? 人が転職を意識する3つの原因

日本において「転職したい!」という思いのベースになっているのは、働いている企業や、その企業での働き方などに対して抱く不満です。

では、そこで抱える不満の内容とは何でしょうか。

① 不満を抱く

私たちの調査によれば、「一般的に抱きやすい不満」、つまり、仕事をしている人の多くが抱く不満では、給与昇進休暇にかかわるものが上位に来ているのに対し、「転職につながりやすい不満」では、ハラスメントサービス残業にかかわるものが上位に来ています。
出典

働くみんなの必修講義 転職学

とはいえ、こうした「転職につながりやすい不満」を抱くだけで、人が即座に転職行動を選択するわけではないことは、みなさんの経験からも理解できるのではないでしょうか。

なぜなら、こうした不満には、「解消される不満」と「解消されない不満」の2つがあるからです。

たとえばいま、みなさんが、会社の上司や同僚との人間関係に悩むという不満を抱いているとしましょう。

しかし、日本企業の多くにはジョブ・ローテーションの習慣がありますから、苦手な上司が急に異動でいなくなることも、自分が思いがけない辞令を受け取ることもあります。

そうしたときに、このような不満は「解消」されます。

② 不満が変わる見込みがない

心理学に、「学習性無力感(Learned Helplessness)」という有名な概念があります。

人は、抵抗したり回避したりするのが難しいストレスや抑圧のもとに置かれると、その状況から「何をやっても無意味」ということを学習し、それを改善するための努力すら行なわなくなることを、この概念は示しています。

つまり、不満を解消しようとして相談などの行動を起こしても、その状況に変化が起こらなければ、人は「何をやっても無意味であること」を「学んでしまう」のです。

そして、じつはこの「不満解消をあきらめる」「これからも不満が変わる見込みがない」という判断が、転職においてはとても重要な意味をもっています。

人は不満を抱いているかどうかというよりも、その不満が変わる見込みがあるかどうかによって、心の状態や動機づけが変化するのです。

③ 最後のダメ押し

そしてあるとき、「最後のダメ押し」が訪れます。

それは、多忙に追われるまま働いているうちに「身体を壊した」ことかもしれませんし、巷に溢れる転職への「煽りの言説」に影響されたことかもしれません。

この「最後のダメ押し」こそが「離職の意思」を確固たるものにするのではないかーー

私たちはある研究を参考にして、そのような仮説を立てました。

その研究とは、イギリスの心理学者であるジェームズ・リーズンが提唱した「スイスチーズ・モデル」です。

このモデルの特徴を端的にいえば、「事故は単独で発生するのではなく、複数のエラーが連鎖することによって起きる」という考え方を示したものです。

スイスチーズには穴が開いていることから、このような名称がつけられました。

このモデルが提示する事故発生までの流れが、企業で働く人たちの離職について考えるときにも参考になる、と私たちは考えました。
出典

働くみんなの必修講義 転職学

業務が忙しい」「上司との関係がいまひとつ」「同僚からのフォローがない」といった不満は、スイスチーズに開いた穴のようなものであり、その複数の穴がふさがらない。

つまり不満が「解消されない」ことを悟り、「最後のダメ押し」という穴が開いたとき、人は離職を決意する、というわけです。

この考え方がユニークなのは、「上司への不満」「人間関係」などという不満の「内容」よりも、その不満の「重なり」や「変わらなさ」などの「構造」に着目した、という点でしょう。

みなさんのチーズの「穴」の状況は、いまどうなっているでしょうか。

働いていれば、頭の固い上司にカッとなることや、トラブルに巻き込まれて不満を感じるのは日常茶飯事です。

そうした不満の内容や強さだけではなく、その不満の「重なり」や「変わらなさ」を冷静に見て、「自分の心の現在地」をぜひ、見極めていただければと思います

転職にまつわるシンプルな問いに、科学的な視点から答えた一冊

働くみんなの必修講義 転職学

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このまま今の会社で仕事を続けていてよい?

転職行動をどのように行なえばよい?

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同書はこのような転職にまつわる問いに対して、12,000人もの大規模調査を駆使し、科学的アプローチから答えを導きだした一冊です。

転職に悩んでいる方はもちろん、労働市場に参加する新卒の方、転職者を迎え入れる企業のリーダーやマネジャーなど、これからの働き方に関心がある方はぜひ読んでみてください。
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