カル・ニューポート著『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』より

SNSを使うべき理由を説明できる?スマホ依存から“デジタル・ミニマリスト”になるメリット

仕事
今や生活に必要不可欠なスマートフォン。

しかし一方で、「通知が気になる」「SNSを見ていると、気がついたら時間が経っていた」など、どこか不自由さを感じている人は多くいるのではないでしょうか。

そんな現代の世相を科学的に分析し、現代人をデジタルのしがらみから解放しようとしているのが、ジョージタウン大学准教授でコンピュータ科学者のカル・ニューポート氏

著書『デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方』(ハヤカワNF文庫)の中で、次のように語っています。

「現代のデジタル・ライフについて議論するうえで繰り返し耳にしたキーワードは“疲労感”だった。(中略)デジタル・ミニマリストは知っている。現代のハイテクな世界で生き延びていくために必要なのは、テクノロジーを使う時間を大幅に減らすことだ」

技術が急速に進化するデジタル過多な現代で、私たちは新たなテクノロジーとどのように付き合っていけばよいのでしょうか。

同書から一部を抜粋してお届けします。

デジタル・ミニマリズムとは?

私たちの主体性を侵害しているテクノロジーは、人間の脳の奥深くにある弱点をピンポイントで攻撃するスキルを着々と磨いてきた。

一方の私たちは、ここに至ってもまだ、自分たちはテックの神々が与えたもうた楽しい贈り物で遊んでいるだけのことと無邪気に思い込んでいる。

私たちを行為依存へ誘いこもうとしている力を払いのけるために特別に立案した戦略、目標達成を邪魔させるのではなく後押ししてもらうために新しいテクノロジーをどのように利用すべきかを定めた具体的なプランが必要だ

デジタル・ミニマリズムは、まさにそのような戦略の一つだ。
<デジタル・ミニマリズムとは?>

自分が重きを置いていることがらにプラスになるか否かを基準に厳選した一握りのツールの最適化を図り、オンラインで費やす時間をそれだけに集中して、ほかのものは惜しまず手放すようなテクノロジー利用の哲学。

出典 デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方

この哲学を採用したデジタル・ミニマリストと呼ぶべき人々は、費用対効果をつねに意識している。

新しいテクノロジーが登場したとき、それを利用してもわずかな娯楽や利便性しか得られないと判断したら、初めから手を出さない

自分が大事にしていることを後押ししてくれそうだとわかった場合でも、その新しいテクノロジーは、さらに厳格な基準をもう一つパスする必要がある。(目標を達成するために、そのテクノロジーを利用することが最善といえるかどうか)

この基準に照らし合わせた答えがノーなら、ミニマリストは、そのテクノロジーの最適な利用法を探るか、もっとよい別の選択肢を求めて情報収集を再開する。

デジタル・ミニマリストは、通常とは逆に、自分が心から大事にしていることを基準に利用すべきテクノロジーを選び、注意散漫の元凶たる新しいテクノロジーを充実した人生を支えるツールへと変貌させる

ここで注目したいのは、デジタル・ミニマリストの哲学は、世の中の大多数の人が特に何も考えずに採用しているマキシマリスト的な哲学、すなわち、新しいテクノロジーが目にとまったとき、それにほんのわずかでもメリットがありそうならとりあえず使ってみようという姿勢とは好対照をなしていることだ。

マキシマリストは、どれほど些細なことがらであろうと、おもしろそうなこと、価値のありそうなことを自分や周囲が見逃すかもしれないと考えただけで不安になる。

実際に、私がフェイスブックを一度も利用したことがないという事実を公言し始めたとき、仕事でつきあいのある人たちは、まさにそのマキシマリスト的な理由から驚愕した。

そして驚かれるたびに私は「どうしてフェイスブックを使うべきだと思います?」と尋ねる。

「どうしてと言われても困るけれど」と彼らは答える。

「でも、何か役に立ちそうな情報があるのに、それを見逃しているかもしれないでしょう?」

この意見は、デジタル・ミニマリストの耳には馬鹿げたものとして届く。

なぜなら、理想的なデジタル・ライフとは、具体的なメリットを最大限に享受できるよう、自分が使うツールを意識的に取捨選択することで作るものと考えているからだ。

彼らは、自分の時間と注意を無意味に削り取ったあげく、役立つどころか損失をよこしてくるような価値の低い活動を極度に警戒する。

要するに、小さなチャンスを見逃しても気にしない

それよりも、人生を充実させると確実にわかっている大きなことがらを、ないがしろにすることの方を恐れるのだ。

デジタル・ミニマリストの具体例①「大事なことから逆算」して日々の行動を決める

この抽象的な考えをより具体的に理解するために、私がこの生まれたばかりの哲学についてリサーチをするなかで知り合ったデジタル・ミニマリストの実例をいくつか紹介しよう。

彼らミニマリストのなかには、目標達成を後押しするか否かという条件でふるいにかけた結果、一般的には不可欠と思われているサービスやツールを排除した人もいる。

たとえばタイラーだ。

彼は標準的な動機から、標準的なソーシャルメディア・サービスにひととおり登録していた。(キャリアアップのため、友人知人とのつながりを保つため、余暇の娯楽のため)

しかしデジタル・ミニマリズムを採用したのを機に、この3つはどれも大切ではあるが、ソーシャルメディアを朝から晩まで使い続けていても、得られる利益はどれほどひいき目に見てもごくわずかであり、目標を達成するための最善の方法という条件を満たさないことに気づいた。

そこで、ソーシャルメディアをすべてやめ、もっと直接的で効果的な方法を代わりに導入して、キャリアアップ、友人知人とのつながり、余暇の娯楽という目標を追求することにした

私が初めて会った時点で、タイラーがミニマリストに転向してソーシャルメディアを排除してから1年ほど経過していた。

そのあいだの生活の激変ぶりを喜んでいることが文面からも読み取れた。

家の近所でボランティア活動を始め、定期的にエクササイズをし、本を月に3冊から4冊読むようになった。

ウクレレの練習も始めたそうだ。

携帯電話を片時も手放せなかった状態から解放されて、奥さんや子供たちとの距離もこれまでになく縮まっているという。

仕事の面では、ソーシャルメディアをやめて集中力が向上したおかげで昇進した
タイラー「僕の変化に気づいてくれるクライアントもいて、以前と何を変えたのかと訊かれます」

出典 デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方

タイラーは私にそう話した。
タイラー「ソーシャルメディアをやめたんですよと答えると、みんなこう言います。

『自分もやめたいが、無理だな』って。

でも本当のことを言えば、ソーシャルメディアを続ける正当な理由なんて、実は一つもないんですよね!」

出典 デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方

タイラー本人も迷わず認めるように、彼がよいほうに変わった要因は、ソーシャルメディアをやめるという決断一つだけではない。

理屈の上では、フェイスブックの利用を続けながらウクレレを始めることは可能だっただろうし、奥さんや子供たちと過ごす時間を増やすこともできただろう。

しかし、ソーシャルメディアをすっぱりとやめるというタイラーの決断は、彼のデジタル習慣にちょっとした軌道修正を施す以上の好影響をもたらした。

それは、大事なことから逆算して日々の行動を決めるミニマリスト的な哲学を自分は採用した、という意識をいっそう強めるような、象徴的な行為となったのだ。

デジタル・ミニマリストの具体例②「一切のデジタルを排除する」わけじゃない

デジタル・ミニマリストの全員が一般的なツールを一切合切排除するというわけではない。

多くのデジタル・ミニマリストは、「これを成し遂げるためにテクノロジーを利用するのは最善といえるだろうか」という根源的な問いを出発点として、世の中のほとんどの人々が漫然と利用している数々のサービスを慎重に取捨選択している

その一例がミハールだ。

彼女は、四六時中ウェブサイトを閲覧することには百害あって一利なしと気づき、ネットから情報を得る手段をニュースレター2本少数のブログに限定した。

後者は「多いときで週に1度」しかチェックしない。

そして、情報の入口をそこまでせばめてもなお、刺激的なアイデアや情報に触れたい欲求は充分に満たされるうえ、時間を奪われることも、感情を翻弄されることもないと話す。

デジタル・ミニマリストは、新しいテクノロジーが提供する不必要な機能を排除し、必要以上に注意を奪われることがないよう防衛しながら、自分にとって重要な機能だけを活用することに長けている

テクノロジーの奴隷になっていないか?

デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方

デジタル・ミニマリスト スマホに依存しない生き方

スマホが必要不可欠と言われるようになったいま、「携帯依存症」という言葉は、もはや死語になったかと思われましたが、「必要不可欠」という言葉の裏で「依存」に無自覚になっている状況が往々にしてあるのかもしれません。

同書を読むと、私たちがどれだけテクノロジーに振り回されているか、深いレイヤーで気づくことができます。

著者であるカル・ニューポート氏は強く訴えます。

「デジタル・ミニマリズムのような哲学が、いまこそ必要なのだ」

本当に大切な時間の使い方とは何か?私たちそれぞれにとっての答えを、自分自身に問い直すときなのかもしれません。

〈画像提供=Penny Gray Photography〉