井上一鷹著『深い集中を取り戻せ』より

人の集中力は、金魚以下。ビジネスパーソンが「深い集中」にハマる過程をプロが解説

仕事
「映画を早回しで観る」「長時間、活字を読めない」...

集中力の散漫からくるこんな行動に、思い当たる方もいるのではないでしょうか?

スマホの普及によって「現代人は1つのことに集中する力が落ちている」と言われて久しいですが、2015年には「人の集中力が金魚に負けた」という研究結果が出ていたのだそうです...!

著書『深い集中を取り戻せ』のなかでそれを教えてくれたのは、「メガネのJINS」の執行役員/株式会社Think Lab取締役の井上一鷹さん

集中力を可視化できるメガネ「JINS MEME(ジンズ ミーム)」の開発・研究を推進してきた“集中のプロ”が教える「深い集中を取り戻す方法」とは、一体どのようなものなのでしょうか?同書より一部抜粋してご紹介します。

8秒しか集中力を持続できない現代人

人は1日4時間しか集中できない

これは、1万時間の法則で有名な心理学者アンダース・エリクソンの言葉です。

これを聞いて、おそらく1つの疑問が浮かぶでしょう。

「1日4時間も集中できている人なんて、今の時代、いるのだろうか」と。

私は、人の集中の度合いを測るメガネJINS MEME(ジンズミーム)を用いて、これまでたくさんの人の「集中」について研究してきました。

その結果では、なんと84%の人が、1日4時間の集中すらもできていないことがわかってしまいました。

メガネデバイスを自分で購入して集中を高めようとする人たちでさえ、その比率なのです。

実態は、もっとひどいことになっているでしょう。

さらに衝撃的な研究は、マイクロソフト社のカナダの研究チームが2015年に発表した研究報告です。

現代人の集中力は8秒しか続かず、これは金魚の9秒を下回る

これにより、「ついに人の集中力は、金魚に負けた」と話題になりました。

この研究によれば、2000年の時点では、人の集中力の持続時間は、12秒程度あったそうです。

しかし、PCやスマホの普及によって、1つのことに集中する力が落ちてきて、2013年には、8秒しか集中力を持続できなくなったのです。

もしかしたら、あなたもここまで読んでいる間に、何度か他のことを考えてしまったのではないでしょうか。

それだけ、「1つのことを考える力」が弱っているのです。

本当に集中力が高い人は「集中しなければ」と思っていない

自由度と選択肢の多様化が、首がもげそうな加速度で進む中で、スマホの登場などで数年前から警鐘が鳴らされていた「集中が脅かされ続けている」という状況は、さらに逃れようのないスピードで広がっていくはずです。

その中で、私もずっとこの「集中が大事だ」という言葉に対して、“ある違和感”を持ちながらも、言葉にできずにいました。

「実は集中だけではダメなんじゃないか?」

「セルフマネジメントのハウツーだけではどうにもできない世界が来るんじゃないか?」

そんな疑問が頭から離れなくなったのです。

集中の上位互換は、“夢中”なのではないか

そのように私たちはチーム内で話すようになりました。

「集中」という言葉にどんな語感があるかというと、

「(やりたくないけれど)集中しなければ」

というように、子どもが親に「勉強しなさい」と叱られるときのような「受動的スタンス」が見え隠れします。

私たちの研究の結果では、本当に集中力が高い人は、「集中しなければ」などという受動的な感覚は持っていません

仕事を仕事だと思っておらず、理由を説明できないくらい目の前のことが楽しくてしょうがないようなタイプの人が多いのです。

ただ目の前のことに集中できるハウツーだけでなく、起業家やアーティストのように、「夢中」で働くにはどうすればいいのか。

そんな、集中のさらに先にある「夢中=深い集中」を取り戻すまでの戦略を、この記事では語りたいと思っています。

また、それは日本社会の失われた30年の課題とも通底することです。

日本が問題として抱えている課題、それは「新しいことを生み出す仕事」の欠如です。

起業家・アーティスト・スポーツ選手が“深く集中”できる理由

一般的なビジネスマンが、起業家やアーティストのように「深い集中」状態で働くためには、「集中しなければ」などという受動的スタンスであるようでは難しく、能動的に「夢中」になることが重要です。
集中:受動的スタンス

所属組織や周りの人間からの要請に応える「外発的動機」を基にした行為

夢中:能動的スタンス

周りからの要請ではなく、自分の「内発的動機」に根ざした行為

出典 深い集中を取り戻せ

まずはこの定義を押さえてください。

この2つの違いは、「内発的動機」と「外発的動機」にあります。

アーティストやスポーツ選手は、深い集中、つまり夢中で物事に取り組んでいます。

最初は、誰からの要請でもなく、「サッカーが好きだから」「ギターが弾けたらカッコいいから」という動機で、夢中になって自発的に趣味を特技にしていくフェーズがあります。

このときは明らかに、「好き」が理由になっており、内発的動機の塊(かたまり)として夢中で目の前のトレーニングをこなしていきます。

場合によっては、周りから「なんでそんなことやってるの?」と言われることもあるでしょう。

しかし、その後、ある一定以上のレベルに達すると、周りから期待がかかるようになります。

「甲子園に行かなければ」「どこかの事務所にスカウトされなければ」など、外発的動機に圧されて「集中しなければいけない」というフェーズを迎えます。

さらにその先、極めた世界まで行ける数少ない人だけが、あるときに外発的動機から完全に解脱して、「自分と向き合い研ぎ澄ます」というフェーズに入ります。

彼らは、再び内発的動機だけを見て、その人にしか作れない世界を作っていくことになります。

多くの偉人のエピソードは、概ねこのストーリーを経ています。

「夢中」で始め、「集中」で乗り越え、「夢中」で極める

偉人の誰もが、先ほどの3つのフェーズで偉業を成してきたことを、自分に置き換えて考えてみましょう。
① 始めること(夢中)
② 続けること(集中)
③ 極めること(夢中)

出典 深い集中を取り戻せ

このフェーズの中で、①始めること、③極めることにおいては、「内発的動機で動く。つまり夢中になる」ことが必要になります。

人が偉業を成すためには、「夢中」で始め、「集中」で乗り越え、「夢中」で極めることが肝心なのです。

今後の世界では、人工知能などが急速に進むことは確実で、すでに発掘された課題の「解決」は、多くの場面で効率化・機械化されていくことでしょう。

そのような世界で、知的生産活動をおこなう人々にとって重要なのは、「課題発掘能力」とそれを発揮する「内発的動機」、つまり「夢中」な状態を取り戻すことではないでしょうか。

何も言われなくても自ら取り組んでいたあの頃の「深い集中」を取り戻すことなのです。

今後の世界で重要になるスタンスは、間違いなく、能動的に自分で夢中に向かうスタンスです。

それは、集中から受動的スタンスを取り去り、能動的な要素を足した状態である必要があります。

たとえ会社員であっても、与えられた課題を解決するだけではなく、自分が夢中になれる課題自体を定義し、真剣になる。

そんな生き方をするきっかけを、この本に詰め込みました。

気が散りやすい現代人の必読書

深い集中を取り戻せ

深い集中を取り戻せ

集中できる人は、それだけで自己肯定感を得られて、幸せを感じるのです

心理学者のミハイ・チクセントミハイの研究によれば、時間を忘れるほどの集中「フロー体験」によって、人は“えも言われぬ高揚感”を得られるのだそう。

『深い集中を取り戻せ』では、1万人以上の豊富なデータをもとに「どうすれば能動的に働けるのか?」「あの頃の集中力を取り戻せるのか?」が追求されています。

気が散りやすい現代において、エネルギーを集中させて何かに没頭する方法を知るために、読んでおきたい一冊です。