毎朝起きたらさ、「愛してるぜジョージ」って自分に言うの。

「自分を責めることを、“反省扱い”しちゃダメなんだ」高知東生はこうしてあの事件から立ち上がった

ライフスタイル
高知東生さん

売れっ子俳優として輝かしいキャリアを持つ一方、2016年に覚醒剤と大麻の所持容疑で逮捕。現在は回復プログラムを経て、Twitterで自身の体験を赤裸々に発信するなど、依存症問題の啓発活動に取り組まれています。
高知さんのリアルな言葉の数々、SNSで目にしたことがある方も多いのでは
今回はそんな高知さんに、「絶望的な状況から、立ち上がるために必要だったこと」についてお話を聞きました。

程度の差はあれ、誰しもが失敗や過ちを犯すもの。そのとき人は、何をすべきなのか…?

〈聞き手=いしかわゆき〉
【高知東生(たかち・のぼる)】1964年高知県生まれ。1993年に芸能界デビューし、俳優として映画やドラマで活躍、バラエティに多数出演する。2016年、覚醒剤と大麻の所持容疑で逮捕。現在、薬物依存の専門病院や自助グループ「ギャンブル依存症問題を考える会」に関わりながら、依存症問題の啓発活動に取り組んでいる。著書に『生き直す 私は一人ではない』(青志社)
高知さん

高知さん

今日はありがとうね、僕に取材しようって思ってくれて。

久しぶりのインタビューだからちゃんと話せるか緊張して、ノートにいっぱい書いてきちゃったよ…(笑)。
本当にびっしり書いてきてくれました
高知さん

高知さん

「絶望期の抜け出し方」がテーマってことは…やっぱり“あの事件”についてだよね?
いしかわ

いしかわ

はい。覚醒剤と大麻の所持容疑で逮捕され、現在Twitterなど公の場で真摯に依存症問題について発信しつづける高知さんを見て…どうやって絶望期を乗り越えたんだろうと。

取り返しのつかない大きな失敗から、どうやって前を向いたのかを教えてほしいんです
高知さん

高知さん

そうだね…そうしたらまずは、「過ちを犯してしまったとき、絶対にやってはいけないこと」から始めましょうか。

ひとりになると、自分に“矛先”を向けざるをえなくなる

高知さん

高知さん

大きな過ちを犯したとき、一番やっちゃいけないこと。

それは「ひとりになること」なんだ。
高知さん

高知さん

僕が事件を起こしたとき、最初にやってしまったのは「身近な人を突き放してしまうこと」だった。

日本中が僕のニュースで持ちきりになるなか、まわりの人からは外出を控えるように言われていてね。数少ない友人たちが、僕の食事や着替えを持ってきてくれていたんです。
いしかわ

いしかわ

へえ…!
高知さん

高知さん

でも、当然みんなにも生活があるから、そのサポートをずっとできるわけじゃない。そのうち、寂しくて電話をしても「ごめん、今は忙しくて会いに行けないんだ」と言われるようになって。

もちろん彼らは全然悪くないんだよ。なのに当時の僕は、唯一残ってくれた彼らにすら「お前らに俺の気持ちがわかるわけがない」と矛先を向けてしまったんです。
いしかわ

いしかわ

でもたしかにそういうときって、ついひとりになろうとしてしまうかも。
高知さん

高知さん

それからは僕も、完全な孤独。

当時テレビでは「あることないこと」どころか、「ないことないこと」しか取り上げられなくなっていたんだけど、それを観ながら「違う!」って1日中ブツブツと言うしかなくて…

本当につらい日々でしたね。自分しか向き合う相手がいない24時間…どれほど長く感じたことか。
「どんどん悪い妄想が膨らんで、ひとりの世界に閉じこもるようになってしまいました」
高知さん

高知さん

そうなるともう、あとできることって「自分に矛先を向けること」だけなんだよ。

自分の罪の重さだけはいつまでも心にどっしりとあるから、開きなおることも絶対にできない。

「なんてことをしてしまったんだ」と自分にグサグサ槍を刺して、“自分を責めること”で反省しようとすることしかできなくなるんだよね。
いしかわ

いしかわ

ああ…わかる気がします。
高知さん

高知さん

でもそれを反省扱いしちゃ、絶対ダメなんだ
高知さん

高知さん

自分を責めることを反省扱いすると、「行き着く先は…」って考えになるんだよ。

僕も自分に矛先を向ければ向けるほど、「これ以上自分をどう傷つければ反省したことになるんだろう」と償い方がわからなくなって、最後は「もう消えたほうがいいんじゃないか」と思った。

でも“自分を傷つけること”は決して「反省」じゃないし、前を向くきっかけにはならないんだよね。
いしかわ

いしかわ

なるほど。
高知さん

高知さん

孤独になれば、必ず矛先は自分に向く。だから、「絶対にひとりにならない」。

もし今読んでる人が何か大きな失敗してしまってるなら、まずはここを意識してもらえたらうれしいな。

「同じ経験を持った人」が、絶望期から前を向くためのキーマン

いしかわ

いしかわ

では、取り返しのつかない失敗をしてしまったときは、具体的に何をすべきなんでしょうか?
高知さん

高知さん

同じ経験をした人と話す」。

これが一番だと俺は思ってる。
高知さん

高知さん

過ちって“恥”だからさ、人に言えないのはすごくわかるんだよ。俺もひとりで家に閉じこもってたときは、誰にも相談できなかった。

でもやっぱり、失敗したときこそ「自分の気持ちを言葉にすること」から逃げちゃいけないんだよ。

漠然とした絶望を「これから何をしていくべきか」という言葉に変えることができたとき、はじめて人は前を向けるから
いしかわ

いしかわ

…!
高知さん

高知さん

俺が前を向けたのは、依存症の自助グループで「同じ経験をした人たちと話せたから」なんですよ。

いろんなプログラムをこなして先ゆく経験者と話をしたとき、はじめて自分の本音を素直に言葉にできたんです。「俺だけじゃないんだ」って思えた。

そのとき、自分のなかの“恥”がなくなった気がしたの。俺はそこでやっと前を向けた。
高知さん

高知さん

過ちを犯してしまったとき、人間はついつい“恥“という毒を塗った槍で自分を責めて、どんどん人に言えなくなっちゃう。それはもうある意味、仕方ないよ。

でも覚えててほしいのは、「同じ経験を持った人がいる」という“毒消し”が、世の中にはちゃんとあるってこと。

ひとりにならないでねというのは、そういう意味でもあるんだよね。
いしかわ

いしかわ

でも、同じ経験を持った人を見つけられないこともあると思うんですが…そんなときはどうしたらいいんでしょうか?
高知さん

高知さん

べつに生身の人じゃなくてもいいんだよ。

俺はさ、自助グループで出会った友達が施設を出ていくときに「言葉は何も言えないけど」ってプレゼントしてくれた本を、今でも家で声に出して読んだりするんだよ。

本でも漫画でも映画でも、何でもいいの。「経験」を共有できるものなら、きっと助けになってくれるから。

「完璧主義」から「カーナビ主義」の世の中へ。失敗から立ち上がれる社会に変えられたら

いしかわ

いしかわ

ほかにも失敗から立ち上がるためにできることってありますか?
高知さん

高知さん

これを話すのはちょっと恥ずかしいんだけど…(笑)

俺は朝起きて、自分のお袋とばあちゃんに手を合わせたあと…「ジョージ愛してるぜ」って自分に言うの
「俺の本名、ジョージって言うんだけどさ」
高知さん

高知さん

「ジョージ、お前最高だよ。今日も1日一緒に楽しもうぜ」って、自分を愛して認めてあげるの。


やっぱりさ…ちょっとだけでも今の自分を愛したり、信じたり、認めたりしてやらないと前なんか向けないと思うんだよな。
いしかわ

いしかわ

たしかに…“責める”とはちがった矛先を自分に向ければ、変わりそうな気がします。
高知さん

高知さん

そう。だからこそ俺は、「大きな失敗をしてしまった人が、もう一度自分を愛そうと思える世の中」になってほしいって、心から思うんだ。

「完璧主義」の世の中から「カーナビ主義」の世の中に変えていけたらいいなって、本当に思う
カーナビ主義…?
高知さん

高知さん

もちろん、人に迷惑をかけちゃ絶対いけない。でも、せめて本当に一生懸命回復に取り組んでる人に対しては…

カーナビみたいに、目的地に向かう途中で道を間違えても、修正して修正して、最後には目的地にたどり着ける優しい世の中にさ。
いしかわ

いしかわ

たしかに、今は一度失敗したら簡単に立ち直りにくい世の中ですもんね。
高知さん

高知さん

エラそうに言ってるけど…おじさんもな、自分1人でここまでこれたわけじゃないからね

自分より先に失敗して、立ち上がって、社会で頑張っている人の手に導かれて、何度も修正してもらって、ここまでやってこれた。

だから、今俺ができる償いは、まさに今俺と同じような経験をしている人たちに対して、回復の道があるとしっかり示すことなんです。
いしかわ

いしかわ

本当に真摯に頑張れば、失敗しても人生挽回できるんだと。
高知さん

高知さん

そう。自分が絶望の淵から蘇れば、その姿がまた誰かにとっての「毒消し」になるかもしれない

だから、もし今何かに失敗して絶望している人がいるなら、どうかあなたもそれを価値に変えて、ほかの人の役に立ててほしいなと思うんです。

あなたの「経験」を待っている人が、必ずいるから
ありがとうございました!
一度犯した罪も、絶望した経験も決して消えることはなく、何年も何年も引きずってしまうかもしれません。

でも、どんなに苦しい絶望も、未来の世界では誰かに光を与える経験に変わる。

願わくばこれからの人生、耐えがたい絶望は経験したくはありませんが、もしも窮地に陥ったときは、高知さんの言葉を思い出し、「言葉」にすることを恐れずにいたいです。
〈取材・文=いしかわゆき(@milkprincess17)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉