ビジネスパーソンインタビュー
守田英正著『「ずる賢さ」という技術』より
「聞いてるフリして聞き流してもいい」日本代表・守田英正が“学びは使い捨てるべき”と断言できる理由
新R25編集部
守田英正選手。
プロ一年目の23歳で初めて日本代表に選出され、2022年11月20日より開幕した「FIFA ワールドカップ カタール 2022」でも、日本屈指のボランチ(MF)として活躍を期待されています。
そんな守田選手は、高校時代まで全国大会の経験はなく、決して華々しくないキャリアを歩んできたと言います。
彼が頭角を表したのは流通経済大学時代。自分を律し、「ずる賢さ」を極め、現在はポルトガルの名門スポルティングCPに移籍し、開幕戦からスタメン出場するほど名を上げています。
そんな彼の「ずる賢さ」にフォーカスを当てたのが、新著『「ずる賢さ」という技術 日本人に足りないメンタリティ』。
彼が成長するために培ってきた思考や、実際のプレースタイルが確立されるまでを取り上げた同書より、僕らビジネスパーソンでも参考になる「学びの活かし方」について、抜粋してお届けします。
「学び」は使い捨て
僕の「学び」についてのスタンスははっきりしています。
学びは使い捨て──。
「その人やその場から得られる知識や能力を最大限吸収し、卒業して次に進む」という形でずっとやってきました。
人でも、場でも、そこにある知識や能力には必ず限りがあります。
強みだけでなく、弱みもある。
なのにいつまでもそこにしがみついたり、ありがたがったり、依存したり、心酔したりしていたら、間違いなく自分の成長がストップします。
成長意欲がないなら、それでもいい。
でも僕は今のままで終わりたくないんです。
W杯とUEFAチャンピオンズリーグ(以下、CL)で優勝したいんです。
そのためには「学び」はどんどん捨てるべきだと思っています。
いらない情報は聞き流す
子供のときから、僕は人からガミガミ言われるのを聞いていられない性格でした。
今でもそうなんですが、話が長いなと思ったらしんどくなってくるんですよ。
だからなのか、昔から「この人が言ってることは合ってるところもあるけど、間違ってるところもあるな」と漠然と感じていました。
これは必要だから取り入れる。
これは必要ないから聞き流す。
そういう軸が、すでに高校生のときにはでき上がっていました。
どんな名門の一員になっても、このスタンスは変わりません。
僕が進学した流通経済大学は、中野雄二監督や大平正軌コーチの指導により、これまで150人以上のJリーガーを輩出してきた日本における最強のプロ養成機関です。
中野監督やコーチ陣は、大学生がどうしたらプロになれるかを最も熟知した指導者だと思います。
中野監督から言われたアドバイスを今でも覚えています。
「他の大学は賢くてサッカーが強い。おまえらはバカでサッカーしかない。なのに試合に勝てなくて何が残るんだ!」
本当にその通りだと思いました。
僕は大学4年間は彼女をつくらないと決めていたように、卒業後にプロになれなかったらフリーターになるしかないとも思っていました。
中野監督は本当に腹の据わった指導者で、僕にプロで通用するための力をつけさせてくれただけでなく、最終的にチームとしてのサッカースタイルを僕が最も生きる形に合わせてくれました。
それでも当時の僕はそういう中野監督の“親心”は知らず、中野監督やコーチの言うことを100%正しいとは思っていませんでした。
たとえば、流経大はシンプルにDFラインの裏へロングボールを蹴ることを徹底するチームだったんですが、僕はプロになったあとも見据えて他の選択をすべきだと思っていました。
スペースが狭くてボールを奪われそうに見えても、かいくぐっていく技術を磨いておいた方がいいと思ったんです。
それが自分の良さであるとも信じていました。
するとどうしてもミスが起こり、必ずベンチから中野監督の怒声が飛んできました。
「守田! ボールを持ちすぎだ! 縦を見ろ!」
周囲からボールを失うダメな選手と思われていたことでしょう。
しかし、僕は話をほとんど聞き流していました。
聞いてるフリして聞き流す
もちろん反抗的な態度を取るのは絶対にダメです。
高校時代の僕は未熟だったので反抗したこともありましたが、指導者には常にリスペクトを持っているべきです。
「聞き流す」というのは、感情に左右されないただの情報処理。
監督が好きとか、嫌いとかとは別のところで行われるもので、嫌がらせでやるものではありません。
逆に言えば、どんなに自分がすごいと思う監督に対しても「聞き流す」心構えを持つべきということです。
監督がペップ・グアルディオラだろうが、ユルゲン・クロップだろうが同じことをするのです。
流経大では「はい、わかりました」としっかり聞いている態度を示しつつ、さりげなく聞き流していました。
もしこのときにいらない情報を切っていなかったら、「ずる賢さ」を生かしてボールを持つという自分の強みがなくなっていたでしょう。
「学び」を捨てても、自分を捨てなかったからこそ、今があると確信を持って言えます。
捨てたあと、本当にいらないのかを考え直す
しかし、自分1人の判断に限界があるのも事実です。
誰にだって見落としがあり、こだわりと独りよがりは紙一重です。
あるときから一度は「いらん」と捨てたものを、「自分ツッコミ」をして見直すようになりました。
「自分がいらんと思いたいだけで、本当は必要なのでは?」と。
心の変化は大学3年時に訪れました。
大学2年から3年にかけての時期に、僕はボランチからサイドバックへコンバートされました。
それによって試合で先発する回数が劇的に増えていったのです。
うれしい気持ちもありつつ、本来のポジションではないため、「監督はいったいどこを見てるん?」という苛立ちが同時にありました。
サイドバックはベンチに近く、試合中にガミガミ言われ続けたことも苛立ちに拍車をかけました。
「なんで自分ばかり怒られる?」
今だから言える話ですが、このときは監督やコーチにめちゃくちゃ腹が立っていました。
それでも試合に出続けているうちに、こう考えるようになったんです。
「違うポジションをやらされるのも、自分の実力がないからだ。監督に対してめっちゃ言いたいことはあるけど、全部受け入れてみよう。言われたことをすべて完璧にこなして、見せつけたろ」
心の奥底では「これは違うやろ」と思ったとしても、言われたことを全部実行しました。
すると2年生のときに取り組んだ筋トレの効果も重なり、大学サッカー屈指のサイドバックとして注目されるようになります。
関東大学選抜に選ばれて3年生最後のデンソーカップで優勝。
僕は大会MVPに選ばれました。
プロへつながる道が見えた瞬間でした。
指導者の方がこの話を聞くと、「やはり謙虚さが大事」と思われるかもしれません。
ただ、僕の感覚ではただの「謙虚さ」とはちょっと違うんですよ。
1回自分の頭で必要か不必要かをしっかり考えたうえで、なおかつその判断に間違いがなかったかを考える。
最初からすべて受け入れてしまうと、思考がストップして受け身になる可能性がある。
心の中では肯定と否定がぐるぐる回りながら、外からは謙虚に見えるくらいのバランスが最強なのだと思います。
いらんと思ったら切る。
しかし同時に「本当にいらんのか?」と再点検する。
これが僕の取捨選択法です。
中村憲剛さんからのアドバイスでも自分で思考して判断する
フロンターレでは、選手でありながらみんなに技術や戦術を教えられる突出した存在がいました。
チームのレジェンド、中村憲剛さんです。
僕も「止める・蹴る」「立ち位置で相手を崩す」「動きすぎない」などたくさんのアドバイスをもらいました。
「ずる賢さ」が「サッカーの公式」に昇華したのは、憲剛さんからの教えがきっかけです。
人生で最も大きな出会いのひとつであることは間違いありません。
とはいえ、どんな名将の言葉だろうが「聞き流す」心構えを持つのと同じで、憲剛さんからアドバイスを受けるときも、自分の思考をストップしないように意識していました。
たとえば、守備については僕の方が上だという自信がありました。
僕はいつかヨーロッパへ行くとも思っていました。
そういう視点を持つことは決して失礼ではなく、逆に聞くべきポイントをはっきりさせ、より憲剛さんの言葉の本質をつかめるようになると思います。
教える側にとっても、教わる側にとっても、最大の不幸はせっかく時間をかけたのに身につかないことでしょう。
教わる側はただ謙虚であれば良いわけではなく、従順であることはむしろマイナスで、自分の意志を持ち続けることが大事──僕は過去の経験からそう感じています。
日本人に必要な“ずる賢さ”とは
高校時代まで無名だった守田選手が、一気に世界レベルにまで躍り出た裏にある「ずる賢さ」。
幼少期から「ずる賢い」考え方で、自分を成長させてきた守田選手のキャリア・思考は、真面目で実直とされる、僕ら日本人のビジネスパーソンも取り入れるべき学びになるはず。
同書を読みながら、W杯で世界と戦う守田選手を応援しましょう!
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