ビジネスパーソンインタビュー
オリバー・バークマン著『限りある時間の使い方』より
SNS企業から見た我々は“商品”。あなたの注意を引くために1000人以上が待機している
新R25編集部
スマートフォンがわれわれの日常にはなくてはならないものとなっています。
しかし、イギリスの全国紙ガーディアンの記者として、外国人記者クラブ(FPA)の若手ジャーナリスト賞などを受賞した気鋭のライターであるオリバー・バークマンさんによると、そのことがきっかけで注意力や時間は奪われ続け、現実世界に物足りなさを感じるようになっているそうです。
では、奪われないためにはどのような意識を持てばよいのでしょうか?
今回は、同者の著書『限りある時間の使い方』より、SNSに潜む真実や危険性などを抜粋して紹介。
真実を知ることで、SNSとの向き合い方を見直せるかもしれません…。
この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・SNSをよく使用する人
・スマホを手放せない人
・「アテンション・エコノミー」について知りたい人
人生とは、注意を向けた物事の総称
メディアでSNSの危険を語るコメンテーターでさえ、問題の本質を理解しているかどうかは疑わしい。
注意力は、生きていることそのものだ。
あなたの人生とはすなわち、あなたが注意を向けたあらゆる物事の総体である。
くだらないものに注意を向けるとき、僕たちはまさに人生の一部を削ってそのくだらないものを見ているわけだ。
そう考えると、問題は集中が途切れるというレベルにとどまらない。
メールの着信音やSNSの炎上が気になって仕事が手につかないのも問題だけれど、その仕事自体だって、ある意味では注意力を奪っている犯人かもしれない。
この問題への対処法として、よくいわれるのは「集中力をアップしよう」ということだ。
瞑想したり、気が散るウェブサイトへのアクセスを遮断したり、高価なノイズキャンセリングヘッドフォンを買ったりすれば、気が散る可能性はいくらか減るかもしれない。
しかしそういうアドバイスは、肝心なことを見逃している。
時間と同じく、注意力にも限界があるということだ。
一方、僕たちはある程度まで、意識的に注意をコントロールできる。
「トップダウン型」の注意、つまり自発的な注意力だ。
トップダウン型の注意をうまく使えるかどうかで、人生の質は左右される。
どんなに恵まれた環境にいても、注意の使い方によっては、何の意味もないみじめな人生を送ってしまうということだ。
意味のある体験をするためには、その体験に注意を向けなくてはならない。
注意を向けていないことは、起こっていないのと同じだからだ。
私たちユーザーは商品である
そのように考えれば、最近話題の「アテンション・エコノミー」がなぜ深刻な問題なのかも明らかになる。
アテンション・エコノミーとは、人々のアテンション(注意・関心)に値段がつけられ、SNSなどのコンテンツ提供者がそれを奪い合っている状態のことだ。
ネット上にあふれるコンテンツは、興味のないことに無理やり注意を引きつけ、僕たちの注意をまちがった方向に誘導する。
それは人々の関心を操作し、ひいては限りある人生の使い方までコントロールしようとする巨大な機械だ。
その誘惑はあまりに大きく、人の限りある注意力でそれを完全に跳ねのけることは難しい。
知っている人も多いと思うけれど、僕たちが利用している「無料」のソーシャルメディアは、実は無料ではない。
そこではあなたは顧客ではなく、商品だからだ。
テック企業はあの手この手でユーザーの注意を手に入れ、それを広告業者に売って儲けを出している。
さらに、みんな薄々気づいていると思うけれど、スマートフォンは僕たちの操作をすべて追跡している。
どこでどうスワイプし、クリックしたか。
どこにじっと目を留め、どこをさっさとスクロールしたか。
そんなすべてが記録され、収集される。
こうしたアテンション・エコノミーが高度に進化すると、「ユーザーが商品である」という決まり文句さえも通用しない新たな状況がやってくる。
企業はふつう、自社の商品にいくらかの敬意を払うものだ。
でも現在の状況を見ると、一部の企業はユーザーを商品以下のどうでもいいものとして使い捨てている。
時間は盗まれ続けている
スマホなどのデバイスは単に、気を散らして重要なことを見えにくくするだけではない。
そもそも「何が重要か」の定義さえ、簡単に書き換えられる。
哲学者ハリー・フランクファートの言葉を借りるなら、それは「自分の欲しいものを欲しがる能力」を壊してしまうのだ。
僕自身、典型的なツイッター廃人だった時期がある。
実際に画面を見ていたのは1日2時間程度だったと思うけれど、それよりもはるかに長い時間、僕の意識はツイッターに支配されていた。
アプリを閉じてジムで運動しているときも、料理をしているときも、ツイッターで見かけたムカつく発言への怒りがふつふつと湧いてきて、相手をどうやって論破してやろうかと考えてしまうのだ。
それだけじゃない。
生まれたばかりの息子が何か可愛いことをしていると、どんなふうにツイートしようかと反射的に考えてしまっていた。
かけがえのない瞬間を経験することよりも、ツイッターにコンテンツを(無償で)提供することが優先だったのだ。
ある夕暮れどき、風の強いスコットランドのビーチを歩いていて、奇妙なねじれの感覚に襲われたのを覚えている。
プロの心理学者によって巧妙につくられた説得的デザインに慣れきっていた僕は、ありのままの自然をうまく体験することができなかった。
僕はもともと、海辺を歩くのが大好きだ。
夕暮れどきのスコットランドの海辺は、どんなSNSよりもはるかにすばらしいと確信している。
それなのに、海辺の景色には、僕の注意を引きつけてハマらせてくれる何かが欠けていた。
僕の心は無意識のうちに、もっとわかりやすい報酬を欲しがっていた。
つねにSNSの刺激にさらされている脳が、現実世界に物足りなさを感じていたわけだ。
それと同時に、インターネットの世界の絶望感が現実世界を侵食しはじめた。
ツイッターから流れ込んでくる怒りや苦悩は、目の前の世界を灰色に染めた。
非日常的だからこそ興味を引くはずのニュースや議論が、いつのまにか日常をのみ込み、世界はつねに最悪の事件や災害ばかりが起こる場所になっていた。
これでは日々を楽しむことなんてできない。
さらに困ったことに、そんなふうに世界の見え方が歪んでいるときには、歪んでいることに自分で気づけない。
気づくためには注意力が必要なのに、その注意力が完全に乗っとられているからだ。
アテンション・エコノミーにいったん注意を奪われると、それがきわめてまっとうな感覚としか思えなくなる。
もしもあなたがソーシャルメディアの影響から完全に自由だと思うなら、それはおそらく、完全に注意を乗っとられているせいだ。
自分が怒りっぽくなっていると気づくこともできないほどに。
人生の限られた時間は、気づかないうちに巧妙に盗まれつづけている。
敵は自分の内側にいる
有名人の問題発言は、大勢の注意を引くための格好のエサだ。
スキャンダルがスキャンダルを上書きしていく。
そして正義感からその発言をリツイートする人たちは、たとえそれに反論する意図であっても、問題発言をどんどん拡散し、世間の注目を集める手助けをしてしまう。
テクノロジー評論家のトリスタン・ハリスは、ソーシャルメディアを開くたびに「画面の向こうで1000人があなたの注意を引こうと待機している」と指摘する。
企業はそのためにお金を払って人を雇っているのだ。
彼らの執拗な襲撃に、意志の力だけで対抗するのは現実的ではない。
政治的な危機には、政治的な解決策が必要だ。
ただ、もっと深いレベルで考えるなら、この問題の根底にある不都合な真実を認めざるをえない。
テック企業の襲撃は(けっしてそれを正当化するわけではないけれど)一方的なものではない。
僕たち自身もある意味で共犯なのだ。
たいていの場合、喜んで時間と注意を差しだしているのだから。
人の心のなかには、SNSに限らず、気をまぎらせてくれる何かを求める傾向があるようだ。
敵は内部にいる。
限りある人生をよりよく生きるためには、僕たち自身の内にひそむ厄介な敵のことを理解しなくてはならない。
本当の敵は自分の内側にいるのだ。
全米ベストセラーから学ぶ“時間の使い方”
「現代の、いわゆるタイムマネジメントというやつは、あまりにも偏狭すぎて役に立たない」と話すオリバー・バークマンさん。
同書は、世間に広がっているタイムマネジメント術に一石を投じる内容です。
全米ベストセラーとなっている同書より、時間の使い方について学んでみてはいかがでしょうか。
〈撮影=ⒸJeff Mikkelson〉
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