ビジネスパーソンインタビュー
あと数年で、未来が変わる!? 若き八百屋・三浦大輝を驚かせた「農産物流通DX」「IOWN構想」とは

「今の農業って、想像の何倍もアナログなんですよ」

あと数年で、未来が変わる!? 若き八百屋・三浦大輝を驚かせた「農産物流通DX」「IOWN構想」とは

新R25編集部

Sponsored by NTTグループ

2022/12/13

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農産物流通DX」。あのNTTグループが取り組んでいる、デジタルの力で農業の現場を改革する取り組みの通称です。

そして、その「農産物流通DX」の技術を実現するのが、NTTグループが取り組んでいる「IOWN構想」なる壮大なプロジェクトだそう。

光技術を活用した革新的な構想が実現できれば、農業が抱えるほとんどすべて(!)の課題が解消されるかもしれないとのことなんですが…

正直、言葉だけ聞いてもさっぱりイメージできないし、そもそも「農産物流通」と「DX」という言葉自体に噛み合わせの悪さを感じてしまう人も多いのでは。

そこで今回は、「農産物流通DX」に携わる4名のみなさまと、弱冠27歳にして農業ベンチャーを経営する株式会社LivingRoots代表・三浦大輝さんにお話を伺うべく、大阪の「東部市場」に遠征!

お集まりいただいたみなさん。ご覧の通り、ガチの市場で取材してます

農業の“現場”で当事者たちが繰り広げるトークは、初耳ながら危機感を覚えるリアルな話題ばかり。

私たちが当たり前のように食べている「野菜」の生産現場で今、とんでもないことが起こっていました…!

【三浦大輝(みうら・だいき)】「菜根たん」代表、株式会社LivingRoots代表取締役CEO。1995年宮城県生まれ。地元・仙台での東日本大震災体験をきっかけに食の安心・安全を意識するようになり、農業ベンチャーの道へ。現在は青果を中心に卸・小売りを手掛けるLivingRootsで八百屋「菜根たん」を経営

「フードロス」で浮き彫りになった“農業のリアルな課題”

吉武さん

今日はNTTグループが取り組む「農産物流通DX」についてご紹介したいんですが…

そもそも、三浦さんは農業のどんなところに課題を感じていますか?

NTT 研究企画部門 食農プロデュース担当 担当部長の吉武寛司さん。「農産物流通DX」プロジェクトの全体統括をつとめるリーダーです

三浦さん

消費者の方にも身近なのは、やっぱり「フードロス」ですよね。

緊急事態宣言真っ只中の2020年4月、「#大量フードロス」というハッシュタグでフードロスの現状を発信した三浦さん。約3.8万のいいねが付き、大きな反響を呼びました

――(編集部)素朴な疑問なんですが…フードロスはどうして起きてしまうんでしょうか?

三浦さん

一概に「これが原因」とは言えないのが難しいところなんです。

農産物が消費者に届くまでのフローを簡単にまとめると、こんな感じなんですが…

三浦さん

たとえば、僕たち八百屋のような小売業は、お客さまに選んでいただけない野菜は廃棄せざるを得ません。

お客さま(消費者)が野菜を買いすぎて、冷蔵庫で眠らせてしまうパターンもありますよね。

三浦さん

もう1つ大きな問題は、“川上”と呼ばれる生産段階でのフードロスです。

農家さん(生産者)が出荷するときに、「等階級」と呼ばれる規格に沿ってないものは廃棄されてしまいます。

森口さん

そうそう。出荷するときに、大きさや色を見て「優」とか「秀」とか決めるんですよ。

ちょっと曲がったニンジンなんかは、段ボールに入らないから捨てちゃうわけですね。

株式会社神明ホールディングス取締役の森口俊彦さん。本日の取材現場でもある卸売市場・東果大阪株式会社に出向していた当時より、農業の“当事者”である卸の立場から「農産物流通DX」に参画されているそう

森口さん

あとは「作りすぎ」という問題もあります。

たとえば大根が豊作で、全国で安く売られるようになったとする。

それで売れ残っちゃうと、等階級で良いランクがつくようなきれいな大根でも、10トン単位で廃棄しなきゃいけないんですよ。

――(編集部)10トンも!?

吉武さん

しかも「全量荷受け制度」というものがありまして…

「売り切れない」とわかっている量でも、産地から出荷されたものを卸(市場)は絶対に受け取らないといけないという制度があるんです。

森口さん

最悪の場合、10トン車で市場に転送した大根を、市場で全部廃棄することになります。

輸送費だけかけて、まるごと廃棄してるんですよ。こんな無駄なことあります?

生産者は価格が決まらないまま、大阪市場や大田市場などの大きな市場に“とりあえず”出荷。農産物が多く集まりすぎた場合、取引価格が低下したり、他市場への転送コストや廃棄コストがかかったりと、悪循環が生まれてしまうんだそう…

三浦さん

正直、今のは“よくある話”ですよね。

消費者の方からすると「捨てちゃうのもったいないじゃん、売ろうよ」ってなると思うんですけど…

そうすると、今度は価格の相場や需給バランスが一気に乱れてしまうし、業界的にもあまり歓迎はされません。

「売って解決」というわけにいかないのが、フードロスの難しいところなんです。

「需給のアンバランス」が起きてしまうのはなぜ?

吉武さん

大量に廃棄が出ている一方で、作り手はどんどん減っていき、野菜の値段もどんどん上がっていますよね。

今の仕組みでは、必要なところに必要なぶんだけ農産物を届けられない

まさに三浦さんのおっしゃる「需給のアンバランス」が、一番の課題だと考えています。

――(編集部)何が原因で、こんなことになっているんでしょう…?

吉武さん

一番の原因は「情報の分断」です。

この業界って、おそらくみなさんが想像されている何倍もアナログなんですよ

三浦さん

すごくわかります。僕の会社は八百屋だけでなく卸もやってるんですが…

小売業者さんから、今でも「紙」で注文を受けてるんですよ。

営業が直接会いに行って、真っ白いA4紙に手書きで書いてもらってるんです。FAXや電話ならまだいいほうで、LINEなんてもってのほかという感じで。

吉武さん

仲卸から注文を取るときも、が置いてあるんですよ。仲卸さんが注文を紙に書いて、その箱に入れるんです。

取材当日の「東部市場」の競りの様子がこちら。お話の通り「手書き」で管理しているようすが至るところで見られました。粋な光景ではありますが、たしかに効率的とは言えないかも…

吉武さん

紙、電話、FAXが中心のやりとりでは、当然ながら各所に情報が行きわたりません。

そのせいで、先ほどのような「作りすぎ」や「輸送コストの増加」、それによる「CO2の増加」、果ては余った作物が一極集中されることによる「大手市場の崩壊」が起こっているんです。

森口さん

僕はもともと、農業とはまったく関係のない繊維業界にいたんですが…

部外者からこの現状を見ると、なにアホみたいなことやってんねんと思うわけです(笑)。

こっちがビビるくらいはっきりモノを言う森口さん

森口さん

農産物の流通はもっと効率化できるし、しないと日本の農業は廃れてしまうかもしれない

そんな思いで、今回NTTグループさんと「農産物流通DX」に取り組ませていただこうと決めました。

あらゆる人に価値をもたらす!? 「農産物流通DX」が目指すこと

吉武さん

農産物流通DX」とは、実世界とデジタル世界を掛け合わせる「デジタルツインコンピューティング」という技術を使って、需給のバランスを最適化しようという取り組みです。

いろいろと展望はあるんですが…まずは“仮想市場”を作るために、実証実験に向けた準備をしているところなんです。

三浦さん

仮想市場、ですか?

吉武さん

はい。現状では、各々の市場が個別でつながりのある生産者や小売業者とやりとりしているだけで、市場同士の“縦のつながり”はありません

そのせいで、都心部の市場には商品が集まりすぎる一方、地方の卸は商品が足りずに潰れてしまう…といったバランスの崩壊が起きています。

吉武さん

仮想市場とは、そんな市場同士の“縦のつながり”の役目を果たす仕組みです。

仮想市場を介して「どの市場にどのくらいモノがあるのか」を市場同士で共有できるようになれば、本当に必要なところに必要なだけ商品を届けられるようになります。

吉武さん

今は情報が分断されているせいで、「東日本で作ったほうれん草を西日本に輸送し、西日本で作ったほうれん草を東日本に輸送する」といったねじれ現象も起きています。

市場同士でうまく情報連携すれば、そういった無駄なコストを省けますし、先ほど話したような「作りすぎ」を防ぐのにも役立つはずです。

三浦さん

僕らも農家さんにしょっちゅう「何を作れば売れると思う?」って聞かれるんですよ。

生産者の方々も、何をどのくらい作ればいいかわからずに悩んでるんだと思います。

吉武さん

そうですよね。

三浦さん

僕らも消費者のニーズを一生懸命伝えようとするんですけど、エビデンスを提示するのが難しいんですよね。

その結果、「よくわかんないけど最近こういうのが流行ってるんでしょ?」って農家さんの感覚でいっぱい作っちゃうことがけっこうあって。

「でもそれ、あんまり売れないんだよなぁ…みたいな(笑)」

三浦さん

だから、消費者のニーズをきっちり伝える仕組みづくりは絶対に必要だと思います

「今こういうものがこれだけ売れてるから、このくらいつくってください」って言えるようになると、いろんなメリットがありそうですよね。

吉武さん

おっしゃる通り、仮想市場”による需給マッチングは、あらゆるプレイヤーに価値をもたらすと思っています

仮想市場こと「NTTスマートフードチェーンPF」にデータが蓄積されれば、需要に応じた生産ができるようになり、生産者の収入増やフードロス削減につながります。

ほかにも、先ほど話に出たような「アナログな取引」の手間が削減できたり、小売や消費者に新鮮な野菜をお届けできたりと、いいことずくめなんですよ。

ちなみに「カミサリーセンター」とは、パック詰めや袋詰めをおこなう工場のこと。需給のバランスが取れるとこれらの作業も無駄なくおこなえるため、人件費削減にもつながります

吉武さん

とは言いつつ、実際は大変なことばかりで(笑)。

出荷前の情報をどう集めるのか、トラックの積載量はどう考慮するべきか…

さまざまな課題を解消すべく、今年度はまず、ここにいるメンバーの力も借りながら「東京・大阪・岡山」で実証実験をおこなう予定です。

将来的には2025年以降を目安に、国内・グローバルに展開していく想定です。

森口さん

本当はデッカくいろんなところを巻き込みたい気持ちもあるんですけどね(笑)。

まずはできる範囲で始めつつ、少しずつ農業関係者に受け入れてもらえればなと思ってます。

三浦さん

お話を伺って、「本来あるべき農業の姿ってこうだよね」って素直に思いました。

農業に携わる若い世代のなかには、「市場っていらなくない?」「農協もいらないよね」とか言う人もいるんですけど…

もし市場がなくなったら、僕らは普通に野菜を買えなくなっちゃいますから。

今あるものを否定するより、現状を活かして改革したほうがいい。市場を活用しているという意味でも、「農産物流通DX」はすごく意義のある取り組みだと思います。

消費者が豊作を喜べる世界に。「IOWN構想」で実現できる“未来”とは?

最後は、ちょっとだけ未来の話。

「農産物流通DX」の推進メンバーであるNTTアグリテクノロジーの大塚岳朗さんNTTビジネスソリューションズの小松拓哉さんに、「農産物流通DX」の今後の展望について教えてもらいました。

三浦さんと同世代のおふたりの目には、どんな未来が映っているのでしょうか…?

左から小松さん、大塚さん

大塚さん

NTTグループでは「IOWN構想*」という、「光」を活用した革新的なネットワークの構想を掲げています。

*IOWN…Innovative Optical & Wireless Networkの略

三浦さん

光…「光回線」とかのやつですか?

大塚さん

まさに! もう少し詳しく言うと、「最先端の光技術を使って、豊かな社会を創るための構想」です。

先ほど吉武から「デジタルツインコンピューティング」を活用して仮想市場を作りたい…とお話ししましたが、その実現に向けた取り組みも、IOWN構想のなかに含まれています。

小松さん

仮想市場を作るには、リアルタイムで莫大な情報を処理して、高精度に未来を予測しなきゃいけないんですが…

正直、今の技術じゃぜんぜん処理が間に合わないんです。

「5Gで通信が速くなった」と言われてますけど…仮想市場を作るためには、それ以上に高速で大容量で通信できる「光技術」が必要です。

大塚さん

今おこなっている「農産物流通DX」は、この構想を実現するための“ほんの第一歩”です。

IOWN構想が実現すれば、農業においてもさらに精密な未来予測ができるようになります

気候変動や価格変動、突発的なイベント需要など、複雑に絡み合った変動要素を分析できるようになれば…

今農業の現場が抱えている、ほとんどすべての課題が解決できるかもしれないんです

「IOWN」構想の実現は2030年くらいを目指しているとのこと。遠いようで近い未来の話

三浦さん

近い将来、農業にも必ず「DX」の波が来るだろうし、むしろ起こさなきゃいけないと考えていたんです。

「農業をやりたい」って若い人は増えているのに、収入にならなくて結局やめてしまう。不条理ですよね。

小松さん

わかります。僕のいとこは農業関係の仕事をしてるんですが、農業で「独立したい!」って相談されても「やめといたほうがいいよ」としか言えない現状がすごく辛くて。

三浦さん

「紙とペン」だけじゃなくて「スマホとPC」を使いこなせる若い人材が、ちゃんと生き残れる業界にしなきゃいけないですよね。

小松さん

デジタルの力で需給の最適化や効率化が進めば、関係者みんなが適正な収入で生きていけるようになる。

なにより、消費者のみなさんにも「より良い提案」をできる余裕が生まれるはずなんです。

大塚さん

まさに。僕は将来、消費者が豊作を喜べる世界を作りたいと思っていて。

「見た目が不恰好」「供給過多」とかで捨てられてる野菜が、じつは一番おいしかったりするんですよ(笑)。

「そうそう!」と隣の上司たちからガヤが入りました。仲良し

大塚さん

まずは農産物流通DXで、消費者のみなさんに提供できる選択肢を増やす。

そのうえで、もっと“おいしい”を楽しめるような付加価値を提案したい。そんな世の中を、技術の力でつくりあげていきたいなと思います。

撮影後、三浦さんから信じられないほど大きなリンゴ(採れたて)をいただいたのですが…

一口かじった瞬間、あまりのおいしさに衝撃を受け、すぐに気づきました。

今日伺ったお話は、決して他人事ではないんだ」。

私たちが人間らしく生きるうえで欠かせない、“おいしい”という感情。

この新鮮な喜びと驚きの裏には、NTTグループのみなさんをはじめとした先駆者たちの人しれぬ努力があったのです。

“おいしい”を無邪気に楽しめる世の中が、いつまでも続くように。

そう祈りながら、私もいち消費者として「農産物流通DX」がもたらす豊かな未来を心待ちにしたいと思います。

〈取材・文=石川みく(@newfang298)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉

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