ビジネスパーソンインタビュー
佐渡島庸平・石川善樹・羽賀翔一著『感情は、すぐに脳をジャックする』より
僕らは、感情に「鈍感」だ。佐渡島庸平が分析する、“気持ちの切り替えが上手な人”の特徴
新R25編集部
2022年、あなたはどんな一年にしたいですか?
「今年は〇〇を頑張りたい」と答えられる方もいれば、その一方で「いきなり聞かれてもわかんないな…」と思う方も多いでしょう。
そんな方は、まずは自分の「感情」に目を向けてみてはいかがでしょう?
編集者の佐渡島庸平さん、予防医学研究者の石川善樹さん、漫画家の羽賀翔一さんの3人による書籍『感情は、すぐに脳をジャックする』には、あまり見つめることのない自分の感情を知覚するための方法が紹介されています。
「今自分がどんな感情を持っているのか」
仕事で目まぐるしい日々が始まる前に、同書より抜粋するヒントをもとからぜひ深堀りしてみてください。
僕たちは、こんなにも感情に「鈍感」だ
「5分前、あなたは何をしていましたか?」
唐突になんの話だと感じるかもしれませんが、ちょっと考えてみてください。
あなたならどのように答えるでしょうか。
おそらく、自身の少し前の行動を振り返り、さほど悩むことなく「〇〇をしていた」といった具体的な返答ができると思います。
たとえこれが「30分前」や「1時間前」の行動であったとしても、記憶の糸を手繰り寄せていけば、そう難しいことではないでしょう。
ではここで、少し質問を変えてみます。
「5分前、あなたは何を感じていましたか?」
この「感じている」とは、いわゆる心の状態を指しています。ですから言い換えるのならば、「どんな感情を抱いていましたか?」ということです。
どうでしょうか。
同じ5分前の記憶のはずなのに、「何をしていたか」に比べると、かなりあいまいな印象になっているのではないかと思います。
思い浮かべた状況によっては、「そもそも何か感じていただろうか?」という疑念すらよぎるかもしれません。
しかし、思考と感情は密接な関係にあるので、日常生活において何かしらの思考活動をしている以上、感情も存在しているはず。
それなのに私たちは、ほんの5分前の感情でさえ、覚えていない(思い出せない)ことが多々あります。
たとえば、スマートフォンでさまざまなコンテンツをチェックしているとき、それを受けて自分がどんな気持ちになっているかを、わざわざ意識しながら閲覧することはほぼありません。
仕事の打ち合わせで上司から言われた言葉に、なんとなく落ち込んだり、嬉しくなったりしたとしても、「私は今、どんな気持ちなのか?」と自問することなく、その多くを漠然とやり過ごしています。
ほかにも職場やプライベートでのコミュニケーション、SNS、マンガやドラマ、映画、お気に入りの動画コンテンツの視聴など、日々のあらゆるシーンにおいて情報を浴びるように受け取っては、まるで現代社会のスピードに呼応するように、感情をめまぐるしく変化させています。
次々と生まれては、本人も「無自覚」のうちに消えていく無数の感情。
そこにはポジティブな感情だけでなく、ネガティブ感情も含まれているでしょう。
すんなりと消化してしまうものもあれば、心の底におりのようにたまっていく感情もあるかもしれません。
感情は、すぐに脳をジャックする
一方で、強い感情が沸き上がったときには、まるでその感情がすべての時間と空間を支配してしまったかのように思える場合もあります。
夜、眠りにつく前に「なんだか今日は、いろいろとしんどい一日だったな…」と感じていても、朝から晩まで嫌な出来事や感情が絶え間なく続いていたわけではないはずです。
その途中では、友人との会話で笑っていたかもしれないし、休憩時間に飲んだコーヒーの香りに癒されていたかもしれません。
それでも一日の印象がネガティブになってしまうのは、もっとも強く抱いた感情が「しんどい」だったから。
ほかの感情の記憶は、強い感情によって押しやられてしまったと考えられます。
気持ちの切り替えが上手な人とは、こうした小さな感情をしっかりと認知できていて、バランス感覚にも優れているのかもしれません。
メタ認知に最適なプルチックの「感情の輪」
あなたは「感情にはどのような種類があるか?」と聞かれたら、いくつの言葉を挙げられますか?
パッと頭に浮かんだものを挙げていこうとすると5つ程度、少し考えてみても10項目出せれば多いほうではないでしょうか。
それも当然で、僕たちは毎日、目覚めてから眠りにつくまで、次々と生まれては消えていく感情を「この感情は〇〇だ」といちいち言語化して認知しているわけではありません。
「感情の種類」など知っていなくても、困ることはそうないと思います。
他者との会話だって、感情のニュアンスを伝えることや質にこだわらなければ、「ウケる」「ヤバい」「エモい」「ぴえん」などの表現で成立させることだって可能です。
しかし、自分の感情を理解しようとするならば、ある程度の種類は知っておいたほうがいいし、思考を深めるための多様な視点も必要です。
「悲しみ」の中には「悲嘆」や「哀愁」といったニュアンスの異なるものがありますが、それぞれの言葉と概念を知っているからこそ、区別をつけることができます。
そこで僕が活用しているのが、米国の心理学者、ロバート・プルチック博士が提唱した「感情の輪」です。
「感情の輪」は、8つの基本感情(一次感情)と、その基本感情のうちの2つが結びついて生まれる混合感情(二次感情)で構成されています。
感情というあいまいな概念を、視覚的かつ体系化した状態で捉えることができるのが大きな特徴です。
「感情の輪」の主軸となる基本感情は、次のとおり。
【8つの基本感情】
喜び/信頼/恐れ/驚き/悲しみ/嫌悪/怒り/期待
感情は、すぐに脳をジャックする
花びらのように見える8つのブロックは、それぞれの基本感情の強さによって段階的に分かれています。
中心に向かうほど強い感情となっており、「喜び」という一次感情がより強まると内側の「恍惚」に、弱まると外側の「平穏」といった具合です。
僕はこの「感情の輪」を、プロのマンガ家育成を目的とした講座『コルクラボマンガ専科』や新人マンガ家との打ち合わせなどで使用しており、いつでも確認できるようにスマートフォンの待ち受け画面にも設定しています。
ちょっとした空き時間を利用して感情について振り返ったり、理解を深めたりするのにとても役立っています。
たとえば作品の中で「怒り」を表現するとき、その怒りはどのくらいの「強さ」を持つのかによって、人物の表情や発する言葉はもちろん、前後の行動までも大きく変わってきます。
怒りと自覚するほど強い感情ではないけれど、内面に何かしらの不満やストレスを感じているのであれば「苛立ち」に近いでしょうし、湧き上がる怒りを抑えきれず、鼓動が高まるほどの激しい情動であれば「激怒」です。
また感情の強さに明確な境界はなくグラデーションなので、「苛立ち」が蓄積することで少しずつ感情が強まり「怒り」に変化するなど、多様な見方をすることができます。
さらに、各ブロックの反対に位置する感情同士は相対的な関係とされていて、感情を理解するのにとても重要な組み合わせです。
【基本感情の相関性】
喜び⇔悲しみ
信頼⇔嫌悪
恐れ⇔怒り
驚き⇔期待
感情は、すぐに脳をジャックする
これをコンテンツに置き換えると、「喜び」を伝えるのであれば、「嬉しい」というシーンをいきなり描くよりも、相対感情の「悲しみ」を先に描いたほうが、感情の振り幅があるぶん、「大きな喜び」になります。
「驚き」に関しても、事前に「期待」があり、それを裏切られたときのほうがより強い感情として伝わります。
必ずしも対義語になっているわけではありませんが、それぞれの相関性を意識しながら感情を俯瞰することで、より奥深い世界が広がっていくのです。
2022年は、感情を知覚する
この記事を読み終わったあなたのなかには、どんな感情が浮かび上がったでしょうか?
日々、意識することが少ない感情。「じつは、そのひとつひとつを分解して捉えていくことで人は幸せになれる」と、石川善樹さんは言います。
感情を深く知ることは、仕事にも、人生にも、大きな影響が与えられるはず。ぜひ、少しでもいいので自分の感情を振り返る時間をとってみてください。
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