ビジネスパーソンインタビュー
“某アイドルを見ればわかる”ってどういうこと?
はじめに巻き込むべきは「人気がある人」じゃない。GO三浦がスタートアップを本気改善
新R25編集部
魅力的な成長企業が多く登場する「スタートアップ」の世界。
一方で、「サービスはすばらしいのに、まだまだ世の中に知られていない」「改善点に対してアドバイスがほしい」という会社も多いそう。
そこで、新R25編集部が動きます。
題して「あすユニ ~明日のユニコーン~」。スタートアップ企業の代表者が、自社サービスの長所や展望をたっぷりプレゼン。そのうえで編集部や、新R25が厳選した一流ビジネスパーソンとの対峙を経て自社の魅力を磨き上げていく…というコーナーです。
初回に登場するのは、「mehana」というサービス。一点もののアートをクリエイターに依頼できるプラットフォームだそうですが…
代表の村岡紗綾さんいわく「リリースしたばかりでまだ課題が山積み」。
こんなアイテムが、オリジナルで注文できます!
ポスターを依頼して、部屋に飾るのもよさそう…
今回、そんな村岡さんの相談に乗ってくれるのは、クリエイティブディレクターのThe Breakthrough Company GO代表・三浦崇宏さん。
自社に飾ってあるアートを見せてくれた三浦さん。すごい自慢げだな
自身もアートへの造詣が深い三浦さんは、mehanaの課題にどのような解決策を提案するのでしょうか?
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
アドバイス①「某アイドルをCMに起用するとマジで売れる」“モノが売れる人”の特徴とは
村岡さん
「mehana」はSNSなどで著名なクリエイターさんにオリジナルのイラストを依頼して、自分だけのTシャツ、マグカップがつくれるプラットフォームで…
自分だけの“1点ものアート”をもっと人々の身近にできないかと考えて立ち上げました。
アートは日々の活力になるものですが、今は普通の人にとってはハードルが高い。そんな現状を変えていければと思っています。
かわいいイラストとマグカップを持ってきてもらいました
三浦さん
アートを所有する快楽って確実にあるから、素晴らしいサービスだと思いますね。
今の一番の課題はどこなんです?
村岡さん
クリエイターのファンの方は、一点もののアイテムが買えるとなれば反応してくれるはずと想定してたんですけど、イマイチ反応が少なくて。
まだあんまり広まっていないというか…
三浦さん
俺は、スタートアップのキモは「初期にどんな仲間を集めるか」にかかってると思うのね。
会社の仲間というだけじゃなく、mehanaでいえば“参加してくれるクリエイター”みたいな、周囲の人たちも重要なのよ。
今は、どんなクリエイターさんに声をかけてるんですか?
村岡さん
やっぱり、ファンとかフォロワーが多いクリエイターですね。
三浦さん
「ファンが多い」って、もう少し解像度が上げられる気がするんだよね。
たとえば、広告業界でよく言われる話なんだけど、ジ○○○○…あっ、ダメか。
気を取り直して…と
三浦さん
「男性中心の某大手アイドル事務所のタレントさん」をCMに起用するとマジでモノが売れるんだよ。
どんなものでも信じられないぐらい売れる。なんでだと思う?
そうなんだ。やっぱり人気だから…?
三浦さん
それは、ファンが「CMの商品を買えば○○くんの評価が上がる!」って知ってて、実際に購入するから。
“推しを支えたい”気持ちを行動に移してくれるんですよ。
行動してくれるファンと、“ただ好き”なだけのファンの差って大きい。だから最初は、行動して支えてくれるファンを持つクリエイターを仲間にするのがいいと思うんだよね。
村岡さん
なるほど…ジ○○○○みたいに「行動してくれるファン」を持つ人は、ほかと何が違うんですかね…?
三浦さん
それは、ストーリーまで売ってるか、コンテンツだけを売ってるかの違い。
「下積み時代からこういう人生を歩んできました」というストーリーがある人は強いよね。
アートでもビジネスでも、「だからこの作品が生まれたんです」「この仕事をしてるんです」という文脈がある人は支持される。
「ストーリーまで売るか、コンテンツだけ売っているか」…。レベル高い話だけど自分たちの仕事にも関係する局面がある気がしますね…
三浦さん
ほかに初期に集めるべき仲間は「熱量が高い人」なんだけど…
村岡さん
でも、登録してくださっているクリエイターはみなさん熱量が高いと思うんですが…?
三浦さん
ここでいう熱量は、「作品づくり」というよりも「人を集める熱量」…もっと言えば「売る熱量」。
たとえば、Webのクラファンサービスで出資を集めようとすると、“支援者の最初の70%はご自身の友人で集めてください”みたいに言われるの。えっ、自分で集めるの?って思うんだけど、そういうものなの。自然に売れるなんて甘い話はない。
だから、「mehanaというサービスに出せばおいしいですよ」というノリじゃなくて、「自発的に動ける人」を集めなきゃいけないんだよね。熱量って、行動量で可視化できるから。
スタートアップへのアドバイス①
⇒初期に集めるべきは、「ストーリーがあり共感される」「まわりを巻き込む熱量がある」人!
アドバイス②アートを買うってハードル高くない?“一歩目を踏み出してもらう”マーケ戦略とは
編集部・天野
聞いてて思ったんですが、「アートを所有する価値」ってそもそも経験がない人にはピンときませんよね…?
三浦さんだったら、「まだ価値を感じていないものへの第一歩」を踏み出してもらうために、どんなマーケティング戦略をとりますか?
三浦さん
まだ価値が知られていないものを広める定石は…「使っている人を褒める」こと。
三浦さん
以前、ある自動車の広告を担当したのね。正直なクライアントさんで「この車にはあまり特徴がないんです」と(笑)。
高性能な日本車はもはや車種ごとの特徴は微差だし、多く売りたいとなるとトガッたポイントはなくなっていくものだけど…
そこで、女性誌で「イケてる旦那が乗るクルマ」というコンセプトでキャンペーンを組んだんだよね。
村岡さん
「イケてる旦那」…
三浦さん
家庭において車の購入を決定しているのは、じつは男性ではなく「妻、お母さん」という存在の女性だというデータがあって。
だから女性誌で、その車種に乗っている旦那さんを集めて「ステキな旦那さん」と記事を書いてもらったのね。
車を褒めるんじゃなく、車を買う人を褒める…
三浦さん
似たような話で、ニュー○○○○のスニーカーって、言ってしまえば“履きやすい地味な靴”じゃん。
だけど、「イケてる人が履いてる」みたいなイメージあるでしょ。
それは昔、ウォール街で「このスニーカーを履いて出勤するといいよ」っていう売り出し方をしたから。その結果、知的なビジネスパーソンが履くイメージが定着したんだよ。
村岡さん
そうだったんですね…!
三浦さん
ブランドをつくる一番重要な要素は、実は商品でもつくり手でもない。ユーザーなんだよ。
だから、すでにmehanaを体験しているユーザーを深掘りして使い方を聞かせてもらうとか、そういう初期マーケ戦略が有効かもしれないね。
スタートアップへのアドバイス②
⇒サービスの価値を広めるには“すでに使っている人”を褒めよ!
アドバイス③競合とでも手を組んで“カルチャーをつくる”
三浦さん
最近でいえば、サウナブームもそういう文脈でしょ。いい悪いはともかく“ととのってる人はイケてる”っていう認識が広がっている。
これは、ユーザーを褒めるをさらに超えて、「みんながマネしたくなるカルチャーをつくる」っていうことだよね。
三浦さん
mehanaがどんなカルチャーをつくれるか…と考えてみると、“アート界の推し活”というカルチャーなんじゃない?
アイドルを応援して、課金したり、時間を共有することが喜びになるわけでしょ。
作品を購入して同世代のクリエイターに貢献することを“アートの推し活”と定義して、「あなたの推しクリエイターを見つけよう!」と打ち出すのはどうかな?
村岡さん
いいかもしれません…!
mehanaがそういうカルチャーを打ち出すことで、競合サービスとの差別化にもなるんですかね…!?
三浦さん
競合とは差別化するよりも“一緒にカルチャーをつくる”ぐらいで考えたほうがいいかもね。若い人にはアートを買うっていう行動は定着していないから、まだ市場も小さい。
だからむしろ、「こういうカルチャーをつくりたいんですが、いっしょに盛り上げていきませんか?」って競合に声かけちゃうとかね。そういうところから「2社同時リリース!」とか、掟破りの施策が生まれるんだよ。
スタートアップへのアドバイス③
⇒競合とは対立するよりもともに“カルチャー”をつくろう!
アドバイス④「プラットフォーム」という言葉で誰が喜ぶか? ユーザーが喜ぶコンセプトをつくろう
三浦さん
大元のコンセプトというか、キャッチコピーも見てみようか。
今、「mehanaって一言でいうとどんなサービス?」ってきかれたら、なんて説明してます?
村岡さん
「一点もののアートがつくれるプラットフォーム」ですかね。
三浦さん
俺は、そこのコンセプトから“ユーザーにとって本当に価値があるのか?”と疑ってみてもいいと思ってます。
事業側が「正しく言い表せている」と思うフレーズよりも、「ユーザーが喜ぶ」伝え方にしたほうがよくて…
たとえば「プラットフォーム」って、多くの人が集まってマッチングする場所ですってことだよね?
細かい言葉尻にも噛みつく三浦さん
三浦さん
でも、ユーザーにとっての価値は「自分が好きな“あのクリエイターさん”がつくったもの」が手に入ることじゃない? なら、“たくさんの人がいる場所”っていう言葉は響かない可能性がある。
俺だったら「大好きなクリエイターと一緒にモノづくりができる」と掲げるなあ。
村岡さん
たしかにそうかもしれません…
スタートアップへのアドバイス④
⇒「正しい」より「喜ばれる」コンセプトを伝えよう!
アドバイス⑤ユーザーが喜ぶ「金額設定」って?
三浦さん
ちなみに、イラストとかTシャツっていくらで買えるんですか?
村岡さん
言い値なんです。
三浦さん
言い値なんだ!それは価格決めたほうがいいよ。
日本人って…いや日本人に限らず多くの人にとって、“金額の交渉する”ってハードル高すぎる行為でしょ。
村岡さん
ユーザーの言い値で依頼できるサービスもあるので、すでにそういう文化が根付いているかと思ったんですが…
三浦さん
サービスをつくるときに重要視すべきポイントとして「いかにクリックさせないか」、つまり「ユーザーにいかに行動の手間を与えないか」を考えるべきなんだよね。
初手では決まった金額を設定しておいて、“自分の推しにもっと払いたい!”という常連ユーザーには価格を上乗せできる権利を与えてる…ぐらいがいいんじゃないかな。
スタートアップへのアドバイス⑤
⇒ユーザーが考える手間はなるべくなくそう
「アートは資本主義を越える可能性がある唯一のもの」mehanaが目指すべき未来とは
村岡さん
いろいろとありがとうございます!
どんどん改善していきたいと思いつつ、mehanaの考えていることをもう少しだけお伝えしたいんですが…
ぜひもっと言い返してやってください!
村岡さん
現代って、「それなりのモノ」を手に入れるのが簡単な時代になっていると思うんです。誰でも、それなりのモノをそれなりに手頃な値段で買える。
“その消費行動に、意義やストーリーを持たせることに価値があるんじゃないか”というのがmehanaの出発点で。
三浦さん
ふむふむ。
村岡さん
三浦さんのような起業家や経営者の方は高額なアートを買えるので、“豊かなストーリーを所有する喜び”を享受している。
でも、我々の世代の一般的なビジネスパーソンも、生活のなかに自分の好きなアートを取り入れられるべきなんじゃないか?と思うんです。
そういえば三浦さん冒頭でアート所有を自慢げにしてましたね…どう反応する?
三浦さん
うん、すごく大事なことやってるなと思うんです。
なぜかというと、日本ってこれから毎年人口が減っていく状況だから、これから先はモノが売れる数は増えない。だから、モノの価値を上げていくしかない。
モノの価値、言ってしまえば値段を上げるために必要なのが「ブランドとストーリー」。日本の成長戦略における最大の資源って、実はクリエイティビティなんだよ。
村岡さん
まさに、その「ブランドとストーリー」を多くの人の生活のなかに届けようとしているのがmehanaなんです!
おおおお
三浦さん
それなのに、日本ってクリエイターの給料や社会的地位がめちゃくちゃ低い。これが一番問題なんです。
だから、クリエイターが作品で生活できる可能性を高めることは重要なミッション。
mehanaに一番期待したいのはそこだね。たとえばmehana上でよく収益が上がっているクリエイターのデータを分析して、多くのクリエイターに共有するとか。
「Webサービス×アート」の領域なら、そういう未来がつくれるんじゃないかな?
編集部・天野
正直、アートってビジネスからけっこう遠い分野だよな…と思ってたんですが、お話を聞いてるとじつは“資本主義”的な部分に一番近いような気がしてきました。
三浦さん
その通り。遠いところにありそうでいて、アートって実は資本主義を越える可能性がある唯一のものなんです。
量や品質ではなくストーリーや、人、社会にとっての意味で価値が上がる。
YouTubeという舞台ができたことで、「それまでは世に出てくることがなかったヒーロー」にたくさんスポットライトが当たったでしょ。
今だって、「本当はアートで食っていきたいのに諦めて、諦めて広告代理店に行きました」って人がたくさんいるじゃん。
パッとは出てこないけどたくさんいそうですな
三浦さん
だから、競合と戦ってる場合じゃないのよ。
mehanaは、そういうヒーロー、ヒロインたちが本当に輝ける場所になれる存在だと思っています。
村岡さん
ありがとうございます…! mehanaがそういったクリエイターさんたちのための場所になれるよう、頑張っていきます!
GOオフィスには、Chim↑Pomによる「LIBERTAD」という作品が設置されていました。アメリカとメキシコ国境の壁の前で“自由の墓”を表す十字架が写されているものです
縁遠いものにも思える「アート」。
しかし三浦さんは、「たとえばGOは『あらゆる社会の変化と挑戦にコミットすること』をミッションにしてる。だから、自宅やオフィスに“変化”や“挑戦”というストーリーを持つすばらしいアートを設置することで、常に自分を奮い立たせるという意味があるんだよ」と教えてくれました。
村岡さんが「起業家や経営者じゃなくても、自分の生活にアートを取り入れる豊かさを体験してほしい」と熱弁したように、R25世代の皆さんも、ぜひmehanaを使って自身の生活のなかに“ストーリー”を取り入れてみてはいかがでしょうか?
〈取材・編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)/文=吉玉サキ/編集協力=プレスラボ〉
おまけ~三浦さん自慢のGOオフィスにあるアート作品シリーズ~
古賀崇洋(作者、敬称略。以下同)
渡辺詩桜里
藤嶋咲子
大山エンリコイサム
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