ビジネスパーソンインタビュー
アサヒビールが提唱する“スマドリ”とは?
「一口飲んで“これは売れる”と確信できた」アサヒビールが挑んだ “微アルコール”誕生秘話
新R25編集部
今年、アサヒビールが発売したこれまでにない商品が話題になりました。アルコール分0.5%、“微アルコール”というフロンティアを開拓した新しいビールテイスト飲料「アサヒ ビアリー」。
そして9月、新たに発売されるのが、アルコール分0.5%と3%のハイボール「アサヒ ハイボリー」です。
この商品を見て「コロナ禍の健康志向の高まりに便乗してる?」「0.5%なら、もはや飲まなくてもいいのでは」と思った方…実はそうではありません。
“微アルコール”ラインナップの展開は、アサヒビールさんの“ある想い”からはじまっているそう。
「アサヒ ビアリー」「アサヒ ハイボリー」誕生の背景について、ノンアルコールビールユーザーの新R25編集長・渡辺が詳しく聞いてきました。
お話を伺うのは、アサヒビール株式会社 新価値創造推進部部長の梶浦瑞穂さんです
梶浦さん
今日はよろしくお願いします!
渡辺さんは普段、お酒を飲まれますか?
渡辺
自宅では基本ノンアルコールビールを飲んでますね。
ただ、たまにアルコールが欲しくなるときもあるので、まさに“微アルコール”は自分のために開発された商品なんじゃないかと思ってました(笑)。今日は楽しみです!
“微アルコール”開発の背景にある「スマートドリンキング構想」とは
渡辺
“微アルコール”という新しいカテゴリーはどうやって生まれたんですか??
梶浦さん
ビールにおいて「脱アルコール」という新しい製法が世界的に流行していたことから着想を得ています。
渡辺
「脱アルコール」…ノンアルコールとは違うんですか?
梶浦さん
ノンアルコールビールは、調合でビールの味に寄せていくのが基本的なつくり方です。
一方「脱アルコール」は、ビールを醸造してつくってからアルコールを抜いて度数を下げていく製法なので、味わいが全然違うんですよ。
アサヒビールでは3年ほど前から脱アルコール製法を研究していて、それを商品化したのが今年3月に関東・関東信越地区で先行発売し、6月に全国発売した「アサヒ ビアリー」なんです。
渡辺
そんなに前から!
ということは、コロナ禍以前から脱アルコール製法の商品を展開していく構想があったんですか?
梶浦さん
そうですね。
海外を中心に“お酒を飲みすぎて体を壊してしまう”ことが社会問題化している背景もあって、グローバルで健康志向が加速していました。
そこにコロナ禍での家飲み需要が相まって、“自宅だと長時間飲み続けてしまう”という声があがるようになり、日本でもアルコールの健康問題が取り沙汰されるようになったんです。
我々もアルコールメーカーとして、さすがにこの状況は無視できないなと。もっとアルコールの害悪に向き合わないといけないと考えるようになりました。
梶浦さん
そこで、“アルコール分からお酒を選ぶ”という選択肢を広げていこうと「スマートドリンキング」という概念を提唱するようにしたんです。
具体的な活動として、飲食店様に度数表記を呼びかけたり、2025年までにアルコール分3.5%以下の商品の割合を、2019年比の3倍まで引き上げること(※)を目標にしています。
※ビール類、RTD、ノンアルコールの販売容量合計に占めるアルコール分3.5%以下のアルコール商品、及びノンアルコール商品の割合を、2025年までに2019年比3倍強となる20%を目指す
梶浦さん
アルコールって本来、上手に付き合えさえすれば、ストレス解消やコミュニケーション促進などのいいところもたくさんありますよね。
でも今って、お酒と上手に付き合おうと思ったら、たいてい“我慢”を強いられるじゃないですか。
「ノンアルコールを選ぶ」「本数を制限する」など、お客様の努力に任せっぱなしになってしまうんですよ。
渡辺
たしかに。ノンアルコールビール自体あまり置いてないコンビニもありますよね。
梶浦さん
そうなんですよ。
スマートドリンキング構想で実現したいのは、より多くの人がお酒と上手に付き合うための“環境づくり”なんです。
梶浦さん
たとえばビールなら、アルコール分5%か0.00%の2択しかなかったところに、0.5%という選択肢が増えることで、「アルコールは飲みたいけど、度数は抑えて楽しもう」という選択ができるようになるかもしれない。
その大きな構想のなかの第1弾が「アサヒ ビアリー」だったという流れです。
渡辺
なるほど。「スマートドリンキング」という概念を啓発するだけではなく、“我慢”以外の選択肢を増やす動きまでやってらっしゃるんですね。
ビールに求められているのは“アルコール”だけではないという気づき
渡辺
「アサヒ ビアリー」は発売から3カ月ほど経過していますが、売れ行きはどうなんですか?
梶浦さん
6月に全国発売を開始し、7月にはアルコールテイスト清涼飲料(微アルコール含む)の売り上げとしては前年比149%となりました。
渡辺
かなり好評なんですね。
梶浦さん
最初の試作品があがってきた時に確信したんです。
一口飲んで、「あ…これは売れるな」と。
目指したのは「アルコール分7%の缶ハイボールよりおいしいハイボール」
渡辺
新しく発売される「アサヒ ハイボリー」についてもお話を伺いたいです。
開発の過程でこだわったポイントを1つだけあげるとしたらどこになりますか?
梶浦さん
「アルコール分7%の缶ハイボールよりおいしいハイボール」を目指したことですね。
渡辺
アルコール分7%から0.5%になると、普通はウイスキーの香りや飲みごたえは落ちてしまいそうですが…
梶浦さん
そこで「アサヒ ハイボリー」では、おいしいハイボールをつくるために重要な“原酒”の選定にかなり時間をかけています。
グループ会社であるニッカウヰスキーのブレンダーとチームをつくり、原酒の選定からブレンド方法の検討を重ねた結果、スコットランドでメジャーな「ヘビーピート」という原酒を採用しました。
かなり強めなウイスキーですが、ブレンド技術と組み合わせることで、少量でも香り高いハイボールを実現することができたんです。
渡辺
そんな話を聞いてしまうと、ちょっと飲みたくなってきましたね(笑)。
梶浦さん
ぜひ! きっと驚いていただけると思います。
渡辺
では…
「香りは完全にハイボールですけど…」
「!」
渡辺
すごい(笑)。これはハイボールだ。
梶浦さん
僕も飲んだときは感動しました(笑)。
ずっと気になっていた「アサヒ ビアリー」もちゃっかり試飲
渡辺
うん。これ、ノンアルコールビールとは全然味が違いますね。
おいしいです。この味でアルコール分0.5%なら、「アサヒ ビアリー」か「アサヒハイボリー」を飲みたいと思います。
多くの人が“あえて選びたくなる”ほどおいしいローアルコールを実現する
渡辺
正直、アルコール分0.5%ってノンアルコールと変わらないんじゃないかと思ってたんです。
でも、飲んでみて驚きました。いつものビールやハイボールと全然変わらないし、むしろおいしい。
0.00%か0.5%でこんなに変わるものなんですね(笑)。
梶浦さん
ありがとうございます。ちなみに、あえて0.5%を選んだのにも理由があって。
お酒に強い人も弱い人も一緒に楽しめるちょうどいい度数だというのが1つ。さらに、アルコール分を0.1%単位で調整していった結果、最もおいしいバランス感が0.5%だったんです。
渡辺
「アサヒ ハイボリー」は、0.5%のほかに3%もあるんですね。
梶浦さん
そうなんです。ハイボールの世界ではそもそもローアルコールが存在していなかったので、「両方出してみたら面白いんじゃないか」と。
どのくらい受け入れられるかは世の中に出してみないとわからないですし、我々から商品のバリエーションを広げることで、ローアルコール市場を盛り上げる役割も担えればいいなと思ったんです。
渡辺
多岐にわたる商品を展開するのは、収益を上げるには効率が悪いという側面もありますよね。
そこで先陣を切って、商品を世に出していくという決断にアサヒビールさんの本気を感じます(笑)。
梶浦さん
恐縮です(笑)。「スマートドリンキング」と名付けてからまだ9カ月ほどしかたっていないのですが、これまでにないスピードで商品化を進めているんです。
準備に時間をかけるより、まずは商品を出して市場に合わせていくという方針で動いていきたいですね。
梶浦さん
僕たちは「健康のために仕方なくノンアルを選ぶ」というネガティブな消費をポジティブに変えていくために、“あえて選びたくなるほどおいしいものをつくる”ことに最もこだわってきました。
渡辺
「アルコール分が下がるから味も落ちてしまう」という常識を変えていくと。
梶浦さん
究極、アルコール分が低い方がおいしければ、そんないいことはないじゃないですか(笑)。
渡辺
今はビールとハイボールですが、ここから“微アルコール”のカテゴリーがどんどん広がったらおもしろいですね。
梶浦さん
そうですね。
“お酒と上手に付き合っていただく”ための選択肢は我々からどんどん増やしていくので、みなさんも状況に合わせて、飲みたいお酒を楽しく選んでもらえたらうれしいです。
さまざまな場面で「多様性」というキーワードが注目されていますが、それは「個人のお酒の楽しみ方」にももちろんあてはまります。
「飲むか、飲まないか」ではなく、「どんな時間を過ごしたいか?」へ。
“スマートドリンキング構想”が広がって、お酒を飲む人、飲まない人、どんな人でも“自分らしいお酒の楽しみ方”を見つけられる未来も遠くないのかもしれません…!
〈取材=渡辺将基(@mw19830720)文=宮内麻希(@haribo1126)/編集=石川みく(@newfang298)/撮影=オカダマコト〉
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