ビジネスパーソンインタビュー
久木留毅著『個の力を武器にする 最強のチームマネジメント論』より
「1年間、選手と一言も話さなかった」全日本女子バレーボール監督のチームを伸ばす観察力
新R25編集部
チームの方向性を決める決断が苦手・部下との適切な距離感が掴めない…など、リーダーになるとマネジメントに関する悩みはつきませんよね。
個人ではなく、チームで成果を上げるために、リーダーのとるべき行動はなんなのでしょうか。
その答えの一端はスポーツの世界で見出すことができると、国立スポーツ科学センターのセンター長である久木留毅さんは著書『個の力を武器にする 最強のチームマネジメント論』で述べています。
著書のなかで、久木留さんは、サッカー元日本代表監督の岡田武史さん、全日本女子バレーボール監督の中田久美さんと対談。
彼らが世界の強豪国と戦うために、どのようにチームを導いていったのかを紐解いていきます。
今の時代に求められるリーダーの素養を同書のインタビューより一部抜粋してお届けします。
信頼関係を築くために引き出しを増やす
久木留毅さん
監督になられて、やりたいことを具現化していくときに、データを使って可視化をするなど、さまざまな試みをされていますが、それだけでは簡単に自信というのはつかないですよね。
選手に自信をつけさせるという点ではどのように指導されていますか。
中田久美さん
人それぞれですが、やはり小さな成功を体験させることなのだと思います。
だから、それを言葉にしたり、確認をして、できる限り対話をするように心がけて一方通行にならないようにしています。
なぜよかったのか、ダメだったのか、なぜさっきできたのに、次はできなかったのかなど、原因は何かをなるべく選手に考えてもらうようにしています。
それと、どんな小さなことでも絶対に褒めます。
私は、怒られても萎縮することがなくエネルギーに変えることができましたが、今の選手たちはそうではなくて、私を怖いというわけではないですが、特別な目で見ているような感じがするのです。
あまり距離を空けすぎてもだめだし、あまり近すぎるとまた難しいので、そこの距離感は常に考えています。
あとはもう信頼関係じゃないですかね。
久木留さん
信頼関係を得るときに、中田さんの言葉で「指導者は引き出しがたくさんあった方がよい」というのがありますよね。
この引き出しの多さというのは、いつ頃から考えはじめたのですか。
中田さん
それは、まだ現役のときからですね。
たぶんオリンピックのときもそうですが、場面、場面ではあまり頭で考えていないのです。
たとえば、目の前で映像が動いているじゃないですか。
それに対して直に体が反応していかないとタイミングが遅れてもう終わってしまうわけです。
どの場面で、どこを見て、どの引き出しを出すかは、そのスピード感が大事なのだろうなと思います。
でも、普段の練習から意識しなければ、引き出しは作れませんよね。
あまり情報過多になるといらない引き出しまで増えてしまうので、今はなるべくそこは余分なものを本当に削いでいってあげないと、たぶん選手が何をやっているのかわからなくなってしまうだろうなと思います。
久木留さん
今はあまりに情報が入りすぎていて、特にバレーボールの場合、データバレーと言われてどんどんデータを蓄積して活用していますよね。
あれだけのデータをどうやって捨てているのかと思っていました。
中田さん
そうなんですよ。本当に怖いです。
逆に、データどおりに動けとなってしまうと考えなくなるのです。
久木留さん
ラグビーの神戸製鋼に中山光行さんという伝説のアナリストと言われた、故平尾誠二さんのブレーンがいました。
神戸製鋼の七連覇を支えた影の立役者です。
八連覇がかかったシーズンに、選手全員が試合の大切な場面になると「どうしたらよいのだ」と、中山さんの方を見るようになったそうです。
その瞬間、中山さんは今年、このチームは勝てないと思ったそうです。
つまり、データに頼り、情報に頼り、チームが自分たちでは考えられなくなっていたのでしょう。
中田さん
本当に怖いですね。
逆に強豪国は、たぶんそれでいいのだと思うのです。
自分が自分がという世界なので、ある程度ルール化しないと逆にぐちゃぐちゃになっちゃうだろうなと思います。
久木留さん
そういう点では、日本は日本のバレーをやっていかないといけなくて、そのときに一人ひとりがきちんと考えられるようにしていかないとだめなのですね。
中田さん
そこは世界と戦ってみてみると、絶対に日本の武器になるはずです。
日本の強みの部分だと思います。
独自の何か、強化システムや戦術もそうですし、世界基準を上回るか、外れるかのどちらかで勝負する必要があると思います。
日常生活までとにかく観察
久木留さん
久光製薬に入ったときに、中田さんは選手のマインドセットを変えることが必要だと感じたとおっしゃっていましたが、それはなぜですか。
中田さん
久光製薬を外から見ていたときに、茶髪が多く、決勝まで行くのに最後で勝てないなど、あまりいいイメージを持っていませんでした。
でもこれが上位にいくチームの質なのだと考えたときに、ちょっと違うかなとか物足りなさを感じて...。
自由と個性を履き違えているのではないかとも思っていました。
ところが、実際に中に入ると、みんなすごく真面目な人たちで驚きました。
これは、この選手たちにしっかりと目的を持たせ、バレーボールをなぜやるのかということを考えさせれば、もっと違った視点でバレーボールが楽しめるのではないかと考えました。
久木留さん
この当時の中田さんのエピソードで特におもしろいと感じたのは、選手の私生活で部屋や寮の掃除をさせたという話です。
中田さん
選手がだらしなくて驚いたのです。
自分のものはとても大切にしているのです。
しかし、他人のものや先輩が辞めて置いていったものに関してはあまり興味を持たないし、そこに置きっぱなしでもあまり不思議に思っていませんでした。
これは、バレーボールへの取り組み方にもつながっているのではないかなと感じました。
自分さえ居心地がよければいいという考えは、ちょっと違うのではないかなと思ったのです。
それで、一度マネージャーを通して掃除をした方がいいのでは?と言ったけどやらなかったので、全員を集めて「片付けろ!」と言ったらみんな片づけました。
やればできるじゃないと少し褒めました(笑)。
でも、そこからチームのために自分が何をしなければならないかを考えるようになり、チームカラーがどんどん変わっていきました。
バレーボールでも最初に、「久光は絶対優勝する」と言ったら、みんなポカーンとして、「この人、何を言っているの?」という感じでした。
しかし、少しずつ結果を出していき、自分のイメージどおりにいくと、選手はどんどん変わっていきました。
久木留さん
その中で、私がキーワードだなと思ったのは「観察」です。
中田さんはずっと選手の行動を、コートと私生活を通して程よい距離感の中でずっと見ていますよね。
これは意識して見ていたということですね。
中田さん
久光製薬での1年目はコーチとして入りましたが、選手と一言も話していないのです。
セッターは教えていましたけど、リーグもベンチに座っていないですし、コート外から数字を見てマイクでコーチ陣に伝えたりしながらずっと1年間観察をしていました。
私は、寮に一緒に泊まっていたので、掃除のことはやらせなければいけないと思ってやるように言いましたが、戦術的なこととか選手を集めて何かを言ったのは1回だけですね。
あとは選手の話をずっと聞いていました。
我慢はいりましたけど、今の選手たちのことが全然わからなかったので、どういう人たちなのだろうと「人」を見ていました。
私たちが選手だった時代とは全然違うのだろうと思いましたし、やはり10年間バレーボールから離れてみて気づくことも多かったですね。
見るから観察へ
久木留さん
コーチにとって対象である選手を見続けることは大切です。
しかし、それ以上に重要なことは見るから観察へとレベルを上げていくことに中田さんは気づいていきます。
観察のためには、より深く、長く対象となる選手やチームと徹底的に向き合うことが求められるのです。
現代社会において、情報が不可欠な要素であることは誰もが理解しています。
それはバレーの世界も同様です。現代のバレーは、情報戦であることは間違いないのです。
世界最先端をいくイタリアのデータバレーを直接体験した中田さんは、その中で情報を取り込むことよりもっと重要なことに気づくのです。
それは余分な情報を捨てることです。
情報過多の時代に情報を捨てる勇気が求められていることを実感するのです。
これはハイパフォーマンススポーツの世界だけでなく、どの分野、どの世界においても必要な要素です。
現代社会では情報を収集することは容易です。
しかし、その集めた情報から必要なものだけを選りすぐるためには、不必要なものを捨てる勇気が必要なのです。
そのことを理解しているから中田さんは、日々コートの内外でアスリートの観察を続けているのです。
それがあるから、不必要な情報を捨てることができるのです。
スポーツから学ぶ、マネジメント論
今回は日本のスポーツ界を牽引する監督と久木留さんの対談からリーダー論をご紹介、『個の力を武器にする 最強のチームマネジメント論』では個人の力を最大限に伸ばす方法も紹介されています。
「これらの時代背景の中で社会に求められているのは、予測不可能な状況においても、自ら考え行動できる自立した強い個人と強い組織であることは言うまでもないでしょう。」
と久木留さんは語っています。
組織を勝たせるリーダーになりたい人はもちろん、自分の力をハードに伸ばしていきたい人にもおすすめの一冊です。
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