ビジネスパーソンインタビュー
前刀 禎明著『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』より
元Appleのマーケターが「クレヨンしんちゃん」「名探偵コナン」を見つづけているワケ
新R25編集部
「雲の形を見るだけでも頭は動かせます」と、元アップル日本法人社長・前刀禎明さんは言います。
こちらは、前刀さんのインスタグラム。
「こうでなきゃいけない」を捨てて、自分の考えで物事を決められる人を増やしたいという思いから、空の写真の投稿を続けているのだそうです。
ソニー・ディズニー・アップルなど名だたる企業で“人の心を動かす仕掛け”をつくりだしてきた前刀さんの「固定概念にとらわれない発想法」とは、一体どのようなものなのでしょうか?
今回は、新著『学び続ける知性 ワンダーラーニングでいこう』から、「iPod miniを大ヒットに導いた着眼点」や「人気アニメとビジネスの共通点」について抜粋します。
本は受け身で読んでもあまり意味がない
自分自身の成長のきっかけや仕事のヒントを求めて本を読むなら、自分なりに物事を観察したり考えたりしてから読むのがいいと思います。
本に1から10まで教わるつもりで受け身で読んだのでは、どんなにいい本でも、その内容が血肉になることはありません。
自分でよく考えた末に、視点を変えてみるきっかけをもらったり、自分の考えの答え合わせをしたりするのに本を使うと効果的です。
逆に、「本当か?」と疑うのもありだと思います。
本に書かれているのは、あくまでも著者のやり方。
それが正解ではありません。
自分なりに推測し、考えるーー
それこそ、“学び続ける知性”(正解を求めるのではなく、自分なりに観察し、推測し、考える姿勢)のあるべき姿です。
人気アニメは「思考トレーニング」に効く
思考を助けてもらうという意味では、必ずしも本である必要はないとも思います。
ドラマでも映画でも、もちろん人と会うのだっていいでしょう。
僕の場合は講演の機会が多いので、講演会場での質疑応答から新しいアイデアのヒントをもらうこともあります。
同時に良い素材だと思っているのがアニメ。
実は、僕のアイデアや気づきのきっかけには、人気アニメからのものが結構あるんです。
僕はプレゼンなどを聞いたとき、よく相手の人に「子供にも分かるように説明してみて」と言います。
製品やサービスの特性にかかわらず、物事の本質は常にシンプルです。
製品やサービスのコンセプトにしても、本来は平易な言葉で表せるはずなんです。
逆に、どんなに難しく言ってみたところで、シンプルな言葉に置き換えたときに魅力が伝わらないなら、それはそもそも魅力がないということ。
普段から、子供も好んで見るようなアニメに引きつけて物事を考えてみるのは、いい思考のトレーニングになると思います。
「クレヨンしんちゃん」に学ぶ、自由な発想・素直な行動
僕が好きでよく見るアニメといえば、「クレヨンしんちゃん」です。
主人公のしんのすけは自由奔放で、まだ子供(5歳)なのであっけらかんと自己中心的。
それだけに自分に引きつけてものを考えたり、自由に妄想(想像)する力に長けています。
しんのすけが恋しているのは女子大生の「ななこおねいさん」。
彼女が友達を相手に「やっぱり背の高い人って素敵よね」と言えば、しんのすけはショックを受けて、なんとか自分の身長を伸ばそうとします。
牛乳をたくさん飲もうと、妹のひまわりからミルクを取り上げて、みさえ(しんのすけの母)に叱られたり。
ななこが「やっぱり小さいって、それだけでかわいいよね」と言うのを聞くと、今度は頭の上に重いものを乗せて背を縮めようとします。
バカバカしくも、いじらしいじゃないですか。
物事にダイレクトに反応し行動する素直な心は、見習うべきものがある気がします。
究極の目的は何なのか、大人は「付加価値」や「独自性」「差別化」を考えるうちに見失ったりしますが、しんのすけは迷わず、いつも真っすぐです。
しんのすけが間違いを指摘されたときに言う「そうともいうー」などは、味わい深いセリフだと思います。
あれは“そういう見方もあるけど、自分の考えも捨てないよ”というしんのすけ流の受け止め方なんですよね。
最近はみんな、何かあるたびに「他の人はどう考えているんだろう」と気にしてSNSなどをチェックしがち。
こうでなければいけない、こういうものだから、という思考の制約が多すぎるように思います。
どうせ他人に倣うなら、しんのすけを見習って、もう少し自由になってもいいのではないですか。
「名探偵コナン」に学ぶ、洞察力・推理力
「クレヨンしんちゃん」と並んで、僕がよく見るのが「名探偵コナン」。
少年探偵のコナンは、事件現場のあらゆるものを見逃さず、ささいな違和感も捨ておかない。
そうして拾った小さな情報と情報を結び付けて、事件の真相を突き止めていく。
あの洞察力、推理力は僕らも身に付けたいものですよね。
人間の脳は実に効率良く取捨選択します。
だから、特に意識しなければ日常風景は、目に入るだけで、そこから脳が情報を取り入れないことがほとんどだと思います。
でも、なにげない風景の中にも疑問を見つけて想像してみることが、思考力を鍛える近道です。
コナンに限らず、例えば現実の料理人たちも、料理であれば遡ることができますよね。
他人が作った料理を食べて、使われた食材や調味料、調理法が分かる。
彼らは普段、自分の意図した味、食感の料理を作り上げますが、その逆のことも可能なわけです。
そんな行ったり来たりのパスを頭の中につくっておけば、次に世に届けるべき製品はどんなものか、といったビジネスの命題も考えやすくなるはずです。
「ドラゴンボール」の悟空に学ぶ、ワンダーラーニングの考え方
皆さんご存じ「ドラゴンボール」シリーズは、世界的にも人気の高いアニメですが、無限の可能性を感じさせてくれるところが素晴らしい。
この本のサブタイトルにある「ワンダーラーニング」という言葉に込めた、「わくわくしながら学ぼう」という考えも、実は主人公の孫悟空にインスパイアされたものだと言ったら、驚くでしょうか。
アニメを見ている方ならご存じでしょう。
悟空たちの強さは、天井知らずに向上していきます。
悟空が「超(スーパー)サイヤ人」になっただけでも大変なことだったのに、ストーリーが進むうちに「超サイヤ人2」になり「超サイヤ人3」になり、仲間の力を受け止めて「超サイヤ人ゴッド」にも変身できるようになります。
さらには破壊神・ビルスの下で天使のウイスに付いて修行して、「超サイヤ人ブルー」になった。
それでも勝てない相手が出てくると、「身勝手の極意」を習得します。
戦闘中、状況に応じて無意識のうちに体が適切に動くという究極的な奥義です。
このように、悟空は自分の強さに飽くことなく、さらなる強さを求め続けます。
壁にぶつかれば、リセット・アンド・リスタート。
現在地にとどまり続けることなく、成長した自分を目指して行動を起こします。
かつて、ウォルト・ディズニーは
「ディズニーランドは永遠に完成しない。世界に想像力がある限り、成長し続ける」
と言いましたが、同じことですよね。
終わりを決めない。
現状で満足しない。
その考え方、姿勢でいると、未来に希望が持てるし、何より単純に元気になれます。
ハードルが高ければ高いほど喜んでしまう悟空のすっとんきょうな明るさにも、僕らがより良く生きるヒントがあると思います。
困難なときもポジティブな気持ちを忘れずにいれば、いい考えも浮かびやすいはず。
どんなに強い敵に出会っても、「オラ、わくわくすっぞ」というあの言葉、あの考え方。
あれぞワンダーラーニングです。
こうした生き方は、いつでも、何歳からでも可能なのだと僕は考えています。
好奇心に従って、挑戦をやめない限り、人は今の自分を超えていくことができます。
僕は時々「自身のキャリアで最高の仕事は?」と聞かれますが、いつも「これから!」と答えるんです。
なぜなら、僕の最高到達点がどこにあるのか、僕にだってまだ分かりません。
この記事を読んでくださった方も同じです。
きょうよりあす、あすよりあさっての自分が成長し、仕事も人生も楽しめるように。
さあ、ワンダーラーニングでいきましょう。
前刀さん「あらゆる仕事はクリエイティブになり得ます」
前刀さんは、「あらゆる仕事はクリエイティブになり得る」と言います。
失敗を恐れて、つい前例やマニュアルに頼ってしまいたくなりますが、それでは新しい発想は生まれてこないのかもしれません。
同書では、学び続ける知性(目の前にあるもの、今、起きていることを自分なりに観察し、推測し、考える力)を身に付ける方法が、具体的なエピソードと共に紹介されています。
マーケティング担当者はもちろん、今以上に仕事を充実させたいと思っている方は、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか?
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