ビジネスパーソンインタビュー
読者から集まった“5つの質問”に回答
富士フィルムが“化粧品”を売るのはなぜ? GO三浦崇宏が伝えたい「クリエイティブを発揮する思考法」
新R25編集部
「クリエイティブな思考法は仕事、会社、人生においてあらゆる困難を突破する力になる」
こう語るのは、広告会社「The Breakthrough Company GO」代表でクリエイティブディレクターの三浦崇宏さん。
新著の『超クリエイティブ 「発想」×「実装」で現実を動かす』刊行記念イベントより、読者からの質問に本気で答えた白熱のトークライブをQ&Aでご紹介します。
【三浦崇宏(みうら・たかひろ)】The Breakthrough Company GO代表取締役兼PR/Creative Director。早稲田大学第一文学部を卒業後、博報堂入社。マーケティング、PR、クリエイティブ部門を経て独立、2017年にThe Breakthrough Company GOを設立。『言語化力』(SBクリエイティブ)、『人脈なんてクソだ。』(ダイヤモンド社)に続き、3作目の著作『超クリエイティブ 「発想」×「実装」で現実を動かす』を上梓した
人生の指針は自由に選べる時代になった。自分にとって仕事と幸福は何か?
質問者A
上の世代の人たちは、新卒で大手に入ってそのまま定年退職までいくような、ある程度明確な人生プランがありましたが、この時代において、そんな正解がないことが不安です。
何か指針を作ったほうがいいのでしょうか?
いまは答えが決まった定型のルートがありません。
たしかに昔の高度経済成長期には、護送船団方式の企業があって終身雇用があったから、いい会社に入りさえすればなんとなく幸せに生きていけた。
そんな安定した形はとっくになくなりましたが、実は形が決められていないことのメリットもたくさんあると思います。
働き方のルートが決められていないということは、自分にとって仕事と幸福は何か?をめぐって選択肢が豊かであるということ。
転職もできる、起業もできる、べつに働かなくても生きていける。何でも選べるのはある意味、すごく豊かで幸福な時代なんです。
お金があまりなくたってユニクロの服着て吉野家で飯食って、幸せに生きられるでしょう。吉野家うまいですよ。
そういう最低限の生活でもけっこう楽しく生きていけるような自由さを多くの人々が手に入れたのは素晴しいことだと思う。
自分で自分の人生の指針を見つけてデザインできる時代なんです。
だから選べる幸福を思い切り味わって、自分がどうありたいかを決めたらいい。
とくにポストコロナ時代においては「ステータスよりもスタンス」です。
どこの会社でどんな立場かという垂直軸のステータスよりも、どんなコミュニティでどう生きているかの水平軸のスタンスが大切になってくる。
会社だけでなく、町内会、子供の学校のPTA、サークル、大学時代からの友達…いくつかのコミュニティのなかで信頼されていることが生きやすさと豊かさ、ひいては仕事のクリエイティビティにもつながってきます。いろんな視点を持てるということだから。
そんな観点から、自分の人生プランを捉え直してみるのも有益だと思います。
音楽に「休符」があるように、人生には休むことも必要だ
質問者B
成長意欲を持ってがむしゃらに働いても、突然体や心が動かなくなるときがあります。
三浦さんは心身がダウンしてしまったとき、どうやって立ち直ってきましたか?
僕は挫折とか全然なさそうに見られるんですが、実は苦い経験があるんですよ。
最初、博報堂に入社してクリエイティブの部署が希望だったんですが、マーケティングに配属されました。
その頃の僕はすごく生意気で「俺はできるだろ」って勘違いしてたイタい若者だった(笑)。
当時の部署はしっかりと規律をたたき込むタイプだったから、先輩方もある種の思いやりから僕を鍛えようと、キツく当たるんですね。
僕が何か発言しても、「面白くないよ」「考えてないならしゃべるな!」と厳しいご指導をいただいていた。
頭ごなしに否定される環境が続いた結果、ちょっとした失語症みたいになった時期があるんです。
「○○さん、この資料はどこに置けばいいでしょうか」ということさえ、叱られるのが想像できちゃうから怖くてしゃべれなくなった。
そこで入社2年目の僕は何をやったかというと、広告業界が毎年やってる広告に関する論文の賞にこっそり応募したんです。
会社とは別の場所で圧倒的な成果を出してやろうと。
先輩たちは誰も賞をとれていなかったから、俺のほうが上に評価される場もあることを証明したかった。結果、論文でグランプリを受賞しました。
何を言っても怒られる、価値を認められない会社の空間なんて、特殊な競技にすぎない。
競技の種類を変えれば僕は彼らに勝てることもあるーーそう認識できたら、すごく気が楽になりました。
だから、仕事に行き詰まってしまったときは、世の中には相対的な特殊ルールがたくさんあって、そのなかの1個でたまたまいま上手くいってないと思ったらいい。
たとえば友達とカラオケ行って自分が下手だったとしても、べつに死にたくはならないですよね。仕事のほうが大事だし、フットサルやったら自分のほうが上手いかもしれないし。
自分が別の競技だったら輝けることを確認する。そのうえでいまの環境が水に合わなければ部署異動したっていいし、転職してもいいし、副業したっていい。
そうやって自分の立ち位置を相対化して、いまの環境が世界のすべてじゃないことを確認することが大事だと思う。
その一方で、休むこともすごく大切です。
プロというのは結果を出しつづける人ですが、結果を出しつづけるというのは何も10回試合して10回勝たなきゃいけないわけじゃない。
イチローだって4割打者。外すこともあるのは当たり前のことですから、長い人生、長い仕事生活のなかで休むことは一定のパフォーマンスを出すために絶対に必要なことだと知ってほしい。
音楽は、音符がたくさんあるなかに休符があるからこそ旋律が生まれます。仕事も同じ。休むことをネガティブに捉えないで、次のリズムを生むために必要なものと捉えてほしいですね。
恋愛で相手に飽きてしまうのは、視点が固定化してしまうから
質問者C
個人的な質問で場違いかもしれませんが、恋愛が長続きしません。
付き合って半年もすると相手のいいところも悪いところも全部見えてしまって、なかばうんざりします。
人に飽きてしまう自分ってどうしたらいいんでしょうか。
人生のさまざまな場面でも、変化のきっかけを生む思考法がクリエイティブの本質ですから、変化に着目した思考が突破口となります。
人に飽きてしまうのは、相手がつまらない人間だからではなく、〈自分の視点が固定化してしまっている〉からなんです。
僕の大好きな漫画『左ききのエレン』のなかに「部下のことを成長したなって気づいた瞬間って、だいたい自分が成長してるときなんですよ」という言葉があります。
つまり、自分がどこに立ってるかによって相手のいる景色って当然変わりますよね。
前から見たとき反対側から見たとき、あるいは上から見たときで。
その風景が変化しないのは、自分の視点が固定化されてしまって、相手のいいところや別の側面あるいは成長が発見できない状態になっている。
ひとりの人間ってめちゃくちゃ面白い存在ですから、自分が動いて成長していれば飽きることなんてまずない。
僕はいまお付き合いしてる方がいますけど、日々興味深いし、最高のエンターテインメントだなと思っています。
もうひとつアドバイスするなら、たいていの人は自分には飽きないので、「相手によって変化する自分」を見るのも面白いと思います。
よく恋愛においてSとかMという分け方がされますが、サド・マゾってなにも暴力を振るう側、受ける側ということではなくて、本質的には主体と客体の関係を物語っていると思う。
つまり自分が相手に何か投げかけて、それによって相手が変化するのを楽しむのがS。
一方、相手に自分が何かされて、それによって変化する自分を楽しむのがM。
もしかしたら相談者は、積極的に相手になにか投げかけるタイプではないのかもしれませんね。
だったらMとして、「私この人にこんなに飽きてきた。会うたびにうんざり度がますます高まってきた!」と相手によって変化する自分を見つめてみるのもいい。
案外面白い楽しみ方ができると思いますよ。
人間の性質上、新しい提案はまず通らない。だったらどうする?
質問者D
企画を立ち上げて上司を説得するのにいつも苦労しています。
「ホントに大丈夫?」とツッコミを入れられてるうちに、どんどんモチベーションが下がります。
説得のコツがあれば教えてください。
最初に疑ったほうがいいのは、その企画に自分が本当にワクワクしているのか、同時に独りよがりになってないかということ。
その確認を経てもなおその企画に対する情熱があるようなら、まずお伝えしたいのは、人間は変化することを恐れる生き物だから、基本、新しい提案なんて通らないんですよ。
だからこそ周囲の心配をあらかじめシミュレーションしておくことが大事だということ。
身も蓋もない言い方をすると、企画に失敗はつきものです。
10本打ったら必ず何割かは失敗するのが普通のビジネスです。
だから、上司やまわりに「これ大丈夫か、失敗しない?」って言われたときに、失敗したときの挽回策や、たとえ失敗してもそのプロジェクトから得られるものを合わせて説明したほうがいいと思います。
絶対失敗しない方法を考えるよりも、ある意味、失敗も織り込んでプレゼンテーションする。
たとえば最近GOが立ち上げたクラウドファウンディング「#この指とめよう」は、「SNS誹謗中傷」を減らすための啓発広告を掲出したいというプロジェクトですが、当然Twitterで炎上したらどうするか徹底的に考えました。
失敗したときどういう謝罪の仕方をするか、最悪の場合どうやって企画そのものをたたむか。
どんな企画にも失敗のリスクはある。だけど成功する可能性に懸けてぎりぎりまで信じて準備してやるのが仕事です。
だから「ホントに大丈夫?」って聞かれたら、「失敗してもこうやって取り返そうと思ってます」「転んでもこれだけのことは会社として得られます」と二の手、三の手を用意して説得することで、実施に向けて動き出せる確度はかなり高まると思います。
クリエイティブは業務に縛られない。ミクロ/マクロの視点でどこでも発揮できる
質問者E
私が所属する業界ではクリエイティビティを職務として発揮できるのはごく一部で、大部分の部署ではいかに仕様を守ってきちんと作業するかが求められます。
あらゆる場面でクリエイティブな力が必要な時代だというのは実感しているのですが、業態的にクリエイティブをあまり取り入れていない企業が一歩踏み出すために何ができるでしょうか。
ミクロとマクロの観点があります。
まずミクロの観点で言うと、コピー1枚取るにもクリエイティブは発揮できます。
どう渡したら喜んでもらえるのか、そもそも本当にコピーをとるだけでいいのか、前提を疑ったうえで少しでもよりよい変化を生み出すために工夫を重ねること。
こうしたクリエイティビティはどんな仕事、どんな状況でも発揮できる可能性があります。
次にマクロの観点でいうと、クリエイティブの肝は新しい変化を生み出すことにあるので、いまの仕事のどこに〈望ましい変化の可能性があるか〉を考えつづけることがすごく重要です。
たとえばテスラという電気自動車の会社は車を製造して売ると同時に、CO2を出さないことによる排出権取引で収益を上げている。
あるいはコマツという建機メーカーは建設機材を売っていますが、機材を売ったあとのメンテナンス費用こそが最大の収益源だったりする。
そういう一見ぜんぜん違うところに利益の源泉が眠っています。そこに気づけるか。
また、富士フイルムという会社は、フィルムカメラの販売が低調になってしまったタイミングで、長年培ってきた「光によってどうやって人は美しいものを見るか」「鮮やかに色を見るか」という研究を活かして、化粧品会社に転身するというまったく想像を超えた変化を起こしました。
このようにマクロの観点から、今あなたがいる業界が次にどう変化する可能性があるかを考えつづけることはすぐれたクリエイティブの発露につながります。
仕事、事業において望ましい変化を生み出す思考法の真髄は、新著『超クリエイティブ』のなかにあますところなく書きました。
ミクロの観点での細かい工夫のような対人関係、1個1個の小さい仕事をよくするためのクリエイティビティの発露。
そして、その産業や業界がどういうふうに社会の変化のなかで進化できるのか、という可能性を探りつづけるマクロなクリエイティビティ。
この2つを意識することで、仕事が何倍にも面白くなり、あなたの仕事と人生の可能性はきっと大きく開かれると思います。
三浦さんの新著『超クリエイティブ』が絶賛発売中!
誰もが情報発信ができるようになった今、“クリエイティブ”という言葉は専門的な世界のものではなくなりました。
むしろ「コロナ禍」のなかでクリエイティビティを多く発揮したのは、企業よりも個人の発信だったかもしれません。
クリエイティブディレクターとして今も活躍する三浦さんの『超クリエイティブ』。1億人以上いる日本のクリエイターに、ぜひ届いてほしい一冊です。
〈撮影=今井知佑〉
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