

「スタッフには、“鬼越は打ち合わせしやすい”って言われてます」
「無茶できるのは、仲間に嫌われてないから」鬼越トマホークの“ギリギリを攻める毒舌の言い方”
新R25編集部
社会に出ると、自分の考えていることを相手に伝えるだけでも、とても難しいことがわかります。
自分勝手な意見を言うわけにはいかないし、相手に伝わらなければ、ただ「尖っている若手」としか見てもらえない。
そんななかで、一見すると怖い“ケンカ芸”と、彼らならではの毒を持って、力ある先輩芸人たちに「言いたいことを言っていく」痛快なお笑いコンビがいます。
【鬼越トマホーク(おにごえとまほーく)】坂井良多(左)と金ちゃん(右)のコンビ。2010年結成。二人の口論がつかみ合いのケンカに発展し、止めに入った先輩芸能人たちに的確で毒のある一言を言い放つ“ケンカ芸”でブレイク。『ウチのガヤがすみません!』『ゴッドタン』『踊る!さんま御殿!!』など多くのバラエティ番組に出演
今回は、鬼越トマホークの二人にインタビュー。「相手に受け入れられる、本音の毒舌」というテーマでお話を伺う…
はずだったのですが、彼らから聞こえてきたのは、「嫌われ役でいるからこそ、しっかり地盤固めが必要」という真っ当な言葉。破天荒なだけではない、「嫌われるために、愛される」ことの極意を伺ってきました。
〈聞き手=いぬいはやと〉
ケンカ芸が生まれた「殴り合いの大ゲンカ」と、1人の先輩の力

いぬい
本日は、よろしくお願いします! 僕らは『新R25』というメディアで、若いビジネスマンたちの学びや刺激になるような記事作りをしていまして…

金ちゃん
もちろん知ってます! 藤田(晋)さんの会社ですよね?

坂井さん
お前、友達みたいに言うなよ!!

金ちゃん
藤田さん、麻雀好きだから親近感湧いちゃって。会ったことないけど。
新R25はサイバーエージェントのグループ会社によって運営されています

いぬい
今日は“ケンカ芸”と“毒舌”で芸能界を勝ち上がるお二人にお話を伺いたくて。
毒舌を言っているのに受け入れられているのは、「全員に好かれることを諦めている」からなんじゃないかなと…

坂井さん
ドンピシャのテーマじゃないですか。我々なんて9割の敵と1割の信者を相手に成り立ってますからね(笑)。

いぬい
お二人は、どうして自分たちが“ケンカ芸”で人気になったと思いますか?

坂井さん
目上の人に向かって言いたいことがある人って、人類全員でしょ?
それをうまく笑いにした芸を、偶然にゲットできたんです。
「吉本は完全な上下関係の社会なんで、こういう芸人がいなかったし…」

金ちゃん
運が良かったっすね。
あと、最初のほうに先輩芸人さんが「俺たちも言われたいわ!」みたいに言ってくれたおかげっていうのもあります。

いぬい
先輩芸人…?

坂井さん
千原ジュニアさんですね。
昔、吉本本社で単独ライブの打ち合わせをしてたときに、俺と金ちゃんが殴り合いの大ケンカになっちゃって。
先輩たちが止めに入ってくれたんですけど、「もうクビになってもいいや」って、普段思ってることとか全部ぶちまけちゃって。
本社で殴り合いの大ケンカを。こわそう

金ちゃん
そしたらジュニアさんが、『ざっくりハイタッチ』って自分の番組でこの“ぶちまけ”を企画にしようって言ってくれたんです。
7回くらい番組に呼んでくれて、そこからテレビに出してもらえるようになりました。

坂井さん
ただのならずものの僕らが起こした情けない事件を、企画にしてくれたのはジュニアさんですね。
本当に恩人なんですよ…
ジュニアさんの葬式では「鬼越トマホークは千原ジュニアの作品です」っていう、タモリさんみたいなこと言おうって決めてます。別に尊敬はしてないですけど。

いぬい
(恩人なのか尊敬してないのかどっちなんだ…)
他にも、参考にしている先輩からの言葉はあるんでしょうか?

金ちゃん
これは勝俣さんから言われたんですけど、大物に飛び込んで行けと。かっちゃん(勝俣さん)って、そうすることでずっと知名度があるらしいんで。

いぬい
たしかに…! 大物にケンカ芸を仕掛ける鬼越トマホーク、たくさん見てみたいです。

金ちゃん
でも、勝俣さんって知名度あるけど全然人気ないじゃないですか。だから今どうしようか迷ってるんです。

坂井さん
勝俣さんのアドバイスで失敗したときに、勝俣さん責任取らないから。
ひどすぎる。勝俣さんには遠慮ゼロですね
“仕事仲間に嫌われてないからこそ無茶できる”ギリギリを攻めるために、仕事に向き合う

いぬい
ここからは、僕らが実践できる話をききたいんですが…
若手が本音を言うと、「生意気」「尖ってるね」みたいに思われてしまうじゃないですか。
目上の人相手に、“本音かつ受け入れられる毒舌”を言うコツってありますか?

金ちゃん
テレビとかでは傍若無人な芸風でやってるんですけど、意外と地盤は固めてます。
実はそんなにリスクをとってないんですよ。

いぬい
“地盤を固める”ってたとえばどういうことですか?

金ちゃん
僕らがやってるのは、“仕事仲間に嫌われてないからこそ無茶できる”っていう芸風だと思うんですよね。
プライベートでは、スタッフさんとか他の芸人さんとかと結構仲良くさせてもらってて。

金ちゃん
テレビのスタッフさんには「鬼越は打ち合わせしやすい」って言われてます。
もしスタッフさんに嫌われてたら、ケンカ芸の相談をしても「そんな面倒なの無理だよ」で終わると思うんですけど、こちらが仕事にきちんと向き合うと、ウケるためにギリギリのラインまで相談に乗ってくれるんですよ。

坂井さん
打ち合わせで尖りまくってて本番はニコニコしてるとかだと、裏方の人たちも見てて冷めるんですよ。
僕らはその逆で、打ち合わせではニコニコしてて、本番だとしっかり嫌な奴なんで。
ヒールレスラーの方々と一緒だと思います。あの方々も普段はしっかりしてる方いっぱいいらっしゃるんで。蝶野さんとか。
ヒールレスラー・蝶野正洋さんへの毒をそろっと忍ばせます

いぬい
テレビでの大暴れの裏には、周囲への配慮がきちんとあったんですね…! 意外でした。

金ちゃん
実は、うちの親父が昔演歌歌手やってて、芸能人の方のマネージャーもやってたんですよ。

坂井さん
それNG…

金ちゃん
大丈夫だって。いろんなとこで言ってんだから。NGじゃねえんだよ。
親父が言ってたのが「絶対に、まずは身内からファンにしろ」ってこと。

金ちゃん
マネージャーやスタッフさんが「こいつら商品価値ないな」って思ったら、もう売る気もしないから。
テレビの前のファンを付けるよりも、まず身内をファンにして「こいつら売れてほしいな」って思わせることが大事だって、言われたことがあるんすよ。

いぬい
まさに今の鬼越トマホークがやっていることですね。

坂井さん
こいつの親父がありがたいのが、リアル『しくじり先生』なんで。
ずっと芸能界にいてるけど成功してない、失敗しちゃった親父さんから助言をもらえるっていう。
身内にはしっかり失礼です

金ちゃん
親父がもうひとつ言ってたのは「今いる場所で売れないなら、他に逃げてもムリ」。
吉本で売ないんだったら他のとこ行っても絶対ムリだぞって。
不満があったこともありましたけど、今はこういう風に少しだけ注目されて、吉本でよかったなって思う部分は多いよね、結構ね。
何人も不幸になることは言わない。「吉本の犬なんで」

いぬい
“仲間に嫌われてないから無茶ができる”という話でいうと、爆笑問題さんのラジオに出演されたときに、「スタッフさんに予定してた毒舌ネタを伝えたら、『その毒舌には責任取れないよ』と言われた」って話してたじゃないですか。
あのときも、「ネタ合わせの確認とってるんだ…!」って意外さはありました。

金ちゃん
俳優さんとかタレントさんに言うことには事務所チェックがあるんですよ。事務所に伝えて、オッケーが出ないと言えないみたいな。

いぬい
テレビで売れて、幅広い芸能人と共演するからこその悩みですね。

金ちゃん
ただ、すげーショックなのが、たまに昔からの僕らのファンの人に「ちょっと売れてきてぬるくなったよね」って言われるんです。

坂井さん
でもそういうのはどの番組、どのメディアでのことか考えて言ってほしいっす。「実はあの番組では、こういう流れだったから言えなかった」みたいな事情があるんで。

金ちゃん
やっぱりゴールデンでやるってなると制限がかかるじゃないですか。
「こうやってキレてください」って言われることもあって。そういう事務所がめちゃくちゃ多いんで、そこをなんとかかいくぐりながら…

坂井さん
YouTubeとかライブとか、深夜ラジオとか…そういうところでは僕らも発言のレベルを上げられるけど、でも、自分たちでやっぱテレビ出たい!って部分もあるんで。

金ちゃん
多少ルールがあるじゃないですか、テレビにも。そこのギリギリを攻めたいっていうのがあるんですよ、僕らは。

いぬい
呼ばれ続けるためには、番組への配慮も必要…難しいところですね。

金ちゃん
逆に気になったんですけど、“裏で気をつかってる”のって、視聴者からしたらちょっと冷めるみたいなのがあるんすか?

いぬい
えっ、どうなんでしょう? でも、言われてみればいつも絶妙な「誰も損をしない一言」を言ってるもんな、っていう納得感があります。

坂井さん
これを言ったら何人も不幸になるな、ってことは言わないようにしてます。
最近は企業のイベントに呼んでいただいて芸をやることもあって。そういうのは大きなお金も動いてるので、ちゃんと仕事をまっとうするという。

金ちゃん
我々、ちゃんと吉本の犬なんですよ。たまに噛んでよさそうなときは甘噛みしますけど(笑)。
テレビ番組などの本番で“ギリギリを攻めた芸”をするために、先輩芸人たちとの関係性や、周囲のスタッフとの信頼関係を大切にしている鬼越トマホークのお二人。
破天荒な芸をやり続けるためのその姿勢はとても誠実な仕事人の働き方でした。彼らのそんな姿勢が活きてくるのは、決して芸人の世界だけではないはず。
「自分の意見を通そうと考えてうまくいかない」なんて方がいたら、会議室で、職場で、鬼越トマホークのお二人を思い出してみてはいかがでしょう。
心の中にいる怖い顔の二人が、ヒントをくれるかもしれません。
〈取材・文=いぬいはやと(@inuiiii_)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=藤原慶(@ph_fujiwarakei)〉

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