ビジネスパーソンインタビュー
最近、ゲームやってます?
世界中のインディーゲームを発掘する男が語る「忙しい社会人こそ、ゲームをやってほしい」理由
新R25編集部
“インディーゲーム”の世界を知っていますか?
大企業や大手メーカーが作ったものではないゲーム。その多くは、世界のどこかにいるゲーム好きが、孤独に、個人的に作ったものです。たとえば…
謎の男性を着せ替えさせるだけのゲームや…
子どものころの気持ちを思い出すようなものまで…
そんな海外インディーゲームについて誰よりも詳しい人がいます。
ソーシキ博士と名乗る彼はSNSで発信を続け、プレイ実況動画をあげるチャンネル『なんてことなの』は累計で約68万回再生を記録します。
世界中のインディーゲームを発掘し、「ゲームからは、人生の選択肢が見えてくる」と語るソーシキ博士。
彼がインディーゲームを通して知った、「娯楽から人生を見つめる方法」について伺いました。
〈聞き手=いぬいはやと〉
「絶対中学生が作ってるだろ!?」自由すぎるインディーゲームから仕事のヒントをもらった
いぬい
今日はソーシキ博士に、知られざるインディーゲームの世界について、お話を聞いていきたいと思っています。
【ソーシキ博士】海外インディーゲームのプレイ実況動画を配信するYouTubeチャンネル「なんてことなの」を主催する。本業はアニメーション作家で、アニメーション制作チーム「ふりふり組織」としても活動。アニメーション作品にNulbarichの楽曲「LUCK」MVなど
いぬい
博士は膨大な数の海外インディーゲームをプレイしていますよね。そもそも、そこまでハマったきっかけってなんなんですか?
ソーシキ博士
インディーゲームは、仕事に関して「こういうやり方もアリなんだ」って気付きを与えてくれたんですよね。
僕は本業がアニメーション作家なんですけど、絵が描けるわけじゃないんですよ。
いぬい
アニメーション作家だけど、絵が描けない…?
ソーシキ博士
描けないのに「アニメ作家になろう」って26歳くらいのときに思って。絵を練習しても、全然うまくならないんですよ。
その後、数年前からインディーゲームが盛り上がってきて、僕の視界にも入ってきたんです。「Unity」というゲーム開発ツールが一般的になったことで、個人でゲームを作る人がグッと増えて…
みんながファッション雑誌を読んでる学生時代に『ファミ通』(ゲーム雑誌)がバイブルだったくらいゲームが好きだったのもあって、なんか面白そうだなって思ってやってみたんです。
いぬい
新しい世界に足を踏み入れたわけですね。
ソーシキ博士
そしたら、海外インディーゲームって、「ゲーム作るの初めてだろ!?」みたいな人の作品がいっぱいあるんですよ。
いぬい
それは…プロじゃない人の作品ということ?
ソーシキ博士
はい。絵が描けない人はもちろん、「お前ゲーム作り始めて2〜3カ月だろ!? ていうか中学生くらいだろ!?」みたいなゲームもたくさんあって。それでも、その子たちはのびのびと自由にゲームを作ってるんです。
「やりたいっていう気持ちはあるけど、技術はない」人たちが自由にゲームを作ってることがすごくいいと思ったし、シンパシーを感じたんですよね。
いぬい
たしかに、「アニメーションを作りたいけど絵は描けない」という当時の博士と似てますね。
そういう人が作るゲームってどんなものなんですか?
ソーシキ博士
たとえば…ゲーム画面に「キアヌ・リーブスは悲しんでいるか?→YES/NO」って質問が表示されて、YESをクリックしたら悲しんでいる俳優の画像が表示されるゲームとか。
いぬい
どういうことですか???
いぬい
GIF画像を持ってきただけ…。これでも「ゲームだ!」って言い張っちゃうんですね。
ソーシキ博士
すごい自由でしょ。あとは、オランダにいる16歳の少年が、学校の先生の顔写真を使って作ったシューティングゲームとか。
いぬい
先生を標的に…! 学生らしくて、すごく自由ですね!
ソーシキ博士
とにかく見所しかないんですよ(笑)。「お前、作っただけで自分も遊んでないだろ! だからこんなでかいバグがあるんだろ!」みたいな。
みんな好き勝手なんだけど、それはそれで、作者個人と対話しているような気持ちになる。完璧に磨かれたものじゃないからこそ、そこに作者の手の跡を感じるんです。
気まずいパーティーでは、犬をなでるしかない。「作者なりの人生観」が、インディーゲームから見える
ソーシキ博士
インディーゲームの魅力はほかにもあって…
そのゲームを作った人が「何を信じているか」がわかる瞬間があるんですよ。
ソーシキ博士
ゲームって、基本的には「プレイヤーが何か問題をクリアしていく」って構造を持っている。だから、プレイしているとそのゲームを作った人が「何を問題だと思っているのか」がわかるんです。それは心の問題かもしれないし、仕事の問題かもしれない。
作った人の思う幸せの形とか、バッドエンドの形が伝わるんですよね。
いぬい
個人的に「この問題を解決するべき」と思っていることが、ゲームになる…
「何を幸せだと思っているか」がゲームから読み取れるなんて、考えたことなかったです。
ソーシキ博士
たとえば、『Pet the Pup at the Party』というゲームでは、ホームパーティーが開かれているんです。たくさんの人が会場にいるんだけど、プレイヤーの友達はいない。
めちゃくちゃ気まずいし帰りたいじゃないですか。
だから、プレイヤーは2分以内に家の中にいる犬を見つけて“犬をなでる”っていうゲームなんです。
いぬい
すごい、作者の人柄が想像できますね(笑)。
ソーシキ博士
そう! 作者にとっては、気まずいパーティーに呼ばれたときの解決策が「家に帰る」とか「友達を作る」じゃなくて、「犬をなでる」って役割を見つけて場になじむことなんですよ。
こういう生活の一部を切り取っているゲームでも、その人の考え方が見えてくる。それって、作者の人生の一片を切り取ったものを見せてもらってるな、って思いますね。
いぬい
博士は、ゲームからゲーム以上のものを受け取っているなと思います。
極端な質問かもしれませんが、博士にとって「人生観に影響を与えたゲーム」はありますか?
ソーシキ博士
「人生観を変える」とまで言えるものがあるのかなあ…
自分の考え方に近いなと思うゲームならあって、『EYE』という作品です。
ソーシキ博士
人を動かすアクションゲームなんですけど、ステージに配置された「目」の視界が届く範囲でしかプレイヤーは動けないんですよ。追いかけてくる視線を意識しながら、ステージの奥に進んでいく。
いぬい
面白そうですね!
ソーシキ博士
これって、「人は誰かの目を気にしながら、人の視界の中でしか生きられない」ってことを表しているんじゃないかと思うんです。
社会からの抑圧の視線だと思っていたものが、実は自分自身を監視する自意識だったんじゃないの?ってメッセージでもある。
いぬい
ビジュアルはポップなのに。哲学的ですね。
ソーシキ博士
僕自身、社会からの視線をすごく気にするし、影響を受けやすい人なんですよ。だから、このゲームから受けたメッセージは自分の頭の片隅にずっとある。
いぬい
そうか、ゲームをやることって「自分の考え方を内省する」機会でもあるんですね。
仕事が忙しいからゲームから離れてしまう…という人こそ、ゲームで「選択肢」を想像してほしい
いぬい
ただゲームって、「学生時代は熱中してたけど、仕事が忙しい社会人になってやらなくなった」という人も多いですよね。
ソーシキ博士
そうですよね。それはゲームと他の娯楽との決定的な違いが関係してると思ってて…
ソーシキ博士
それは、「プレイヤーがゲームを進めないことには、物語の続きが見られない」ってことなんですよ。作品として消費するには、消費する人に委ねないといけない部分がとても大きい。
映画は、映画館に行って座ってれば消費できる。音楽だと再生ボタンを押すだけで、ぼーっとしていても入ってきます。「社会人になっても映画や音楽は摂取しつづけられてる」って人は多いですよね。
いぬい
本当だ…! 「読書」はゲームと同じように自分で進めないといけないから、離脱する人が多いのかな…
ソーシキ博士
そうだと思います。
ただ、だからこそ毎日仕事に忙殺されている社会人、新R25を読んでいるような人にこそインディーゲームをやってほしいっていう気持ちもあって…
ソーシキ博士
たとえば『Wait! Life is beautiful!』というゲームでは、毎日プレイヤーが会社に出社するんです。
夜帰って朝起きて、仕事に行って、会社ではずっと電話が鳴っている。それで、「電話を取る/取らない」って選択肢を毎日選んでいく。
電話を取ると毎日同じ展開が続いていくんですけど、あるとき「電話を取らない」を選択してみるとふっと日常が変わって、プレイヤーは会社を辞めてしまうんですよ。
いぬい
それは、作者のメッセージなんですかね…?「行動を変えることで、生活を変えることができる」という。
ソーシキ博士
そういうふうに、自分の選択によって一気に風通しがよくなる光景を見せてくれるのがゲームだなって。
さっき「人生観を変えたゲーム」ってきかれて、うまく答えられなかったんですけど、ゲームが少なからず人生に影響を与えることはあると思っています。
辛いときってどうしても視野が狭窄してきて、他人の声を聞くことが難しくなったりするじゃないですか。
「ゲームをしていれば大丈夫」なんて絶対言わないですけど、ゲームを通して「こんな考え方もアリなんだ」って知っておくことで別のものを選べる可能性とか、目が向くきっかけになると思うんですよね。
ソーシキ博士
今のインディーゲームは、テーマも本当に現代的で身近。だからこそ、ゲームを通して人のことを考えられると思っています。
たとえば、『Night in the woods』ってゲームがあって。街の人々と主人公の会話を通して街の物語を追体験していくようなゲームなんですが…そこにある女の子が出てくるんです。
ソーシキ博士
その子は大学に行きたいんだけど、お父さんが精神的に参っているから、働いて家を支えることを選ぶんです。一方で主人公は、大学を中退して故郷に戻ってきた猫で。
それだけ立場が違う相手とどう関わればいいかなんて、現実ではすごく難しいし、正解がわからないじゃないですか。
いぬい
ゲームをプレイしながら、「人とどう関わるか」に思いを馳せられるんですね。
ソーシキ博士
そういうゲームに登場する会話にも、「相手の何を肯定するか」「何を否定するか」の選択肢が詰まっている。
ゲームを通して「自分の人生に起こりうる困難な選択肢」みたいなものに触れることが、いつか想像力の手助けをしてくれるんじゃないかと思うんです。
いぬい
ここまで、まったく知らなかったゲームの世界をソーシキ博士から教わって、映画や音楽などと同様に「ゲーム作品が人生の予習になることがあるんだ」と思えました。しかも、「自分で行動を選択する」ゲームだからこそ感じられるものもありそうですよね。
ソーシキ博士
「自分は本当にここで仕事してていいんだろうか」「新R25に出ている人たちみたいになれるだろうか」なんてことを考えている人には、ぜひインディーゲームをプレイしてみてほしいです。
何かちょっと迷いがあるときに、他の選択肢を知るという意味で、ゲームは少しの手助けになる…かもしれないよ?と思いますね。
ソーシキ博士いわく、個人が作るインディーゲームには、その作者自身が考える「問題意識」が投影されているとのこと。
僕らがいまだ経験したことのない状況を体感し、人生の選択肢について想像できる。ゲームは、一種の人生のシミュレーターのようなものなのかもしれません。
〈取材・文=いぬいはやと(@inuiiii_)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=藤原慶(@ph_fujiwarakei)〉
新R25読者へ、オススメのインディーゲーム
ソーシキ博士から、読者のみなさまへオススメのゲームを教えてもらいました。気になった方はプレイしてみてください!
最初は、ソーシキ博士のYouTubeチャンネルで、博士がプレイしているところを一緒に眺めるのでもいいかもしれません。
『Night in the Woods』 「かわらしい絵柄でありながら、大学を中退した主人公の葛藤、周囲の友人、家族がそれぞれが抱えている苦悩を描く。あっという間に「自分の物語」であるかのように感情移入してしまいます」 PlayStation4、Nintendo Switch、ゲーム販売サイト「Steam」などでプレイ可能
『Mosaic』 「格差問題や閉塞感が蔓延する現代を舞台に、人間らしさを失いつつあった主人公が、『少しの視点の変化』によって温かさを取り戻していくストーリー。映像美もすばらしく、仕事に疲れているすべての人に遊んでほしいです」 PlayStation4、Nintendo Switch、ゲーム販売サイト『Steam』などでプレイ可能
『We Become What We Behold』 「前後を切り取られたニュースの一部を見ることで、あまりにも簡単に影響を受けてしまう人々。他者への印象や感情をメディアによって植えつけられていることへの警鐘ですね。今の時代にこそ多くの人に遊んでほしい作品」 ゲーム販売サイト「itch.io」でプレイ可能
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