ビジネスパーソンインタビュー
佐俣アンリ著『僕は君の「熱」に投資しよう』より
「優れた人格は成長する事業がつくる」勘違いしやすい経営者の“成長論” #熱投
新R25編集部
世の中には新たなビジネスやサービスが生まれやすくなりました。
ただ、そんな時代の煽りを受けて「起業しよう」と思っても、「何から手をつければいいのかわからない」「失敗したら大損失になるんじゃないか」と二の足を踏んでしまう人も多いはず。
先日出版された『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社)のなかで、ベンチャーキャピタリストの佐俣アンリさんは、そんなくすぶった10代、20代の若者たちに向けて挑戦を後押ししています。
「やり場のない熱をもったやつ。君の暴走本能を、僕はとことんまで応援する」
「僕は言い続ける。世界の誰に何を言われようと。世界がどんな危機的な状況にあろうと。君はかならず、成功する」
heyやMirrativ、アルなどに投資している佐俣さんが、若者を応援する熱量、起業を勧める理由とは何か。そして、事業を成功させるには何が大切なのか。
起業家や投資家以外にも活かせる学びを、同書から抜粋のうえ一部再構成してお届けします。
「頑張る」と「成長する」はまったく違う
ここで、成長できなかった起業家の話をしたいと思う。
僕のファンドで、清算、つまり投資先の会社をたたんだ経験が一度だけある。
その起業家には、僕の「1号ファンド」(1番目につくったファンドのこと)で投資を行った。起業当初は22歳の学生だった。彼は5年間、自分の人生をかけて事業を続けた。
2年目の頃には一度会社が潰れかけた。でも彼はどうしてもその事業が続けたくて、とある実業家に「赤字事業を買ってくれないか」と持ちかけた。しかし彼の交渉は失敗した。
本人から聞いた話だが、「甘えるな」と、大いに説教を食らって帰されたそうだ。
そこから彼は一念発起し、事業を再建した。たいしたものだ。だが、そこで彼は悟った。そこから先にはもう進めないということを。
もちろん僕は彼にピボット(現在進めている事業をやめ、別の事業に転換すること)を何度も勧めた。しかし彼は自分の事業を最後までけっして手放さなかった。
清算後に行った会食で「またの機会に起業したい」と言う彼に、僕は心ばかりの祝い金を手渡した。結婚してこれから子どもも育てなければならない身なのだ。
君はどう思う? 彼は5年間もひたむきに努力を続けた。
彼は成長したと思うか?
僕は「君が頑張っていたのは誰よりも知ってるよ」とだけ彼に伝えた。
本心だ。
でも、言えるのはそれだけだった。
彼が事業を通して経営者として成長したとは言えなかったし、微塵もそう思えなかった。
「5年間もやって会社を清算したのなら、いろんな失敗や挫折を経験して、人間的には成長したに違いない」と君は思うかもしれない。
しかし残念ながらそんな成長はまやかしだ。
勘違いしてはいけない。「頑張る」のと「成長する」のはまったく別のことだ。
起業家の大義は事業を成長させることだ。
なにせ、投資を受けた以上、他人のお金を使って事業をやっているんだ。頑張っても事業が成長しないのであれば、その頑張りは無意味である。
起業家は、事業の成長に対して意味のある努力をするために、意味のない努力をしない決断をしなければならない。
彼はその決断ができないまま、事業をたたんだ。彼の5年間での経営者としての成長は、残念ながら「ゼロ」だ。
べつにスパルタ的に言っているのではない。
事実として、彼の成長は皆無なんだ。
起業家は、事業によってのみ成長する。
事業が伸びなければ3年やっても、30年続けても、3分しかやっていなくても大差ない。
どれだけ時間をかけても、身を削っても、形にならない成長なんてすべてまやかしなんだ。
なぜなら起業家は、経営者となるための成長機会を、事業の成長からのみ得ていくからだ。
成長する事業が優れた人格をつくる。その逆はない
たとえばわかりやすいのが、社員との対話だろう。
スタートアップは最初、自分と共同創業者だけの、言ってみればちゃぶ台を囲めるような人数で始まる。
そのときの対話は、個人間のみで行われる。
しかし事業が伸びれば当然、それだけの人数ではやりくりできなくなるので、営業担当やエンジニアを雇うことになる。
社員数が30人くらいになると、経営者がそれぞれ個別に対話ができる限界に達する。
すると経営者には「組織と対話する」という能力が求められるようになる。
数人規模であった創業当初の個人間の対話とは違う言葉で話さなければならなくなるのだ。
たとえば朝礼でのあいさつや、全体会議での発言だ。
それらの言葉が、社員30人全員に、自分に直接対話してくれているような“響き”を持っていなければ統率がとれなくなり、事業は停滞するか、シュリンクしていく。
さらに事業が成長し、100人くらいの組織になると、自分の代わりに組織を管理できる役員やマネージャーを採用することも必要となってくる。
この人選も非常にシビアだ。
さらに成長していくためには、自分より優秀な人を採用していかなければならない。
そして、いよいよ会社が100人以上に成長してくると、今度は、社長である自分が「いなくなっても回る仕組み」というものをつくっていかなければならなくなる。
スーパー個人技ではなく、法人としての組織の力が問われる段階であり、上場などに向けて「自分が頑張らなくても(万が一死んでしまっても)淡々と伸びていく」組織をつくるのだ。
このように、事業が成長するにつれて、起業家の目の前には経営者として考え、決断を下さなければならないイベントが次々と現れる。
会社というのは生き物だ。
子育てと同じで、事業が成長するために必要な、特定の時期に起きる出来事、やらなければならないことがおおよそ決まっている。
それらのイベントをまるでチェックボックスにチェックマークをつけるようにひとつずつこなしていくことで、起業家は経営者としてのスキルとマインドを成長させていくというわけだ。
ところが事業が成長しなければ、これらのイベントは発生しようがない。
ドラクエで、ずっとはじまりの街の周辺でスライムだけを倒している感じだ。
レベルは5で止まり、魔法も使えなければ、中ボスにも仲間にも巡り会えない。
事業の成長が止まれば、起業家の経営者としての成長はそのフェーズに留まらざるをえないのだ。
これが、事業の成長と起業家の成長が連動する理由である。
世間では、どこか人間的な成長が事業を成長させると考えられているところがある。
つまり、メディアなどに登場する社員思いの社長や「ソーシャルグッド」を標榜する起業家のような、優れた人格の持ち主が事業を成長させることができるという考え方だ。
そういう存在自体を否定することはしないが、順序としてはまず事業の成長が実現されてこそ、人間的な成長がある。
さらに言えば、事業さえ伸ばせば、誰でも、どんな人格だって成長できる。
なぜなら、ちょっと身も蓋もない言い方になってしまうが、合理的に考えて、事業を伸ばし続けるためには人格者であったほうが、はるかに「お得」だからだ。
何十人もの社員をマネジメントしたり、社外の人に協力してもらったり、ユーザーに納得・賛同してもらってサービスを使い続けてもらうには、必然的に起業家は「良い人」にならざるを得ないとも言えるだろう。
つまり、どんな人間だろうと、事業が伸びていれば、それに適合した人格になっていくのだ。
発言も社会性を帯びてきて、顔つきも一起業家から一経営者へと確実に変化していく。
でもそれは、合理的な結果としてそうなるのであって、道徳なんかとは一切関係のない話だ。
断言しよう。
成長する事業が優れた人格をつくる。
その逆はない。
挑戦を楽しもう
淡々と、しかし力強く、若者の起業、挑戦を後押しする佐俣さん。
新たな挑戦を始めたいときにこそ、一度読んでみてはいかがでしょうか。
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