ビジネスパーソンインタビュー

パンフレットだけで商品を売るには?パソコンの“パ”の字も知らなかった男の“型破り”営業術

北里洋平著『ワルあがき』より

パンフレットだけで商品を売るには?パソコンの“パ”の字も知らなかった男の“型破り”営業術

新R25編集部

2020/08/18

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やりたいことがあるけれど、一歩踏み出せない

人目を気にしてしまう

そんな風に悩むR25世代も多いのではないでしょうか?

自伝中心の出版社NORTH VILLAGE(ノースヴィレッジ)の代表取締役・北里洋平さんの新刊『ワルあがき』は、挑戦好きな主人公が人生において無謀ともいわれる夢を葛藤しながらも実現していく物語。

主人公本人しか見えない“キング”という人物の助言のもと、小学生時代から出版社を立ち上げるまでの成長していく姿が描かれています。

今回は同書の中から、就職先で営業トップになるための型破りな営業術についてご紹介します。

南米チリ育ちの主人公。日本製に心惹かれ日立製作所に入社

俺は、日立製作所に就職先を決めた。日本のモノづくり、MADE IN JAPANを代表するメーカーだ。

俺もついに、逆立ちしてもかなわなかった父親と同じ、サラリーマンとなった。やっと同じ土俵に立てる。

蛙の子は蛙?サラリーマンの子はサラリーマン? いや、絶対に父親を超えて、スーパー最強サラリーマンになる!

「社会」というものがどういうものかをまったく知らないピーター・パン状態のまま、俺の頭の中には期待と熱意しかなかった。

入社してみると、日立製作所という船は、思っていたよりもずっとでかかった。

当時、子会社・関連会社で1300社以上あり、グループ合計の従業員数は36万人を超えていた。従業員36万人にその家族まで含めれば、一体何万人になるのだろうか。

そして、その全員があるひとつの方向を向いたら、とんでもないことが起こりそうだ。

俺は初めて、歯車になってもいいと思った。

誰とも違う歯車ではありたいが、そのたったひとつの歯車が日立製作所全体を動かすことになっていけば、とんでもない人数が動く。

会社が変われば、社会が変わる。社会が変われば、日本が変わる。日本が変われば、アジアが変わる。そして、アジアが変われば、世界が変わる。

俺が会社を変えれば、世界が変わるかもしれない。そう考えただけで鳥肌が立った。やってやる。革命だ。そんなアツい気持ちで俺はデカい船に乗り込んだ。

「週末に休みたい」という気持ちで、営業トップを狙った

入社してすぐ、伝統的な研修行事が発表された。

新入社員が総出で日本全国の様々な家電量販店に派遣され、お店の販売員に混ざりハッピを着て、自社製品を店頭で売る、という実務研修だ。

販売台数は、毎週行われる報告会で発表される。

研修後、様々な部署に配属される新入社員たちが、同じ土俵で営業成績を競うのだ。

ここでまずブチかまさないとダメだ。

そのくらいできないと、会社を変えるような人間にはなれない。この土俵では、誰にも負けない。そう覚悟を決めた。

俺の販売担当は、自社ブランドのパソコン。よしわかった。パソコンね。俺は頷く。

ただ、2つだけ、問題があった。

まず、俺がパソコンのパの字も知らない、ということだ。HDD。メモリ。CPU。

どれも見たことも聞いたことも触ったこともない。ちんぷんかんぷんな文字列である。

そんな俺が、家電量販店にいるパソコン販売のプロフェッショナルである店員たちと並び、自社パソコンの特徴を説明し、お客さんの質問に答え、そして製品を買ってもらうわけだ。

どうしたらそんなことができるのか、頭の中のオリジナルパソコンに打ち込んでみた。まあ、なんとかなるか、という結論がでた。

もうひとつの問題は、週末出勤である。

当然といえば当然だが、家電量販店の集客率が最も高いのは、週末である。

そのため、新入社員全員に、週末出勤が課せられるのだ。 しかし、俺は深刻な事情を抱えていた。

それは、大好きな彼女とデートできるのが、週末だけである、という問題だ。仕事と、彼女。どっちを選ぶのか。

俺は迷わず彼女を選択した。いや、両立させてやる!

気づいたら俺は、総務部のドアをノックしていた。

「特例を、お願いします。人生において非常に重要な行事が毎週末かかさずあるので、週末は休みとさせてください。やる気がないわけじゃないんです。むしろ、やる気なら誰よりもあります」

「はぁ?」

困惑した顔の総務。

「そこで提案です。僕は営業成績トップを取ります。トップであり続けます。トップでいる間は、週末の休みをください。その代わり、一度でも誰かに負け、順位が落ちるようなら、週末含め、休まず働きます。お願いします!」

「…」

総務部の担当者はかなりポカンとしていたが、どうせトップでいられないだろうと判断したのか、渋々ながら了承してくれた。

営業成績で負けたら、俺に休みはない。

集計は週単位。期間中全ての週で、全国トップであり続ける。しかも平日だけで。

俺ならやれる。

相変わらずの根拠のない自信に満ち溢れた俺は、パソコンの知識を増やすよりも、週末のデートスポットの情報収集に余念がなかった。

パンフレットしかないパソコンをどう売る?

さて、本番である。とある家電量販店。店の規模は中程度。パソコン売り場に立った俺は、 唖然とした。

…ウチの会社のパソコンがない

売り場には所狭しと他の会社の展示機が並んでいる。お客さんのほとんどは実機を見て、触って、そして欲しいモノを選ぶ。

しかし俺は、実物を見せることなく、口先とパンフレットだけでパソコンを売らなくてはならないのだ。

総務部の粋な計らいだろうか。それとも、神様のイタズラだろうか。どちらにしろ、タチが悪すぎる。

そんな俺の動揺を無視して、勝負は容赦なくスタートを切った。俺は気合と共に、唯一の武器、 パンフレットを尻ポケットに突っ込んだ。

洋平はパンフレットという武器を手に入れた!

ゲームのスタートボタンを押せば手に入るような、初期装備の、こん棒レベルの武器である。

しかし、俺はその武器をフル活用した。

俺が売り場で立てる場所は、他社のパソコンの展示機の前だ。自社のパソコンが置いてないのだから当たり前だ。

作戦はこうだ。

実機を触りに来たお客さんに近寄り、まずはそのお客さんが興味を持っているパソコンを褒めちぎる。

ついでにその他のメーカーの展示機も紹介し、いかに素晴らしいかを説明。なんなら展示機全てを、ホストが客をヨイショするかのように、褒めまくった。

なぜなら自分が買おうかなと思っているモノや好きなブランドの悪口をいうと、人間の心情としてあまりいい気持ちはしない。

水商売でいえば、その場にいないホストの悪い評判を自分のテーブルで広めているようなものだ。自分に対してもいい印象が残ることはない。

逆に、自分が目をつけた製品はどれも良いモノ、となれば当然お客さんにも迷いが生じる。そのタイミングで、 これらの素晴らしいパソコンにも、ひとつだけ欠落している機能を教える。

そうなるとお客さんは、「その機能があるパソコンはないの?」と聞いてくるわけだ。

俺は、少し言いづらそうにモジモジしながら、 「いや、あるにはあるのですが、展示機も含め、売り切れてるんです…」 と伝えた上で、チャチャーン!

ポケットから出した少々折れ曲がっている伝家の宝刀(こん棒)、自社製品のパンフレットを見せるのだ。

ご注文いただければなんとか在庫を確保してみせます!

この自ら生みだした営業トークがハマった。

他社製品をけなすことなく、お客さんの「欲しい」に火をつける営業トーク。俺は喋り倒し、売りまくった。

この営業トークは、水商売での 「お客さん」を扱う経験がなければそこまでできなかったかもしれない。

ありがとう、ナイトヨコハマ。ありがとう、兄さん方!

結果、俺は週末の休みを死守することができた。デートをしたい、という欲求だけで、俺は爆走した。

触ってもないパソコンを、売って、売って、売りまくった。販売成績は常にトップ。

その成績は天井知らずで伸び続け、社内に張られた売上成績表を余裕で突き抜けた。

そして俺は、研修中の全新入社員の中でのトップではなく、日本全国の全ての家電量販店店員の中で、 自社パソコンの販売台数、ダントツのトップに立ち、日本一の称号を手に入れ、後日、表彰された(が、もらえたのは賞状とクオカード1枚だった)。

武器はこん棒のまま、ゲームをクリアしたのだ。

型破りな主人公の行動に勇気がもらえる一冊

ワルあがき』では、主人公が人目を気にせずに、自分の気持ちに正直に行動していく姿が描かれています。

そのどれもに驚かされるんですが、読み終わるころには「自分も挑戦していきたいな」と勇気をもらえます。

なお、同書は活字と漫画の融合で構成されています。小説のように物語が進むので読みやすいですよ。挑戦する主人公の姿に一歩踏み出す勇気をもらいましょう!

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