ビジネスパーソンインタビュー

「フォロワー数を追うと何者にもなれなくなる」尾原和啓が、田端信太郎“ブランド人”論に物申す

『ブランド人になれ!』から2年…

「フォロワー数を追うと何者にもなれなくなる」尾原和啓が、田端信太郎“ブランド人”論に物申す

新R25編集部

2020/06/28

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2018年に発売された書籍『ブランド人になれ!』のなかで、スタートトゥデイコミュニケーションデザイン室長(当時)、田端信太郎さんはこう言っていました。

フォロワー1000人を超えない人間は終わっている」!

あれから2年…。ビジネスパーソンとSNSを取り巻く環境もけっこう変わってきているような気がします。

そんななか、7月7日に発売される著書『あえて、数字からおりる働き方』(SBクリエイティブ)のなかで、「『いいね!数』と『フォロワー数』が何者かになる機会を減らしている」と、田端さんとは真逆の主張をしているのが、数々の企業を渡り歩いてきた執筆家・尾原和啓さんです。

いったい、僕らはどう動けばいいの…?ということで、今回は田端さんと尾原さんに対談していただくことに。

テーマは「2020年、『フォロワー数』に頼らずブランド人になるには?」。

お楽しみください!

【尾原和啓(おばら・かずひろ)】写真左。1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科を修了後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。NTTドコモ「iモード」立ち上げを支援する。その後、リクルート、Google、楽天などに所属/【田端信太郎(たばた・しんたろう)】写真右。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン『R25』を立ち上げ、創刊後は広告営業の責任者を務める。その後ライブドア、コンデナスト・デジタル、NHN JAPANを経て、株式会社ZOZO コミュニケーションデザイン室本部長に就任。現在は退職

フォロワー数を追う行為は、典型的な「数字の奴隷になる」こと?

尾原さん

田端さんにぜひ言いたかったんですが、日本人って「数字の奴隷」になりやすいと思いませんか?

田端さん

数字の奴隷というと?

Zoom背景を使って全力で新刊の宣伝をしてくるスタイル。赤いマフラーはGoogle時代からのトレードマークだそうです。また独特な人だな…

尾原さん

ツイッターのフォロワーを伸ばさないといけないとか、「フォロワーが1000人いないと人間じゃねえ」とか…

田端さん

それは俺のことですか(笑)。

「終わっている」とは書いたけど「人間じゃねえ」とは書いてないですよ!

似たようなもんでは?

田端さん

あれ、今だから言うけどもともとは「フォロワー1万人いないとダメ」だったんですよ(笑)。

でも、炎上すると思って1000人にしたんです

尾原さん

1万人…!(笑)

10倍だった

田端さん

何事にも「足切りライン」ってものがあるんですよ。

プロ野球のピッチャーなら、どんなに“のらりくらりの技巧派投手”でも、ストレートの球速120kmぐらいはないと話にならない。

尾原さん

ふんふん。

田端さん

同じように、広告やメディア、マーケティングなどの仕事をしていて自分に1000人のフォロワーも付けられないなんて、足切りライン以下。

英語学習でいえば「TOEICの点数は意味ない」とか言う人いるけど、700点とか800点すら取れない人がダメなのは間違いないでしょ。

尾原さん

「力なき正義は無力なり、正義なき力は暴力なり」って感じで、田端さんと僕の主張は大きくは違わないと思います。

ただ日本人ってKPIとKGIを勘違いしやすいから、目的に達するための手段を、すぐに「目的」として追い始めるクセがある。

田端さんみたいな有名人が「フォロワー1000人」とか言いだすと、まるでそれが目的のように勘違いする人がいっぱい出るわけですよ!

田端さん

たしかに、一時期とくに目的もないのに「どうやったらフォロワー増えますか?」ってきいてくる若い人たちがいっぱいいて…

ツイッターだったら「うるせえバーカ!」って言っておけばよかったんだけど、リアルだとそうもいかないしね…(笑)。

尾原さん

「誰かをフォローすると○%の確率でフォローバックされるから、大勢フォローして外すのを繰り返す」とか、変な努力をする人が出はじめるでしょ。

そうやって盲目的にKPIを追うヤツがかっこいいって風潮が、多くの会社で見られます。僕はこれを「数字の奴隷になっている」と言ってるわけですよ

ハロプロや岡村靖幸…“意味がある人”になれば、「数字からおりる働き方」ができる

田端さん

なるほど、じゃあ尾原さんの考える「数字からおりる働き方」っていうのはどういうものなんですか?

尾原さん

それは「意味がある人」になることです。

尾原さん

山口周さん(研究者。著書に『ニュータイプの時代』など)がよく言っている「“役に立つ”から“意味がある”へ」っていう言葉があるんですけど。

尾原さん

たとえば自動車業界では、「役に立つだけの車」って売れなくなってて、逆に「役に立たないのに意味がある車」が人気になってきてるんです。

田端さん

ああ! それはよくわかりますね。

ドイツに、「ニュルブルクリンク」っていう有名なレースコースがあるんですよ。

“新車開発の聖地”って言われていて、世界のスポーツカーはだいたいそこでタイムアタックするんですね。

田端さんは自動車がけっこうお好きです

田端さん

日産の「GT-R」って、そこでいいタイムを出すんですよ。ポルシェやフェラーリともいい勝負するんです。

でもGT-Rの値段が1000万円ぐらいなのに対して、ポルシェやフェラーリは3000万円ぐらいするものもある。

「日産は高性能な車を安い価格で提供できてすばらしい」と言うこともできるけど、「スペックの高さをブランドに変換できてない」というネガ要素でもあるんです。

尾原さん

「スペック」という“役に立つ”ことだけだと、お金になりにくいんですよね。

田端さん

そう。「ブランド」という“意味”をつくれないと生き残れないわけですね。

紅白に出はしないけど、同業者からリスペクトを集めている「ミュージシャンズミュージシャン」みたいなもの。電気グルーヴとか岡村靖幸みたいな…

坂道(乃木坂46、欅坂46など)のコたちは、自分たちのほうがCDの売上は多いのに、ハロプロをリスペクトしてますしね。

田端さんは車以上にアイドルにハマっています

「意味のある人になる」ためのヒントは、あの大物お笑い芸人がくれる

尾原さん

“役に立つ”から“意味がある”へ」はビジネスパーソンの世界でもどんどん起きていくんですよ。

自動翻訳の技術が発達して、会話もリアルタイムで翻訳されるようになるから、時給1000円の仕事を「300円でやります」っていう人が世界中からゴロゴロ集まってくる

田端さん

尾原さんは、R25世代のビジネスパーソンが「意味のある人」になるにはどうするのがいいと考えますか?

尾原さん

芸人の売れ方にヒントがあると思います。

『紳竜の研究』っていう伝説的なDVDに、島田紳助が若手芸人に語る「売れるために一番大切なこと」とかいった講義が収録されてて。

島田紳助が「人気になるということは、『自分の持ち味×誰にどれぐらい受け入れられるか』の掛け算でしかない」と言うんですね。

尾原さん

自分の持ち味を研磨する一方、「これから何が世の中で受けるのか」を徹底的にマーケティングしろと。

島田紳助がすごいのは、実際にお笑いが「演芸場で見るものから、テレビで見るものになる」「お年寄りから若者のものになる」と読んで、“未来においしくなる場所”で動いてること。

逆に、なんとなく動いてる人って「今」しか見ないでしょ。「YouTubeが流行ってるから、YouTuberやればいいんですよね」とかね。

田端さん

たしかにネットやSNSによって、すべてのビジネスパーソンが“芸人化”して、個人で戦う時代になってきてますね。

尾原さん

ネットやSNSの本質って「個人が芸を持つこと」だから、流行っているものを漫然と追いかける「マスリーチの手段」じゃなく、「遠くにいるけど自分のことを好きになってくれそうな人と出会えるツール」と考えたほうがいい。

「楽天市場」にECサイト出すとかがまさにそんな感じ。マスに売ろうとしても過当競争なので、値段勝負になっちゃう。それよりも「○○さんが丹精込めてつくった鶏の卵」みたいな、どこかにいるファンをつかむ商品が勝てるんです。

田端さん

俺はよく「数字を追わないことが、結果的に数字を伸ばすことになる。フォロワー数も同じである」って言ってポカンとされるんだけど(笑)、そういうことなんですよね。

1人のビジネスパーソンが売上を伸ばそうとしても、単純に働く時間、供給を増やすことで売上を増やすには限界があるから、自分なりの芸やブランドをつくれ!そして単価を上げろ!っていうことなんですよ。

「ブランド人」という真意はそこにあって、それは2020年の今現在でも変わっていないと思ってます。

選ばれるブランドとは、“自分らしさ”を表現できるものである

尾原さん

僕がうまいな~と思うブランドは、モレスキンのノートですね。あれは、ゴッホやピカソが愛用していたフランスのノートの権利を、イタリアの文房具屋さんが買って復刻したものなんですね。

「文化人が愛したノート」というストーリーを買って、“自分らしさを証明するもの”という商品に使っている

田端さん

人って、“自分らしさ”にはすごくお金を払いたいんですよね。

最近、「グループアイドルってなんであんなに人数が多いんだろう」って考えてたんですけど、大勢いるなかから推しを選ぶという行為が“自分らしさ”の表現につながるからなのではないか?と気がつきました。

マジでなんでもアイドルでたとえてくるじゃん

田端さん

小分けして、たくさんの中から何かを選ばせると価値が出るっていうのもありますよね。

俺、海苔の養殖場に行ったことあるんですけど、一番海苔(一番摘み)ってのがあってウマいんですって。でも他のと混ぜて出荷しちゃう。

だから「もったいない! “一番海苔”ブランディングをして、オークションとかにすればいいのに!」って言いました。

尾原さん

山梨のワインも、昔は全部の畑のブドウをブレンドしちゃってた。

最近はMGVsワイナリーっていうところが、畑ごとに樽詰めするようになって人気なんですよね。

田端さん

ちなみに尾原さんは「オンラインサロン」ってどうとらえてますか? あれも自分らしくいるためにアイデンティティをお金で買っているもののような気がするんですが…

「オンラインサロンで聞いた情報」と、「本で読んだ情報」って同じなはずなんだけど、なんでサロンのほうが価値がある感じがするんでしょうね?

尾原さん

それはね…、最強のブランドとは「なりたい自分になるための冒険の同行者」だからですよ。

アップルとかナイキのブランディングはその典型。「なりたい自分になるために買うもの」なんですよね。

でも、冒険の道を1人で歩くってツライじゃないですか。冒険って仲間が必要だから、同じような境遇の人が集まっていると価値を感じやすいんだと思いますね。

田端さん

なるほどなあ…

田端さん

最後に「ブランド」と数値スペックの関係を理解するうえで、これ以上ない例え話を思いついたんですけど…

言ってもいいですか?

尾原さん

なんでしょう?

田端さん

男性読者には、「グラビアアイドル」を考えてもらうとわかりやすいんじゃないかな。

3サイズの数字や「○カップだ」みたいなところだけで勝負したら、誰が人気かはすぐ決まるはずなんだけど、そうじゃないところが面白いでしょ。好みは人の数だけあって、そのなかでどう戦っていくかってことなんですよね。

…なんか、最後にいきなりこんなたとえで申し訳ないんですけど!(笑)

身近なたとえでありがとうございました! 最後まで勉強になりました…!

〈取材・文=天野俊吉(@amanop)〉

『あえて、数字からおりる働き方 個人がつながる時代の生存戦略』

尾原さんが提唱する「数字からおりる働き方」。

興味が湧いた人は、「社外でも、もちろん社内でも、自分らしくキャリアを積んでいく方法を伝授してもらいました」とあるこの新刊にもぜひ触れてみてください!

オンラインサロン「田端大学」

「己を見つめ、磨き直し、表現を模索する旅の中で、徐々にブランド人となっていく。ブランド人を目的としてはいけない」

田端さんが主宰するサロン「田端大学」の説明にこんな一文があります。まさに、今回の対談のテーマのような「ブランド人」を目指す人は、強い気持ちを持って門を叩いてみてください。

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