ビジネスパーソンインタビュー

「公園のママコミュニティにも入っていった」子ども嫌いだった魔裟斗に父親の自覚が芽生えるまで

「子どものために、笑顔の練習をしました」

「公園のママコミュニティにも入っていった」子ども嫌いだった魔裟斗に父親の自覚が芽生えるまで

新R25編集部

2020/01/23

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「反逆のカリスマ」と呼ばれ、2000年代に「K-1 WORLD MAX」の世界王者として大活躍していた格闘家・魔裟斗さん。

テレビで見ていた魔裟斗さんは常に鋭いオーラを放っていましたが、30歳で現役を引退され、現在では子煩悩な3児のパパになっているのだとか…!

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引退後の10年間、お子さんが生まれて世界王者にどんな変化があったのか?

『新R25』の読者に多いであろう独身ビジネスマン男子の参考になればと、「いかにして“戦う男”から“よきパパ”になれたのか」というお話を聞いてきました。

〈聞き手=ほしゆき〉

【魔裟斗(まさと)】1979年、千葉県出身。15歳でボクシングをはじめ、18歳でキックボクサーとしてプロデビューを果たす。2003年、2008年『K-1 WORLD MAX』世界王者。2009年12月31日に行われた『Dynamite!! ~勇気のチカラ2009~』(TBS系)でアンディ・サワーに勝利し、現役を引退した。戦績は通算63試合で55勝6敗2分。2007年に女優・矢沢心と結婚し、現在では3児の父

「格闘家・魔裟斗がベビーカーを押すなんてダサい」と思っていた過去

ほし

魔裟斗さん、小学生のときテレビで見ていました…!

魔裟斗さん

ありがとうございます。そうか、僕が現役のときR25世代は小・中学生だったんですね(笑)。

魔裟斗さんは1997年にプロデビュー、2009年に現役を引退されています

ほし

今日はR25世代に向けて、「よき父親になる心構え」を教えてほしいんですが…

魔裟斗さんは、もともと子ども好きだったんですか?

魔裟斗さん

いや、「よき父親」なんて呼ばれるのは申し訳ないですね。むしろ子どもが嫌いでしたから

みんなで食事をするときに、子どもを連れてくる人がいると内心「連れてくんなよ…」って思ってました

子どもがいると、その空間が全部子ども中心になるじゃないですか。うるさいし、汚すしさ。

ほし

えっ…そんな。

予想外の衝撃コメント

魔裟斗さん

うちはなかなか子どもができなかったんですけど、奥さんに不妊治療をしたいと言われたときも、正直「そこまでして必要かな?」って思ってました。まだ僕は現役で、格闘技で忙しかったですし。

今思うと申し訳ないんですが…

ほし

そうだったんですね。

魔裟斗さん

でも、しばらく治療して奥さんがようやく妊娠した後、流産してしまったんです…

僕は「こんなにツラい思いをするならもうやめよう」と言ったんですが、奥さんが「それでもあなたの子どもが欲しい」と泣きながら伝えてくれて…僕も真剣になりました

ほし

お子さんが生まれてからは、毎日育児に奮闘するようになったんですか?

魔裟斗さん

いや…そのときも、すぐに協力的になれたわけじゃなかったです。

“格闘家・魔裟斗”というプライドがあって…赤ちゃんのオムツを変えるとか、ベビーカーを押すとか「ダサいだろ」って思ってしまっていたんですよね。

抱っこ紐つけて外を歩くなんて、もってのほか。

ほし

たしかに、世間のイメージがありますもんね…

魔裟斗さん

当時の自分には、「そんなことを気にしてるお前がダサいよ」って言ってやりたいですけどね(笑)。

過去の自分を本音で語ってくれる魔裟斗さん

ようやく育児に主体的になれたのは「成長過程を自分の目で見てきた」から

ほし

“男性は父親としての自覚が芽生えるまで時間がかかる”とよく聞きますが、魔裟斗さんもそうだったのでしょうか…?

魔裟斗さん

やっぱり、少しずつでした。何かをきっかけに、「自分は父親だ!」って急に自覚が生まれるようなことはなかった。

ほし

では、どうやって「親の自覚」が生まれたんでしょうか?

魔裟斗さん

僕を変えてくれたのは「子どもの成長過程を自分の目で見てきた日々」の積み重ねかなぁ。

子どもがはじめて寝返りを打った日、つかまり立ちをした日、おでこにケガをしてしまった日…全部見てきたし、昨日のことのように覚えていますからね。

言葉と表情から愛がひしひしと伝わってきます

魔裟斗さん

赤ちゃんながらに一生懸命生きて、できることが増えていく姿を見守っていると、少しずつ気持ちが強くなってくるというか…

この子の一番のサポーターでいたい」と、自然に思うようになりました。同時に、育児への抵抗も薄れていったような気がします。

ほし

「子どもと触れ合う時間」が重要なんですね。

ただ実際には、多くのビジネスパーソンが仕事に忙殺されて家にいられないですし、子どもと過ごす時間は短くなりがちじゃないですか。その状況で育児に主体的になるのって…

魔裟斗さん

難しいでしょうね!

でもそういう人たちだって、好きで子どもと離れているわけじゃないと思いますから、そこで夫婦が“家庭内でお互いを悪者にしないコミュニケーション”をとることが重要だと思うんです。

ほし

なるほど。そこでお互いを責めるわけじゃなく。

魔裟斗さん

子どもとの時間が短いなら、夫婦の信頼関係がないとバランスが崩れてしまう

言わなくても分かり合えることなんてないですから、うちもお互いへの信頼を伝え合うようにしています。

「10年以上ぶりにサングラスを外した」子どものために、人付き合いが変わった

ほし

お子さんが生まれてから、ご自身のなかで一番変化したことはなんでしょう?

魔裟斗さん

人生で初めて「うまく人付き合いをしよう」と思うようになりました

公園に連れて行けるようになったとき、まだ幼稚園に通っていなかったんで、うちの子だけいつも1人だったんですよ。もう幼稚園のコミュニティができてしまっていて、入れなくて…

ほし

ママコミュニティもありますもんね。

魔裟斗さん

そう! それなんですよ。

どうしたら、うちの子にも遊んでくれる友だちができるのか?と考えたときに、「親同士が仲良くなる必要がある」と気づいたんです。

ほし

魔裟斗さんが公園のママたちとコミュニケーションを…?

魔裟斗さん

はい。

ママたちとお喋りするために、めちゃくちゃ頑張りました

魔裟斗さん

現役時代からずっと、外を歩くときは必ず帽子とサングラスをしてました。

でも「怖い人じゃない」と思ってもらうために、10年以上ぶりにサングラスを外して、ジャージで公園に行って…

ほし

…抵抗はなかったですか?

魔裟斗さん

ありましたよ! すごい恥ずかしかったですし。

でも「これからは自分が子どもの一番のサポーターでいる」って決めていたんで、そんなこと言ってられないですよね

まず外見を変えて…あとは笑顔!優しい雰囲気を出せるように意識して、近所のママたちと少しずつおしゃべりをはじめました。

「こうやってニコッと」

魔裟斗さん

それまでは格闘家として“ナメられちゃいけない”という意識が強かったので、むしろ表情を崩さないように心がけていた。

「やわらかい自分になろう」なんて、初めて思いましたよ

ほし

そうですよね。まさか世界王者が笑顔の練習をするようになるとは…

魔裟斗さん

皆さん「魔裟斗」のことは知ってくださっていたし、どんな人なんだろう?って興味を持ってくれて、打ち解けるまでそんなに時間はかからなかったです。

格闘家としての知名度が、子どもの友だちづくりに活かせてよかったです(笑)。

ほし

最初はオムツを交換するのも抵抗していたのに、魔裟斗さん自身もすごく変化されたんですね。

魔裟斗さん

そうですね。2019年に三男が生まれて、今は抱っこ紐も愛用していますよ

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ほし

かわいい…!! めちゃくちゃ似合ってるじゃないですか。

魔裟斗さん

最近はこれが定番のスタイルになってます(笑)。

幼稚園に通いはじめたり、小学校に上がったり、子どもの世界と一緒に自分の環境も大きく変わっていくんですよね。その都度、親として柔軟に変わっていくことで、僕自身また成長できたなと思います。

人付き合いの難しさや、まわりの人との助け合うことの重要性を、子どもが学ばせてくれました。

育児のおかげで、“世界王者だったときより強くなった”ところとは?

ほし

現役時代は、「表情を崩さないようにしていた」以外にも、マイルールなどがあったんですか?

魔裟斗さん

あ~、ありましたね。

媚びない挑戦的である、とか…

「あとなんだっけ…?」

魔裟斗さん

結構しっかり決めてたのに、もう思い出せないです(笑)

とにかく20代のころは、第一線でガンガン戦っている男が一番カッコイイと思ってました。歳を取りたくないと思っていたし、全盛期を終えたら「退化」なんだと

今は、世界王者だった自分よりも進化している自信がありますけどね

ほし

よく「育児を経験して進化した」と言う人がいますが、R25世代の読者にはあまりピンとこない気がするんです。具体的にどう進化したんですか?

魔裟斗さん

メンタルです。現役時代は、メンタルが弱かったので、そこが変わりましたね。

ほし

メンタルが弱かった…!?

魔裟斗さん

相手を挑発したり、威圧したり、リングで吠えてましたけど、それは虚勢ですからね。弱いから、見破られたくなくて吠えるんです。

アンチの言葉が耳に入るたびにグサグサきてて、精神がいつも不安定でした

魔裟斗さん

現役時代は、自分以外の誰かを守る強さもなく、人に感謝する余裕もなく、親に対しても「自分のほうが大人だ」なんて言っていた。

“自分がカッコよく見えればいい”という考え方で、何もわかってなかったんです。

ほし

なるほど…

魔裟斗さん

そんなふうにずっと必死に強がってきた自分だったので、引退した後は何をしても「暇つぶし」にしか感じられなくなってしまったんです。

現役の後輩たちが競技に打ち込んでいる姿を見るのも切なくて、「夢中になれるものがない人生は、こんなにつまんねぇのか…!」って落ち込んでました。

魔裟斗さん

そんな虚無感に潰されそうになっていたときに、長女が生まれたんです。

“格闘家・魔裟斗”を失った自分に、新しい存在意義をくれました。本当に救われましたね。

ほし

今は、批判的なコメントを見ても何も思わないですか?

魔裟斗さん

イラッとしても口や態度には出さないし、随分丸くなりました(笑)。

批判されるってことは、コンフォートゾーンを抜けて挑戦できている。変わりつづけているってことなので。もっと成長したら、イラッとすることもなくなるんだろうね。

だから読者のR25世代の皆さんには、「“歳をとることが退化”だなんて思っているうちは、まだまだだよ」って言いたいですね。

強さを極めたはずの現役時代より、「今のほうが強い」と笑う魔裟斗さんがとても印象的でした。

最後に教育方針をお伺いしたところ、「昭和の厳格さと、現代のフランクさのいいとこ取りをしていきます」とのこと。このバランスも、難しい挑戦ですね。

リング上で戦う魔裟斗さんを見ることはもうできないですが、これからも、お父さんとして家族のために戦う魔裟斗さんのファンでいたいと思います。

〈取材・文=ほしゆき(@yknk_st)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=Yusuke(@yusuke_wj)〉

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