ビジネスパーソンインタビュー
ときど著『努力2.0』より
決断コストはゼロにする。東大卒プロゲーマーが教える“無駄な努力を避ける”3つの方法
新R25編集部
東大卒のプロゲーマーであり、国内のみならず海外で圧倒的な知名度を誇るときどさん。
2019年には2つの世界大会で優勝しましたが、一時期まったくと言っていいほど勝てない時代があったそうです
eスポーツの市場がどんどん大きくなり、つねに新しい勝ち方が確立されていく環境に、対応しきれなかったと言います。
しかし、そこでは今までのやり方を見直し、復活を遂げたノウハウを、著書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』にまとめました。
同書より、ときどさんが導き出した新しい「努力」の形を、3記事にわたって抜粋して紹介します。
無駄な努力を避ける方法①行動を「ルーティン化」せよ
東大卒というだけで「勉強を頑張ったんですね!」「意志力がありますね!」と言われるのですが、残念ながら僕の場合はそうした言葉はまったく当てはまりません。
実は、僕は極度の面倒くさがりで、物事を続けたり、継続したりするのが本当に苦手です。
週1回のインターネット配信のために移動するのがダルいので、会社(配信の撮影場所)に住んでいたくらいです。
そういう人が何かを本気で継続したい、やり遂げたいときに意志の力に頼っていると、何も実現しません。
大事なのはダメな自分を前提にして、それでもなんとか努力が続く「仕組み」を作ってしまうこと。
自分が「動く」のではなく仕組みに「動かされる」ようにするのです。
有効なのが、あらゆる行動を「ルーティン化」してしまうことです。
ルーティンとは、「決まった手順」「日課」などを指す英語です。
毎日同じ作業を繰り返す仕事を「ルーティンワーク」といって少しマイナスの意味で捉えられることも多いようですが、僕はこれを逆手にとって利用しています。
決めてしまっても差し支えないことは決めておく。そうすることで、決断するコスト(時間、労力)をゼロにすることができます。
決断というとなにか重大な判断を思い浮かべるかもしれませんが、日常生活は常に決断の連続です。
ご飯かパンか。
お茶にするかコーヒーにするか。
今日は何を着て出かけるのか。
どちらのコンビニに行くのか。
無意識であっても意外に気力を消費させられるものです。それらが積み重なるとあなどれません。
ルーティンを設定するときの3つのポイント
1日の時間割をルーティン化するときには、3つのポイントがあります。
1つ目は、1日の中に種類の違う行動を入れておくこと。
僕が受験生時代に勉強とゲームを両立していたのは、ゲームをやりたかったのはもちろんですが、それぞれにいい影響があるからでした。
今も、ゲームの対戦会だけに通うのではなく、同じ1日の時間割に、筋トレや空手を取り入れています。
2つ目は、ルーティンにしばられないこと。
事前に行動を決めておいても、予定外のことは次から次へと起こります。その度に自己嫌悪になったりイライラしていては、かえって逆効果。目的に応じて、柔軟に変化させます。
3つ目は「一番大事なポイント」だけは、きっちり押さえること。
僕の現在のスケジュールでいえば、「15時に、ゲームの対戦会に行く」だけは、あらゆる予定に優先させています。
無駄な努力を避ける方法②「一点集中主義」でいく
何かを成し遂げたいと思ったとき「分散するか、集中するか」という結構大きな問題があります。
集中すればリソースは分散しませんが、オプションがないリスクがあります。逆に分散すればリスクを回避できますが、集中はできません。
僕は基本的に「一点集中主義」を選択してきました。
大学受験における僕の目的は、東大合格というシンプルなものでした。ここがはっきりしていたので、かなりのムダを減らすことができたと思います。
浪人が決まってもそれほど焦ることもなく、計画を立てて時間を捻出することができました。
「東大以外眼中にない」ことと、「第1志望は東大に行きたい」。
これはまったく異なります。
僕は東大だけでしたから、他のことを考える必要がありませんでした。
もしも「できれば」東大に行きたいのであれば、併願や志望校の変更の可能性が考えられます。
大学進学という目的はいいのですが、そこから選択に含みを持たせたままにすると、場合によっては2次、3次の備えが必要になる可能性も出てくることにもなります。
僕の場合、「東大以外眼中にない」状況だったので、それ以外のことはバッサリと切り捨てることができました。
受からなかったら2浪してもいいという覚悟でした。
これが滑り止めその他、何らかの事情で併願すると、色々やることが増えてしまいます。二兎を追うことを考えると、それなりの準備が必要になるものです。
ですから僕なら狙いはひとつに絞ります。もし複数の大学を受験するとしても、ほとんどの場合は第1志望は東大、第2志望は○○大と優劣がつくはずです。
そして優劣があるのなら、行きたい方にリソースをつぎ込んだ方が、圧倒的に効率は上がります。
どちらかに決めてしまえばピークも1回でいいので、本番における精神的な負担もまるで違います。
ちなみに受験は一発勝負ですから、当日に力を出し切れるように仕上げることは、実力と同じくらい大切です。
この回数を増やすのは、ボクサーが短い期間にタイトルマッチを何度もやるのと同じ。調整が難しいのはいうまでもありません。
併願してリスクを分散するやり方は、たとえるなら大人数のパーティによる大掛かりな登山のイメージです。
潤沢な資金と時間をかけて入念に計画し、拠点を何カ所も用意して、エース級の人材を何人も揃え頂上を狙う。
二の矢三の矢を繰り出すだけの準備ができている。時間と根気がある人向けです。
僕はゲームをしたいこともあり、あまり時間をかける余裕もなかったので、軽装かつ単独行、スピード登山といった感じでした。
ルートも自分が最も登りやすい最短距離です。なぜなら東大の合格だけが目的だからです。
登頂さえすればかまわないので、記録を作ったり難関ルートを攻略する理由がありません。
無駄な努力を避ける方法③徹底的にアウトソーシングする
努力する目的がはっきりしていると、ムダなこともはっきりします。
目的にとって不要なことを切り捨てると、意外とやることは少ないな、と気づき、優先順位もつくようになります。
頭の中の整理整頓です。
整理整頓ができると、今度は自分以外に肩代わりさせられるものが見えてきます。これを使わない手はありません。いわゆるアウトソーシングです。
典型的なものが、受験対策における予備校です。僕も利用させてもらいました。彼らには大量のデータと実績がありますので、今やることできることを提示してくれます。
合否判定や、対策すべき科目などの分析はまるっと肩代わりしてもらいました。集中できる自習室は、ほとんど毎日使っていたくらいお気に入りでした。
登山でいうなら熟練のシェルパに先導してもらい、荷物も持ってもらう。僕は正しいペースで歩くことだけに専心できるわけです。
そこまで指導を丸呑みして失敗したらどうするのか、と心配な人もいるかもしれません。
確かに、合格するかどうかは選んだこちらの責任ですので、そこは慎重にやりました。
そして、任せたからには異論は差し挟まずに、アドバイス通りに受験対策を進めていきました。
アウトソーシングで大事なのは、「頼む範囲をしっかり決めて、相手の領域には絶対に口出ししない」ことだと思います。
勉強しながら「自分の感じ方と違うなあ」と思うことがあっても、プロがいうのならそうだろうと素直に受け取っていました。
実際、予備校は受験のプロ。初心者の僕より経験も実績も豊富なのだから、文句をいう筋合いもありません。
ただし、これで万が一不合格なら、それこそ訴えるくらいの気持ちでいました(というのは冗談ですが、そのくらいの気持ちで、お任せしたのです)。
何をアウトソーシング「しない」のか
一方、プロゲーマーになったばかりのころは、どんな小さな雑務も何から何まで一人でやっていました。
スポンサードして欲しくて手当たり次第に営業のメールをし、初めて自分で取ったスポンサーは、アメリカの小さなTシャツ屋さんでした。
うれしかったですね。その他にも渡航のためのチケットの手配や確定申告、契約書の作成など、やらなければいけないことはたくさんありました。
現在の僕は、筋力トレーニングはトレーナーに、納税については税理士に、契約関係はマネージャーに全て丸投げしています。
反対に、ゲームに関わること=どの試合に出るか、どのスポンサーと一緒にやるかなどは全部自分で決めます。
もし、そのような内容をマネージャーに丸投げしてしまうと、「お金のために、この仕事を受けよう」ということも出てくるかもしれません。
これは僕のマネージャーが悪いのではなく、立場の違いなので仕方のないことです。
こうした自分の「価値観」に関わる部分までアウトソーシングしてしまうと、「何のために働くのか」の目的がブレてしまう。
アウトソーシング「する」「しない」の境目を決めることで、自然に自分の仕事の本当に大事なことが見えてくるのです。
東大卒で世界一のプロゲーマーのときどさんの努力法を学ぼう
ときどさんの努力は、地道な一面を持ちつつも、今までの「根性で歯をくいしばってやり抜く」的な努力とはまるで違います。
努力って、もっと柔軟で理性的で、かっこいいもの。同書には、これからの時代で磨くべき努力の方向性を、ひしひしと感じられました。
〈撮影=飯本貴子(@tako_i)〉
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