ビジネスパーソンインタビュー
トップ女優がプロデューサーになったら?
「『AVあるある』から、抜け出してもいいかも」紗倉まなに“AV業界改革案”を聞いてみた
新R25編集部
さまざまな業界で活躍する人に話を聞くと、そのポジションにいるからこその「視点の高さ」に気付かされます。
視点を高く持っているからこそ、「今のままではダメだ、もっと改革する必要がある」と常に考えている。
そんなトップクラスの方の「業界改革プロデュース案」を聞いてみたい…。
そんな思いを胸に今回インタビューしたのが、2月27日に小説『春、死なん』を上梓した、AV女優の紗倉まなさん。
長きに渡ってトップで居つづける紗倉さんが、いまのAV業界を変えるとしたら?そのアイデアを聞いてみました!
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
【紗倉まな(さくら・まな)】1993年生まれ、千葉県出身。2012年にAVデビュー。2016年に小説『最低。』(KADOKAWA/メディアファクトリー)を上梓。最新著作は『春、死なん』(講談社)
「AVは“タブー”を扱ったり、ファンタジー展開が多かったりする」紗倉まなが企画を考えるなら…?
天野
今日は紗倉さんに、「自分がいる業界を変革するならどうしたいか」を聞きにきました。
これまで、格闘技界の那須川天心選手などに出ていただいた企画なんです!
紗倉さん
すごい壮大なテーマだ…ちゃんとしてる~。
ちゃんとしてますよ!
天野
紗倉さんは「AV業界をこう変えたい」という思いはあるんでしょうか?
紗倉さん
うーん、どうだろうな…これを言うと業界の人に怒られちゃうかも?と思うんですけど…
私たちの業界ってダークとかグレーとか、言うなれば『闇金ウシジマくん』的なイメージあると思うんですよね。
※『ウシジマくん』は怖いところもあるけど、とっても勉強になる面白い漫画です!
天野
ちょっとネガティブなイメージがあるってことですかね…?
紗倉さん
そうなんですよね。実際、私が見ている範囲では全然そんな世界ではないんですけど。
だからこそ、もうちょっとポジティブな企画(作品)が増えたら、イメージが変わりやすいのかなって思います。
天野
ポジティブな企画というと?
紗倉さん
今のAVって、世の中的なタブーをテーマにする風潮があるんですよね。なぜか人はそこにエロスを求めるようで…
たとえば「NTR(寝取られ)モノ」っていうのが一時期ものすごく流行って、私もたくさんそういった企画の作品に出たんですよ。あとは不倫モノとか。
天野
ほう!
目の前で「寝取られ」って言われるとちょっと反応に困りますな…
紗倉さん
でも、そんなネガティブな設定ばっかりやってたら、精神的にけっこう参ってしまったことがあって。
天野
そうだったんですね…!
紗倉さん
タブーって人の興味をそそるから、売れる原理はすごくわかるんですよね。
でも、もともとポップなイメージがそこまでない業界で、ネガティブな要素で人の関心を刺激するのが、果たしていいことなのかと思ってしまって…
天野
たしかに、“人間のイヤなところ”にばっかり触れてると病んでしまうかもしれませんね…
紗倉さん
でも売れるのはうれしいんです、私も業界も(笑)。難しいんだよな~…!
トップ女優でも、売上とやりたいことの間で苦悩するんだな
紗倉さん
「需要と供給の温度差」みたいなものを少し感じるんですよね。
会社員の方にたとえるなら、すごく売れている商品があるんだけど、自分はちょっと疑問を抱いている。それを魅力的に売り込むよう営業するのって、難しいじゃないですか。
天野
よくわかります…
紗倉さん
でも、自分が撮影中に楽しくて「これは傑作だ! もしや売れるんじゃないか!?」って確信めいたものを持ったものほどあんまり数字がよくなかったりする。自分は売り上げを予想するセンスがまったくないんだなぁと実感します(笑)。
ホント、難しいところですね…
紗倉さん
たとえば、「企画」の部分を変えるなら…、AVあるあるの“ファンタジー”的な部分から飛び出すのは面白いかもしれないですね。
なぜか人妻のもとに宅配のお兄さんがやってきて、初対面なのにエロいことをされて、最初はいやがるけど最終的に…みたいな。
どういうこと!?っていう展開のやつ。
天野
(出てるほうも、どういうこと!?って思ってたんだ…)
全国の「思っちゃう派」の男性が、今うなずいています
紗倉さん
すべてが都合よく展開する“ファンタジー的”なAVだけじゃなくて、その後も生活は続くわけだから、そこまで展開したら面白いなぁと。
男性視点の“都合よさ”だけではなく、NTRモノで「実際その後どうなってしまったのか」まで描かれているとか(笑)。
ファンタジーからリアルに接続していくAV、アリだと思います!
天野
なるほど。実際、紗倉さんのほうから「脚本を変えたい」と言うようなことはないんですか?
紗倉さん
ほとんどないですね。
でも、「こういうのをやってみたい!」と提案することはあって、今のプロデューサーは「面白いですね! ぜひ!」と言ってくれるので、最近の私の作品は、少し流れが変わりつつあります。やりたいことに、男性ウケのエッセンスを足してもらってる感じです。
「ゼロか100か」で変えるのではなく、自分たちが楽しみつつ新たな要素を取り入れて進化していけば、変化も不自然じゃないのかなと思います。
天野
たしかに…
紗倉さん
あとは、「これが性的対象です! ボンキュッボン!」みたいなわかりやすパッケージばかりじゃなくても、「もういいんじゃないかな」って思ったりもします。
「ハイ私はスタイルいいです!みたいな…」反応に困るからやめてください
紗倉まなが考える、今の時代のアダルトマーケティングのカギは「手触り」
天野
「売れる、売れない」っていう話が出ましたが、最近は“街からアダルトが排除”されてきてるじゃないですか。
アダルト業界的には、どんなマーケティングをしていけばいいと思いますか?
紗倉さん
「エロを売る方法」ってことですよね?
わかりてええ~~~!
そんなんわかってたら苦労しないですよね。魂の叫びを聞いてしまいました
紗倉さん
そうだなあ、「アナログの魅力」を推すっていうのはいいかもしれないですね。
天野
アナログ?
紗倉さん
私、実はエロ本がすっごく好きなんですよ。
そっ、そうなんですね
紗倉さん
エロ本ってすごく優秀なコンテンツだなと思っていたんですけど、それが規制や時代の流れで廃れてしまった。
でも、あえて今の時代に“アナログなエロの魅力”を打ち出すことで、エロ界隈が盛り上がるかもしれないと思うんです。
天野
「音楽が安く聞き放題になったことで、人々がライブイベントに回帰する」みたいな話がエロ業界でも…
紗倉さん
そうなんですよ。
今、紙の本って読みますか?電子書籍ですか?
天野
紙で読むことが多いですけど…でも、電子書籍の割合も増えてきましたね。
「すぐ読みたい」とか「持ち歩きたくない」みたいなときは、魅力があるなと思います。
紗倉さん
でも、それってやっぱり「効率化」という面での魅力ですよね。
逆にアナログなものには、非効率な魅力があると感じるんです。
とくにエロって五感で感じとるものだと思ってるんで、「紙の匂い」「手触り」とか、「モノ自体の大きさ」「重さ」みたいなリアルがあることによって、グッとくるんじゃないかなと。
皆さんはデジタルアナログ、どっち派ですか?
天野
わかる部分も少しありますけど…「重さ」からエロを感じるってなかなか上級者のような…
紗倉さん
じゃあ、「手間がかかる」っていうアナログの魅力はどうですか?
今って、“エロを消費する”ことに手間をかける人が減ったと思うんです。でも、手に入れる手間が増えるほど、コンテンツへの愛着や依存が生まれますよね。
天野
な、なるほど…!
紗倉さん
依存って悪いことのようだけど、エロにおいてはそういう“依存”が大事だなとも思ってて。
昔、「エロ」がなかなか手に入れられなかったときって、ひとつのモノにすごく思い入れがありましたよね?
天野
めちゃくちゃわかります!!!
たしかに、あのころのほうが感動は大きかったな…
僕らはあのころの未来に立っているのかなあ…
紗倉さん
今の世の中、なんでも無料や低価格で見られたり聞けたりして、娯楽が簡単に手に入る。
そうして手に入れたものって感動が薄れるような気がして。それに慣れていくと、お金や手間をかけることへのハードルがどんどん高くなってしまうのではないかなと。
だからこそ「手触りのあるエロ」の魅力が大事になってくるんじゃないかなあ。…まあ、私がただ単にエロ本が好きすぎっていう説もありますが(笑)。
紗倉まながプロデュースする「中学生への性教育」ってどうなるの!?
天野
めちゃくちゃ納得してしまいました。…次はちょっと変化球的な質問をさせてください。
もし紗倉さんが、学校で「性教育」をするとしたら、どんな授業をプロデュースしますか? たとえば中学生相手とかで。
「性教育…なんだろう…」今回はぶっつけでいろいろ聞いちゃってます
紗倉さん
私だったら…文化や宗教観と絡めた性教育をしたいですね。
天野
宗教…???
紗倉さん
国、文化、宗教によって性の捉え方やセックス観が全然違うんですよ。
昔、興味があって調べたりしていたんですが、これが面白くて。「これはよくてこれはダメ」っていうのが、それぞれ違う。“当たり前”みたいなものがそこには存在しないんです。
天野
ほう…
紗倉さん
避妊の仕方や生理など、自分や相手の体を知り、守るための基本的な知識を学ぶことは大前提としての話ですが…、日本の性教育って「このテーマを取り扱うのが恥ずかしい」という雰囲気とか、「こうするのが正解」ってあるべき姿を押し付けられるようなイメージが少しだけあって。
そんななかで、セックスという行為に嫌悪感や抵抗感を抱きにくい、もしくは興味を抱けるような話って、あまりないなぁと。正しいことを教わるのはすごく大事なんですけど、一辺倒なメッセージだけだと、私が女子中学生だったとしたら窮屈に感じちゃうなと。
紗倉さん
「正解」がハッキリしすぎてると、そこに当てはまらない自分の考え方って狂ってるのかな…ってつらくなってしまうし。
「国が違うと許容されるものがあるんだ」って他国のセックス観を発見したとき、新たな学びがあって面白いなぁって感じたんです。
天野
宗教や文化から多様性を学んだんですね。
「圧を感じちゃう視野がこう狭くなっちゃうような…」
天野
なるほど。ちなみに、今回出された小説『春、死なん』も、そういう「性の多様性」を描いてますよね。70歳男性の性という…
紗倉さん
デビューした当初から、私のイベントに来てくれる2~3割ぐらいは、高齢の方だったんですよ。
天野
そうなんだ…!
紗倉さん
イベントで、普段どういうふうに過ごしているのかみたいなお話を聞いてるうちに、そういう人々の暮らしぶりだったり、“寂しさ”の輪郭みたいなものがわかるようになってきて。
なんとなく「ないもの」とされているけど、きちんと存在している高齢者の性のかたちを書きたくなったんです。
天野
トップ女優と70歳男性だったらかなり立場が違うと思うんですが、あえてそんな主人公を描いたんですね。
紗倉さん
そう思うかもしれないんですけど、70歳の主人公は、私を投影してるんです。
「年齢を重ねたとしても、寂しさは結局そんなに変わることはないだろうな」っていう感覚が自分のなかにあって。それって、誰しもが普遍的に持つ感覚ですよね。
今日AV業界のことを聞いてもらいましたけど、そういう人たちを少しでも癒やせる業界になれていればなぁと思います。
紗倉さん、ありがとうございました!
「エロ本から性教育まで」、考えながら語ってくれた紗倉さん。
最後に、読者プレゼントのためにと渡した色紙には「アナログで手触りのあるエロを…」という自身イチオシの“業界改革案”をしたためてくれました。
色紙をゲットしたい人は、新R25のオフィシャルTwitterアカウントをフォローして、応募方法の案内をチェックしてくださいね!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/取材協力・文=川崎龍也/撮影=森カズシゲ〉
紗倉まなさんの新著『春、死なん』が絶賛発売中!
そんな紗倉さんが、「老人の性」「親の性」という敬遠されがちなテーマに真っ向から向き合った『春、死なん』が、2月27日より講談社より絶賛発売中。
書き手としても高い評価を受けている紗倉さんの文才を、ぜひ本書を手にとって感じてみてください!
『春、死なん』(紗倉 まな) 製品詳細 講談社BOOK倶楽部
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