

「会社で週2泣いてたけど…僕は今もあの時代に憧れている」
「今20代だったらオンラインサロン入ってたかも」カツセマサヒコが語る、不甲斐ない20代の歩き方
新R25編集部
「自分の人生、これでいいんだっけ」。
社会人になって一度くらい、誰もが胸のうちでそんなことを考えたことがあるんじゃないでしょうか。
大人になって、毎日家と会社を往復して、頑張ってる。だけど…ホントにこれでよかったんだっけ。とくに社会に出たばかりのR25世代は、「こんなはずじゃなかった」と思ってしまうこともたくさんあると思います。
10代のころ描いたのと、まったく異なる現在地にいる自分。「こんなはずじゃなかった人生」と、どう向き合えばいいんだろう。
今回そんなモヤモヤをぶつけにいったのが、6月に自身初となる小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)を上梓した人気Webライター、カツセマサヒコさん。
【カツセマサヒコ】1986年東京生まれ。大学を卒業後、2009年より一般企業にて勤務。趣味で書いていたブログをきっかけに編集プロダクションに転職し、2017年4月に独立。Webライター、編集者として活動中。2020年6月11日、自身初となる小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)を上梓
カツセさんは、何者にもなれない日々と沼のような恋をつづったこちらの小説で、「こんなはずじゃなかった人生に葛藤しつづけた20代の日々」を、“人生のゴールデンアワー”と表現しているのです。
カツセさんご自身も、クリエイティブな仕事を求めて第一志望の大企業に入ったものの「事務職」に配属されてしまい、「こんなはずじゃなかった人生」に絶望しながら20代を過ごしていたお方なのですが…
どうしてそんな地獄のような時間を「ゴールデンアワー」と振り返ることができるのか、お聞きしました。
〈聞き手=サノトモキ〉
島耕作に感動したカツセマサヒコが、会社で週2で泣くようになるまで

サノ
今日は、「こんなはずじゃなかった人生との向き合い方」がテーマです。
よろしくお願いします…師匠!

カツセさん
いや、やりづれーわ!(笑)
ライターのサノは、じつはカツセさんと同じ編集プロダクション出身。永遠の師匠なのです

サノ
20代って、まずは希望を持って社会に出るじゃないですか。
カツセさんは、そのころどんな社会人だったんですか?

カツセさん
就活のとき、新聞広告に載っていた「月から金がハッピーであることが、一番いい」っていう島耕作の言葉に衝撃を受けたんですよ。
まあようは、「人生の大半を占める“仕事”がハッピーじゃなくちゃ、人間は不幸だよ」ってことを言ってて。
俺は就活真っ只中で「はあ~~~、島耕作すげーな~~~!」と思って、それを家の壁に貼ってたんですけど…

サノ
かわいい。

カツセさん
だから俺も当然、“ハッピーなビジネスパーソン人生”を送ろうとしたんです。
それで、第一志望だった大手印刷会社に受かった。当時から、何かクリエイティブなことをして生きていきたいと考えてたので企画職をやる気まんまんだったんですね。
でも、配属されたのは 「総務部」だった。
「配属希望の紙には『総務部』の文字すらなかったんですよ。けど、毎年400人くらいいる新卒から4、5人選ばれるらしくて」

サノ
…めちゃくちゃ心にきそう。
ヨーイドンでいきなり、「こんなはずじゃなかった人生」が待ち受けていたんですね…

カツセさん
クリエイティブな仕事をやりたくて入ったはずなのに、社会人になった自分は営業部門が使う会議室の座席をひたすら並べてる。
世の中的に見れば「あるある」かもしれないけど、新卒一年目の若者からしたら、そこそこ大きな絶望で。

サノ
たしかに…
しかもそういうときって、「これくらいみんな我慢してるのかも」とか自分に言い聞かせちゃったりするんだよな…

カツセさん
そのうえ僕、事務職の仕事が本当にできなくて。
当時、週2ペースでロッカールームで泣いてたんですよ。ホントに。
このカッコいいお兄さんが…会社で週2泣いていたなんて…

カツセさん
一番しんどかったのは、営業や企画職の同期がどんどんクリエイティブな仕事をしていくなか、「消防訓練の担当者」に抜擢されたときで。

サノ
なんですか、それ?

カツセさん
「平日14~15時、会社の屋上で毎日放水訓練」っていうのを、1カ月くらいやらなきゃいけなくなったの。
同期がタバコ吸いに来た屋上で、ヘルメット被って放水訓練してる俺。

サノ
ダ、ダメだ…想像しただけで心がギュッてなる…

カツセさん
そこでもう、完全に心が折れちゃって。それこそ「こんなはずじゃなかった」って、超思っちゃって。
「でもねえ…」

カツセさん
でも…
自分の人生に一番全力でフルコミットできたのって、やっぱりあの時期だったよなと、今は思うんですよね。
「20代はやっぱりゴールデンアワー」カツセさんのエモツイートに隠された意図

カツセさん
20代って、「お金×体力×時間」を自分のために自由に使える唯一の時期だと思うんですよ。

カツセさん
当時は僕も、やりたくない仕事ばっかやらされてる自分が苦しくて仕方なかったから、仕事が終わると親友たちと高円寺とか荻窪で朝まで飲み散らかしてたんです。
「こんなはずじゃなかった」って愚痴を言いながら、窮屈で退屈な平日の埋め合わせをするように、オールでダラダラ話したり…土日には「いつか転職してやる」って淡く期待しながら、仕事以外のことに挑戦してみたりして。

サノ
たしかに、そこらへんの体力は異常に残ってる時期かも。

カツセさん
でも、そういう現実逃避の時間って、大人になってくるとうまく作れなくなってくるんですよ。
まわりが家庭を持ち始めると、「朝まで飲みに行こうぜ」ってこともできなくなっていくし。ほら、「同年代の友人たちが家族を築いていく」みたいな。
「ミスチルの『花』っすね」「桜井さんもあれ27歳くらいで作ってるからね」

カツセさん
家庭を持てば、「お金」や「時間」はパートナーと分け合うことになるし、子どもが生まれれば“人生の主役”が入れ替わっていく。
そう考えると、「自分の人生は自分のもの」と無責任に言い切れる20代前半って、やっぱり“ゴールデンアワー”だったよなと思うんですよね。

サノ
…本当だ。めちゃくちゃ腑に落ちました。

カツセさん
やっぱり23、24歳のあの自由な時期って、もう二度と返ってこなくて。
今でもあの「戻れない時間」への憧れをエンタメにしてるってところはあるんです。

カツセさん
若い人たちがみんな僕のツイートを見て「エモいエモい」って言ってるんですけど…
「いや、お前らは今まさにその時期にいるんだぞ」「ちゃんと楽しんどけよ」って超思ってる。
それに気づいてほしくて書いてるところもあるんですよね。
カツセマサヒコのエモツイートの裏に隠された想い
「自分が今20代だったら、オンラインサロンに入ってたかもしれない」

サノ
とはいえ、その貴重な20代を“現実逃避”ばかりに費やしてしまうのも、それはそれで心が苦しくなってしまう気がして…
「こんなはずじゃなかった」を、抜け出す方法はないんでしょうか?

カツセさん
うーん…、結局は現実逃避に近いんですけど、僕は「もう一つの名刺を作ること」で、なんとか凌いでましたね。
僕、今20代前半だったら、オンラインサロンに入ってるかもしれないなーって。

サノ
どうしてですか?

カツセさん
仕事が楽しく思えない20代って、平日8時間以外の「居場所」を探してると思うんですよ。
幸せを感じられないまま家と会社の往復だけで生きてると、先週と今週でなんの変化もなくて、「自分このまま死んでくのか」っていう虚しさが出てくるんですね。
だから、どこかに「家と会社以外の居場所」を見つけて安心したくなる。

サノ
たしかに、趣味や恋人や友達とかも、そういう「居場所」なのかも。

カツセさん
僕の場合は、土日を「クリエイティブっぽいことをする時間」にしたことが、心のよりどころになっていたんです。

カツセさん
自主企画でイベントを運営してみたり、僕が今の仕事に就くきっかけになったブログを始めてみたり。
土日に「自分がやりたかったはずのことをやってる時間」を作っただけで、会社で泣いてたころよりは、ポジティブに生きられたんですよね。

サノ
自分も友達が主催するイベントに参加してもがいてたの思い出してきた…

カツセさん
「好きだと思える居場所がある」って、めちゃくちゃ安心するんです。
オンラインサロンとかに入る人たちも、きっと誰かに憧れてるんじゃなくて、居場所があることへの安心感に憧れてるんじゃないかなあって、想像してました。
平日昼間は普通にサラリーマンして上司に怒られてるけど、スーツ脱いで着替えちゃえば強くなれるんだっていう居場所に出会えると、少しは楽になれちゃうんですよ。

カツセさん
ささやかすぎる抵抗かもしれないけど…
「どんな仕事もクリエイティブにできる!」なんてマッチョな気休めを信じて仕事だけしてる人生よりはマシだと思うし、僕で言うブログみたいに先につながるものだってあるかもしれない。
だから、別にオンラインサロンじゃなくて全然いいんだけど、何度か絶望を繰り返しながら、もうひとつの自分の居場所を作ったり、探したりしてみたほうがいいと思います。

サノ
なるほど…
ゴールデンアワーの使い方がちょっとわかってきたかも。
あの大御所が提唱する「30歳成人説」

カツセさん
それに、これは今だから言えることではあるんですけど…20代は“絶望期”でいいと思うんですよね。
20代の「こんなはずじゃなかった」なんて、そりゃそうだろって話なんですよ。
「30歳成人説」って知ってる?

サノ
いや知らないです…何なんですか?

カツセさん
これ、村上春樹さんが唱えてる説なんですけど…
簡単にいうと、「向いてることとか本当にやりたいことがわかるのなんて、30歳くらいからじゃね?」って考え方で。
僕これ、ドンピシャなんですよ。

カツセさん
大企業に入ってみたけど全然楽しくなくて、27歳でライターになって3年間やってみて、30歳くらいで「この仕事向いてるかも」って思えるようになった。
たしか映画監督の新海誠さんも、映像作品をやるようになったのは30歳かららしいんですよ。

サノ
たしかに新海さん、もともと会社員でゲーム関係の仕事してた…!

カツセさん
社会人経験もない20歳そこそこの自分が描いた未来図なんて、当たらなくて当然なんですよ。
仕事のことなんて、何も見えてないんだから。
俺も大学生のときなんて、「大企業の社員になりたい」くらいしか描けなかったもん。
めちゃくちゃわかる

サノ
20代は思う存分右往左往すればいいし、間違えて当たり前だと。
たしかに今の時代転職も当たり前になったし、案外みんなそんなもんなのかもな…
「30歳成人説」めっちゃいいっすね…

カツセさん
まあ俺じゃなくて村上春樹さんが言ってんだけどね、これ。
なんかズルくない?
人生は、「こんなはずじゃなかった」を繰り返す終わりなき旅

カツセさん
ただ、個人的に思うのは…
結局「こんなはずじゃなかった」って、一生終わらないテーマだと思うんですよね。

サノ
えっ…
ってことは、カツセさんも今もなお、「こんなはずじゃなかった人生」を歩いているんですか?

カツセさん
うん。たしかにいまはクリエイティブな仕事ができてますけど、新しい場所にたどり着くたび、結局「思ってたのと違う」っていうのをずっと繰り返してきた気がします。
でも、それでいいと思うんですよね。
「こんなはずじゃなかった」から微調整を繰り返していけば、その先でちょっと自分のことを認めてあげられるようになると思うので。
だから、「こんなはずじゃなかった」はずっとつきまとっていいと思うし、その付き合い方だけ覚えればいい。

カツセさん
この本の登場人物も、こんなはずじゃなかった場所を抜け出して、結局またこんなはずじゃない場所にたどり着いて、そのまま終わってるんです。
“小説の書き方”みたいな本には「主人公の成長を描け」って書いてあるんですけど、この本は最初から最後まで一切成長していない。
ただ、いまの自分をいったん認められる話にはできたと思ってて。

サノ
…たしかに、読んでてキツかったですけど、あの頃の自分をちょっと悪くないって思えた気がします。
とにかく読んでほしい…そして苦しくなってほしい…

カツセさん
明日からまた頑張るために「自分の現在地を知る本」があってもいいよな、とはすごく思ってるんですよね。
だから、普段「もっと頑張ろう」って思ってるR25世代の人に、ちょっと立ち止まって読んでほしくて。
そういう狙いもあって、表紙のカラー、青なんですよ。赤じゃなくて。たまにはアッパーじゃなくて、ダウナーでいてほしいから。
「今の自分」を認めてあげる時間も、大切だと思うので。
この取材もまさにそんな時間になっていた気がいます。今日はありがとうございました!
「こんなはずじゃなかった」って、“今より自分を好きになるためのヒント”だったのかも。
取材終わりの帰り道、カツセさんの話を思い出しながら、そんなことを思いました。
「こんなはずじゃなかった」に葛藤しつづける、20代の日々。
これから社会に飛び出していく人、絶賛“ゴールデンアワー”の真っ只中にいる人、過ぎ去った20代を引きずっている人。
この記事を読んでくださった方の「こんなはずじゃなかった20代」が、この記事を通して少しでも幸せな時間になっていったらうれしいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
〈取材・分=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=藤原慶(@ph_fujiwarakei)〉
書籍『明け方の若者たち』が絶賛発売中!
カツセマサヒコさんの初小説『明け方の若者たち』が絶賛発売中!
「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」その16文字から始まった、沼のような5年間。
何者にもなれなかった日々と沼のような恋を描いた20代の青春譚、はっきりいって相当ダメージを食らう物語だと思います。
「この帯を見ればそれ以上説明がいらないくらい、素敵なコメントが並んでいた」
カツセさんもそう仰っていたコメントたちを、最後に載せておきます。気になった方はぜひ手に取ってみてください~!
・ドキドキする。好きな人を想うときみたいに。(安達祐実・俳優)
・痛くて愛おしいのは、これがあなたの物語だからだ。カツセの魔法は長編でも健在。(村山由佳・作家)
・どうしても下北沢に馴染めなくて、逃げるように乗った井の頭線。通り過ぎた明大前のしみったれたお前。お前にあの頃出会いたかった。(尾崎世界観・クリープハイプ)
・ひたむきに生きるとは、こういうことなのだと思う。(紗倉まな・AV女優)
・人にフラれて絶望するという経験をせずに死んでいくのか、俺は。と絶望したし嫉妬した。(今泉力哉・映画監督)
・「こんなはずじゃなかった」未来を生きている大人は共感しかない。甘い恋愛小説と思って読んで後悔した。(長谷川朗・ヴィレッジヴァンガード下北沢 次長)

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