ビジネスパーソンインタビュー
多くの若手を見る後藤さんが語る「いい若手」とは?
「揺るがないし、無意味な反発もしない人がカッコいい」アジカン後藤が提唱“ゆとり世代最強説”
新R25編集部
多くのR25世代のビジネスパーソンは、上司や人事から評価される対象。
「いい人材」「ダメな人材」の基準って、気になりますよね。
多くの“若手”を見ている人に、「いい若手の条件」をきいてみたい…。
そう思った編集部は、今回、音楽業界で「たくさんの若手と関わる活動」を精力的に行っている大物へのインタビューに成功してしまいました。
【後藤正文(ごとう・まさふみ)】1976年生まれ、静岡県出身。1996年、大学の軽音楽部で「ASIAN KUNG-FUGENERATION」を結成。2003年にメジャーデビュー。同年からフェスイベント「NANO-MUGEN FES.」を主催。2020年3月13日には約3年ぶりとなるソロ作品「Nothing But Love」が配信スタート
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマン、後藤正文さんです。
「若手ミュージシャンを正当に評価し、作品の制作資金を支援したい」という想いで後藤さんが自費で立ち上げた音楽賞「APPLE VINEGAR Music Award」は、今年で3回目。坂本龍一さん、亀田誠治さんというそうそうたるメンバーも参画しています。また、5月から行われるツアー「酔杯2 ~The Song of Apple~」では、毎回若手ミュージシャンの「オープニングアクト」を招くと発表されています。
“たくさんの若手たちをチェックする”立場である後藤さんに、「こういう若手がいい」と感じるポイントを教えていただきました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
アジカン後藤が提唱する「ゆとり教育最高だったんじゃないか説」
天野
後藤さんのツイッターなどでの発信を見ていると、 “次の世代のために”という意識を強く感じます。
今日は、いろんな若手をチェックする立場でもある後藤さんなりの、「いい人材の特徴」をR25世代のために教えていただければと…
後藤さん
なるほどね、面白いですね。
それで言うと、「ゆとり世代」とか言われてる人たちってすごいユニークだなあと思ってて、最近、「ゆとり教育最高だったんじゃないか説」が俺のなかにあるんだよね(笑)。
全ゆとり世代に希望を与える発言が飛び出しました
天野
「ゆとり」って一時期はかなりバカにされましたが…なぜそう思うんでしょうか?
後藤さん
最近好きになる、その世代の若手ミュージシャンって、ちゃんと自分がやりたいことが決まっていて、変に浮ついてない感じがすごくするんですよ。
「まわりからの評価に揺るがないし、無意味に反発もしない人」
後藤さん
だから、俺が感じる“いい若手の条件”を挙げるなら「まわりからの相対的な評価に揺るがない人」ですかね。
天野
なるほど。自分の軸があるってことですかね。
後藤さん
若者の周囲にはいろんな大人がいて、いろんな力学があるわけじゃないですか。そういう人たちがしてくる評価に左右されないことって大事で。
さらにいえば「まわりからの評価に揺るがない、かといって突っぱねるわけでもない」人がいいと思う。
天野
というと?
後藤さん
若いうちは、大人に対して「いや、俺たちは勝手にやるんで」って反発しがちでしょ? でも、それもある意味で“ひとつのモノサシ”にとらわれてしまってるよね。
上への反発が自分のモノサシになっちゃうのはちょっと違う。
まわりと比べたり、上に反発したりするんじゃなく、「ナチュラルな姿勢や態度が、くだらない評価へのカウンターになっている」ような若い人が一番カッコいいと思うかな。
天野
評価にとらわれるのでも反発するのでもなく、自然体でいる。ビジネスパーソンにも、かなり通じる話な気がします…!
後藤さんのまわりにも、そういう若手はいますか?
後藤さん
たとえば、KID FRESINO、中村佳穂、折坂悠太あたりのミュージシャンは、まさにそんな感じだよね。何にもおもねっている感じがしない。
たとえば今、ビリー・アイリッシュが音楽的にすごい評価を受けているとかいった流行を知らないヤツはいないわけで…だからといって寄せにいくわけじゃなく、無意味に反発するわけでもない。自分の軸のままでいる、と。
そういう人こそが、時代を変えられるんだなって思います。
名前が挙がったミュージシャンを聞いたことがない方は、ぜひ聞いてみてください
「悪口言わない、逃げない人」
後藤さん
あと、俺らのころは、“酒の肴に誰かのディス”みたいなところがあって。売れたヤツはすべからくネタにされたり、悪口の宛先にされたりしてたわけですよ。
けど、今「いいな」と思う若い子たちはそういうのないよね。悪口言わない。
後藤さん
日本って出る杭を叩くのみんな好きじゃないですか。今でも少なからずあるけどね。
逆に成功したヤツを「すげえな」ってみんなで言ったほうがいいよ。
ちょっとそういうの(悪口が)多いなってヤツは、あんまりいい仕事してない気がする(笑)。
天野
“酒の肴に”ってことですが、今、若手ミュージシャンと飲みながらコミュニケーションするようなことはあるんですか?
後藤さん
いやあ、そんなに行かないけどね。基本的には飲み会がそんなに得意じゃないから。
居酒屋に7人ぐらいで集まったら、俺、ちょうど話題が分かれるところに座る自信しかない(笑)。
ちょうど3人ずつに分かれるポジションに行ってしまう後藤さん
後藤さん
若手を評価する賞をやるって言ってるのに、飲み会して賞まわしあってたら、ちょっとアレでしょ(笑)。そういうのはやらない。
天野
たしかに。
後藤さん
それで言うと、仲間内で徒党組んで「あいつのせいでうまくいかない」みたいな言い訳してるのもダメだよね。
結局、人を叩くっていうのは、自分がうまくいかなかった理由を他人のせいにして逃げてるってことだから。逃げるヤツはよくないんじゃないかな。
「自分が“呼ばれてる”場所に行けるセンスがある人」
後藤さん
ただ、責任から逃げるのはよくないことなんだけど、「逃げない」だけにクローズアップするのは少し違ってて。
「逃げなきゃいけない状況」自体を回避するっていうのも、ちゃんとやらなきゃいけないよね。
天野
というと…?
後藤さん
なんていうかな…優れた人って、「どこにいたら自分が何からも逃げずにいられるか」「何にも縛らずにいられるか」っていうのを察知するのが上手なんじゃない?
「逃げなきゃいけなくなるような場所に、そもそも近づかない」っていう。
いいなと思う人たちって、みんなそういう感覚が鋭いように見えるんだよね。
天野
自分に合わない場所を見極めるというか、自然に選別できるってことですか?
後藤さん
そうそう! 「行きたくねえ」と思う仕事に近づかないし、しょうもない飲み会とかヘンな会議とかに呼ばれないことが大事。
ちゃんと自分が“呼ばれてる”場所にだけ行ける技術っていうかさ。
自分がどこに呼ばれているかがわかる。それに長けている人が成功するんじゃない?
天野
めっちゃくちゃ分かる気がします…!!
後藤さん
イチローだってさ、あれは“野球に呼ばれた”わけでしょ?
後藤さん
逆に、才能があっても結局不祥事を起こしてしまうような野球選手とかは、たぶん呼ばれてる場所に行くのが下手なんだと思うんだよね。
天野
ああ…
すごいピンとくるたとえ(※後藤さんは無類の野球好きです)
「呼ばれた場所に行く」感覚を鍛えることはできるのか?
天野
でも…どうやったら「呼ばれた場所だけに行く」ことができるんでしょうか?
後藤さん
もちろん身体的なセンスがいいってことは必要だけど、あとは訓練、準備しておくことなんじゃないかな。
「訓練、準備」…?
後藤さん
前に、中高生に「勉強ってなんでしなくちゃいけないんですか?」って質問されたことがあるんだけど、それって“呼ばれたとき”にすぐ行けるような準備をするためなんだよね。
普通の仕事してて、いきなりハッと「研究職になりたいかも」って思っても、勉強という準備が不足してると行けないっていう。
条件が整ってないと、適切な場所には行けない。
天野
それで言うと、後藤さんは自身のキャリアを振り返ってみてどうだと思います? 呼ばれたときに応えてきたんでしょうか?
後藤さん
呼ばれたところに来てるから、今ここにいられるとは思ってるけどね(笑)。
実際、言葉では説明がつかないことだらけなんだよね…
高校生まで野球しかしてなかったから、もともと音楽やるなんて思ってなかったし。
「音楽って何?みたいな人だった」
天野
そうなんですか?
後藤さん
それがテレビでoasisっていうバンドを見て、「あ、ギターやんなきゃな」って思って買ってきて…
友達に「さびしいからついてきて」って言われて、受けるつもりもなかった大学を受験して入って…
それで軽音楽サークルに入ろうとして、集合場所を間違えてたまたま出会ったのが喜多くん(アジカンのギタリスト)だし。
天野
すごい偶然だ…。“呼ばれた”タイミングで応えつづけた積み重ねがあって、今があるってことなんですね。
後藤さん
…なんて言ってたら「お前、ずいぶんと自己評価が高いんだな」って言われそうだけどさ(笑)。まあ振り返ってみて今のところは後悔してないよね。
自分の人生も“まだあと少しある”と思ってるから、また何かに呼ばれるかもしれない。ヘンなところに行っちゃう可能性もいつだってあるし。
だからこそ、「ちゃんと耳を澄ますような生き方」をしていかないとと思うよね。
天野
後藤さんの考える“いい若手”の条件は、「まわりからの評価に揺るがないし、無意味な反発もしない人」「悪口言わない、逃げない人」「自分が“呼ばれてる”場所に行けるセンスがある人」…
めちゃくちゃ貴重なお話をありがとうございます。
後藤さん
エラそうに語ったわけだけど、若い人を評価するって、何より難しいことなんだよね。
天野
そうなんですか?
後藤さん
人の才能を測ろうなんて傲慢なわけですよ。未知の何かを測ろうとしてる行為だから、神の視点かよって話でしょ。
音楽の魅力や良し悪しは言語化できることだけじゃないし、「打率3割だからOK」とか、そういう数字で表すものでもないしね。
「評価してるあなたはどうなんですか?」って言われたときに、責任を引き受けなきゃいけないし、俺なんかが評価していいのかなっていう思いも常にある。
だからこそ、次の世代が少しでも活動しやすい世の中にするっていう大義を持ってやっていかなきゃとはずっと思ってますね。
考えながら、ていねいにお答えいただいた後藤さん。ありがとうございました…!
「どんなイシューにも当てはまりますが、将来の世代に『夢も希望もない』と思わせてしまうのは嫌だなと思います。ましてや、そういう時代を僕らが用意したのならば、それは責任重大だなと思うのです。より良い環境を作って、それを手渡してから去って行きたい。音楽についても、同じように思います」
自身が立ち上げた音楽賞「APPLE VINEGAR Music Award」についてのブログで、後藤さんが記した言葉です。
「次の世代への責任感」と、現状を変革しようという強い意志。インタビューのなかでも随所に感じることができました。
そんな後藤さんから学んだ、3つの「いい若手チェック項目」。ぜひ日々の仕事に活用してみてください!
また、近日公開となる後編記事では、さらに踏み込んで、後藤さん流の「音楽業界変革プロデュース案」、さらには社会への提言をうかがっています。お楽しみに…!
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
「APPLE VINEGAR Music Award」
後藤さんが2018年に立ち上げた新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞。
文学界での芥川賞を参考に、デビュー・アルバムに限らず、ミュージシャンがそのキャリア初期に発表した作品を評価する仕組みを作り、今後の作品制作をサポートする賞金を贈呈することで若手ミュージシャンを応援できれば、という思いでスタートしているそうです。
気鋭のミュージシャンたちの作品に、新R25読者のみなさんも、ぜひ触れてみてください。
約3年ぶりのソロ作品「Nothing But Love」が3月13日から配信中!
Gotch名義のソロ作品は、シモリョー(the chef cooks me)との共同プロデュース。スローなグルーヴ感あふれる楽曲に仕上がっています。
13日にはYouTubeにMVも同時公開。ぜひチェックしてみてください!
5月には、アジカン全国ツアーがスタート
「ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2020 酔杯2 ~The Song of Apple~」が、5月21日のZepp Sapporoを皮切りにスタート!
NOT WONK、東郷清丸、Jurassic Boys、君島大空(独奏)など、毎回若手ミュージシャンをオープニングアクトに迎えるスタイルを、ぜひ間近で見届けよう。
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