ビジネスパーソンインタビュー
「『ミュージシャンだから黙ってろ』っていうのはおかしい」
「ネットのコメント欄ばかり気にして活動する必要はない」アジカン後藤が提案する音楽業界変革案
新R25編集部
さまざまな業界で活躍する人に話を聞くと、そのポジションにいるからこその「視点の高さ」に気付かされます。
視点を高く持っているからこそ、「今のままではダメだ、もっと改革する必要がある」と常に考えている。
そんなトップクラスの方の「業界改革プロデュース案」を聞いてみたい…。
お話をうかがったのは、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマン、後藤正文さん。
Gotch名義の約3年ぶりとなる新作「Nothing But Love」が3月13日よりリリースされています。
常々、SNSやメディアを通して音楽業界や社会への思いを発信している後藤さんに、「音楽業界をこう変革したい」という考えをきいてみました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
「ビジネスは苦手。アジカンはずっとスベりつづけてますよ(笑)」
天野
「CDが売れない時代」と言われてだいぶ経ちますが、後藤さんは日本の音楽ビジネスに対し、「こう変えたい」と思っていることはありますか?
後藤さん
ビジネスか…。俺、お金の話とか全然ダメでね。
苦手なんですよ、商売は。
天野
そうなんですか? フェスも主催していましたし、プロデューサー的な感覚をお持ちなのかと…
後藤さん
いやいや。だって、どうしてアジカンがこんなにヒットしないのかわからないもん(笑)。
「ずっとスベりつづけてる」と思ってますから。
メンバーに申し訳ないなって。
「昔はグラストンベリー(イギリスの有名音楽フェス)に出たいとかいう野心もあったけど、ここ5年ぐらいで現状を受け入れられるようになってきた」という後藤さん
「どこからでも、天才が生まれる社会に」“機会均等”を音楽業界で牽引したい
天野
スベッてるなんて思ったことないですけど…
後藤さん
まあ、いわゆる「ビジネス」は苦手かもしれないけど、音楽業界っていうことで言えば、“社会の豊かさにもっと貢献しなきゃ”っていう危機感はあるよね。
後藤さん
今回のコロナの騒動でもそうだけど、音楽やライブって、いとも簡単に悪者にされちゃうわけ。
社会からゆとりが失われると「音楽をやる場所がなくなっちゃう」っていうのは9年前(震災のとき)に痛烈に味わってるわけで…
だからこそ、本来は音楽業界全体で“社会の豊かさ”に普段から貢献しないといけない。ライブを観て「わあ楽しい!」っていうのもいいんだけど、その楽しさを享受できる前提となる“豊かさ”に意識的じゃないとマズいんじゃない?って思いますね。
天野
なるほど。“社会の豊かさ”というのは、具体的にどういうことなんでしょうか?
後藤さん
豊かさっていうのはさ…
俺は「どこからでも天才が出てくる世の中」にしたいって思っているのね。
文化的な機会が均等だからこそ、いろんな場所から天才が生まれるっていう。
天野
どこからでも天才が生まれる…!?
後藤さん
適切な例かわからないけど…たとえば小沢健二さんは多くの人が認める天才だけど、彼のバックグラウンドには豊かな文化資本があるはずじゃない?
いろんな音楽やアートに子供のころから触れて、その才能が開花したと。
それ自体は素晴らしいことだけど、もっといろんな環境からでも天才が生まれるような社会を、みんなで求めていきたいよね。
天野
なるほど。
後藤さん
だから「インターネットは最高」って思う。
天野
インターネットは最高…!
後藤さん
インターネットのおかげで、自分たちの若いころと比べたら、さまざまな文化にアクセスしやすくなってるよね。経済格差や地域格差を飛び越えることができるようになった。
さらに望みを言えば、豊かな文化のライブラリが用意されていて、誰もが安く手に入る端末やアプリケーションでそこに接続できる…。そういう環境も含めて、「文化的な最低限度の生活」だと政府が考えてくれたらいいのに、みたいな気持ちはあるけどね(笑)。
天野
そういった「文化的な機会が均等」な世の中を、音楽業界としてもつくっていきたいと。
後藤さん
たとえば社会の全員が「ストリーミングサービスの音楽聞き放題プランに入れる」とか、「映画を月1本は観られる」くらいの時間と金銭的な余裕が保障される世の中になったら…
生まれ育った環境にかかわらず、社会が抱える文化資本にどこからでもアクセスできるようになれば、「こんなヤツいたのかよ!?」っていうような天才が出てくるかもしれないよね。
後藤さん
これはきれいごとで言ってるわけじゃなくて、そういう豊かさがないと俺たちの音楽も聴いてもらえないよね。
経済的な理由でアジカンの音楽を聴けない人がいるってことは、俺たちにとっても損失だから。誰もが音楽を気軽に楽しめるような豊かさを、社会に求めるのは、そういう理由もある。
「エンターテインメントの業界はクレームを聞かないほうがいい」
天野
「社会の機会均等」という話が出ましたけど、後藤さんは、Twitterでも政治・社会問題への発言を積極的にされていますよね。
後藤さん
職業がなんであれ、社会に対して発言するのは当然でしょって、俺は思うなぁ。
少なくとも「ミュージシャンだから黙ってろ」っていうのはおかしいよね。
後藤さん
別に誰しもが何かを言う必要があるとは思ってないけど、たとえば僕より少し若いミュージシャンって「自分はよくわからないから」っていう人が多い印象なんだよね。
でも歌詞とか書いてるわけだし、「楽屋でずっとモンハンやってる時間あるなら、本ぐらい読めよ」とは思う。
まあ僕もファミコン世代だから、ゲームが楽しいのはめちゃくちゃわかるんだけど(笑)。
天野
それこそ“音楽フェスに政治を持ち込むな”という批判が話題になったこともありましたね。
後藤さん
本当に、どんなものに対しても「大して好きでもない人がひどい言葉を投げつける時代になっちゃった」と思うね。
後藤さん
たとえばコロナの件でミュージシャンやライブハウスにクレームを送ってる人って、普段ライブハウスに来てるのかなっていう疑問がある。
ライブを決行したバンドに片っ端から「失望しました!!!」みたいなこと送ってる人もいるけど、「いや、お前普段来てないだろ」って(笑)。
天野
たしかに…
後藤さん
議論するのはいいことだけど、通りすがりに投げつけられる言葉をまともに取り上げるのはちょっと違う。
ネットの“コメント欄”をあまりに気にして活動する必要はないじゃん。
後藤さん
でもそこらへんが、今は企業も表現者も圧倒的に弱い。
言いがかりに近いようなクレームの電話なんかガチャン!って切ればいいんだよ(笑)。
天野
そんな強気の対応できるんですか…?
後藤さん
いやマジメな話、クレームや意見を尊重しすぎることによって、表現のテイストが似て、当たり障りのないものになってる状況があると思うんだよね。
映画館にときどき行くと、「余命わずかの…」とか「死んだ人が期間限定で生き返って…」みたいな、似たようなテーマの映画ばっかりやってるじゃん(笑)。
それって製作サイドはみんな、リスナーや視聴者を低く見積もってるつもりはないわけ。だけど、いろんな立場の人の意見を聞こうとしてるうちに、結果的に観客をバカにしたようなものができてしまうと思うんだよね。
「“正史”に残らない、“民俗史”の音楽の歴史をつなげたい」
天野
若手ミュージシャンを評価するために、自費で「APPLE VINEGAR Music Award」という音楽賞を立ち上げたのも、音楽業界を変革したいとい気持ちがあったからなんでしょうか?
後藤さん
具体的に言うと、歴史に残らない音楽がたくさんあることを疑問に感じたっていうのかな。
天野
歴史に…。どういうことですか?
後藤さん
これ新R25の文字数に収まらないかもしれないんだけど…
たとえば、アメリカのグラミー賞って、誰がどういう賞を獲ったかっていう年表が未来に残されていってるじゃない。
歴史の短い国だからこそ、近現代の文化史を書きつづけてるような行為だなと思うのね。100年、200年続けたら立派な歴史になる。
後藤さん
日本で、そういった音楽賞の歴史があるとしても、戦後の芸能界の歴史しか年表に載らない状況なわけじゃん。
もちろんそういう音楽を否定するつもりはないけど、“正史”(国家的に公式とされる歴史書)の年表からこぼれ落ちるような音楽がたくさんあって、50年後に記録が残らないんじゃないかっていう危機感があるんだよね。
天野
今の業界を変えたいというよりも、将来まで続く“歴史”を意識しているんですね…
後藤さん
俺たちの音楽が歴史に残るかはさておき、正史に載らない音楽を“民俗史”的に将来へ残す文脈を作っていかなきゃいけないと思う。たとえば、現代の日本人が琵琶や三味線を気軽に弾けないように、文化の連なりっていうのは簡単に途切れたりするから。
自分が死んでも社会は続くわけで、音楽でも環境でも社会でも、次の世代にいいバトンを渡さないと、将来の世代から「自分たちさえよければよかったのかよ、ダサっ!」って思われちゃうでしょ。
だから、業界をどうこうっていうよりも、次の世代に何を残せるかってことを考えてますね。
音楽業界のみならず、社会全体に対する展望を語ってくれた後藤さん。
言葉の端々から「次の世代に、どんな社会を残せるか」という想いが感じられました。
僕らがふだん当たり前のように行っている“音楽を楽しむ”という行為も、社会や歴史と深く関わっている…。
そう考えると、ストリーミングサービスを開く意識も明日から少しだけ変わってくるかもしれません。
〈取材・構成=天野俊吉(@amanop)/文=川崎龍也/撮影=中澤真央(@_maonakazawa_)〉
「APPLE VINEGAR Music Award」
後藤さんが2018年に立ち上げた新進気鋭のミュージシャンが発表したアルバムに贈られる作品賞。
文学界での芥川賞を参考に、デビュー・アルバムに限らず、ミュージシャンがそのキャリア初期に発表した作品を評価する仕組みを作り、今後の作品制作をサポートする賞金を贈呈することで若手ミュージシャンを応援できれば、という思いでスタートしているそうです。
気鋭のミュージシャンたちの作品に、新R25読者のみなさんも、ぜひ触れてみてください。
約3年ぶりのソロ作品「Nothing But Love」が3月13日から配信中!
Gotch名義のソロ作品は、シモリョー(the chef cooks me)との共同プロデュース。スローなグルーヴ感あふれる楽曲に仕上がっています。
YouTubeにMVも同時公開。ぜひチェックしてみてください!
5月には、アジカン全国ツアーがスタート
「ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2020 酔杯2 ~The Song of Apple~」が、5月21日のZepp Sapporoを皮切りにスタート!
NOT WONK、東郷清丸、Jurassic Boys、君島大空(独奏)など、毎回若手ミュージシャンをオープニングアクトに迎えるスタイルを、ぜひ間近で見届けよう。
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