ビジネスパーソンインタビュー
三戸政和著『営業はいらない』より
訪問営業も人脈もテクノロジーに代替される。10年後に“営業職”がなくなる2つの理由
新R25編集部
「AIの発達によって人間の仕事が奪われる」といった話は、誰でも聞いたことがあるでしょう。
特に複雑なヒアリングや、心に寄り添うホスピタリティサービスなど、コミュニケーションスキルを必要とする“営業”こそ、「近い将来いらない仕事になる」と、日本創生投資・代表取締役社長の三戸政和さんは、著書『営業はいらない』の中で断言しています。
もし本当に、営業をはじめとする“今当たり前にある職業”が、近い未来になくなるのであれば、私たちはこの先どのようなキャリアプランを立てていけば良いのでしょうか。
その答えを探るために、今回は同書より“営業”の現在から、今後営業マンが生き残るための未来について抜粋してお届けします。
10年後、営業はなくなる
私は10年後には営業という概念がなくなっていると確信している。
大量生産、大量消費を煽ってきたビジネスモデルから、 「本当に必要なモノやサービス」だけが生き残る時代に移行すると考えているからだ。
「本当に必要なモノやサービス」へのアクセスは、今や非常に容易となった。
Googleの検索窓に文字を打ち込めば、ものの数分で情報にたどり着き、自宅にいながらにしてモノが購入できる。
AI時代に入れば、インターネットに埋もれる膨大なモノや情報の中から「自分に必要であろう」情報が自動的に送られてくるようにもなっている。
しかも未来はより進化していて、購入履歴のみならず、サイトの閲覧履歴、SNSの投稿履歴、スマホを介した位置情報の履歴など、あなたの生活や嗜好のすべてをAIが分析し、より質の高いレコメンド(推薦)を行ってくる。
でもそこには、一切、人が介在していないことを私たちは忘れてはいけない。
そんな「営業がいらない時代」が忍び寄ってきている事実に、もう気づきはじめている人も多いのではないだろうか。
営業がなくなる理由①営業の役割を果たすテクノロジーが増えている
これまで1000社以上のベンチャー企業を見てきた鍛錬の結果、今、私は「営業はテクノロジーに置き換えられる」と確信している。
ただそう言うと、こんな反論が出るかもしれない。
「たしかに小売店型BtoCの営業や、BtoBの購買やルートセールス的なルーティンタスクの営業は不要になるかもしれない。でも顧客を訪問してヒアリングし、提案するといった、複雑なノンルーティンタスクはなくならないはずだ」と。
しかし、そう思っている人は想像力に大きく欠ける。
欧米ではすでに顧客を訪問してヒアリングし、提案するといった複雑な営業プロセスまでもが、テクノロジーに置き換わりはじめている。
「営業」と聞いたとき、多くの人が真っ先にイメージするのは、客先を訪ねる「訪問営業」だろう。
これは「フィールドセールス」と呼ばれるものである。
一方、社内にいながら消費者にアプローチする内勤型の営業手法を、 「インサイドセールス」という。
アメリカでは、なるべく訪問を行わずに営業を完結させようと、メールや電話を使ったインサイドセールスの技術を発展させ、営業の効率化を図った。
フィールドセールスをできるだけなくし、可能な限りインサイドセールスでの営業を進化させていったわけだ。
もちろん、現時点では足りないことも多くあるが、これから数年で、AIやビックデータがたゆみない進化をもたらし、一人の営業マンでは到底できない活動にまで昇華するであろうことは、ここまで読み進めてくれた読者の方々は理解できるだろう。
アメリカで起こっている波は、今後、必ず日本にもくる。
営業マンが築いている「人脈」もテクノロジーでカバーできる
もう一つだけ、よくある反論に応えておきたい。
それは「人脈、特に意思決定権を持つ人へのアクセスは、テクノロジーでは置き換えられない。人と人とのつながりによって築くしかない」という意見だ。
つまり、営業マンが築いている「人脈」のようなものは、テクノロジーには代替されないという話だ。
しかし実は、これが一番テクノロジーに置き換えられやすい。
法人向けクラウド名刺管理サービスSansanのCMを見たことがある人もいるだろう。
営業マンの上司役である俳優の松重豊氏が、「この人と知り合いだったら...」と頭を抱えているところに、部下が「その方、面識ありますよ。名刺交換も済んでます」と答え、「それさぁ、早く言ってよ〜」と言うセリフが印象的なあのCMだ。
Sansanが提供しているのが、社内で名刺情報を共有して営業効率を上げるためのツールである。
このツールでは名刺が共有されるだけでなく、コメント機能もついているため、それぞれの顧客の名刺を介して社内のコミュニケーションが円滑になる。
同じ会社に勤めていても、部署や事業所が違えば面識のないことが多い。
それが、 各人が保有する顧客の名刺を介して「〇〇さんとつないでくれませんか?」というやりとりが発生するのだ。
また、〇〇さんの趣味や嗜好などを一度訪問した社内の誰かが書き込んでいれば、それが社内で共有され、新しく訪問する人にとっては、営業攻略の一つの大きな武器となる。
つまりSansanは、社内への顧客引き継ぎや顧客紹介といった営業マンの仕事をツール化した上に、膨大な情報を一度に共有することができるべく進化しているのだ。
かくして、あらゆる分野のあらゆる営業マンの業務が、テクノロジーに代替される時代はもう足元まできている。
「私が現役の間はまだ大丈夫だろう」などと呑気なことを言っていられる時代は、もうとうの昔に終わっている。
営業がなくなる理由②見栄に興味がない消費者が増えたから
あなたも耳慣れているだろう「マイホーム」という言葉。
この単語自体が、「我が家を持つべきですよ」と煽りたててくる。
人口減少社会において世の中がこれだけ空き家問題で困っているのに、わざわざ新築を建てる理由などどこにもない。
しかし、 顧客に夢を見させ、気持ちを煽り、必要のない高価な新築物件を何十年ものローンで買わせる。
これは住宅業界に限った話ではない。
生命保険や自動車業界も、同じような構造になっている。
「入っておかないと、いざというとき困るから」
「自動車くらいは持っていないと」
「いつかはクラウン」
というフレーズも、マッチポンプ的な煽り営業の最たるものだ。
消費者に対し、カローラからエントリーして、いつかはクラウンに乗れるように...。
そんな夢を抱かせることで、次々と車を買い替えさせる。
このように大量に作っては顧客の購買意欲を煽り、大量に売りつける。
日本にはこれが、営業の主流を占めていた時代があった。
しかしもはや、そういった旧来型の営業パターンが通用する時代ではない。
話はそれるが、私はいわゆる高級ホテルのレジデンスを住まいにしている。
こういうのも何だが、富裕層ばかりが住んでいる場所であることは間違いない。
だから入居するまで駐車場には、レクサスやセンチュリーといった「いわゆる高級車」が並んでいるのだろうと思っていた。しかし実際はまったく目にしない。
そこに出入りする車は、みな示し合わせたかのように、アルファードなのだ。
ここから垣間見えるのは、「他人からどう見られるか」といった見栄にはあまり興味がない現在の成熟した消費者の姿だ。
自分がいかに快適に過ごせるか。そのような実用性こそが重視されているのである。
移動が目的なのだから、広くて快適なほうがいい。わざわざ3倍のお金を払って、狭い高級車を買うことはないのである。
「ちやほやされたい」「よく見られたい」という社会欲求は、今後ますます購買行動から切り離されていく。
なぜならモノがあふれる時代においては、モノを所有することはステイタスでなくなると同時に、ステイタスを誇示することで承認欲求が満たされる時代は終わりつつあるからだ。
営業マンはどうサバイブする?これからの未来に備えたい一冊
営業をはじめ、今ある“当たり前”がなくなる未来。
そんな激動の時代を生き抜くためには、国内だけではなく世界各国のビジネスの動きを把握し、理解を深め、未来に備える癖を今から身につけていくことが必要です。
その一助となってくれそうな一冊が、三戸政和さんの『営業はいらない』。
ぜひ一度手に取って、これから先10年ほどの間に変容する未来と、その未来で生き抜くための選択肢に触れてみてはいかがでしょうか?
きっと今後のキャリア選択に必要な視野を養ってくれるはずです。
〈撮影=大参久人〉
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