ビジネスパーソンインタビュー
トップにいるからこそ考える、「変革」。
「“知ってもらう力”を含めて強さです」那須川天心が考える“格闘技界を盛り上げる方法”
新R25編集部
さまざまな業界のトップにいる人に話を聞くと、トップにいるからこその「視点の高さ」に気付かされます。
視点を高く持っているからこそ、「今のままではダメだ、もっと改革する必要がある」と常に考えている。
そんなトップクラスの方の「業界改革プロデュース案」を聞いてみたい…!
【那須川天心(なすかわ・てんしん)】1998年生まれ、千葉県出身。キックボクサー、総合格闘家。通算成績は39戦39勝。“神童”と称される、日本を代表する格闘家
今回取材のチャンスをいただけたのは、“日本格闘技界の至宝”とも称されるRISE世界フェザー級王者。弱冠21歳の格闘家・那須川天心選手です。
天心選手の活躍もあり、盛り上がりを見せる格闘技界ですが、まだまだ「あまり見たことがない」というR25世代もいるはず…。
「もっと格闘技に興味を持つ人を増やすために、天心選手ならどんなプロデュースをしますか?」と聞いてみました。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
知ってもらう努力をしてないなんて「本気でやってるのかな?」
天野
格闘技界のスターにこんなこと聞くのも気が引けるんですが…
天心選手から見て、今の格闘技界に足りないと思うことってあるんでしょうか?
那須川選手
やっぱり、プロモーションが全然足りないと思うことはありますね。
こういう取材とかされるのも、待ってるんじゃなくてこっちから頭下げてお願いしにいかなきゃダメだなって思ってます。
ありがたいお言葉…。事前に「天心選手はめちゃくちゃいいヤツ」と聞いてましたがその通りだった…
那須川選手
選手がアピールするのも、今まではマイクパフォーマンスぐらいしかできなかったけど、今は個人でなんでもできますよね。
天野
たしかに、天心選手はSNSもかなり積極的に使われてますね。
那須川選手
知ってもらう努力って大事ですからね。
正直その努力をやってない人を見ると、「この人本気で格闘技やってるのかな?」って思っちゃいますもん。
今の時代、そういう発信力も含めて強さだと思います。
無敗の男がこう言うんだから説得力があります
天野
なるほど…格闘技をもっと人気にするために、どんなSNSの使い方がいいと思いますか?
那須川選手
そういうときって、自分たちにしかできないことをやるべきなんですよね。「格闘家にしかできないこと」をやるべきだと思います。
たとえば、試合中の面白いところだけを、10秒、15秒ぐらいの動画にまとめてSNSに上げてみる。TikTokに上げるとか、いいかもしれないですね。
今の格闘技って、動きが複雑だから部分部分を切り抜いても面白いんですよ。
SNSネイティブな那須川天心
テレビに出て気付いた「いいものをつくるなら、人を増やすべき」
天野
天心選手はテレビのバラエティ番組とかにもよく出演されてますよね。
テレビに出てみて気付いたことってありますか?
那須川選手
テレビは全員すごいですね…出てる全員が「何かあったら行ってやろう」って必死になってるんですよ。
ホント、全員すごいです…!
ちなみに、最近スゴイと思った人は「フワちゃん」とのこと
那須川選手
SNS以上に、なんだかんだ影響力も一番大きい。
最近、テレビを見て、「格闘家」だって知らずに僕のことを知ってくれてる人もいるんですよ。
天野
何の人だと思われてるんですか?
那須川選手
『逃走中』で逃げてる人って…
いち「逃走者」・那須川天心
那須川選手
あと、テレビの現場に行って思ったのは、携わってる人数が多いですよね。
ひとつの番組作るのに、こんないるのか…!ってビックリしました。「この人はこの仕事をやる人」って細かく分かれてて。
それを見て、よりよいものを作ろうとしたら、人を増やすことって必要だと思ったんです。格闘技ももっと人を増やしたほうがいいはずなんですよね。
天野
いいものを作るなら人を増やすべき…いろんな会社で共感する人が多そうです…
もし格闘技界を変革するために人を増やすなら、どんな人を増やしますか?
那須川選手
選手にずっと付きっきりのカメラマンとかどうですか。
練習とか、普段の生活とかにずっと密着して、動画で撮ってるんですよ。
天野
それはどういう意図ですか?
那須川選手
人の「個」をもっとピックアップしたいんですよね。今はそこまで個性が見えている選手がいないから応援しづらいのかもしれない。
別に面白いこと言わなくてもいいんです。喋らない選手なら、ずっと喋らないところを映してればいい。「あ、本当にこういう人なんだ」っていう「個」が伝われば、個人として応援したくなるじゃないですか。
選手自身だとそれは難しいから、そこをサポートできる人がいるといいなと思います。
納得感めちゃくちゃ高いです…!
天心選手から飛び出した、まさかの「プロレスを取り入れる」案
天野
試合やイベント自体を天心選手がプロデュースするとしたら、どんなことがやってみたいですか?
那須川選手
たとえば、街でちょっとケンカみたいに揉めてたら、おいおいなんだよって見に行っちゃうことってありますよね。
天野
ありますね。
那須川選手
ああいう感じもヒントになるなと思ってて。つい目が行ってしまう、興味を持ってしまうみたいな。
どっか外でリングを作って、いきなり試合をやっちゃうとか、面白いと思うんですよね。路上プロレスみたいなイメージなのかな。
天野
まさに路上プロレスですね…!
よく格闘家の方から「プロレスとは違う」っていうような話を聞くことも多いと思うんですが、そういう要素を取り入れてもいいんでしょうか?
那須川選手
もちろん格闘技に誇りは持ってるし、そこがブレたらダメですけど、「自分はこれだけ」っていう感覚は、もう違うんじゃないかなと思いますね。時代に合ってない。
ほかの競技やエンタメのいいところを持ってくるほうがいいと思います。
天野
なるほど。
那須川選手
なんでもそうだと思うんですけど、「自分はこれ」っていう村しか知らないと、そこがすべてになっちゃう。
SNSで自分の好きなものしかフォローしてなかったら、そこが世界のすべてになっちゃうじゃないですか。格闘技界の人が、業界の人だけフォローしてたら、「じゅうぶん盛り上がってんじゃん」って思うだろうし。
那須川選手
でも、それってここだけ(「村」の中だけ)なんですよ。
ここ(自分がいる業界の外に広がっている世界)を大きくして、客観的に見ないと。
たとえば今、プロレスがなんであんなに盛り上がってるかっていえば、ストーリーがあるからだと思うんですよね。
選手たちが選手を演じてて、彼らをどう戦わせて、どういう作品にしようっていうストーリーがうまい。そういう要素をどんどん取り入れていったら面白いと思います。
競技を象徴する「場所」をつくるべき
那須川選手
あと、格闘技の専用スタジアムつくるってどうですか?
「場所がある」って大きいと思うんですよね。
天野
その競技の象徴的な場所をつくると。
那須川選手
そうですそうです。「相撲といえば国技館」「野球といえば東京ドーム」っていうのがあるじゃないですか。いろんな状況が変わってくると思いますね。
天野
つくるならどこがいいと思います?
那須川選手
原宿とか。高そうだなあ(笑)。
原宿にスタジアムがあれば、女子が来てくれるようになるかもしれないし…。試合やってないときは格闘家がイベントやってる、とかいいですね。
天心選手が影響を受けている「プロデューサー視点の人」はあの人だった
天野
アイデアがどんどん出てくるので驚いてます…
「プロデューサー視点」という意味で、天心選手が影響を受けてる人とかっているんですか?
那須川選手
本田圭佑選手ですね。
今、サッカークラブをつくってるじゃないですか。ああいう行動を常に起こして、サッカーを盛り上げてますよね。
天野
「One Tokyo」ですね。都の社会人リーグ4部からスタートするという…
那須川選手
この間、武井壮さん(「One Tokyo」監督に就任)と共演させてもらって「お前もチーム入ってくれよ」って言われたんですよ。「スポーツできるなら入ってよ」って。
天野
ええ!!!
スポーツできるならって…
那須川選手
僕、球技苦手なんですけど、やってみたい感じはありますよね(笑)。
「こいつ、サッカー下手じゃん」って思われて、そこから「あ、格闘技の選手なんだ」って知ってくれればいいと思います。
「那須川天心、サッカー下手」って見出しが広がってたら面白くないですか?(笑)
天野
武井壮さんもどこまで本気なんですかね…
ちなみに、本田選手に影響を受けてるのはどんな点ですか?
那須川選手
ゴーイングマイウェイなところですね。サッカーっていう枠にとらわれてないのに、それがサッカー界のためになってるっていう。
僕もそういう柔軟な考えでいたいんですよね。
叩かれたりするけど、そういう人がいるからこそ業界が発展するんだなと思います。
天野
たしかに、自分も仕事をしていて、業界とか既存の仕事とか「枠にとらわれてるな」って思うことがよくあるんです…
ビジネスパーソンが「枠にとらわれない変革」を起こすのって、どうしたらできると思いますか?
那須川選手
自分に自信を持たないとダメだと思うんですよね。
今までと同じことしかできないのは、自分に自信がないから。
天野
シンプルだけど間違いない答えだ…
那須川選手
時代の変化ってすごい速いですからね。今、普通にできているからって、慣れて“こなす”ようになったらダメなんですよね。
僕は勝ったとしても、勝ち方がよくなかったりすることもあるので、「現状に満足できない」っていう気持ちが強いんです。
自分に自信を持って、「仕事をこなさない」ことじゃないですかね。
格闘技の不幸を繰り返さない。「自分がつくっちゃえと思っていた」
天野
今日はたくさんのプロデュースアイデアをいただきましたけど、天心選手が枠にとらわれずに柔軟な発想ができるのはなぜなんでしょうか?
那須川選手
昔やってた「K-1」は、僕が中学生のころに一度なくなっちゃったんですよね。
同世代の人が、それで格闘技をやめちゃったりしたところをけっこう見てきたんです。だから、そういうことはもう起きてほしくない。
天野
業界を背負っている責任があるんですね。
那須川選手
そうですね…
僕は当時から「だったら俺がそれ(新しい格闘技ブーム)をつくればいいんじゃないか」って思ってたんですよ。
天野
え、中学生当時からですか?
那須川選手
はい。それができる根拠とかは何もないんですけどずっと思ってて。
だからこそ今こうしてプロになって、格闘技が盛り上がるかどうかは自分次第だなって思ってるところがあるんです。
天野
“背負ってる”のレベルが違う…!
今日はありがとうございました!!
「自分の現状を変えたい」とは、なかなか本気で思えないもの。ましてや現状がうまくいっているならなおさらです。
しかし、すでにスターの座にいる天心選手は、「常に現状に満足できない」と繰り返しました。
責任感があるからこそ、ときに枠を飛び越えて、批判されるような行動を取ることもできる。
そんな天心選手が“枠にとらわれない活躍”を続ければ、格闘技界の明るい未来は間違いないと感じました。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=長谷英史(@hasehidephoto)〉
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