ビジネスパーソンインタビュー

宇野常寛が「SNSで人を叩く人はバカになる」と語る理由と、抜け出すための2つの“武器”

「自分もインターネットも、ゆっくり変えていきましょう」

宇野常寛が「SNSで人を叩く人はバカになる」と語る理由と、抜け出すための2つの“武器”

新R25編集部

2020/02/21

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みなさんはインターネットで発信をしていますか?

誰もが自由に発信できるようになった現代。一方的にニュースを観ていたころと比べて、僕らの日常には「考える時間」がかなり増えたような気がします。

しかしその一方で…「この四半世紀、インターネットやSNSで発信する人の何割かは、確実に愚かになっている」と発言するお方が。

それが…

【宇野常寛(うの・つねひろ)】1978年生まれ。株式会社PLANETS代表取締役、批評誌<PLANETS>の編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)、『母性のディストピア』(集英社)、『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』(朝日新聞出版)など多數

今月、書籍『遅いインターネット』を上梓した評論家・宇野常寛さん。物事の本質をとらえる鋭い視点で、数々の問題提起を世に投げかけてきた宇野さんですが、いったいどんな真意で仰っているのか…?

直接お聞きしてきたのですが…これは、本気でSNSとの向き合い方を見つめ直さないとマズイかもしれません…

〈聞き手=サノトモキ〉

サノ

「インターネットで発信するほどバカになる」って、いったいどういうことなのでしょうか?

僕らがニュースや世の中で起こってることについて考える時間って、SNSのおかげで明らかに増えた気がするんですけど…

宇野さん

たしかに、インターネットで個人が発信できるようになったとき、多くの専門家は「発信能力を得ることで、人類は前に進める」と信じていたんですよ。

単に情報を受け止めるだけじゃなく自ら発信することで、より深く、多角的にものを考えられるようになるだろうって。

サノ

ですよね!?

むしろ僕たち、賢くなってるんじゃ…!?

宇野さん

いや、残念ながら多くの人は確実に愚かになってますよ

僕らは予測できていなかったんです。インターネットがこれほどまでに人間を“思考停止”させてしまうなんて

宇野さん

ただ、まだすべての人がそうなってしまったわけじゃない。

今日は、今のインターネットの発信のあり方に違和感を覚えている方々のために、「バカになるSNSの使い方」と、そこから抜け出すための方法をお話しします

何それ絶対該当したくない…よろしくお願いします…

宇野さんが警告する「バカになるSNSの使い方」とは…?

宇野さん

「バカになるSNSの使い方」は大きく2つあるのですが…

まず、SNSを「人を叩くこと」に使ってる人たちは、確実にバカになっていきます

今のTwitterって、“目立ちすぎた人や失敗してしまった人にうまく石を投げた人間がたくさん座布団をもらえる大喜利”で埋め尽くされてますよね?

うわ…めっちゃわかるわこれ…

宇野さん

彼らは自分を肯定するために、週に1度誰かが池に落ちるのを待っては、石を投げて「自分もあいつよりはマシな、まとも側の人間だ」と安心しているんです。

たとえば、タイムラインの潮目を読んで、「これは叩くのが多数派だろう」と…つまり必ず勝てると判断できた瞬間に、池で溺れてる人に安全地帯から嬉々として石を投げ始める人、よく見かけますよね?

サノ

たしかによく見る嫌な光景だ…

でも、どうしてそれをすることで「バカになる」んでしょうか?

宇野さん

そういう発信を繰り返している人って、どんなニュースが流れてきても、「YESかNOか」の2択でしか価値判断ができなくなっていくんですよ。

態度表明すること自体は大事なのだけど、「今、世間的にはどっちに賭けると自分はよく見られるか」を「問題そのものを解決する」ことよりも優先して考えてしまうようになる。

結果として、SNSで人を叩いて安心してる人は、物事の本質を見抜いたり、解決したりする力を失ってどんどんバカになってるんですよ。

サノ

たしかに闇営業の問題とかも、「どう再発を防ぐか」とかより「あいつを許すな!」みたいな感じだったよな…

宇野さん

そして、「自分にとって都合のいい情報だけにアクセスしている人たち」も、バカになっていきます。

見たいものだけを見て、信じたいものだけを信じていたい」というのは有史以来人間が精神を安定させるために続けてきた特性ですが、情報に一瞬でアクセスできるようになったことでこの傾向により拍車がかかってしまった。

サノ

ああー…! それは僕も少し気をつけなきゃいけないかも…

宇野さん

これは、本人は自分の意見が補強されて“また一つ賢くなった”と勘違いしがちなんですが、結局は何度も似たような情報にアクセスして、「自分は正しい、大丈夫だ」と安心しているだけ。

知識も考え方も全くアップデートされないので、頑固で柔軟さのない思考回路になってしまうわけです。

宇野さん

結論、発信するほどバカになる人って、インターネットを「考える」ことから逃げて安心するための装置としてしか使えてないんですよ。

他人に石を投げるのも、都合のいい情報しか見ないのも、ようは「今の自分のままでいい」と安心したいだけ

これを「考えている」というのは、さすがに違和感がある。もはや、「考えないためのインターネット」とすら言っていいと思います。

今のネットに違和感を覚えている人に、“武器”を渡したい

サノ

今、多くの人がSNSを手軽な精神安定剤としてしか使えていないこと、それが思考力を奪っていることはよくわかりました。

では、そこから抜け出すにはどうすればいいんでしょうか?

宇野さん

はっきり言ってしまうと…「見たいものを見て信じたいものを信じる」という人間の習性は、この先も変えていくことはできないと思うんですね。

サノ

えっ…

宇野さん

ここまで読んで「安易にインターネットを乱用しちゃダメだ」って頭でわかったうえで、その快楽に打ち勝てない人はどうしても一定数いると思うんですよ。

僕は、ダメだとわかりながら目先の快楽に打ち勝てない人には、「そういう人生がいいならそれでいいんじゃない?」…としか感想が浮かばないです(笑)。

そういう人をなるべく減らすことと、そういう人たちの世の中への影響力をなるべく下げるための工夫がいると思うんですよね。

こんなところで今日イチの笑顔を見せる宇野さん

宇野さん

だから僕は、「今のネットのあり方に違和感を持っている潜在層の人たちの戦闘力をどう上げていくか」を考えたいと思ってるんです。

読者の方々のなかにも、誰かを叩いたり、盲目的に自分の都合のいい意見だけを取り入れたりする空気感に抗いたいと思ってる人たちが、少ならずいると思う。

サノ

たしかに、あの殺伐とした空気感に参加するのが嫌でSNSをやめたり、見る専門になったりしてる人たちって、僕らの世代にもけっこういる気がします。

宇野さん

そういう潜在層が今後どっちに流れるかで、これからのインターネットのあり方は大きく変わっていくと思います。

だから僕はそんな人たちに、今のインターネットから抜け出す“武器”を渡したいんです。

武器?

宇野さん

僕は今後、深く、本質的な思考ができる「遅いインターネット」をコンセプトにしたウェブマガジンと、併設するワークショップの両輪で、潜在層の人たちに「読み書き」を中心とした武器を渡したいと思っているんですが…

「0」「1」で考えだしたら、“思考停止”だと自覚せよ

宇野さん

ひとつめの武器は、「人についてはSNSで書かない」と決めること。

宇野さん

「ホリエモンがいいか、悪いか」には一切触れずに、「ホリエモンの語ってるシェアリングエコノミーがどうか」についてだけ書いてみるようなイメージです。

「人ではなく、モノやコトについて書く」という縛りのなかでTwitterをやってみてください。これだけで、全然変わりますから。

サノ

たしかに、「モノ・コト」縛りにした途端、Twitterめちゃくちゃ建設的な世界になりそうだな…(笑)。

宇野さん

あと、ここで肝心なのが「人」には「自分」も含めてください

自分がどう見えるかを気にし始めた途端、「モノ、コト」が自分をよく見せるための道具に成り下がって、本質についてまったく考えられなくなってしまうので。

だから僕は、「セルフブランディング」って言葉に飛びついてる人も本当に嫌いです(笑)。

ここまではっきり言われると逆に清々しい

宇野さん

そして、もうひとつ。

「モノ・コト」について発信するときには、「0」「1」で考えるのは絶対にやめましょう

サノ

「0」「1」で考える?

宇野さん

たとえば僕は以前、「僕は今回の選挙で政党Aに投票したけど、政党Aのこの点についてはダメだと思ってる」と発信したら、政党Aの支持者からものすごい攻撃を受けたんですよ(笑)。

同じ政党の支持者なのに…?

宇野さん

そういう人たちは、「0」「1」の価値観…つまり、自分が信じたいものは100%肯定して、その敵に当たるモノ・コトのことは100%否定する価値観で生きているんです。

だから、俺が支持してるこの政党に部分的にとはいえNOを突き付けるというのはお前どういう了見だと攻撃を仕掛けるわけですよね。

僕が「どっちもどっちだよ」と言って何も選ばなかったり、「どれも似たようなものだ」と態度表明を拒否しているなら、また別の観点から批判されても仕方ないと思うのだけど、僕は「相対的にAがいいと思う。でもAのここは変えてほしい」としっかり態度表明したうえで建設的な批判を述べたつもりなんです。それがダメだと言われたら、もう何も議論ができなくなってしまいます

サノ

なるほど…

宇野さん

でも、本気で考えた人って、「0」「1」の結論にたどり着くことはまずないと思うんですよ。

たしかに僕もその政党を支持したという結果だけを見れば「1」を選んでいるけど、正確には「0.6」とか「0.78」みたいな位置にいるんです。考えれば考えるほど、どの選択肢にもいいところと悪いところは見つかるはず。

なので、自分が「0」「1」のどちらかに100%偏ってしまっているときは、その時点で“思考停止”してると自覚したほうがいいと思います。

サノ

自分が支持する意見のダメなところ、対立する意見のイイところを一つも上げられない人は、“思考停止”。

これはめちゃくちゃ大事な気づきだ…!

サノ

毎日使ってるインターネットを、なんだか少し前向きに捉えられるようになった気がします。

宇野さん

いろいろキツイことも言ってしまいましたけど、とにかく…今のインターネットって何か息苦しいなとか、セカセカしていて疲れるなと思っている人に、言葉が届いたらいいなと思います。

今日もずっと、そういう人に話しかけているので。

べつに明日から変わろうとか極端なことは思わなくていいですからね。短期で変わろうとする人ほど三日坊主で終わっちゃうから

すぐ変わらなくていいんです。自分自身もインターネットも、一緒にゆっくり変えていきましょう。

宇野さんが教えてくれた、「バカになるSNSの使い方」。

人に石を投げたくなる気持ちもわからなくはないし、自分に都合のいい情報を集めるのも心当たりがなくはない。でも、今の攻撃的でせわしないインターネットに対し、確かな違和感も持っている。そんな人って、案外少なくないのだと思います。

筆者も、自分が思考停止になっていないか意識しつつ、SNSをポジティブに使いこなしていく方法を考えつづけていきたいと思いました。

〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

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「オリンピック破壊計画」というショッキングな序章で幕を開けるこちらの書籍は、「考えないインターネット」によって失われたもの、そしてインターネットという世紀の発明に追いていかれないよう、我々人類をいかにしてアップデートしていくかという壮大な青写真までが記されています。

最終章には記事内でも触れた「武器」についても書かれているので、気になった方はぜひチェックしてみてください!

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