ビジネスパーソンインタビュー
「物語力」を研ぎ澄ませろ
「ジョブズがMacをつくったとき、社員に何を書かせたか?」人事のプロが語る“やりがいの正体”
新R25編集部
書籍『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)のヒットで、一躍注目を集めた人事業界の新星・北野唯我さん。11月28日、待望の続編『分断を生むエジソン』(講談社)がリリースされました。
「凡人の心を理解できず、リーダーとして一度死んだ天才」が、天才ならでは苦しみを乗り越える姿を描いたこの本は、天才が「強烈にやりたいことがあるからこそ、それ以外のことをやりたいと思えない」という生きづらさをもっていると書かれた一節があります。
(おそらく凡人の一人であろう)筆者が思ったのは、僕ら凡人の多くは反対に「やりたいことと出会えない」という悩みを抱えがちだよな…ということ。
一生つづけたい「やりたいこと」に出会える人なんて一握りだし、出会えるまでアテもなく転職を繰り返す気力もないし、でも今の仕事も楽しくないし…そんな葛藤のなか苦しんでいる若者も少なくないはず。
そこで北野さんに「『やりたいことと出会えない』という状況から、どう抜け出したらいい?」とお聞きしたところ、話は意外な展開に…。
ですがご安心ください。北野さんのお話にはいつも、最後に必ず希望が用意されています。
〈聞き手=サノトモキ〉
【北野唯我(きたの・ゆいが)】兵庫県出身。神戸大学経営学部卒業後、博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後ボストンコンサルティンググループを経て、2016年にワンキャリアへ参画、執行役員に就任。2019年1月から子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問も兼務。デビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が16万部、続く著書『天才を殺す凡人 職場の人間関係に悩むすべての人へ』(日本経済新聞出版社)が10万部とヒット。著者累計30万部を突破した
サノ
今日の取材では、凡人が「やりたいことが見つからない」から立ち上がる方法をお聞きしたくて。
北野さん
「やりたいことが見つからない」から脱出する方法、か…
めっちゃいいテーマ持ってきましたね(笑)。
北野さん
僕は、やりたいことを見つけられるかどうかって、「物語力」を培ってこれたかで100%決まると考えてるんですよ。
サノ
「物語力」?
北野さん
自分の人生を物語と捉え、「自分が主人公の物語」を作り出していく力です。
なぜこの力が必要か、順を追って説明すると…
北野さん
そもそもやりたいことを見つけられる人というのは、「得意なこと」や「熱中できること」に出会ったとき、それを敏感に察知できる人のことなんですよね。
「そんなに頑張ってないのにやけに他人から褒められた」とか、「気づいたらあっという間に時間が経っていた」とか。
でも、多くの日本人は、そういうやりたいことのきっかけを見逃してしまう。
サノ
どうしてですか?
北野さん
「自分の人生なんてありふれた人生なんだ」と思い込み、自分の人生に起きた出来事を過小評価してしまうクセがあるからです。
北野さん
「平坦な人生だ」と決めつけてしまっていると、褒められた経験も熱中できた経験も「べつに大した出来事じゃないし…」と何もなかったことにして、素通りしてしまうんですよ。
実際には「何事も起きない平坦な人生」じゃなく、デコボコといろんな起伏があったはずの自分の物語を、自ら平らにならしてしまっているだけなんです。
サノ
つまり、自分の人生をありふれたものだと思ってしまう「物語力」の低さが、やりたいことを見つけられない原因…!
今日も言語化の鬼が本領を発揮しまくってる…!
北野さん
「やりたいことに出会う」って幼少期の運みたいに思われがちだけど、実際は物語を作るという「能力」の問題なんですよね。
ただ、日本人の「物語力」が低いのは、じつは日本の働き方の価値観もめちゃくちゃ影響しているんです。
「これは自分がやった仕事なんだ」と思えるうれしさこそが、“やりがいの正体”
北野さん
これは僕がすごく好きな話なんですけど…
スティーブ・ジョブズって、最初にMacを作ったとき、ユーザーに見えないよう製品の内側に“とある文字”を社員に書かせたんですよ。
これ、何か知ってます?
サノ
ジョブズ…?
あっ、わかった! 「Stay hungry, stay foolish」ですね!
北野さん
違います。
違いました
北野さん
ジョブズは、その製品を作った社員に「自分の名前」を入れさせたんです。
「アーティストってのは、作品に自分の名前を入れるもんだよ」って。
サノ
それ絶対モチベーションぶち上がるやつだ…!
北野さん
日本の働き手のやる気を大きく削いでるのって、「社員A」としてしか働けないことにあると思うんです。
「社員A」?
北野さん
たとえば車のタイヤを作る人がいますよね。
もし仮に、自分の名前が刻まれたタイヤが今も日本のどこかを滑走してると思ったら、めちゃくちゃモチベーション上がりそうじゃないですか。
でも、車を作った人として名が残るのは、一握りの人間だけ。自分はかわりのきく有象無象の「社員A」でしかないんだという感覚が、働き手の「物語力」と熱量をめちゃくちゃ下げてると思うんです。
サノ
ああ、それはめちゃくちゃわかるかも…
「誰に任せてもよかった仕事を、たまたま自分がやってるだけ」みたいな感じだと虚しくなっちゃうというか。
北野さん
僕も本を出すときはめっちゃこだわりますけど、もし自分の名前が出ないとしたら正直こだわり方もクオリティもだいぶ下がるんじゃないかって気がするんです。
僕は、やりたいことを仕事にできるかどうかじゃなく、「これは自分がやった仕事なんだ」と思えるうれしさこそが、“やりがいの正体”だと思うんです。
有象無象の「社員A」ではなく、あくまで自分が「主人公」を務める物語のなかで仕事をしている感覚があることがとにかく大事。
北野さん
だから、社長が社外向けに華々しく発表するプレゼン資料も、事務職の人が社内向けに作ったマニュアルも関係なく、「自分の作ったものに名前を入れる」という風習が当たり前になったらいいと思うんです。
僕は、新人の子が作ってくれた資料のフィードバックでも、「一番最初のページに君の名前を入れよう」と提案していて。
これは、チームメンバーのモチベーションを上げるうえでも、明日からでも実践できる大きな一歩だと思います。
サノ
なるほど…!
たしかにそれならすぐ取り入れられるし、職場の空気もけっこう変わりそうですね。
「誰かの物語を応援するとき、自分の物語もまた浮き彫りになる」
サノ
「物語力」を磨きたい場合、僕らは何をすればいいんでしょうか?
北野さん
「物語力」は基本的に、「自分が主役として公の前に登場した経験」どれだけを重ねられるかによって差がついていくんですよね。
サノ
テストの点数上位の人の名前が廊下に張り出される…みたいな感じですか?
北野さん
そうそう! かんたんに言えば「目立った経験」。
有象無象を抜け出して主役になる経験の積み重ねが、「自分だけの物語」を作っていきますからね。
サノ
でも、ほとんどの人はそんなふうに目立ったことないし、目立ちたくない人も多いんじゃないでしょうか。
「波風立たない平穏な人生でいいかな」みたいな…
北野さん
そういう人は、「自分が何を応援しているか」に注目してみるといいと思います。
即答か…本当にどんな人にでも救いの手を用意しててすごい
北野さん
たとえば僕はレディー・ガガが大好きなんですけど、それは、彼女の“いじめや薬物中毒を乗り越えて、自分らしさを武器に歌手として成功した”というストーリーに惹かれるから。
僕は「人間が、自分らしさを取り戻して”解放”される物語」を愛しているんです。
サノ
ほう…
北野さん
人が、何かを応援するとき、そこには「大切にしたい哲学」が潜んでいるんですよ。
それを言語化するのは、「自分」という物語を浮き彫りにさせるうえですごく意味のあること。
サノ
たしかに、「自分が大切にしたいもの」を深掘りしてみれば、自分の軸が認識できそう…!
めちゃくちゃ面白い!
おわりに…
サノ
今日はありがとうございました。
「やりたいことが見つからない」から立ち直る道筋が、いくつか見えた気がします。
北野さん
仕事をしていると、天才も凡人も関係なく、心が折れかけるギリギリの状態になってしまうことってたくさんあると思うんですよね。
僕は、そういうときに救いの一つになるのが、本や記事の役目だと思ってるんです。
北野さん
音楽や映画もそうだけど、人生がドン底になったとき、勇気と知恵を与えてくれるコンテンツって素晴らしいなと思っていて。
今回出した本『分断を生むエジソン』も、同じ時代をともに頑張って生きている人にとって、そういう存在になれたらいいなと思って書いてます。
サノ
僭越ながら、共感します…
北野さん
でも、ただコンテンツを消費して終わるんじゃなく、あくまで自分を重ねながら体験してもらえたらうれしいですね。
ただ物語に感動することと、自分を重ね合わせて感動することって、似てるようで全然違うので。
だからこの書籍も、「あなたが主人公の応援ソング」として受け取ってもらえたら!
サノ
この記事もそんなコンテンツにできるように頑張ります!
ありがとうございました!
やりたいことを見つけるには、「物語力」が必要。
正直「やりたいこと」と出会うなんて運だと思っていたのですが、能力なら、誰だって後天的に身につけけられる可能性がある。
唯我さんのお話は相変わらず救済の幅の広さがハンパじゃないし、何を聞いても即答で返ってくることからも、「いろんな人が幸せに働くためにはどうすればいいか」を普段からずーっと考えているんだろうなと思いました。
〈取材・文=サノトモキ(@mlby_sns)/編集=天野俊吉(@amanop)/撮影=池田博美(@hiromi_ike)〉
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