ビジネスパーソンインタビュー

ほとんどの人は交渉が下手すぎる。僕が交渉のときに意識するのは「鮮やかな妥協」だ

三浦崇宏著『言語化力』より

ほとんどの人は交渉が下手すぎる。僕が交渉のときに意識するのは「鮮やかな妥協」だ

新R25編集部

2020/01/20

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こちらの意図をクライアントに納得してもらえない

意見を求められたとき、うまく話せなかった

そう悩み、迷ってしまうのは、もしかするとあなたが使う「言葉」が原因かもしれません。

「これからの時代、磨くべき最強の武器は“言葉”である」と提案するのが、広告やPRの枠を超えて注目を集める、The Breakthrough Company GOの代表取締役でPR/CreativeDirectorの三浦崇宏さん

ご自身の著書『言語化力 (言葉にできれば人生は変わる)』では、三浦さんが言葉の力を使って、アイデアを形にし、人生を動かしてきた“言葉の使い方”が描かれています。

アマゾンのビジネス書部門で事前予約数ランキング1位を記録し、明日1月22日より発売となる同書から3記事を抜粋してお届けします。

だいたいみんな交渉が下手すぎる

交渉が下手な人が多い。というか、交渉が得意な人がほとんどいない

これもまた、言葉の使い方、コントロールがうまくいっていないのだ。

ほとんどの日本人は交渉がうまくない。交渉はお互いの意見をぶつけて、どちらか一方の意見に決めることだと勘違いしているのだ。

家を買うときの夫婦間の交渉にしても「私はマンションがいい」「俺は一軒家がいい」というように、意見を出し合ってぶつかり、最後はどちらかが折れて終わる、ということが多い。

交渉の重要な第一歩は「お互いが本当にほしいものは何か?」を明確にすることだ。

たとえば、会社のデスクでバランスボールを使いたいとする。でも、会社から「決められた椅子を使いなさい」と言われたとしよう。

そのとき、あなたはどう交渉するだろうか?

ここで掘り下げるべきは、あなたが欲しているのは本当に「バランスボールそのもの」なのか、ということである。そうではないはずだ。

本当の欲望は「健康になりたい」「元気に仕事をしたい」ということ。

であれば、 会社には「椅子は使うのでバランスクッションを使わせてほしい」と言ってみてはどうだろう。

それでもダメなら定期的に立ち上がって軽くストレッチするのもいい。

二者の利害が対立し合う中で、お互いに本当にほしかったものを探り合うことが、 交渉である。

そのためには本当の欲望を「言語化」しないとうまくいかない。

本当の交渉は、お互いの欲望の輪郭を探ること

たとえば、あなたはゴルフセットを手に入れたい。それを奥さんに買っていいか聞く、というシチュエーションを考えてみよう。

ここで「いかに自分はゴルフがしたいか」といった、自分のメリットやゴルフの魅力を主張しても効果はないだろう。むしろ逆効果かもしれない。

「俺はゴルフセットがほしい!」という主張に対して奥さんが「毎月のあなたのお小遣いは4万円のはずだから、その範囲で買ってください」と言ってきたとしたら、その議論はまったく意味がない。

これは交渉ではなく、ただの条件の比べ合いでしかない。

そこで、ゴルフセットを買うことで、自分だけではなく相手に何が起こるかを冷静に考えてみるのだ。

ゴルフセットを買えば、土日に夫が出かけることが多くなる。すると妻は家で1人の時間が生まれる。夫の世話をしなくてよくなるだろう。

そこで「俺がゴルフセットを買うことで、君にもメリットがあるんだよ。これは俺にとってはゴルフセットだが、君にとっては1人の時間だ。休日に俺がいなくなることで、俺の世話をしなくてもよくなるだろ? そのために10万円使おうよ」という交渉ができるかもしれない。

自分だけではなく、多角的なメリットを説明できるかどうか。

黒と白の間には「無限の空白」がある。「AもしくはB」ではなく、「AとBの間」の中に絶対に解決策はあるはずなのだ。

交渉では「それを通すための理由」をたくさん言葉にしてあげることも大切だ。

漫画『キングダム』のプロモーションで、表紙を「ビジネス書風」にして話題にしたことがあった。

そのときも最初は「表紙を変えるのは無理だ」と言われた。しかし、 表紙を変えなければポスターを使った普通のキャンペーンになってしまう。こちらとしてもそこは譲れなかった。

あらゆる交渉の末にたどり着いたのが「これはカバー(表紙)ではなく、帯である」 ということだった。

「表紙を変えているわけではなくて、広い帯を巻いているんです」 という説明の仕方で納得してもらったのだ。

先ほどのゴルフセットの話であれば、奥さんに対して「俺はゴルフがしたいんだ」 と伝えるのではなく「ダイエットをしたいから」という理由を伝えるのも手かもしれない。

遊ぶためではなく、健康のために買いたいんだという理由を伝える。

本当の目的は「ゴルフを楽しみたい」だったとしても、そこから攻めるのではなく 「ダイエットして健康になりたい」と主張する。

「俺が健康で長生きすれば、うちの家族は安泰だ」と奥さんにとってのメリットを説明することにもなる。

双方の事情は異なっていても、「相手の未来」と「自分の未来」が重なる部分は絶対にある。

交渉とは「俺にはこれが必要だけど、お前には何が必要なの?」「そして、お前の譲れない部分はどこなの?」ということをすり合わせて、重なる部分を探していくこと。

考えをすり合わせて、お互いにとっていい未来に向かっていく、というイメージが持てればうまくいくはずである。

どうしても折れないといけないときは「鮮やかな妥協」を意識しろ

交渉において妥協はつきものだ。どうしても妥協をしないといけない瞬間がある。 そんなときぼくはよく「鮮やかな妥協」という言葉を使う。

先ほどお話しした『キングダム』の案件では「表紙を変えることは無理だ」とさんざん言われた。しかし帯を変えるという体裁にしたことで「鮮やかな妥協」ができた。

「表紙を変える」ということに関しては妥協しているが、広い帯を巻いて、そのデザインを表紙と同じように見せられたら、やりたかったことは実現している。先方の顔も立った。

名古屋パルコの「ぜんぶの愛が、世界一」というキャンペーンを手がけたときのこと。

そのキャンペーンのことをウェブメディア「ハフポスト」の人に「紹介してほしい」とお願いした。

すると「新しいビジネスモデルというよりはあくまで普通の広告だし、名古屋だけで全国的なものじゃないので、ちょっと難しい」とお断りされてしまった。

そこでぼくは、このキャンペーンが「愛の多様性」をテーマにしていることを核に説明した。

「愛」と言うと、若い男女のカップルの話になりがちだが、男性同士の愛もあるし、お年寄りの夫婦による「愛」の形もある。

そういったことを踏まえて「パルコは多様性社会の踏まえてあらゆる恋愛、あらゆる愛情を応援します」という姿勢を打ち出す企画だった。

名古屋にとどまらず日本中、世界中が関心を持っているテー マで、今、メディアが報道し、議論しなくてはいけないテーマであることは明白だった。

一方で「ハフポスト」も、多様性のある社会を実現することを応援しているメディアで、同性愛者の方の発言をよく取り上げていた。

ぼくは一度お断りされたあと、もう一度違うアプローチから説明した。

「今回のキャンペーンで使ったポスターの中に、同性愛者のカップルの方がいます。

彼は今回この広告のモデルを務めることに対してすごく葛藤があって、でもそれを乗り越えて、カメラの前に立ってくれました。どうしても伝えたいことがあったからです。

そのモデルの方の思いを取材していただくことはできないですか?今、ハフポストというメディアがやるべきことだと思うのですが」と相談してみたのだ。

すると記者の方も「我々が今やるべきことと合致していますね」と言って引き受けてくれた。 ハフポストの「社会を対話で前に進めていく」という方針と合致していることを理解 してくれた。

もちろん、そのモデルの方が、自分が広告に出たきっかけをハフポストで語ってくれることは、名古屋パルコというブランドが持つ、あらゆる愛の形を応援するというメッセージを強く伝えてくれる。

この件も、もともとの「広告を紹介してほしい」という要望からすると「妥協」かもしれない。しかし結果的により高次元な、もっと多くの人にとって意味のある展開になっていった。

これもまた「鮮やかな妥協」と言っていいだろう。

媒体の目指している理念と、クライアントの紹介してほしいというニーズの間で板挟みになって、どちらにとってもいいやり方はないかを考え抜いた結果、インタビュー記事といった形で着地し、関係者みんなが得する結果が生まれたわけだ 。

「妥協」には折れること、負けることというイメージがある。

しかし、関係者全員のメリットになるような鮮やかな妥協ができたとき、それは「負け」ではない。全員にとっての勝利になる

歴史哲学者ヘーゲルが唱えた弁証法では、AとBの意見が対立したとき、その2つの意見がぶつかり合ってよりよい意見が生まれることを「止揚(しよう)」と呼ぶ。

どちらかが 完全に譲歩して「10対0」のハッピーを実現するよりも、「6対6」、トータル のハッピーのほうが、総合値は高くなる。

もっと言えば「20対20」のような想像もしないよい成果が生まれることもあるのだ。

交渉では一方的な勝ち負けではなく、お互いのメリットを引き出し、より高次元な結果にたどり着くための「止揚」を目指してほしい。

今すぐ実践したくなる!これからの時代の武器になる“言葉”本

印象に残る言葉、人を動かす言葉など、言葉の力の大きさをひしひしと感じる一冊。

読み終わった瞬間に、今自分が話している言葉は、一体どんな思いで口にしているのか、考え込んでしまいました。

ちなみに、第4章の中にある「人生の指針になる言葉を持て」のパートは、三浦さんが人生の指針としている言葉が収録されており、すべてのビジネスマンの背中を押す内容となっています。

この記事で興味を持った方はぜひ、アマゾンで予約してみてください。同書を読んで、言葉の力を知り、操り、人生を充実させていきましょう!

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