ビジネスパーソンインタビュー
「自分でイニシアチブを取る」という姿勢を持て
「日本の若者は自分の才能に気付くのが遅い」メルカリ小泉会長が考える“20代の生存戦略”
新R25編集部
記事提供:20's type
近年ミレニアル世代を中心に、消費者の意識や関心が「所有」から「利用」、さらには「モノ」から「コト」消費へと向かっている。
その流れを後押ししてきた代表的な企業が、フリマアプリを運営するメルカリだ。
より一層激しい変化が予想される2020年以降、企業はどう変わっていくのだろうか?
そしてそんな時代に20代は、ビジネスパーソンとしてどのようなキャリアを歩んでいくべきか。
新時代をけん引するメルカリの小泉文明会長に話を聞いた。
【小泉文明(こいずみ・ふみあき)】株式会社メルカリ取締役会長。早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBCに入社し、ミクシィやDeNAなどのIPOを担当。2007年にミクシィに転じ、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。12年退任し、いくつかのスタートアップ支援を経て、13年12月にメルカリ入社。取締役、取締役社長兼COOを歴任し、19年8月、メルカリが経営権を取得した鹿島アントラーズの代表取締役社長に就任。19年9月からは取締役会長として対外的な折衝・渉外および鹿島アントラーズの経営に携わる
大量生産・消費は「クールじゃない」時代に突入
スマホの普及に伴い、フリマアプリとして急成長を遂げたメルカリ。月間1450万人を上回る利用者が年間で行う取引の額は5000億円にも迫るという。
多様なモノの流通を支えるメルカリの会長である小泉文明さんは、今、企業と消費者の関係性は大きな転換点に差し掛かっているとみている。
「日本経済が飛躍的に成長した1950年代半ばから80年代後半にかけて、家電製品や自家用車を所有することは、多くの人にとっての目標であり豊かさの象徴でした。
しかし90年代後半に入って、社会の隅々にまでモノが行き渡るようになると状況は一変します。
『他人と同じ、豊かさの象徴となるモノを所有したい』という欲求は減り、一方でインターネットの普及によって、『どこで何が安く買えるか』という情報に誰でも簡単にアクセスできるようになった。
その頃から、消費者が市場の主導権を握るようになったのです」
隣の人と同じモノを欲しがる人たちに代わって、2000年代以降に台頭してきたのが、消費行動に“自分らしさ”を求める人たちだ。
「大量生産・大量消費型の経済は、人口増加と大幅な経済成長が望めた時代には非常に効率的でした。しかし今や日本は、人口も経済もかつてのように上昇する見込みはありません。
ライフスタイルが多様化し、画一的な消費行動を良しとする人々は減り、『ネットを駆使して自分に合ったモノを選べる』ことがスタンダードになってきた。
すると企業はより一層、消費者と向き合わなければならなくなってくるでしょう。これまでとは全く異なる市場環境に移行したということです」
さらに近年では、SNSの発達がこの傾向にさらに拍車をかけている。
「メーカーはこれまで、商品を大量生産し流通させることに力を注いでいました。欠品による機会損失を起こすより、売れ残りをセールで安価に処分したほうが効率的だったからです。
しかしソーシャルネットワーク上で自己のアイデンティティーを表現する人たちが増えると、こうした手法に疑問の声が上がるようになりました。
大量生産を前提とした価値観はエコでもなければクールでもないから選ばない、というわけです。
こうしたトレンドは今、若者を中心に、確実に広まりつつあります」
近年、消費のトリガーを確実に引かせるポイントは、商品のデザイン性や機能性、コストパフォーマンスの良さだけに限らなくなっているのだ。
「今の若い世代は、作り手のこだわりや商品に秘められたストーリーに共感できれば、多少値が張っても購入しますし、次のアイテムを手に入れるために、古いアイテムを処分することに躊躇がありません。
メルカリが若者を中心にシェアを伸ばしたことからも分かるように、一時利用のように所有に固執もしませんし、中古で十分と割り切った消費を行ったりするようになった。
こうして消費者と生産者の関係は、どんどんフラットになっている印象です」
これからの企業は、消費者の想像力を喚起するような商品作りをする一方、ソーシャルネットワークの特性に応じて情報やメッセージを出し分けるマーケティング力が必要になると小泉さんは言う。
「テクノロジーとデータアナリティクスを活用すれば、消費者ごとにアプローチを変えることも十分可能になりました。
企業は大量生産・大量消費を前提とした前時代的なビジネスモデルから、最小限の生産数で最大の利益を出すビジネスモデルにいち早く移行することが、より一層求められるようになると思います」
理想は”ハイブリッド人材”。でも、そこを無理に目指さなくていい
消費者の行動が変わり、ビジネスを取り巻く環境が変われば、企業で働く人に求められるものも変わる。
小泉さんは、これからどのような人材のニーズが高まると考えているのだろうか。
「どのような業種、業態の企業であれ、多様化する個々人のニーズに対応するために、テクノロジーとデータに触れる機会が増えるのは間違いありません。
エンジニアに限らず、ITを使いこなす力は今まで以上に求められるようになるでしょう。また商品やサービスの魅力を理解し、的確な方法で人に伝える力を持つ人材が活躍する場も広がると思います」
つまり、左脳的な資質と右脳的な資質を兼ね備えたハイブリッドな人材だ。しかし小泉さんは、そのような理想的なスキルを、無理して目指さなくてもいいとも考えている。
「ハイブリッド人材はもちろん理想的ではありますが、それはそうそうなれるものでもありません。
企業の立場からすれば、必要なスキルを持った人材を集めてポートフォリオをつくり、最適なチームを組めればいいわけですから、これから求められるのはスペシャリスト型の人材でしょう。
もちろん、国内に良い人材が見当たらなければ、企業は海外人材に目を向けることになります」
小泉さんは、海外の人材と日本の人材を比べたとき、日本の若者は、海外の人材より「自分の才能に気付くのが遅いのではないか」と思うことがあるという。
「仕事に必要なスキルはたくさんあります。しかし入試とは違って、全てのスキルをバランスよく得点する必要はありません。
チームで仕事をする以上、不得意な分野は得意な人に任せればいいわけですから、全てを1人で抱え込む必要もない。日本人が自分の弱点克服にばかりとらわれて、自分の才能をうまく伸ばせないのは、教育のあり方にも原因がありそうです」
弱点の克服に執着するとスペシャリストになる機会を逸してしまい、結果的に中途半端な人材になってしまうかもしれないと小泉さんは危惧する。
企業間競争もかつてないほど激しく変化するなかで、ゼネラリストでは突破できない専門的な課題も増えているからだ。
こうした状況は企業にとっても個人にとっても大きな損失といえるだろう。
「かつて企業はゼネラリストを育成すると称して、社員に定期的な転勤や部署異動などをしてきました。
しかしこうしたやり方が機能したのは、世の中が右肩上がりで成長していたからです。しかし今は、たとえ一流企業でさえ終身雇用を保証するだけの余裕はありません。
こうした厳しい時代を生き抜くには、企業に依存しない人材になることが重要だと思います」
企業と消費者の関係がフラットになってきたように、企業と人材の関係性も対等なものに変化してきた、と小泉さんは続ける。
「昨今の副業解禁の流れをみても、企業と社員の関係が上下から対等な関係に近づいていることが分かるはずです。
実際にメルカリでも、『企業側が社員を選ぶ』のではなく、会社だって社員に選ばれる側なのだと意識して組織運営を行っていますし、海外の企業ではそれが常識になりつつある。
そして企業と社員が対等であるということは、社員も企業に依存できなくなることでもあります。個人は今まで以上に自律的に考え、行動することを意識すべきでしょう」
スペシャリストへの第一歩は「自分で決める」と「極める覚悟」
個人の働き方や組織の在り方、企業と社員の関係も時代とともにフラットになっている。
そんな時代に、20代がすべきことは「自分は何でメシを食っていきたいのか」を決めて努力することだと小泉さんは説く。
「私はゼネラリストタイプではありませんし、社会人としてバランスが良い方でもありませんでした。
それでも経営の経験とスキル一本で、経営者としてここまでやってこられた。
だから今、将来を不安視している若者には、『自分はこれがやりたいんだ』と思える場をいち早く見つけるべきだと言いたいです。
少なくとも私自身は、多少精度が低かったとしても『他のことはできないけど、これに関してはプロです』と言い切れる20代と働きたいですし、そういう人がメルカリでも活躍しています。
まずは『コレだ』というものを探して、スペシャリストを目指すところから始めてほしいです」
しかし、学生時代から全てのスキルをバランスよく得点することを求められてきた今の20代が、急に「コレだ」というものを探せと言われても難しい。
これから20代はどのように自分の強みを模索していけばいいのだろうか。
「強みを探すためには、近年の消費行動の変化と同じで、たくさんの情報の中から『自分に合ったものを自分で選ぶ』という姿勢が求められます。
『何となく、皆が良いと言ってるから自分も』という考え方はもう古い。
これからは、まず何をすべきか選ぶための情報をインプットすること、そして何でもいいから一度『自分で選ぶ』という行動をしてみることが大事なのではないでしょうか」
選ぶといってもそれは“決めの問題”だそう。「昔から好きだったから」「面白そうだと思ったから」など、どんな理由でも構わない。何かしらの分野で「極める覚悟を決める」ことが重要だと言う。
「スタート時点ではやれるかどうか分からなくたっていいし、精度が低くたって構わない。とんちんかんなことを言ったっていいんです。
もしやってみて自分に合わないと思ったら、途中変更したっていいわけですから、小さなことでもいいから『自分でイニシアチブを取る』んだということを意識する。
そうやって自分で選んだ分野でキャリアを積んでいけば、それがいつの間にか自分にとってのにスペシャリティーになっていくはずです」
〈取材・文=武田敏則(グレタケ)/撮影=竹井俊晴〉
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