ビジネスパーソンインタビュー
塩田元規著『ハートドリブン』より
部下の「やりたくない」には何と答えるべき? マネジメントに必要な“分かち合い”の哲学
新R25編集部
ビジネスの世界においては「合理的な思考」こそが正とされ、個人的な「感情」は二の次にされることがほとんど。
しかし、『八月のシンデレラナイン』をはじめとしたヒットゲームを次々と世に送り出しているアカツキ社のCEO・塩田元規さんは「これからの時代は、ハートやつながりといった目に見えない“内面”が中心になる」と主張しています。
アカツキの売上高は281億円。塩田さん自身がまさに、「感情」を優先するマネジメントでも成果を上げられる、と証明しています。
そんな塩田さんが自身の人生から導き出した哲学を書き記したのが書籍『ハートドリブン』。
同書から、アカツキの成長を支える独自哲学を3記事でお届けします。
“飴と鞭”を手放そう
組織論で、「社員のモチベーションをどう“上げるか”」という言葉がある。僕はこれに違和感がある。
なぜなら、人を外から動機付けるという意味が強く、コントロールして動かすという意図が入っているからだ。このやり方は限界に近いと思う。
人が人をコントロールする時に使う基本的なものは“飴と鞭”だ。
飴は“インセンティブ”だ。それは、お金、名声、賞賛などだ。外側のものを使って、人を動機付ける。
鞭とは“恐れや脅し”だ。安心・安全を脅かすことで、強いプレッシャーをかける。
飴を得られた時は満足する。でも、それは一時的だ。
もちろん、成果を手に入れることは素晴らしいことだ。
たとえば、サッカーワールドカップで優勝してトロフィーをもらうことは素晴らしい。
でも、大切なことは、サッカー選手はサッカーが好きだという気持ちが土台にあることだ。その上で、より楽しくなる目標があるという順番だ。
飴と鞭によるコントロールが強くなると、飴自体が目的になってしまう。多くの組織は飴を目的化して、鞭で叩き続けることをやってしまっているのではないだろうか。
これは、社内だけじゃなくて、取引先との関係の中でも使われていることがあると思う。
そんな環境では、本当の自分でいることは難しい。周りが求めるもの、周りの期待に自分を適合させていく。それは、自分の本当の想いからあなたを切り離す。
ただ、最近はそんな環境に違和感を持つ人は増えているし、環境を選べるようになってきた。だから、飴や鞭を手放し、新しい関係性を作るフェーズに入っていると思う。
コントロールではなく、お互いが理解し合って、一緒に仕事がしたいからするというシンプルな関係が必要だと思う。
僕も昔は飴と鞭のパワーを使っていた。それが正しいと思っていたんだ。
「○○君の将来のためにも、アカツキで頑張ったほうがいい」とかの表現で、自分のためにやってほしいことを相手のためとよそおってやってもらったりした。
その時は、コントロールしているという認識はなかったけど、内側が進化すると過去の無意識の行動や反応を認知できて驚くことが多い。
そうしたやり方で、短期的な成果は出せたけど、自分の中では何か満たされない想いや、罪悪感が残っていた。
多くの人を傷つけてきたし、今思えば申し訳ないことをしてしまったなと思う。
パワーを使っている本人は必死だから、そのことに気づかない。会社や組織など、あらゆる場所で当たり前に起きているから、慣れてしまっているんだ。
でも、飴と鞭で人を動かしているのは当たり前じゃない。それを使っていると、実は自分が一番苦しい。
「理解と同意を分ける」が鍵
ビジネスでは感情は無駄とされやすい。
感情は目に見えないし、説明できない。今のビジネスでは目に見えるものだけを大切にしすぎている。
合理的という言葉のもとに、目に見えないものは切り捨てられる。そんな中でありのままの自分でいられるわけがないし、安心・安全が脅かされる環境では自己表現は難しい。
もちろん、自己表現が許される組織を作ることは勇気がいる。多様な人が感情を表現したら組織は壊れてしまうと思うリーダーは多いだろう。
アカツキの創業期も、ポジティブな感情表現は許されていたけど、ネガティブな感情表現は許されていなかった。
だから、3期目に、僕は古参のメンバーの寂しいという自己表現も許せなかったんだ。そして、古参メンバーの離脱という大きな痛手を負った。
もし、当時からネガティブな感情も分かち合える組織だったら、そうはならなかったと思う。
ここで、僕が気づいた大切なことを、一つ分かち合いたいと思う。
それは、「理解と同意を分ける」という考え方だ。
アカツキでは、「理解と同意を分ける」という文化を大切にしている。感情は人の内側にあるから、切り捨てられるものじゃない。仕事をやりたくないっていう感情だって真実だ。
多くの組織の勘違いは、やりたくないという感情を聞いて理解することは、それに同意することだと思っていること。
または、やりたくないという気持ちを、やりたいに変えようと説得する必要があると思っていることだ。
以前、アカツキの採用担当者が僕のところに来て、
「今、採用、ぶっちゃけ飽きちゃったんですよね。なんかやる気出ないんですよ」
って言ってきたことがある。
普通なら、説得しようとする。でも、僕たちは理解と同意を分けている。そうすれば、理解することはどんな時でも100%できる。
「そうなんだね。やる気出ないんだね。採用何年かやって、やりきった感なんでしょ。それで、今どんな気持ち? どうしたいとかある?」
っていう理解をする。
そして僕も、僕の内側にあるものを分かち合う。
「アカツキにとって、採用むちゃくちゃ大切なんだよな。誰かがやんないと俺は困っちゃうなぁ。いい人材と働きたいんだよね。どうしようかね」
非常に面白いことだけど、人はお互いの感情や状況が全て表現されて、理解できれば、双方の間で勝手に最適解を選び出す。
結果、その採用担当者は
「理解してくれて、ありがとうございます。分かち合えてよかったです。
僕もいい人と一緒に働きたいなって改めて思ったし、貢献したい気持ちもあるなと思ったんで、あと1年はやりたいです! その後は、役割を替えてもらうと思います」
と言ってくれた。
おそらく、採用の重要性や、その採用担当者へのメリットを提示したりして僕が説得していたとしても、あと1年やってもらうことはできたと思う。
でも、そういう方法ではなく、お互いの内側を理解した上で決めたことだから、仕事への気持ちの入り方も全然違う。メンバーにも安心感が生まれるし、結果、仕事も頑張る。
もちろん、理解したふりをして相手をコントロールするのは違う。純粋に相手の内側を理解して、その上で、同意しなくてもいいので、自分の気持ちも表現するだけだ。
また、普段、自分の感情を丁寧に扱う機会は少ないから、やりたくないっていう感情も、本当かどうかは本人自身にもわかっていないことが多い。
だから、分かち合うことが大切なんだ。分かち合う中で、自分の本心に気づくこともたくさんある。
結果を見れば、理解と同意を分け、感情表現を許していくことは、“合理的で効率的”だ。無駄なコストはかからない。
会社や組織は効率を上げようと、人の感情表現を抑制する。でも、それは結果的には非効率だっていうことに気づくタイミングに来ていると思う。
“分かち合い”は感情を取り戻す強力な方法
動機付けという“正しいっぽい”言葉で語られるものにはリスクがある。
飴と鞭のコントロールが強い環境にいると、自分がどうしたいのかわからなくなる。
気づいている人は、それに違和感があって気持ちが悪くなる。
そして、自分の感情を麻痺させて働くか、コントロールしてくるものから離れていく。
会社やチームの中に感情を取り戻す時にもっとも重要なキーワードは“分かち合い”だ。
僕はアカツキの中で、分かち合いをもっとも大切にしている。
分かち合いは、自分の内側にあるものを、ただ周りと共有するっていうことだ。
たとえば、アカツキでは、毎週メンバーみんなが集まる定例ミーティングがある。そこでは、各プロジェクトチームが全体で共有したいこと、経営陣が最近感じたことを話したりしている。
ちなみに月に1回は僕が最近感じていることを話す「元ちゃんʼsトーク」というコーナーもある。これも、気づいたこと感じたことをピュアに分かち合う時間だ。
一般的な会社ではプロジェクトの発表の場で、誰かが話を終えたら質疑応答の時間を設けると思う。でも僕らの場合は分かち合いの時間をとる。
発表の後、4~6人程度で輪になって、今の話を聞いて「何を感じたのか、どう思ったのか」を分くらいでそれぞれ分かち合う。
個人がどんな感想を持とうが自由。たとえば、「元ちゃんの発表、全然つまらなかったね(笑)」と言ってもOK。
何を表現しても大丈夫。質問じゃなく分かち合いになると、思考じゃなく、自分がどう感じたかという感情の世界に入る。
そして、感じたことを表現できる場は、心理的安全性を担保してくれる。
そして、他の人が感じたことも受け入れるという文化になる。
分かち合いだから、当然感じたことは人それぞれ違う。他の人の分かち合いを聞くことで、色んな見方に触れて、違う考え方を受け入れられる。
普段の仕事だと見えにくい相手の内側が少しでも見えることで、より深くつながれる。
分かち合うというシンプルなことが、感情を組織に取り戻し、より深いつながりを生み出す。
売り上げ、KPI…ビジネスマンの指標を“否定”する哲学を学ぼう
塩田さんの経験談をもとに、「魂の進化」の重要性をビジネスマンに説く『ハートドリブン』。
担当編集の箕輪厚介さんが「マジで売りたい本ができました!」と太鼓判を押すほどの一冊です。
変化するビジネストレンドの最先端をゆく思考・哲学を吸収して、自身の仕事観をアップデートしましょう!
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