ビジネスパーソンインタビュー
石川康晴著『学びなおす力』より
ユニクロや無印良品は「再定義」を繰り返している。“イノベーション”を起こす思考とは?
新R25編集部
アパレルブランド「earth music & ecology」をはじめ、30個以上のブランドを展開。
さらに、ファッションレンタルサービス「メチャカリ」、泊まれるブティック「hotel koe tokyo」といった新規事業を生み出し、業界にインパクトを与える株式会社ストライプインターナショナル。
その代表取締役社長の石川康晴さんが書籍『学びなおす力』のなかで「イノベーション」について言及しています。
普段働いていると、あまり意識することのない「イノベーション」という言葉。
しかし、イノベーションを起こそうとしないビジネスパーソンは、これからどんどん取り残されていくと石川さんは言います。
石川さんの経験から語る「イノベーション」の起こし方。
同書のなかから、抜粋してお届けします。
思考の良し悪しはイノベーションにも影響する
「人や社会、地球環境にとって『いいこと』をする」をコーポレートメッセージとして掲げているストライプインターナショナルでは、現在「SDGs(持続可能な〈サステナビリティ〉開発目標)推進室」という大きな枠組みで、地球環境や人権活動といった、より一段高い目標に向かう準備に入っています。
激変するこれからの世の中では、持続可能な社会の仕組みづくりが、ますます求められるでしょう。
そしてそのためには、これまでの社会のあり方を変えていくようなイノベーションが必要です。
組織単位で考えた場合、そこで働く人たちの思考次第で、そのようなイノベーションを起こせるかどうかが決まるといってもいいのではないでしょうか。
残念ながら、ネガティブ思考の人たちの周りには同じような人が集まり、そこには安定思考が生まれます。
当然、そういった人が集まる組織では、イノベーションが生まれにくくなり、若手の画期的なアイデアが、批判に晒されることもあります。
一方、ポジティブ思考の人たちは、イノベーションを起こすには、「山」ばかりではなく、「谷」も必要不可欠なことを知っています。
だからダメなときも不満をいっさい言わずに、楽しみながら働きます。
もちろん、チャレンジし続け、失敗を恐れない。その結果、次々と組織や社会に新しい価値をもたらすことができるのです。
現在は、ポジティブ思考の企業や個人にお金が集中し、利益がもたらされているように感じます。
いまの日本では、「幸せの度合い」にも、格差が生じ始めているのではないでしょうか。この格差は、次世代にも受け継がれていきます。
私たちはどこかで、思考性の転換を図らなくてはなりません。
ありきたりなアイデアに逃げず、創造力を鍛える
以前、ストライプインターナショナルの本社のある岡山県を盛り上げようと、あるスタッフから店舗を貸し切ってお客様と交流するイベントの企画が出されました。
「ピーチボーイ(桃太郎)」というサイトをインスタグラムに立ち上げて、岡山の良さをアピールしながら、最後に、お客様と一緒にパフェ作りをするというものです。
では、どんなパフェを作るのかと尋ねたところ、岡山県はマスカットをはじめとしてブドウの産地として有名だから、桃とブドウのパフェを作るという。
私は即座に、「ありきたりじゃない?」と言って、ディスカッションに加わりました。
岡山に所縁のある「桃太郎」と、岡山名産の桃とブドウをフューチャーすればいいだろうというアイデアは、あまりにも想像力に欠けます。
やるからには、もっと想像力を発揮してほしいと発破をかけ、「それだったら、桃太郎の伝説自体を変えてみようよ。じつは桃太郎は鬼退治の途中で、空腹のあまり雉を食べてしまった、という話に変えてみたらどうか。そうだ、雉唐揚げを作ろう」と提案しました。
「桃とブドウのパフェ」から「桃太郎が食べた雉唐揚げ」へと思いもしない方向に企画が転び、一同声を失いました。
しかし、しばらくすると堰を切ったように、スタッフから次々と面白いアイデアが出て、意見が飛び交うようになりました。
桃太郎が雉を食べたというエピソードがOKなら、「パフェに桃太郎ではなく雉のクッキーを付けよう」「『鳩サブレ』みたいで面白いね」「いっそのこと、雉を主役にしちゃう?」などと各々が想像力を働かせるようになったのです。
つねに変なことを考える
結局、採用されませんでしたが、「雉唐揚げ」は現代アート的な発想に基づいています。
ものの見方を変える、もっと簡単に言うと、「つねに変なことを考える」ということ。これが、大事です。
どんなバカらしい発想も、イノベーションという花を咲かすために必要な「種」といえます。
もし雉唐揚げが商品化され、メジャー商品になって皆が知るようになれば、「雉唐揚げって知ってる? 桃太郎が雉を食べたという物語が由来だよ」と知ったかぶりする人が出てくるかもしれません。
そうなれば、立派なイノベーションでしょう。
だから、部下やスタッフからのバカらしい発想は大歓迎。一方で、常識にとらわれた発想は、どんどん否定してみるといいと思います。
ただし、「唐揚げは鶏肉を揚げたものだから、『雉唐揚げ』は日本語としておかしい!」といった細かいツッコミはナシです。前提条件を否定してみることは、悪いことではありません。失敗してもそれは必ず次の成功の糧となります。
ノーベル賞をとった偉大な発明家たちも、つねに現状を否定することでイノベーションを起こしてきました。
一般の人が疑いもなく信用している歴史や論文、常識を「本当にそうだろうか」と疑ってみたり、「視点を変えれば、何か新しいことが生まれるかも」と物事を再定義することを習慣にしてほしいと思います。
「再定義」はイノベーションだ!
これからは、古くて代わり映えのしない産業に、アイデアをもった若い人たちが参入して、イノベーションを起こしていく時代になると考えています。
そこで大切になるのが、「再定義」です。成長を続けている企業は、つねに再定義を繰り返しています。
たとえばユニクロは、ヒット商品のインナーである「ヒートテック」を、ただその性能を上げるだけではなく、「ファッションアイテム」として再定義することによって、売り上げを伸ばし続けています。
無印商品も、当初は「ノーデザイン」「省資源」「シンプル」などを目指していましたが、最近では「毎日使うものを便利に。」をテーマに機能的で豊かさを感じられる商品を開発し続けており、世界から注目されています。
同様のことが、いつ日本の食で起きても不思議ではありません。
世界的な健康ブームで、いま日本の食は見直されています。「見た目も美しくて、ヘルシー」という文脈で再評価されているのです。「BENTO」という言葉は、いまではフランスでも「オタク文化」と同じように浸透しています。
そう考えると、いつか「ドーナツといえば、本場アメリカよりも日本!」と言われる時代が来てもおかしくありません。
食に限らず、欧米の生活習慣から生まれたプロダクトを日本人が再定義して、世界に再発信していくケースは増えるでしょう。
アーティストが再定義を繰り返すことで新しい作品を生み出すように、ビジネスパーソンも既成概念にとらわれることなく再定義を行ない、イノベーションを起こし続けなくてはなりません。
アーティストは人がやらないことをやるのが使命ですが、ビジネスパーソンにも、同じような勇気が求められているのではないでしょうか。
面白い会社が選ばれる時代
創造性も再定義もイノベーションを生み出す「種」になる可能性を秘めていることに変わりはなく、そこに優劣はありません。
「再定義はイノベーションではない」と言う人もいますが、私からすると立派なイノベーションです。
陸上競技の400mハードルの日本記録保持者・為末大さんは、もともと100mランナーでもありましたが、400mハードルに種目を絞りました。これも再定義の一つでしょう。
ポジションを絞って世界選手権で二度銅メダルを取った為末さんを、「ハードルに逃げた」と非難する人はいないはずです。
再定義したから、勝てた。これは立派なイノベーションです。
実際、私の頭の中では、つねに創造性と再定義が混在しています。「何でもいいから改革したい」といつも思っています。
最近は売り手市場で、新卒の学生がなかなか集まらないと嘆く企業も多いと聞きます。
そんななか、ストライプインターナショナルは、「学生が選んだアパレル・ファッション業界で『就職したい企業』ランキング」(繊研新聞社)に3年連続でトップになりました。
売り上げ規模で圧倒する会社がいくつもあるなか、学生に選ばれる会社でいられるのは、創造性と再定義を繰り返しながら改革をし続ける姿勢を「面白い」と感じてもらっているからではないでしょうか。
必ずしも、売り上げ上位の企業が学生の理想の会社ではありません。
ビジネスマンは「学ぶ」ことを辞めてはいけない
石川さんは会社経営をするかたわら、37歳のときに岡山大学経済学部に入学。47歳のときには、京都大学経営管理大学院でMBA(経営学修士)を取得しています。
『学びなおす力』ストライプインターナショナルがこれだけ多様な業種・業態を展開できるのは、理由があります。
社長である私自身が、学び続けなければならない、という危機感をつねにもっているからです。
会社に入ってから、「学ぶ」ということを忘れていた私たちに、石川さんは「教養」を身につけることを推奨しています。
それはなぜなのか? その答えが『学びなおす力』に書かれています!
ビジネスパーソンインタビュー
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