ビジネスパーソンインタビュー

13年連続売上増・マザーハウス代表の経営論「ビジョンは大きく、ゴールは小さく」

山口絵理子著『Third Way』より

13年連続売上増・マザーハウス代表の経営論「ビジョンは大きく、ゴールは小さく」

新R25編集部

2019/09/20

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総合ファッションブランドとして13年連続で売上を増加させるかたわら、バングラデシュをはじめとする途上国に自社工場をつくることで、現地の労働環境の改善にも貢献している株式会社マザーハウス

その創業者・山口絵理子さんは、「ハーバードビジネススクールクラブ・オブ・ジャパン アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2012」を受賞するなど、世界的に注目されている経営者兼デザイナーです。

そんな山口さんの著書『Third Way』には、「社会性とビジネスの両立」という難しいミッションに挑むなかで培われた思考法がつづられています。

仕事で大きな困難に直面したとき、私たちはどのようにビジョンを持ち、何を信じて立ち向かっていけばいいのでしょうか?

同書のなかにそのヒントがありました。

ビジョンは大きく、ゴールは小さく

途上国から世界に通用するブランドをつくる

マザーハウスのビジョンは非常に大きくて、やや抽象的だ。

途上国に住む人の仕事を生み出して、豊かな国づくりをお手伝いしたいという「社会性」のイメージが強い目標。

それでいて、職人たちには厳しいプロ意識を求め、「東京をはじめ世界の都市で勝負できる商品をつくる」というビジネスの視点も忘れてはいない。

私は“社会性”と“ビジネス”という一見矛盾する二つのゴールを追い求めている。

「ビジョンは大きく、抽象的で」と書いたのには理由がある。

「少年よ、大志を抱け」は、とても好きな言葉だ。

私がもし、「バングラデシュからバッグのブランドをつくる」という、今よりちょっと「小さめで、具体的な」ビジョンを掲げていたとしたら、生産国が6つに広がり、店舗が38店舗になっている今のマザーハウスは存在しない。

自分で決めたビジョンの範囲が、すべての行動を決めてしまう

だからこそ、「大志」と言えるぐらい大きいビジョンのほうがいいのだ。

そんな私が、ビジョンとして掲げた大きなゴールに向けて進むうえで、心がけていることがある。

ゴールと現在地の間に、「小分けしたゴール」を準備する。

一つの「小分けしたゴール」を達成したら次を探す。

設定して、達成を目指す。

そうやって少しずつ進んでいく。

もしかしたら、会社や組織においての「中期目標」と近いかもしれない。

マザーハウスの場合、まず一つ目の「小分けしたゴール」は、バングラデシュ国内で、もっとも品質と労働環境がすぐれた工場を目指そうというものだった。

そのため、苦労もしたけれど、自社工場にこだわって運営をしてきた。

こういう小分けしたゴールがあると、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という大きくて抽象的なビジョンが具体性を帯びてきて、行動に移しやすくなる(現在、バングラデシュ国内のバッグ産業では、おそらくもっとも高い単価の商品を輸出をしている)。

二番目の「小分けしたゴール」は、日本においてバッグメーカーとして代表格になることだった(現在、ちゃんと上位に食い込んでいる)。

そしてさらに次の「小分けしたゴール」として、ネパール、インドネシア、スリランカと生産地を広げ、アジアのものづくりを変えていく存在になることを掲げた。

こうしたいくつかの小さなゴールたちは少しずつ達成され、最近ではシンガポールのチャンギ空港に隣接した商業施設に直営店をオープンした。私たちが広げる地図は、確実に大きくなっている。

小分けしたゴールは自分次第でいくつでも配置できる。

最終ゴールまでの道のりが長すぎて息切れしそうなときには、まずは小分けしたゴールの一つ目に向かおう。

頭で考えるより手と足を動かす

小分けしたゴールに向けて風景をどんどん変えていくには、頭で先回りして考えるよりも、「手を動かすこと」が大事だと思う。

実は、私がバングラデシュでバッグづくりを始めた頃は、現地でつくった160個のバッグを日本に持ち帰る方法さえ知らなかった。

手続きについて調べる前に、バッグをつくることを決めてしまったのだ。

私はとにかく毎日、手と足を動かしてものづくりをするのに夢中だった。

モノができれば、それを売るために次のアクションをとらなければいけないと気づく。

そうやって、無意識に前進していた。

結局、160個のバッグをどうしたのかといえば、なんと全部「手荷物」で抱えて日本に持ち帰った。

空港に大きなダンボール箱をいくつも持ち込んで、成田へ飛んだ。

重量オーバーにならないように、計量機からはみ出た箱の端を足のつま先でこっそり持ち上げた(!)というのも、嘘のような本当の話。

今となっては自分でも笑えるくらい、青臭くて不格好なドタバタの連続だった。

当時の私には「ビジネスを始める」という意識が1ミリもなかったと思う。

その代わり、絶やさなかったのは「この布を縫って、バッグをつくってみせる」という思い。

バングラデシュで出会った「ジュート」という麻素材にすっかり魅せられた私は、丈夫でほかにはない手触り感のあるこのジュートの可能性をどこまでも広げてみたいという強い思いに駆られていた。

高温多湿の気候が生み出す野性味あふれるこの植物は、しなやかで、なんでも受け止めるような耐久性を備え、太陽の下で黄金色に輝く。

強くて美しい生き物に憧れるように、私はジュートに恋をしてしまったのだと思う。

「これはそんなに高く売れるもんじゃないよ。うちの工場でつくっているのも、縫いっぱなしでつくるだけの1ドル以下の袋なんだから。どこかの国で、農作物の保存袋に使われているらしいけどさ」

ベンガル人にとっては、あまりにも身近すぎる宝物だったのだろう。

近年は「より稼ぎになる」という理由から、ジュートではなく米作に鞍替えする農家が増えていると聞き、私は居ても立ってもいられなくなった。

なけなしのお金をはたいて、まとまった量のジュートを買った。

そして、その繊維を一本一本ほどいて上質な繊維だけを集めて高密度で織り、まったく新しいジュート製の布地を開発した。

見違えた。惚れ惚れした。

これなら勝負できる、と確信した。

あの1ロールの布地から、すべては始まったのだ。

二酸化炭素の吸収量が豊富で、地球環境にもやさしいジュート。

この素材がもっと輝く使い道があるはず。私がそれを見つけて、この手でつくって、誰かに知らせたい。

思いだけで、始めた

利益とか成功とかは頭になく、手を動かすことしか考えていなかった。

それが正解かどうかも、気にならなかった。

私は、ただ目の前の「モノをつくる」ということに夢中になり、そこから始めた。

情熱を注げるモノを探す

モノはどんなに粗雑で荒削りであっても、そこにあり続けてくれる。

いいときも悪いときも、いつでも向き合える対象としてそこにある。

それがどんなに心強いことか。

今の時代、何かを始めようとすると「それで、将来のビジョンは?」「何を成し遂げたいの?」と最初から大きな地図を描くことを求められる。

起業した時点でビジョンを淀みなく語れるリーダーのほうが、今っぽいと讃えられる。

私も走り始めたときから「途上国から世界に通用するブランドをつくる」というビジョンはもっていたが、まずはゴールを小刻みにして、ジュートという素材、形ある“モノ”を信じ続けていた。

モノは嘘をつかない。

モノに対して、こっちがごまかすことも難しい。

迷ったとき、不安に駆られたとき、私はいつも自分の手の中にある「モノ」に答えを聞くようにしてきた。

それは美しいモノなのか。

私が心から好きと言えるモノなのか。

たくさんの人が愛してくれるモノなのか。

すると、自ずと答えは見えてきた。

どんなに素晴らしいビジョンを描いても、それを体現するモノを生み出せなければ、世の中を変えることなんてできない

逆に本当にチカラのあるモノをつくり出すことができれば、途上国の工場で働く人の生活が劇的に変化して、製品を手にする人の価値観にも影響していくんだってことを、私は学んできた。

そうやって、モノと常に向き合って「私たちがやるべきこと、やるべきではないこと」の検証を積み重ねていく中で、「途上国から、世界に通用するブランドをつくる」というビジョンはより強く、揺るぎないものになっていった気がする。

インターネットや仮想現実がこれだけ私たちの生活を支配している世の中で、実体としてのモノに問える機会は貴重になりつつあるのかもしれない。

でも、だからこそ、大切にしたいと思っている。

仕事の原点になっている「モノ」とはなんだろう…

この本を読んでいるあなたも、そんな問いを向けてみてほしい。

私の場合はものづくりの仕事に就いているので、それはジュートという素材だった。

同じように、仕事で開発に携わった製品でもいいし、今いる業界で「働きたい」と思ったきっかけとなったスーパーや百貨店などの棚に並んでいる自社の商品でもよい。

力を込めてつくったプレゼン資料や企画書、ネットで公開した一本のブログでも立派な「モノ」だと私は思う。

大事なのは「これが自分にとって大切なんだ」という価値観を体現しているような手触り感がある「モノ」を心の中でもち続けていること。

そして、迷ったときには、いつでもその「モノ」に立ち返ればいい。

マザーハウス代表・山口絵理子の思考法に迫る

バッグを購入する消費者、日本の店舗スタッフ、途上国の工場スタッフ…その全員を笑顔にするビジネスを構築してきた山口さん

「そんなの理想論だ」「考えが甘すぎる」と批判されながらも、難しいビジネスを見事成立させてきた思考法が、『Third Way』には記されています。

妥協でも諦めでもない、本質的な問題解決のヒントが同書から得られるかもしれませんよ。

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