ビジネスパーソンインタビュー
成功の裏にあった“改革”とは?
『新・一番搾り』が売上絶好調! キリンビールが負け戦から逆転できた理由とは?
新R25編集部
2019年5月にリニューアルし、発売後の調査では98.3%から「おいしい」との評価を得た「新・一番搾り」。
キリンビール自ら「キリンビールの最高傑作」と宣言したこのリニューアルですが、この自信の裏側には、ある“逆転劇”がありました。
本記事では、布施社長自ら指揮した“逆転”の一部始終を紹介します。
逆転の理由①「組織の変革を、社員一人ひとりが“自分ゴト化”できるように」
【布施孝之(ふせ・たかゆき)】1960年生まれ。82年キリンビール入社。大阪支社長、小岩井乳業社長などを経て、2017年1月よりキリンビール株式会社 代表取締役社長
私たち消費者は、受け取った商品そのものの価値でしか良し悪しを判断することができません。
しかし、ブランド側はその価値を提供しつづけるために戦略を変え、人を変え、そこに関わる人の意識を変えていく必要があります。変化しつづけるというのは、とくに大企業にとって困難な挑戦になることもあるでしょう。
2015年1月にキリンビールのトップに就任した布施孝之氏もまた、当時そんな悩みに直面していました。2009年にトップシェアを奪還したかと思えば、それ以降シェアダウンが加速。組織内に流れていたのは“負け”の空気感でした。
布施社長
新商品が出て当たることはありましたが、どこかで感じる一服感。戦略で勝つことができていない感覚がありました。そんな想いから、私自身が組織の抜本的な改革の必要性を強く感じていたんです。
「現場では何が起きているのか」「“負け”の本当の原因はどこにあるのか」。暗中模索のなか布施社長は、自ら現場に足を運ぶことを徹底しました。
そのなかで見えてきたのは、「戦略不在で目先ばかりで負のスパイラルに落ちていること」、「本社と現場のコミュニケーションに不足があること」。そして、「このままだとキリンビールの“赤字転落”が現実的になるかもしれない」という危機感だったと言います。
布施社長
この状況を打開するべく、私は全社員に新たな組織風土を浸透させるため 、「真にお客様のことを一番考える会社になり、現場が主役になる会社にしよう」というシンプルなメッセージを伝え続ける必要があると考えました。
とはいえ、「変革をしよう!」と伝えたところでなかなか変わらないのもまた事実。そこで、まずは全社員が「自分もまずかった」と、問題を自分ゴト化できるようになることがキリンビール変革の第一歩になると考えました。
トップからのメッセージは、多くの場合末端の社員に届くまでのタイムロスがあります。そしてそれが、現場で働いている社員であればなおさらでしょう。
営業畑出身だった布施社長は、この問題をきっとリアルに感じ取っていたのかもしれません、まずは自分自身が社員一人ひとりにこの問題を伝えようと動きはじめます。
まずはトップが変革への本気を示す。その姿勢が社員へ伝播していくことが“自分ゴト化”のキッカケになっていくのです。
布施社長
営業現場は40カ所ほどまわり、様々な年齢・役職の社員、労組、役員のべ900名ほどの社員と“お客様を第一”を徹底するために、自分たちは何をしなければならないのかについて議論を重ねていきました。
社員と議論を重ねる布施社長
布施社長
その結果、まだまだ目標としている状態からすると道半ばではありますが、このように地道に浸透させていった社員の価値観やマインドそのものが、着実にキリンビールならではの、目には見えない競合優位性になってきたという実感もあります。
逆転の理由②「“失敗”をマーケティングに活かす風土の定着」
一方、組織の雰囲気が上向きになり、社員一人ひとりのマインドが高いだけの組織が必ずしも良い成果を残せるとは限りません。
「会社の成果は働く社員のマインドと良い戦略の掛け算」と布施社長が語るように、風土を改革するのはあくまで第一ステップ。その次におこなったのは、キリンビール全体の進化に向けた新たな戦略の構築でした。
布施社長
マーケティング部長にP&Gから来た山形光晴が就任し、P&Gが掲げている“コンシューマーイズボス”、“仰ぐべきは上司じゃなくてお客様なんだ”という理念と、私が繰り返し社員に伝えてきた“お客様のことを一番考える”という理念が完全に一致していたことで、山形ともスムーズに意思疎通を取ることができたからです。
これにより、チーム内は上の意見に左右されず、お客様の声を重視して商品開発・ブランディングに没頭できる環境・体制に生まれ変わることができました。
キレ、コク、ホップの香り。クラフトビールなどのブームも影響してか、市場ではかつてと比べて特徴あるビールが多く発売されるようになりました。
それでも、疲れて帰って家で1人。仕事帰りに同僚とみんなで「乾杯」と言いながら。ビールを口にするときに感じる「おいしい」は特別な瞬間です。事実、キリンビールが実施した「ビールを選ぶときのポイントはなにか」というアンケートによると、“おいしさ”が第1位となっていることがわかります。
一番搾りが断固として“おいしさ”にこだわる理由。それこそ、「ビールを飲む人=お客様が求める本質的な価値」だからなのです。
布施社長
「お客様が本当に求めるものはなにか?」。社員の視点がそう変化した結果、マーケティング部ではこれまであまり触れていなかったという過去商品の失敗に関しても、もう一度原因を深掘りして分析を重ねました。
キリンビールではこれまで、12ブランドの麦系ビールの新ジャンルを発売していますが、それがひとつもものになっていなかった。でも、その反省に向き合うことをしていなかったんです。
その結果生まれたのが、目先ばかりで負のスパイラルとなっていたエクステンション品も削減し、10年後も生き残る注力ブランドに集中して投資する“絞りのマーケティング戦略”。これにより、さらに売り上げを加速させることになるのです。
逆転の理由③「現場と本社が一体となり、徹底した“届ける”工夫を」
布施社長がおこなったこれら一連の組織改革は「布施改革」と呼ばれ、昨年今年でキリンビールの新商品の成功確率は以前よりも高くなっていったそうです。
背景にあったのは、徹底したお客様目線。そして、それを実現できたのは、対立状態にあったマーケティング部門と営業部門の連携にありました。
布施社長
現場が主役の会社になりつつあるので、これまで境目があったマーケティング部門と営業部門のコミュニケーションの質が高まり、お客様にしっかりと価値を伝えられる「広告と連動した売り場づくり」を実現できるようになりました。
実際に九州では、現場の営業社員が主体となって企画・実施し、20万人への大規模サンプリングや店頭でのセミナーなどの施策を展開したり、お客様が一番搾りを飲みたくなるシーンを想像しながら、価値につながる買い場・飲み場づくりを全国的に展開することに成功しました。
追うものが異なる以上、ある程度の対立をはらんでしまうことはどんな組織でも起こり得るでしょう。そして、たとえそんな雰囲気であっても、「いい商品をきちんとつくって届けることさえできていればいい」と考える人もいるかもしれません。
しかし、キリンビールはそこを惰性でいることを良しとしませんでした。布施社長をはじめ、変革を感じ取った社員が繰り返し伝えていった「判断基準はお客様」というメッセージと、その結果生まれた新たな戦略。
「現状に甘んじず、伝えることを諦めない」。その姿勢そのものが、キリンビールという組織を再構に導き、データでは決して比較することができない、そしてどこにもマネできない、「お客様を起点に考えるカルチャー」という独自の武器をつくりあげていったのです。
成果が出ることでマインドも上向きに。“やらされ”にならない組織を目指す
布施社長
私たちはお得意先やお客様のこと地域社会のことをどこの企業よりも一番考える会社を目指しています。
そして社員全員が“なんのために”という意義を理解、納得したうえで、”やらされ”ではなく自発的に行動する組織を目指しています。
キリンビールは若手の育成にも力を入れ、2018年からは布施社長自ら、4日間のカリキュラムで社員に講義を行う「布施塾」を開講しています。すでに60名が受講しており、経営リテラシーやリーダーシップを磨いて、未来の優秀な経営層育成に早期から取り組んでいます。
布施社長
マインドが上向きになれば、戦略が回り出し成果が出る。そのことで、よりマインドが上向きになっていくというポジティブな連鎖が続く、強い組織になってきたと感じています。
とはいえ、私は、決して安心、慢心せず、キリンビールがめざすところはもっと高いところであるということは繰り返し言い続けるでしょう。
強い組織になり、絞りのきいたマーケティングでお客様にしっかりと価値を届けていくことができれば、まだまだキリンビールは成長できると確信しています。これからもぜひ期待していてください。
時代の潮流を読んだヒット商品が生まれる背景。それはもしかすると、商品そのものによってではなく、そこに関わる人がどれだけ同じ方向を向くことができるのか、そこに向き合う本気の覚悟があるのかにかかっているのかもしれません。
5月にリニューアルされた「新・一番搾り」を「キリンビールの最高傑作」と宣言したキリンビール。そして、自信の裏側にあったのは、今日に至るまでの逆転劇。
そんなストーリーを知ってから飲む一番搾りは、また格別な味わいとなっていることでしょう。
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