ビジネスパーソンインタビュー
南章行著『好きなことしか本気になれない。』より
同僚に勝てる能力がひとつもないならどうすべき? 自分の武器となるスキルはこう決めよ
新R25編集部
「人生100年時代」となり、定年退職が80歳になるかもしれない。たとえ定年まで働いても、年金はもらえないかもしれない。
このような未来が予想されているなか、「将来大変になるかもしれないけど、具体的にどう対策すればいいのかわからない」という方も多いのではないでしょうか?
そんな不安を払拭するヒントになるのが、『好きなことしか本気になれない。人生100年時代のサバイバル仕事術』。
著者の南章行さんは、バブル崩壊後の住友銀行から企業買収ファンドへ転職後、オックスフォード大学でMBAを取得、現在はスキルマーケット「ココナラ」を経営しているという、まさに不安定な時代を生き延びてきた人物です。
南さんの考える「自分が将来進むべき道の考え方」を、同書より3つの記事でお届けします。
リカードの「比較優位理論」
僕が住友銀行から転職したAP(アドバンテッジパートナーズ)は厳しかったが、居心地は悪くなかった。
若い会社で平均年齢も若い。
風通しはいいし、みんな優秀なだけでなく人柄も良くて、私にもあれこれ教え、本当によく育ててくれた。
「銀行時代より急速に成長している」という手応えは、何ものにも代えがたかった。
だから1年目の人事面談で、僕は社長にお礼を言ったのだ。
「みなさん、すごい人ばかりで勉強になります。いろいろ学ばせていただき、僕もちょっとずつですが進歩していると思います」
すると温厚な社長の顔が、みるみる変わった。
「南さん、何を言っているんだ?勉強になったとかそんな言葉はいらない。君はこの業界で一番になるつもりはないのか?みんなライバルだろう」
確かにそのとおりだけれど、言い返す言葉すらない。ライバルになれる力がない。
社長も僕の実力についてはお見通しだった。
「そもそも南さんは、ほかの人に負けない強みもエッジもないね。今のペースで行くんだったら、辞めてもらうしかない」
社長は「Warning(警告)だよ」と付け足して面談を打ち切った。
警告。次の半年で成果が出なかったら、僕はくびだ。
順調に成長しているというのは独りよがりで、会社の期待値にはさっぱり届いていない。もう、死ぬ気でやるしかない。
だが、同僚に負けないくらい賢くロジカルに働こうとしても、明らかに無理だ。
打ちのめされ、「自分の強みはなんだろう?」と考えたとき、僕が思い出したのは、経済学で習う「リカードの比較優位理論」だった。
有名な「弁護士と秘書」の例で簡単に説明すると、こんな理屈だ。
弁護士は法律の仕事だけでなく、タイプを打つ仕事も秘書より得意だとする。
一方秘書は、法律の仕事はまったくできない。
つまり弁護士は、法律もタイピングもどちらも秘書より優れているという「絶対優位」の状態にある。
しかしながら、2人の法律の仕事力を基準に考えたら、秘書のタイピング能力は弁護士より「比較優位」にあると見ることができる。
このような場合、弁護士は法律の仕事に特化し、秘書にタイプの仕事を任せたほうが2人あわせた効率は最もよくなる。
言い換えると、弁護士がタイピングをするとその間の多額の弁護士報酬を失ってしまうが、秘書がタイプを打っても失うものは何もない。
こうして、相手との比較だけでなく、自分のなかで相対的に得意なことに特化することで全体の効率が最もよくなるというのが「比較優位」の考え方だ。
同僚と比べたら、僕が勝てる絶対優位はひとつもないのだから、自分の内側を見て比較的強いところを見つけ出すしかない。
「比較優位」をスキルとして戦うしかないと思った。
「得意ラベル」を自分で貼れば、やがて得意になる
「スキル」は、人生100年時代になくてはならない個人の力のひとつだ。
クビ寸前まで追い込まれた僕はリカードの比較優位にのっとり、必死で自分の実力を見つめ直した。
僕の比較優位。それは、ファイナンスだった。
ファンドの仕事をあえて乱暴に定義すればそれは「ファイナンス+経営コンサルタント」であり、銀行出身の僕にとって比較優位は明らかに前者だ。
ファイナンスで行こうと決意が固まったのは、ある買収先のデューデリジェンスだった。
企業買収ファンドは、投資家から預かったお金を使って、企業を買収したり資本金を入れたりして経営の内側に入り、経営を立て直してその会社を強くし、うんと企業価値を高めて元より高く売却し、その差額の利益を投資家に返すことが仕事だ。
そしてデューデリジェンスとは、投資するかどうかの判断材料として、その企業の価値や抱えているリスクを調べることをいう。
多方面から調査・分析しなければならないから、ファイナンス、法務会計、ビジネスと領域を分担して数名で取り組むのだが、僕の担当はビジネス分析だった。
社長からはWarningが出ているし、そのプロジェクトのパートナー(担当役員)からもボコボコに怒られている。
努力しても努力しても、能力が足りないのだ。
「会社に辞めさせられるんじゃなく、自分から辞めざるを得ないぐらいにヤバい」
僕一人にビジネス分析を任せるのは無理だとパートナーが考えたのか、外部から助っ人を呼ぶことになった。
彼の名は渡辺雅之。南場智子、川田尚吾とともにディー・エヌ・エーを起業し、後にイギリスでQuipperを創業した人物だ。
パートナーが前職のマッキンゼーで同僚だったようで、ちょうどディー・エヌ・エーを辞めて時間があるタイミングだったため、50%の時間を使って手伝ってもらうことになった。
一緒に働いてみると、渡辺さんは桁違いに優秀だった。
マッキンゼーでパートナーとして活躍していた南場さんに、入社2年の若手ながら「一緒に起業しよう」と見込まれただけあって、抜きん出ている。
僕がたった1枚のパワポのスライドを苦労して書いている間に、彼は10枚ぐらいさらっと書き上げ、そのすべてのページにキレッキレの分析が凝縮されている。
「うわあ」と思った。心で「ワオ!」だ。
年齢はひとつしか変わらないのにこんなに差があるなら、やっぱり僕はビジネス的な視点ではどうやったって勝てない。
比較優位しかない、ファイナンスを軸にしようと腹が据わった。
渡辺さんのおかげでなんとかデューデリジェンスを乗り切った後、僕はファイナンスのラベルを自分に貼り、みんなに宣言した。
「僕はファイナンスが得意です。ファイナンスのことなら僕に聞いてください!」
社内では折に触れて吹聴し、質問を受け付けたり、勉強会を主催したりすることにした。
できるようになってから始めようと思っていたら、いつまでたってもできるようにならない。
問題は、ファイナンスが比較優位に過ぎないということ。
銀行の調査部に2年半いただけで実際の融資の経験はないから、残念ながらAPで教えられるようなスキルはまったくない。
そこで僕は、助っ人を頼むことにした。
社内でも抜群にファイナンスに強い人を講師として招いたのだ。
自分はファシリテーターとなり、個別の質問は全部いったん預かり、人に聞いたり本を読んで調べたりして後から答えた。
勉強会に来るのは主に、コンサル出身でファイナンスに比較的弱い人たち。
それゆえにしのげた部分もあるが、「みんながわからないポイント」を集積し、調べたり聞いたりして答え、やがて勉強会の資料も作ることは、非常に密度が濃い最高の勉強になった。
「ファイナンスを1人でちゃんと学んでから、勉強会を主催しよう」と段階を追うことを考えていたら、不可能だったと思う。
「僕はファイナンスが得意です」と宣言し、自分にラベルを貼って動いた結果、かなり恥もかいたけれど、結果として成長のスピードが加速したのだ。
僕は「ファイナンスに強い人」という、社内の立ち位置を見つけつつあった。
圧倒的に「できない」と、自分のスキルが生み出せる
こうして社長にWarningを受け、ビジネス的な視点でも勝てないというどん底まで落ちたとき、僕はファイナンスを自分のスキルにすると決めた。
あなたはどうだろう?
「これを自分のスキルにする」と決めたことがあるだろうか?
「スキルを見つける」と「これをスキルにすると意思決定する」は、大きく違う。
絶対優位の自分のスキルを内側から「見つける」ことができるのは天才だけだ。
僕を含めた多くの人は、相対的に得意だったり、とりあえず興味が向いたりした仕事をぱっと選んで「やる」と意思決定し、目の前の仕事を本気でやっていくうちに、「そこそこ得意で好きなもの」が育っていく。
だがそれはまだスキルではない。
自分のなかでは強いという比較優位でしかない。
それでも、比較優位を磨き上げて輝くスキルにするのだと、自分で「決める」ことなら、誰でもできる。
つまり、「私はこれをスキルにする」と意思決定さえすれば、誰でも自分の強みを持てる、生み出せるということなのだ。
この方法をあなたにもぜひ試していただきたいが、ギリギリまで追い詰められないと、比較優位に全エネルギーを注ぐことはできない。
「私の強みって?」と、安全な場所で絶対優位を探していたら絞れない。
たとえば電車もバスもない未開の地に行き、急いでいるのに車も自転車もロバさえ見当たらないというとき、「いくら遅くても歩くよりはましだ」と人は走る。
走るしかないから、走るのだ。
そうやって走り続けていくうちに、前より速く走れるようになる。
そうすると走ることが好きになって、もっと速くなる。
手を挙げればタクシーがくる状態で「走ろうかな、走れるかな」と思っていたら、走ることがスキルになる日は訪れない。
ぜひあなたも「私はこれをスキルにする」と意思決定をして、目の前の仕事を本気で取り組んでみてほしい。
人生100年時代の働き方をもっと学ぼう
『好きなことしか本気になれない。人生100年時代のサバイバル仕事術』は、今の仕事に違和感を抱いている方に読んでほしい一冊。
80歳まで働く未来を見据えたとき、今考えるべきは職場での競争や目の前の成長ではないかもしれません。
一生安泰な仕事が存在しないなか、私たちはどのように行動していけばいいのか、同書を通して学んでいきましょう!
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