「普段使わない脳みそ」を使おう
「お笑いだけやってればいい、とは全然思わない」河本準一×又吉直樹が語る“副業論”
新R25編集部
「働き方改革」が推進されるようになったことで、やたらと「副業」という言葉を聞くようになったこのごろ。
とはいっても、なんとなく「本業一本」のほうがカッコいい気もするし、副業することにうしろめたさを感じている人も少なくないはず。
そこで今回はスペシャル対談として、この人気芸人ふたりに「副業」についてどう思っているか、意見を聞いてみることにしました。
【又吉直樹(またよし・なおき)】写真左。1980年生まれ。お笑いコンビ「ピース」のボケ担当。2015年、小説『火花』で芥川賞受賞。2016年からは『NEWS ZERO』で月1キャスターを務める/【河本準一(こうもと・じゅんいち)】写真右。1975年生まれ。1994年にお笑いトリオ「次長課長社長」を結成。すぐにコンビとなり「次長課長」として活動。現在の出演番組に『じっくり聞いタロウ~スター近況(秘)報告~』(テレビ東京)など
新R25の取材で、施設へのボランティア訪問活動を7年間続けていると明かしてくれた次長課長・河本準一さん。
2016年に『火花』で芥川賞を受賞、以降も作家活動に注目が集まる、ピース・又吉直樹さん。
「お笑い」以外の分野でも輝くふたりの考える、「副業の神髄」とは…?
いつになくカッコいい仕上がりとなった(?)インタビューをお楽しみください。
〈聞き手=天野俊吉(新R25副編集長)〉
レジェンド芸人ほど、「お笑い一本」じゃない? 自分の仕事を決めつけないほうがいい
天野
副業をすることに少し抵抗があるビジネスパーソンは多いと思うんですが、“本業”以外でも活躍しているおふたりの「副業論」を聞きたいなと。
河本さん
「自分の仕事はこうだ」みたいにあんまり決めつけないほうがいいと思うんですよね。普通のサラリーマンでも。
又吉さん
僕も、小説を書いてラッキーなことに話題にしてもらったんですけど、とくに「違う仕事をやってる」とは全然考えてないですね。
天野
そうなんですか? 「もう芸人じゃなくて文化人やろ!」ってイジられてるところを見ますけど…
又吉さん
あの…そもそも日本の近代文学のおこりというのは「笑い」が深く関係しているんです。
近代文学の…おこり…
又吉さん
明治時代、本や新聞は「○○なり」みたいな「文語体」で書かれてたので、エリートしか読めなかったんです。
そこに、三遊亭圓朝(えんちょう)という落語家の噺を口語で書いた本が出て、バカ売れしたんですよ。
それで文学も「あの書き方で書いたらええんちゃうか?」っていうのが日本の近代文学のはじまり。
「速記本」のヒットで、「言文一致運動(話し言葉と書き言葉をいっしょにしようという運動)」がおこったそうです。大学で習った気がしますね
又吉さん
だから、「お笑いと小説は別のもの」なんて、誰がどこで分けたのか分かりませんが、隣接してるジャンルなんで強引に分ける必要はないんです。
そんなふうに、今って「仕事」になる過程でいろいろ細かく分けられちゃうでしょ。
多少はつながりそうなら、もっといろんな仕事をしてみていいと思うんですよね。
天野
まわりの人から「本業一本で頑張るべきや」とか言われたりするようなことはないんですか?
河本さん
いや~、思えばレジェンドの先輩方こそ“本業以外”もやってますからね。
たとえば明石家さんまさんなんて、トレンディドラマに出てるわけですよ。松本(人志)さんも、自分の考えてることをスクリーンでやったらどうなるか?って考えて映画をやってる。
天野
たしかに!
河本さん
もっと先輩だと、ドリフターズもクレイジーキャッツも「音楽と笑い」をやってるわけですから。
又吉さん
桂枝雀師匠(上方落語を代表する人気落語家。1999年没)は「緊張の緩和」、つまり笑いがない状態がゆるむと笑いが起きるという理論を提唱してますし、むしろ「お笑いだけやってればいい」とは全然思わないですね。
納得感ある。そして又吉さんの文化的素養が高すぎる…
仕事以外で「これだけはずっとやめないな」というものを見つける
天野
おふたりは、「自分にはどんな仕事の才能があるのか」って考えたことありますか?
河本さん
才能って難しいんですけど、ひとつだけ言えるのは「これは多分ずっとやめないだろうな」って思うものは、才能なんだと思うんですよ。
天野
続けられてる時点で才能!
河本さん
そう。僕は本当に社会不適合者なんで、これまでやってきたことって全部やめてきたんですよ。部活とか学校とか。それがお笑いだけは25年続いてるんで。
人からの評価は0点でもいいから、続けてたらそれだけで才能だと思うようになりましたね。
天野
0点でいいんだ…
河本さん
だから、「これだけはずっとやめへんな」っていうものがあったら、本業でも副業でもそれをやりつづけたらいいと思いますね。
天野
“好きなことは仕事にするべきじゃない”とも言いますけど、それはどう思いますか?
又吉さん
“好きの強度”の問題かなと思いますね。強度が強い人って、放っておいてもそれをやるしかないんですよ。
「生きることと、やりたい仕事の距離が近いタイプ」っていうかな。生きることが、すなわちやりたいことに直結してる。
「やりたいことの距離が遠いタイプ」は、そこそこに距離を取ってていいと思います。
天野
なるほど。おふたりにとってそれは何ですか?
又吉さん
僕は文章で、自分のむなしさを表現することですね。とくに「自由律俳句」は10年以上前からやってて、すごく楽しい。
「カキフライが無いなら来なかった」っていう自由律俳句が本のタイトルにもなってるんです。カキフライを食べに居酒屋に来たのになかったら、2時間ぐらい「なんで来たんかな…」っていうむなしい気持ちで過ごすわけじゃないですか。
そういうのがいっぱいあって、もう1000個以上俳句をつくってますね。
天野
1000個も…! それは才能ですね。
やっぱり自然に、そういう考えが浮かんでくるんですか?
河本さん
日常的に、そういう引っかかるものを探してしまうのはクセかもしれんな。
又吉さん
そうですね。友達3~4人で飲んでて、帰り道、家の方向が近い女の子と偶然2人で帰ることあるじゃないですか。
そんなときに、たまたま通り道にラブホテルの入り口があったらどうします?
僕は絶対そっち見ないようにしながら、「今の自分すごい滑稽やな」って思ってます。そういうのですよね。
そんな経験ないのに、めっちゃある気がしてくる…
又吉さん
面白くもない川を見て、「雨降ったら、あそこの高さまで水いくんですかねえ…?」ってムリにどうでもいい話をしている、自分の情けなさとか。
自分のことを俯瞰で見ると、いろいろ見えてきてしまいますよね。
副業のメリットは「普段使わん脳みそ」を使えること
天野
複数の仕事をするメリットって、どんなことがありますか?
又吉さん
いっつも同じところにいて、同じ人としか喋らないともったいないと思うんですよね。“同じクラスにいても喋らなそうな人”の考え方こそ勉強になるというか。
僕、女性と喋るの苦手なんですけど、たまには女性がいる飲み会とかに行くようにしてます。
天野
へえ! そこでどんな勉強が…?
又吉さん
15年以上前ですが、(千原)ジュニアさんに誘っていただいて、女性も何人かいる食事会にお邪魔したんですよ。
そこで「自分はSかMか?」っていう流れになったんです。
天野
順番に言ってくやつですね。あれ困るんだよなあ…
又吉さん
すごい緊張して、「ここで『わからん』って答えたら雰囲気悪くなるな…」ってドキドキしてたんです。
そしたらジュニアさんってすごいんです。
天野
なんですか?
又吉さん
それまでは「S、Mどっち?」ってきいてたのに、僕の順番のときだけ「又吉はどんな鳥が好きなん?」って。
美しい流れ
又吉さん
そのときに、「あ、これは普段使わない脳みそや」と思ったんですよね。
同時に、僕を傷つけないためのジュニアさんの「優しい脳みそ」でもあるし。
天野
なるほど、たしかに勉強になってますね…
河本さん
結局、そうやっていろんな人と話したり、いろいろ動いたりする人が、結果を出すと思うんですよね。
天野
ひとつの仕事にしばられないことで、そういうチャンスを得る可能性があると。
ビジネスパーソンの副業にもつながるお話かもしれませんね。
参考になるお話、ありがとうございました!
おふたりから出てきた教えは、
「自分の仕事を決めつけすぎない」
「自分が“ずっとやめないもの”が何か考える」
「普段会わない人と会うべき」
というもの。
マジメな話と、終わらないお笑いトークを横断する様子を見て、「おもろい人ほどお笑いだけじゃない」という理論に、深く納得させられたのでした。
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=土田凌(@Ryotsuchida)〉
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