ビジネスパーソンインタビュー
“せっかくいい大学に入ったんだから”と言われるモヤモヤ
いい大学を出たら、いい会社に就職しなきゃダメ? 自分の選択を肯定できるようになるまで
新R25編集部
記事提供:サイボウズ式
「せっかくいい大学に通っているんだから…」
「せっかく資格を取ったんだから…」
将来について相談したとき、誰かにこんなことを言われてモヤモヤしたことはありませんか?
一般的な価値基準で言うところの「いい大学」や「貴重な資格」は、時に足かせになってしまうものなのかもしれません。
やりたいことがあって、純粋に挑戦したいのに、周囲からは学歴や資格が「もったいない」と言われてしまう。
そんなモヤモヤへの対処法を聞くべく、サイボウズ式インターン生の鈴木健斗がお話を伺ったのが、フリーライターのマツオカミキさん。
マツオカさんは早稲田大学を卒業して老舗メーカーに入社するも、2年後に退職して、現在はフリーランスの道を選ばれています。
自分の価値観を信じて、自分の選択を肯定していくためには、何が必要なのでしょうか。
“せっかくいい大学に入ったんだから”と言われるモヤモヤ
鈴木
この前、自分のTwitterに、とある学生のつぶやきがリツイートされてきたんです。
マツオカ
どんなつぶやきだったんですか?
鈴木
その人は早稲田大学の学生だったらしいんですけれど、親から「せっかくいい大学に入ったんだから就職しなさい」と言われて、モヤモヤしているという内容が書かれていました。
たぶん、企業への就職のほかに、何かやりたいことがあったんだと思います。
マツオカ
そうだったんですね。
鈴木
そこで考えたんです。
本当は自分なりにやりたいことがあるのに、学歴のために周りから何か言われて、踏みとどまってしまう人たちがいるんじゃないかと。
マツオカ
なるほど。
鈴木
そんなときに。マツオカさんが似たような経験をブログに書かれていたのを読んで、お話を聞かせていただきたいと思ったんです。
マツオカ
ぜひ!
マツオカミキさん。1989年生まれ。早稲田大学教育学部で社会学や社会心理、メディア論について学び、在学中は出版関連のITベンチャーでコンテンツ制作などを担うインターンを経験。卒業後は老舗文房具メーカーに総合職で入社し海外経理を担当する。2014年に独立し、フリーライターとして活動開始。マーケティング、教育、観光、アウトドア、将棋など、幅広い分野で執筆する
自分に合った働き方を選んだのに「もったいない」と言われた
マツオカ
私は大学を出て老舗文房具メーカーに就職しました。
現在はフリーランスのライターですが、そういった働き方を自分がするとは、学生のときには考えていませんでしたね。
鈴木
それはなぜですか?
マツオカ
憧れはありました。
でも、周りを見れば「大手や有名企業に入ることが当たり前」という雰囲気があったので。
そうした価値観に自分を合わせていったのかもしれません。
マツオカ
入社して配属された経理部は、毎日15時半にはだいたいの仕事が終わって、定時の17時半には帰れちゃうという職場でした。
でもそれが私には向いていなくて。
鈴木
定時に帰れちゃう…人によっては最高の環境じゃないですか?
マツオカ
当時の私には「バリバリ働きたい」という気持ちが強くて、どうしても物足りない感じがありました(笑)。
15時半にあらかた仕事を終えてからの2時間はほとんど何もすることがなくて、無駄にマニュアルをつくり直してみたり、経理に関する本を読んでみたり…
自分の意志とは違う働き方がストレスになっていったんです。
鈴木
なるほど。
マツオカ
2年間仕事を続けましたが、ある日精神的なところから体調を崩してしまって、退職しました。
マツオカ
その後は英語講師などのアルバイトをしながら、複業的に書く仕事を始めました。
その過程で「フリーランスという働き方やライティングこそ自分に向いているかも」と思うようになり、本業にしました。
でも、最初は会社員だったころのように収入は得られなかったので、周りからは「もったいない」とか「せっかく大学を出たのにそれでいいの?」みたいなことを言われていましたね。
「もったいない」と言われてモヤモヤするのは、自分にもそういう気持ちがあるから
鈴木
そうやって周りから「もったいない」と言われたとき、自分の意志を貫くためにはどうしたらよいのでしょう?
マツオカ
私は「自分と他人を切り離す」ことが大事だと思っています
マツオカ
他人には他人の選択基準があるし、自分には自分の基準がある。
「もったいない」というのは結局、その人の価値観でしかないんです。
他人にそう言われたからといって、本当に自分の選択が「もったいない」訳ではない。
鈴木
なるほど。
マツオカ
でも自分の知っている世界が狭いと、そうやって「もったいない」と言ってくる人たちの考え方が、すべてだと思ってしまうかも。
そうした意味では、いろいろな働き方のロールモデルを知る機会があればいいのかもしれません。
鈴木
ロールモデル、ですか。
マツオカ
はい。私も大学時代は親や友だちの考え方、会社員時代は同僚や先輩の考え方が当たり前でした。
でもフリーランスとして働き始めて、それまでは知らなかったいろんな働き方や生き方をしている人たちと出会ったんですね。
その過程で「こういう考え方もあるんだな」と視野が広がっていったんです。
鈴木
いろんな価値観に触れられたからこそ、「もったいない」と言ってくる人たちの考え方だけが絶対じゃないと思えるようになったんですね。
「何を言われたか」だけじゃなく、「どんな文脈で言っているのか」まで理解する
鈴木
ただ、周りの意見にまったく耳を貸さないのも、自分の将来を狭めてしまうと思うんです。
マツオカさんのなかで、「こういう人の意見だったら聞いてもいい」という基準はありますか?
マツオカ
その人自身が楽しそうに働いている人であれば、そのアドバイスは聞きたいなと思います。
鈴木
「何を言われたか」だけで判断するのではなく、「どんな人に」「どんな文脈で」言われたかを理解することが大事、ということですか?
マツオカ
はい。たとえば私は、最近はどちらかというと余裕を持って働きたいと思っています。
なので、今の私には"仕事が大好きで毎日バリバリ働いている"という人からのアドバイスは、刺さらないかもしれません。
逆に、プライベートでも大切にしたいことがあって、バランスを測りながら仕事をされている方のお話だったら、聞いて参考にしたいと思うかもしれませんね。
過去を100%未来につなげなくてもいい
鈴木
そもそも、将来の選択に対して「もったいない」と思ってしまうのは、どうしてなんでしょう?
マツオカ
おそらく「過去を100%未来につなげなきゃいけない」と考えてしまうからじゃないでしょうか。
マツオカ
以前は私も「学歴や資格など、自分が積み重ねてきた経験はちゃんと生かさなきゃいけない」と思っていました。
メーカーを辞めた後に英語講師をやったのも、「過去に取ったTOEICの点数が高かったから、生かさなきゃもったいない」と思ったんです。
同じように、経理のキャリアや簿記の資格を生かさないのももったいないと考えていました。
鈴木
過去を未来につなげなきゃいけないという、プレッシャーがかかっていたんですね。
マツオカ
そうですね。そもそも自分の選択肢を広げるためにいろいろ勉強したり資格を取ったりしたはずなのに、気づけばそれが選択肢を狭めることにもなるんだな、と思いました。
鈴木
でも、せっかく自分が積み重ねてきた過去の努力を「切り離してもいいんだ」と思い切るのは、勇気がいることだと思います。
マツオカさんはどうして、そこを割り切れたのでしょう。
マツオカ
私の場合は、体を壊したことで思い切ることができました。
本来は自分の人生を充実させるために仕事をしているはずなのに、それで体を壊すなんておかしいなと。
鈴木
そうですね。
マツオカ
だったら、一度過去を切り離してもいいかなと思ったんです。
もちろん、いきなりすべてを切り離すことはできません。会社を辞めた後は経験や資格を生かす仕事をしました。
でもライターの仕事がメインとなってからは、「過去を生かさなきゃ」と焦ることはなくなりました。
鈴木
なるほど。そういう意識の変化があったんですね。
マツオカ
そもそも、周りから「せっかく」とか「もったいない」と言われてモヤモヤするのは、自分のなかにも「もったいない」という気持ちがあるのかもしれません。
そういった気持ちがまったくなければ、「この人は何を言ってるんだろう?」で終わると思うんです。
鈴木
たしかに。
マツオカ
だからまず、自分の選択を自分自身が「これでいいんだ」と思ってあげることが大事なんだと思います。
「もったいない」と言われなくなったのは、意志と実績を示し続けてきたから
鈴木
現時点でマツオカさん自身は、過去の選択を肯定してらっしゃると思います。
一方で、かつて「もったいない」という言葉をかけてきた周りの人たちからは、同じように理解されているんでしょうか?
マツオカ
そうですね。もう「もったいない」とは言われなくなりました。
鈴木
それはなぜでしょう?
マツオカ
「続けてこられたから」だと思います。
ライターを続けて、それを仕事にするという意志を見せ続けたから。
鈴木
具体的には、どういうふうに?
マツオカ
私の場合はライターとして何かを執筆するたび、それがどんなに小さな仕事でも、書いたものをしっかり親に伝えたり、SNSで発信したりしていました。
言葉だけで「私は〇〇がやりたいんだ」と口にしていても、その人がどれだけ本気なのか、周囲の人たちも理解しづらいと思います。
でもそこで「実際にこれだけのことをやっています」ということが伝えられたら、周囲の人たちもその人が本気なんだと、わかってくれると思うんですよね。
鈴木
たしかに。
マツオカ
だからどんなに小さなことでも、実際にやってみて、その実績を人に伝えていくのって大切なことだと思います。
失敗しても立ち直れるくらいの範囲でやってみるのもいいかもしれません。
今だと複業という選択肢もありますし、新しい仕事に挑戦することもそんなにハードルは高くないので。
鈴木
なるほど。
マツオカ
同時に、「私はこういう考えでいるよ」ということも結構な頻度で伝えてきたと思います。
結果的に相手が「そうだね」と理解してくれるかどうかは別だけど、自分の想いを伝えないことには何も始まらないので。
鈴木
今までマツオカさんは「もったいない」と言われてモヤモヤされてきたのだと思いますが、逆に、これまで周りの人から言われてうれしかった言葉ってありますか?
マツオカ
あります。会社を辞めたときに、「もっと失敗したほうがいいよ」と言ってくれた人がいたんです。
鈴木
もっと失敗したほうがいい。
マツオカ
それまでの私は、なるべく失敗しないように無難な道を歩いてきたんだと思います。
だから「もっと失敗したほうがいい」というアドバイスはうれしかったですね。
鈴木
「もったいない」という言葉を気にしてしまうのは、その人のなかに「失敗したくない」という気持ちがあるからなのかもしれません。
でも、失敗を恐れて自分のやりたいことができなくなることも、「もったいない」ことなんじゃないかと思います。
本日はありがとうございました!
〈文=多田慎介/撮影=尾木司/企画編集=鈴木健斗〉
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