ビジネスパーソンインタビュー
チームづくりの決定版
【無料試し読み】麻野耕司『THE TEAM 5つの法則』
新R25編集部
目次
- 「何を伝えるか」を工夫してもメンバーを動かせないリーダーに足りないもの
- コミュニケーションを阻むのはいつだって感情
- 「理解してから理解される」という人間関係の真実
- チームメンバーの人生を知っているか?
- 相手の特徴を知らなければコミュニケーションは成立しない
- 重要なのは“正しい意思決定”じゃない。「チームを幸せにする独裁」のポイント
- 「みんなで話し合って決める」のデメリットとは?
- 独裁を成功させる「速く」「強い」意思決定
- チームメンバーの理解なしには「独裁」は成功しない
- 独裁者が持つべき「影響力の源泉」5パターン
- 「メンバーのモチベーションを高めるには、リーダーの情熱が大切だ」に潜む誤解
- チームづくりにおいて大切なモチベーション=「エンゲージメント」
- エンゲージメントを科学する ~気合いで人は動かない~
- チームのエンゲージメントを高める「4P」とは?
- モノが豊かな時代、人は「感情報酬」で動く
- エンゲージメントを生み出す方程式
- “雰囲気”をマネジメントするコツは? チーム崩壊の「4つの落とし穴」とその対策
- チームを崩壊させる「落とし穴」
- ①「自分1人くらい」という落とし穴(社会的手抜き)
- ②「あの人が言っているから」という落とし穴(社会的権威)
- ③「みんなが言っているから」という落とし穴(同調バイアス)
- 「みんなが言っているから」という落とし穴への対策
- ④「あの人よりやっているから」という落とし穴(参照点バイアス)
- 成功する「チームの法則」もっと知りたい方はこちら!
「チームには、情熱や信頼が必要だ」
このように、これまでは個人の経験や感覚で語られがちだった「チーム」。
学校でも会社でも、チームづくりについて体系的に学ぶ機会はほとんどないと言っても過言ではありません。
“個人を輝かせる”チームの重要性が増している今こそ、「精神論」や「経験則」ではなく、理論的で再現可能な「法則」でチームを語ることが必要だ。
そんな思いをもって、モチベーションエンジニア・麻野耕司さん(リンクアンドモチベーション取締役)が「成功するチームとは何か」を科学的に解き明かした著書『THE TEAM 5つの法則』より、メンバーの力を最大限に引き出す「チームの法則」の数々をご紹介します。
「何を伝えるか」を工夫してもメンバーを動かせないリーダーに足りないもの
コミュニケーションを阻むのはいつだって感情
ルールによってコミュニケーションの複雑性を下げたとしても、チームにおけるメンバー同士の効果的な連携にはコミュニケーションは必要不可欠です。
では、どうすればチームの中で効果的なコミュニケーションができるでしょうか?
「チーム内のコミュニケーションは簡潔な方が良い」
多くの書籍で、とにかく短く話すことが推奨されています。
確かに、無駄に長い話は必要ありませんが、コミュニケーションは簡潔であればあるほど、効率的・効果的になるわけではありません。
それはなぜか。
世の中でコミュニケーションについて語られる場合、その多くが、「何を伝えれば良いのだろう」というコミュニケーションのコンテンツ(内容)に着目したものです。
しかし、コミュニケーションのコンテンツをどのように変えても、チームメンバーたちが動いてくれないことがあります。
なぜならば、そのような時にチームメンバーが動いてくれない原因は「感情」にこそあるからです。
「どうせ、このメンバーは自分のことを分かってくれていない」
「しょせん、自分が動いてもチームの結果は変わらない」
「やっぱり、このチームでは自分は大切にされていない」
などなど。
「どうせ」「しょせん」「やっぱり」といった言葉に代表されるチームやチームメンバーに対するネガティブな感情が、コミュニケーションのコンテンツに対する理解や共感、その先にある行動を阻害していることがあります。
そのような状況の中では、どれだけ「何を伝えるか」について工夫をしたとしても、相手のネガティブな感情によって跳ね返されてしまい、コミュニケーションは効果的なものになりません。
チームメンバーに対して「何を」伝えるかではなく、「誰が」「どのような場で」伝えるかを変えなければなりません。
同じことを言われたとしても「誰から言われたのか」「どのような場で言われたのか」によって、言われた側のメンバーの感情は大きく変わってきます。
「誰が」「どのような場で」伝えるのかというのは、コミュニケーションの前提となるコンテキスト(文脈)です。
ここからは、良いコンテキストを生み出すために、時に、
「チーム内のコミュニケーションは簡潔な方が良い」
ではなく、
「チーム内のコミュニケーションに無駄があっても良い」
ということをお伝えしたいと思います。
まずはチームメンバーの感情をポジティブなものへと変えるコミュニケーションのコンテキストづくりについて紹介していきたいと思います。
「理解してから理解される」という人間関係の真実
世界的なベストセラーであるビジネス書『7つの習慣』では、世界で活躍している成功者がどのような習慣を持っているかを解き明かしています。
そこで紹介されている習慣の1つに「理解してから理解される」というものがあります。
人間は自分のことを理解してもらおうとしているうちは相手から理解されず、自分が相手のことを理解しようとした時に、相手から自分のことも理解される、という考え方です。
中国の故事に「士は己を知る者の為に死す」という言葉があります。
中国の春秋戦国時代、晋の智伯は趙の襄子に滅ぼされました。智伯の臣であった予譲は命懸けで敵討ちをしようとして捕らえられました。
予譲が処刑されようとする時に、なぜそこまでするのかと問われて言った言葉です。
仕えていた智伯が自分の能力を理解し、登用してくれたことを恩に感じて予譲は敵討ちをしようとしたのです。自分を理解してくれる人のために何かをしたいという人間の特性をよく表したエピソードです。
「どうせ、しょせん、やっぱり」というチームに根付くネガティブな感情を排除するためには、それぞれのメンバーが「自分は理解されている」と感じることが効果的です。
逆に言うと、「どうせ、しょせん、やっぱり、この人たちは自分のことを分かってくれていない」というチームメンバーたちとは効果的なコミュニケーションを取ることができません。
同じ内容を伝えたとしても、「自分のことを分かってくれていない人が伝えている」のと「自分のことを分かってくれている人が伝える」のとでは、受け取る相手の感情が全く違うのです。
コミュニケーションは「誰が」伝えるのかが重要です。
相手に自分は理解されていると感じてもらうために、チームメンバーは他のメンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解する必要があります。
チームメンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を理解した上で伝えれば、コミュニケーションの効果を飛躍的に高めることができます。
例えば、あるメンバーにリーダーのアシスタント役への配置転換を伝える際にも、
「このリーダーのアシスタントをやってほしい」
と伝えるのと、
「このリーダーのアシスタントをやってほしい。あなたは学生時代のサークルでサブリーダーをやっていて(経験)、とても充実していたと言っていたよね(感覚)。きっとこの仕事も楽しんでできると思うよ」
と伝えるのとでは、同じことを「伝えて」いても、「伝わる」度合いは全く違います。
ミスが多いチームメンバーに、
「ミスがないようにもっと丁寧かつ慎重に仕事をしてほしい」
と伝えるのと、
「ミスがないようにもっと丁寧かつ慎重に仕事をしてほしい。君は企画を立てることにはとても長けている(能力)けれども、将来プロジェクトマネジャーをやりたいのであれば(志向)、計画性や確動性も必要だよ」
と伝えるのとでは、同じことを「伝えて」いても、「伝わる」度合いは全く違います。
チームメンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を「相互理解」していれば、前記のように同じコンテンツ(内容)でも全く違うコンテキスト(文脈)で伝えることができ、相手に伝わり、感情を動かすコミュニケーションができるのです。
チームメンバーの人生を知っているか?
採用の面接などでは「あなたが今まで最も頑張ったことを教えて下さい」という質問をされることがありますが、実はこれは相手を知るために有効な質問ではありません。
なぜならば、何十年も生きてきた中の、ほんの数週間や数日の出来事を話されても、相手の人生における「経験」の全体像を知ることができないからです。
言い換えると相手の「経験」を「点」でしか把握できず、「線」で知ることができないのです。
また、この質問だけでは、相手の「経験」しか知ることができないのですが、相手をしっかりと理解しようとすると、本来はその「経験」を通じてどんなことを感じたかという、相手の「感覚」を理解する必要があります。
言い換えると、相手の「経験」だけではなく、「感覚」まで掘り下げることによって「線」ではなく「面」で相手を知る必要があるのです。
人事の領域では相手の経験の全体像を知るための質問を「水平質問」、相手の経験だけでなく感覚まで掘り下げる質問を「垂直質問」と言います。
しかし、的確に「水平質問」や「垂直質問」をするのは簡単なことではありません。
そこで、「モチベーショングラフ」という相手の「経験」や「感覚」を手軽に把握できるアプローチを紹介したいと思います。
「モチベーショングラフ」は横軸に時間、縦軸にモチベーションを取り、その変化を曲線で描きます。曲線が山や谷になっている部分に吹き出しで出来事を記入します。
横軸を生まれてから今に至るまでに設定すると、相手の「経験」を「線」で知ることができます。またモチベーションを曲線で描いてもらうことにより、その都度の「感覚」が分かり、「面」で相手を知ることができるのです。
私たちは同じチームにいるメンバーの「今」しか知らないことも多いですが、「過去」を「経験」と「感覚」という軸で理解することで、相手のコンテキストに合わせたコミュニケーションが可能になります。
是非あなたのチームでも、メンバー全員でモチベーショングラフを作成し、共有してみて下さい。チーム内のコミュニケーションが、相手の過去の経験や感情に配慮したものへと変化していくはずです。
そして、メンバー同士のコミュニケーションが、一方的に「伝える」ものから、相手に「伝わる」ものへ、そして相手を「動かす」ものへと変わっていくでしょう。
相手の特徴を知らなければコミュニケーションは成立しない
相手の「経験」や「感覚」に加え、「志向」や「能力」といった特徴を掴むことができれば、より相手のコンテキストに合わせたコミュニケーションが可能になります。
リンクアンドモチベーションでは、人材採用や人材育成において、人の「志向」を知るための「モチベーションタイプ」、「能力」を知るための「ポータブルスキル」というフレームワークを活用しています。
「分かる」の語源は「分ける」だと言われていますが、目に見えず捉えにくい人の「志向」や「能力」を掴むためには、それらを「分ける」、つまりは分類して捉える必要があります。
「モチベーションタイプ」や「ポータブルスキル」は人の「志向」や「能力」をまさしく分けることによって分かりやすくしたものです。
■人の「モチベーションタイプ」の分類
「モチベーションタイプ」は、思考や行動に対する欲求を表していて、「アタックタイプ」(達成支配型欲求)、「レシーブタイプ」(貢献調停型欲求)、「シンキングタイプ」(論理探求型欲求)、「フィーリングタイプ」(審美創造型欲求)の4つに分けられます。
「アタックタイプ」(達成支配型欲求)は「自力本願で強くありたい。成功を収めたい。周囲に影響を与えたい。意志薄弱な状態や人への依存を避けたい」という欲求を持っています。
反応しやすいキーワードは「勝・負」「敵・味方」「損・得」で、言われて嬉しい言葉は「すごいね」です。
「レシーブタイプ」(貢献調停型欲求)は「人の役に立ちたい。平和を保ち、葛藤を避けたい。中立的な立場でいたい。他者との戦いよりも協調を大切にしたい」という欲求を持っています。
反応しやすいキーワードは「善・悪」「正・邪」「愛・憎」で、言われて嬉しい言葉は「ありがとう」です。
「シンキングタイプ」(論理探求型欲求)は「様々な知識を吸収したい。複雑な物事を究明したい。勢いだけで走ること・無計画な状態を避けたい」という欲求を持っています。
反応しやすいキーワードは「真・偽」「因・果」「優・劣」で、言われて嬉しい言葉は「正しいね」です。
「フィーリングタイプ」(審美創造型欲求)は「新しいものを生み出したい。楽しいことを計画したい。自分の個性を理解されたい。平凡であること・同じことの繰り返しを避けたい」という欲求を持っています。
反応しやすいキーワードは「美・醜」「苦・楽」「好・嫌」で、言われて嬉しい言葉は「面白いね」です。
モチベーションのタイプ分類を理解することで、相手の志向を捉えやすくなるはずです。
■人の「ポータブルスキル」の分類
「ポータブルスキル」は、直訳すると「持ち運び可能な能力」になりますが、これは業界や職種を問わず、必要とされる能力という意味で、「対自分力」(行動や考え方のセルフコントロール能力)、「対人力」(人に対するコミュニケーション能力)、「対課題力」(課題や仕事への処理対応能力)の3つに分けられます。
「対自分力」は「決断力」「曖昧力」「瞬発力」「冒険力」といった外向的なスキルと、「忍耐力」「規律力」「持続力」「慎重力」といった内向的なスキルに分けられます。
「対人力」は「主張力」「否定力」「説得力」「統率力」といった父性的なスキルと、「傾聴力」「受容力」「支援力」「協調力」といった母性的なスキルに分けられます。
「対課題力」は「試行力」「変革力」「機動力」「発想力」といった右脳的なスキルと「計画力」「推進力」「確動力」「分析力」といった左脳的なスキルに分けられます。
外向的か内向的か、父性的か母性的か、右脳的か左脳的か、どちらのスキル傾向があるのかを理解することで、相手の能力を捉えやすくなるはずです。
あなたのチームでも、メンバーひとりひとりにセルフチェックをしてもらってみて下さい。
そして自分たちのタイプやスキルをチーム内で共有した上で、日々のコミュニケーションで相手の志向や能力を意識して下さい。
例えば相手が「アタックタイプ」「父性スキル」などであれば、仕事を頼む前に一言、
「○○さんの統率力(能力)はすごい(志向)と思っているから~~を頼みたい」
と加えてみて下さい。
チームのコミュニケーションはより相手に「伝わる」、そして相手を「動かす」ものへと変わっていくはずです。
私たちは同じチームにいるメンバーの「行動」しか見ることができませんが、その裏側にある「志向」や「能力」を理解することで、お互いのコンテキスト(文脈)に合わせたコミュニケーションが可能になります。
コミュニケーションがうまくいかない理由は多くの場合、「自分と他人は同じ」という前提でコミュニケーションを取ってしまうことにあります。
しかし、人間はひとりひとり異なる前提を持っているため、同じ内容を伝えても、人によって自分とは全く異なる受け取り方をしたり、全く異なる感情を抱いたりするものです。
メンバーの「経験」「感覚」「志向」「能力」を知ることで、自分と相手との違いも理解でき、チームの目的の実現に向けて効果的・効率的なコミュニケーションができるようになるはずです。
重要なのは“正しい意思決定”じゃない。「チームを幸せにする独裁」のポイント
「みんなで話し合って決める」のデメリットとは?
チームにおける意思決定については、「みんなで話し合って決めるのが良いことだ」と思っている方が多いような印象を持っています。
世界の歴史において、かつては血統によって決まった王様や皇帝、将軍によって治められてきた国の統治システムを、「民主化」によって民衆の手に取り戻してきたからかもしれません。
しかし、「みんなで話し合って決める」合議という意思決定方法の最大のデメリットは、時間がかかるということです。
逆に、リーダーが最終的な意思決定を下すのでも良いですし、領域によって誰か意思決定する人を予め決めておくのでも良いですが、「誰か1人で決める」独裁という意思決定方法は圧倒的に「速さ」を担保することができます。
昨今は環境変化のスピードが速くなり、意思決定に時間がかかることはビジネスにおける致命傷となってしまう状況になってきています。
この数十年の中で、日本企業の時価総額ランキングで上位にランクインしたソフトバンクやファーストリテイリング(ユニクロ)は、孫さんや柳井さんというオーナー経営者がトップダウンでスピーディに意思決定していることも、ビジネスにスピードが求められていることの象徴だと言えるでしょう。
独裁を成功させる「速く」「強い」意思決定
では、独裁という意思決定手法はどのようにすればうまくいくのでしょうか?
独裁というのは決して誰からも情報収集せずに、誰からの意見も聞かずに決めるということではありません。
意思決定者が必要な情報を十分に集め、様々な角度からの意見を聞いた上で決めることは、意思決定の精度を高めるために非常に重要です。
しかし、その上で大切なことは、「良い意思決定」「正しい意思決定」にとらわれすぎずに、「強い意思決定」「速い意思決定」を意思決定者が心がけることです。
今、2つの選択肢からどちらかを選ぶという意思決定をしなければならないとします。
多くの場合、それぞれの選択肢を選ぶメリットの大きさとデメリットの大きさは拮抗しています。
例えば、バレーボール部の練習メニューについて考えてみましょう。
「レシーブ練習よりもスパイク練習が多い方が良い」
というようなメリットとデメリットのどちらが大きいのかについて意見が分かれるようなことにこそ、意思決定が必要になります。
「チームのメンバーができる限りサボらずに練習に来た方が良い」
というような明らかにメリットの方がデメリットよりも大きいようなことは意思決定の対象にすらなりません。
極論を言うと、チームとしての意思決定を迫られるのは、メリットが51%あり、デメリットが49%あるようなことに対してだけだと言っても過言ではありません。
だとすれば、どちらの選択にメリットが51%あり、どちらの選択にメリットが49%しかないのかということを思い悩むよりも、迅速に意思決定した方が良いでしょう。
速く意思決定した分、実行のための時間を稼げるからです。
ソフトバンクの孫さんはファーストチェス理論というものを意思決定時に用いていると言われています。
ファーストチェス理論とは、チェスにおいて「5秒で考えた手」と「30分かけて考えた手」は、実際のところ86%が同じ手なので、できる限り5秒以内に打った方が良いという考え方です。
この考え方をもとに、とにかく速く意思決定をしていると言います。
「良い意思決定をしよう」「正しい意思決定をしよう」と考えるとどうしても時間をかけすぎてしまいますが、意思決定者は前記のような考えを頭に入れ、「強く」「速く」1人で決断する、ということが大切です。
チームの中で賛成、反対の両方のメンバーが存在すると、時に意思決定者は反対意見を持つメンバーのことを気にしてなかなか決められないという状況が生まれることがあります。
しかし、意思決定者は孤独を恐れず、チームのために迅速に力強く意思決定しなければなりません。
もしもあなたのチームが速く、強い決断に慣れていないのであれば、まずは会議の中で小さな決断を先送りにすることをやめましょう。
「意思決定」という視点で会議をチェックしてみると、「今後検討していきましょう」「あのメンバーに確認して決めます」という形でちょっとした決断を先送りしているものです。
「その場で決める」ことを意識して会議に臨むだけで、チームの意思決定力は格段に上がるはずです。
チームメンバーの理解なしには「独裁」は成功しない
また、意思決定は意思決定そのものよりも、意思決定後に選んだ選択肢をどれくらい着実に実行し、正解にできるかどうかが重要です。
そうすれば51%しかなかったメリットが、60%、70%と増えていくからです。
しかし、多くのチームで、意思決定したことについてメンバーたちが
「本当はこちらの選択肢の方が良かったのではないか」
「なぜ、こちらの選択肢を選んでしまったのか」
というような不満を漏らし、きちんと実行がなされないということが起きています。
意思決定するまでに意思決定者に情報や意見を伝えたり、議論を尽くすことは勿論必要ですが、一度意思決定がなされたのであれば、その意見について「自分は本当はこう思っていた」などと考え、話すことは効果的ではありません。
多くの意思決定には51%のメリットと49%のデメリットがあることを、意思決定者だけでなくチームメンバーが理解し、意思決定者の決断を自分たちの手で正解にする気概が重要です。
独裁による意思決定を成功させるのは、意思決定者だけではなく、その意思決定を実行するチームメンバー全員なのです。
意思決定者は反対や孤立を恐れずに、1人で決めよ。しかし、メンバーは意思決定者を孤独にするな。
チームにおける意思決定をする上でとても大切なことです。
独裁者が持つべき「影響力の源泉」5パターン
ここまでで、
「チームの意思決定の成否はリーダーの決断で決まる」
というのは間違ってはいませんが、
「チームの意思決定の成否は、決断後のメンバーの実行度合いで決まる」
もまた真実だとお伝えしました。
意思決定者以外のメンバーが意思決定に賛同し、実行するかどうかは、「どのような意思決定なのか?」だけではなく、「誰が意思決定者なのか?」にも影響を受けます。
同じことを言われても、Aさんの言うことは聞きたくなるが、Bさんの言うことは聞きたくならない場合、AさんはBさんよりも「影響力」が高い、と言えるでしょう。
では、その「影響力」の源泉はいったい何なのか?
「影響力」には5つの源泉があります。
1つ目は「専門性」。メンバーに「すごい」と思われる技術や知識を持っていること。
2つ目は「返報性」。メンバーに「ありがたい」と思われる支援や関与をしていること。
3つ目は「魅了性」。メンバーに「すてき」と思われる外見的・内面的魅力を有していること。
4つ目は「厳格性」。メンバーに「こわい」と思われる規律や威厳を持っていること。
5つ目は「一貫性」。メンバーに「ぶれない」と思われる方針や態度を持っていること。
チームのメンバーの意思決定への態度は、意思決定者がこれら5つの影響力の源泉を持っているかどうかによって大きく影響をうけます。
「専門性」「返報性」「魅了性」「厳格性」「一貫性」を有したメンバーを意思決定者にする、意思決定者がこれらの影響力の源泉を持てるように自分を成長させる、などにより意思決定にメンバーが賛同・実行してくれるようになり、意思決定の成功確率はあがると言えるでしょう。
※学術的背景に興味がある人はTheory「ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』」参照。
「メンバーのモチベーションを高めるには、リーダーの情熱が大切だ」に潜む誤解
チームづくりにおいて大切なモチベーション=「エンゲージメント」
チームメンバーには様々なモチベーションがあります。
「練習をせずに遊びに行く」「他の部に移籍して活動をする」などに対するモチベーションも持っています。
しかし、その中でも、チームづくりにとって大切なのは、「チームの活動に参加し、チームとしての成果に貢献する行動を選ぶ」ことに対する「モチベーション」です。
人事の関連用語では、チームに貢献しようとするモチベーションを、他のモチベーションと区別する意味合いもあり、「Engagement=エンゲージメント」と呼んでいます。
「エンゲージメント」は直訳すると「婚約」ですが、「チームとメンバーの結びつき」だと捉えるとイメージしやすいと思います。
Engagementの法則では、効果的なエンゲージメント、チームに対する貢献意欲の高め方を解き明かしていきたいと思います。
エンゲージメントを科学する ~気合いで人は動かない~
チームメンバーのモチベーションに関する誤解の1つに、
「メンバーのモチベーションを高めるためにはリーダーが情熱的に語りかけることが大切だ」
というものがあります。
特に日本においては、モチベーションを「気合」や「根性」のようなものと混同されることも多く、ひどい場合には
「気合を入れろ!」
「根性はあるのか!」
「モチベーションを上げろ!」
と言っていればチームメンバーのモチベーションやエンゲージメントが高まると思っている方もいらっしゃいます。
しかし、それは適切なアプローチではありません。
メンバーのチームに対するエンゲージメントを高めるためには何が大切なのでしょうか?
チームのエンゲージメントを高める「4P」とは?
マーケティングでは、顧客の自社に対する購買意欲を高めるための4Pという考え方があります。
Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(広告・宣伝)の4つです。
同じように、エンゲージメントを高めるための4Pがあります。
Philosophy(理念・方針)、Profession(活動・成長)、People(人材・風土)、Privilege(待遇・特権)の4つです。
チームとしてのエンゲージメントの総量を高めるために、4Pのどれでエンゲージメントを高めるのかを戦略的に絞り込むことは有効なアプローチです。
例えば、マッキンゼー、リクルート、ディズニー。これらの企業で働く社員の自社や顧客への貢献意欲の高さ、つまりはエンゲージメントの高さは様々なメディアで紹介されています。
外から見ていて、これらの企業にはある共通点があるように私は感じます。それは、「社員のエンゲージメントの源泉」「提供している4P」にエッジが立っているということです。
マッキンゼーはProfession(活動・成長)の魅力で束ねています。
多くの社員が「若いうちから難しくて、大きくて、新しい仕事ができる」という動機で働いています。自分がどんな案件を担当するかということの方が、どんな同僚と働くかよりも大切だと考える社員が多い印象です。
一方、リクルートはPeople(人材・風土)の魅力で束ねてきたように感じます。
少し上の世代のリクルートの社員の方々に入社動機を聞くと、ほとんどの人が「魅力的な先輩がいたから」と仰います。一方で「情報メディアの仕事がやりたかったから」という方はほとんどいらっしゃらない印象です。
そしてディズニーはPhilosophy(理念・方針)の魅力で束ねているように見えます。
「夢の国」「ハピネス」「ファミリー・エンターテインメント」などのコンセプトに惹かれて働いている人が多く、ディズニーで働けるのであれば施設や職種、給与は問わないという人もいらっしゃるように感じます。
これらの企業がエンゲージメント戦略という点で素晴らしいのは、働いたことのない私たちでも、マッキンゼーはProfession、リクルートはPeople、ディズニーはPhilosophyの魅力で束ねていると何となく感じられることです。
エンゲージメントを束ねる軸が4Pのどれなのかというのが非常に明確なため、社内だけでなく社外にも魅力が伝わっています。
結果として、応募者とのミスマッチ防止に繋がり、エンゲージメント効果を生んでいます。
もしもあなたのチームが「何に共感して、メンバーたちはチームで活動しているのか?」が不明確なのであれば、エンゲージメントを高める軸を明確にして下さい。
これから新たにチームに加わるメンバーに、チームとしてメンバーに提供できる魅力と、提供できない魅力がハッキリと語れるようになれば合格です。
※学術的背景に興味がある人はTheory「レオン・フェスティンガー『集団凝集性』」参照。
モノが豊かな時代、人は「感情報酬」で動く
企業が存続、発展していくためには「商品市場」「資本市場」「労働市場」という3つの市場から選ばれなければなりません。
市場というのは「他者との価値交換を行う場所」であり、商品市場では顧客から選ばれる、資本市場では投資家から選ばれる、労働市場では人材から選ばれる必要があります。
3つの市場の中でも労働市場適応の重要性は高まる一方です。社会全体で第二次産業(製造業)から第三次産業(サービス業)の比率が高まり続けています。サービス業の場合は商品をつくり、届けるために最も重要なのは人材です。
商品市場に適応するために、労働市場に適応することが重要です。
また、現在は多くの製造業にもサービス化が求められています。そして、労働市場の流動性(転職率)はかつてに比べると格段に高まっています。
企業への共感、エンゲージメントが低下すれば、社員はすぐに去ってしまうようになりました。このことからも人材のエンゲージメントを高める重要性は更に高まっています。
もちろん、依然として企業にとって商品市場への適応は重要ですし、顧客から選ばれることに力を注げない企業は滅びます。
一方で、労働市場への適応、つまりは人材から選ばれる会社づくり、エンゲージメントに、これまで以上に力を注がなければならない状況が生じています。
中長期的な観点で見れば、すべての企業組織に、そしてすべてのチームにエンゲージメントを高めることが求められているのです。
また、先ほど紹介したエンゲージメントの4Pは実は大きく2つに分けられます。
金銭報酬や地位報酬に位置づけられるPrivilege(待遇・特権)と、感情報酬に位置づけられるPhilosophy(理念・方針)、Profession(活動・成長)、People(人材・風土)です。
金銭報酬や地位報酬は目に見えやすいですが、感情報酬(理念への共感、仕事のやりがい、仲間との繋がりなど)は目に見えにくいものです。
今、時代の流れとして目に見えない感情報酬の影響力が高まり続けています。
社会全体が物質的に豊かになり、エンゲル係数(支出に占める食費の割合)が下がり続けている中で、多くの人が仕事に対して、物質的な豊かさだけでなく精神的な豊かさを求めるようになりました。
「給料をもらっているんだから、つべこべ言わずにやれ」というようなチームは通用しなくなってきています。なぜならば多くの人が「給料のためだけに働いているわけではない」からです。
これからの時代のチームは、金銭報酬や地位報酬だけでなく、感情報酬を重視しなければいけなくなっていくでしょう。
エンゲージメントを生み出す方程式
エンゲージメントは目に見えないため、感覚的に扱われがちですが、エンゲージメントには方程式があります。
エンゲージメント=報酬・目標の魅力(やりたい)×達成可能性(やれる)×危機感(やるべき)
例えば、駅伝選手のエンゲージメントを考えてみましょう。
途中の道のりが苦しくても、チームの勝利に貢献しようとエンゲージメントを保ち、乗り越えられるのは、
駅伝で優勝した後の栄光を思い浮かべたり(報酬・目標の魅力)、
まずは次の1kmを3分で走ろうと考えたり(達成可能性)、
自分が後れを取ったら他の選手に申し訳が立たないと思ったり(危機感)するからです。
報酬・目標の魅力(やりたい)、達成可能性(やれる)、危機感(やるべき)はそれぞれWILL、CAN、MUSTと言い換えられることがあります。
先ほどご紹介した4Pそれぞれに、この方程式をどうあてはめるかを考えてみたいと思います。
ディズニーのようなPhilosophy型のエンゲージメントの場合は、
例えば「ハピネスを日本中の人々に提供する」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、
途中の目標を「1000万人、2000万人、3000万人の来客を集める」などのプロセスに分けます(達成可能性)。
そして、ゴールやプロセスへの貢献が少なければ組織に所属できなくなるなどのペナルティを課します(危機感)。
マッキンゼーのようなProfession型のエンゲージメントの場合は、
例えば「企業を変革するプロジェクトを実現する」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、
プロジェクト内の役割をアソシエイト、コンサルタント、プロジェクトマネジャーなどのプロセスに分けます(達成可能性)。
そして、自分に割り振られた役割に見合った貢献ができなければ役割が制限されるなどのペナルティを課します(危機感)。
リクルートのようなPeople型のエンゲージメントの場合は、
例えば「一体感のある組織をつくる」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、
職場内の役割をリーダー、マネジャー、ゼネラルマネジャーなどのプロセスに分けます(達成可能性)。
そして、貢献ができなければ職場で賞賛される機会をなくしていくなどのペナルティを課します(危機感)。
Privilege型のエンゲージメントの場合は、
「年収1500万円になる」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、
給与ステップを年収800万円、1000万円、1200万円などのプロセスに分けます(達成可能性)。
そして、貢献が少なければ昇給や賞与が少なくなるなどのペナルティを課します(危機感)。
「メンバーのエンゲージメントを高めるためにはリーダーが情熱的に語りかけることが大切だ」
というのは完全に間違っているとは言えませんが、より重要なのは、
「メンバーのエンゲージメントを高める方程式をチームに埋め込むことが大切だ」
という考え方です。
もしもあなたのチームがメンバーのエンゲージメントが上がらない理由をリーダーのキャラクターやコミュニケーションにばかり求めているなら、すぐにその考えを改めて下さい。
そして、チームの中にエンゲージメントを高めるためのゴールやプロセスそしてペナルティを仕組みとして埋め込んで下さい。
※学術的背景に興味がある人はTheory「ビクター・H・ヴルーム『期待理論』」参照。
“雰囲気”をマネジメントするコツは? チーム崩壊の「4つの落とし穴」とその対策
チームを崩壊させる「落とし穴」
チームは2人以上の人間が共通の目的を実現するためにつくられます。
当然、1人ではその共通の目的が実現できない、もしくは誰かと一緒に取り組んだ方が実現しやすくなるから、人はチームをつくるはずです。
しかし、時にチームをつくったことによって、1人だったら100のパフォーマンスを出せるメンバーが100より少ない80や60のパフォーマンスしか出せなくなることがあります。
これをチームの「割り算」のパフォーマンスと呼びます。
なぜ、そのようなことが起きてしまうのでしょうか?
それはチームが落とし穴にはまってしまうからです。今回は、「チームの落とし穴」の数々を紹介し、その対応策を解き明かしていきます。
①「自分1人くらい」という落とし穴(社会的手抜き)
「社会的手抜き」という心理学用語があります。20世紀初頭のフランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマンの名前からリンゲルマン効果とも言います。
リンゲルマンは集団が大きくなればなるほど、1人あたりのパフォーマンスが低下するという現象を明らかにしました。
例えば、チームで庭の草むしりをするとします。
3人のチームでやれば10時間かかる作業だとすると、10人でやれば3時間で終わるはずです。
しかし、実際には10人でやると3時間以上かかってしまうのです。
これはチーム全体が「“自分1人くらい”という落とし穴」にはまってしまっていると言えます。
草むしりの例で言うと、3人のチームの時は「自分がやらねば」と思っていたメンバーが、10人になったとたんに「自分1人くらいやらなくても大丈夫だろう」と思ってしまうということです。
■「自分1人くらい」という落とし穴への対策
この落とし穴にはまらないためには、メンバーの「当事者意識」を高めることが重要です。
メンバーの「当事者意識」を高めるために最も無駄なのは、「当事者意識を持て!」と言うことです。
そうではなく、「当事者意識」が高められる仕組みをチームの中に埋め込むことが大切です。
当事者意識を埋め込むためのポイントは3つあります。
当事者意識を高めるためにコントロールすべき1つ目のポイントは「人数」です。チームの人数は少なければ少ないほど、ひとりひとりの当事者意識は高まります。
チームの人数が一定以上に達したら、チームを分化させ、大きなチームの中に小さなチームが複数あるという状況にした方が良いのです。
2つ目のポイントは「責任」です。ひとりひとりの「責任」の所在が曖昧であれば、当然ひとりひとりの当事者意識も低下していきます。
「責任範囲」と「評価対象」を明確にする必要があります。
3つ目のポイントは「参画感」です。様々な意思決定が自分とは関係ないところで進んでいると、チーム全体のことが段々と他人事のようになっていきます。
「多数決」や「合議」という意思決定手法を適宜取り入れることで参画感を持たせることが可能です。
「リクナビ」「ゼクシィ」「スーモ」などのメディアを展開するリクルートは、社員のモチベーションが高い会社として知られていますが、創業者の江副浩正氏は、様々な手法を用いてメンバーの「当事者意識」を高めることに成功しています。
例えば、PC(プロフィットセンター)制という施策では、会社の中の一つ一つの職場を会社と見立てて、P/L(損益計算書)をつくらせました。
人事部のようなスタッフ部門であっても、人事部が会社のために採用した人数が増えれば人事部の売上が増える、逆に人事担当の人数が増えるごとに人件費や家賃が増える、というような管理会計ルールをつくり、毎期の決算で部署ごとにP/Lを算出させたのです。
また、NewRINGという施策では、会社に対して新規事業のプランを提案する機会を全社員に提供しました。
そして、NewRINGを全社をあげて盛り上げたのです。これにより、会社の未来は経営陣だけが描くのではなく、自分たちも描いていくんだという意識が広がったようです。
リクルートは「責任」を明確にし、「参画感」を高めることで「当事者意識」を高めることに成功した好例と言えるでしょう。
チームが「“自分1人くらい”という落とし穴」に陥らないように、メンバーの「当事者意識」を高め続ける必要があります。
②「あの人が言っているから」という落とし穴(社会的権威)
社会心理学者ロバート・B・チャルディーニの世界的ベストセラー『影響力の武器』で紹介されている、人間の意思決定に誤った影響を与えてしまう要因の1つに「権威」があります。
「肩書や経験などの“権威”を持つ者に対して、人は信頼を置く」ことから、その分野において知名度の高い組織や発言力のある人などの意見に従ってしまう、という心理のことです。
チームにおいては、この「権威」が思わぬ形で悪影響を及ぼしてしまう時があります。
「“あの人が言っているから”という落とし穴」です。
それは肩書や経験のあるメンバーに他のメンバーがやみくもに従ってしまい、個人であれば決してしないような間違った意思決定をしてしまうことです。
この落とし穴により、個人のパフォーマンスが下がってしまいます。
「独裁」という意思決定方法を間違った形で運用したり、多用しすぎると、この「“あの人が言っているから”という落とし穴」に陥りやすくなります。
特定の意思決定者が決めることに慣れすぎてしまい、メンバーが持っている情報を十分に共有しないまま、意思決定が進んでしまうことがあります。
また、意思決定者に対して誰も意見を言わない状況が続くと、思考が深まらないまま、浅い思考で意思決定をしてしまうこともあり得ます。
また、「心理的安全」がきちんと醸成されていなければ、「どうせ言っても無駄だ」「言ってもまた否定される」などのメンバーの主体性をそぐ感情がメンバーの中で強くなってしまいます。
結果として「あの人が言っているから」という受動的な態度が助長されていきます。
■「あの人が言っているから」という落とし穴への対策
この落とし穴にはまらないためには、チームの中に「議論」というプロセスを埋め込むことが重要です。
時に肩書や経験にとらわれずにフラットに議論する場を設けたり、メンバーから意思決定者に提案するような場を設けることで、この落とし穴に陥るリスクを減らすことができます。
「独裁」という意思決定手法も、最終的な意思決定を1人でするという手法であって、決して途中の議論をしてはならないということではありません。むしろ意思決定の前の議論は、過度に時間をかけすぎるものでなければ、適切な「独裁」の助けになります。
短期間で急成長を遂げたIT企業のサイバーエージェントでは、この「議論」のプロセスを経営チームにうまく組み込んでいます。
「あした会議」という役員合宿では、それぞれの役員が社員たちとチームをつくって、社長に対して新規提案をします。その提案にGOサインを出すのは藤田社長ですが、実際に沢山の提案がこの合宿で可決されます。
サイバーエージェントが藤田社長のトップダウンの意思決定スタイルと役員の積極的なコミットメントを両立している好例です。
チームが「“あの人が言っているから”という落とし穴」に陥らないように、「議論」をチームの中に適切に埋め込む必要があります。
③「みんなが言っているから」という落とし穴(同調バイアス)
行動経済学は経済学に心理学的要素を組み込んだ学問分野です。
従来の経済学では、人は合理的かつ功利的な判断のもとに動くとされていました。功利的とは、選択肢の中で最も得するものを選ぶことを言います。
このような自己の経済利益を最大化させることを唯一の行動基準とする人間のことをホモ・エコノミクスと呼びます。
ただ現実にはこのようなホモ・エコノミクスは存在しません。何故ならば、人間は感情で動く生き物であり、時に非合理的な行動を選択してしまうからです。
そこで、伝統的な経済学では説明のつかない人間の非合理的な行動について、心理学的な見地も念頭に置きながら理論的に説明する試みがなされるようになりました。
それが行動経済学です。
行動経済学では「同調バイアス」というバイアスが提唱されています(ハーディング効果とも呼ばれます)。
その選択から得られる経済的合理性だけではなく、周囲の人々と同じ選択をして安心感を得たいという同調性が人間の判断に影響を与えるということを指します。
行列ができている飲食店を見つけると、特にその飲食店に行きたかったわけではないのに行きたくなってしまうことなどは、まさに同調性バイアスにかかっていると言えるでしょう。
ある実験では、ドッキリカメラで騙される人が病院の診察室に行くと、みんなが裸だったというドッキリを仕掛けたところ、騙される人が周囲の人に合わせて裸になったという面白い結果もあるようです。
チームにおいて、この同調バイアスが悪い方向に発揮されると、個人で活動したら100のパフォーマンスをあげる人が、他のチームメンバーが50や60しかパフォーマンスをあげていないのを見て、「みんなもやっていないから」という理由でパフォーマンスを下げてしまうということが起こり得ます。
自習室に勉強しに行ったら、みんなが雑談ばかりしているので自分も雑談してしまい、勉強がはかどらなかった、というようなことは至る所で見かけます。
この落とし穴にはまらないためには、チームの「雰囲気」を意識的にマネジメントすることが重要です。
同調バイアスがあることにより、人間はチーム全体の「雰囲気」に引きずられて自らの態度を決めるからです。
人は物事に対する態度を、自らの意思だけでなく周囲の態度によって決めるという「日和見主義」的な部分を持っています。
チームの方針に対してポジティブな人が2割、フラットな人が6割、ネガティブな人が2割いるとします。
ネガティブな人が2割から3割になった場合、チームはポジティブな人が2割、フラットな人が5割、ネガティブな人が3割にはならないことが多々あります。
フラットだった人たちがポジティブな人よりもネガティブな人が多いのを見て、ネガティブな態度へ変えることがあるからです。
結果として、放っておくとネガティブな人が増え続けるということがあります。
一度ネガティブな態度の人がマジョリティ(過半数)を握ってしまうと、みんなが同調バイアスを発揮し、ネガティブな態度に追随してしまうので、チームの「雰囲気」を変えることが非常に難しくなります。
一方で、チームにポジティブな態度の人ばかりでもチームは良くない方向に進むことがあります。周囲の顔色を見ながら何でもかんでも賛成するようなチームは時に状況判断や意思決定を間違えるからです。
チームの方針に対して一定のネガティブな態度のメンバーが存在することは思考停止に陥らないためにも必要なことです。チームの雰囲気はポジティブすぎてもネガティブすぎてもいけないのです。
「みんなが言っているから」という落とし穴への対策
■「みんなが言っているから」という落とし穴への対策
「雰囲気」をマネジメントするためには、「スポットライト」と「インフルエンサー」の観点が重要です。
「スポットライト」はチーム内である態度のメンバーに光をあてることで、実態よりも全体的にポジティブな人が多い、ネガティブな人が多いと感じさせてチームの雰囲気をコントロールするアプローチです。
「インフルエンサー」はチーム内で特に他のメンバーに影響力の強いメンバーに個別に働きかけ、転換させることでチームの雰囲気をコントロールするアプローチです。
リクルートは創業者の江副浩正氏やNo.2だった大沢武志氏が東京大学の教育学部教育心理学科出身だったということもあり、組織づくりにこうした心理学の知見をふんだんに取り入れていました。
特に社内コミュニケーションを重要視し、表彰式や社内報を通じて、仕事に前向きに取り組む人にスポットライトをあてることに力を注いできました。
また、創業者の江副氏は、社員が経営の方針に対してポジティブになりすぎることは、ひとりひとりの独立心をそぐと考え、社内コミュニケーションを担当するチームには「社内ジャーナリズム」を求めたと言います。
決して経営に媚びることなく、時に政権を批判するジャーナリストのように社内コミュニケーションチームが経営に批判的なメッセージを発信することで、経営や周囲に流されすぎずにひとりひとりが自分で考える雰囲気を社内に醸成しようとしていたのです。
チームが「“みんなが言っているから”という落とし穴」に陥らないように、「雰囲気」をマネジメントする必要があります。
④「あの人よりやっているから」という落とし穴(参照点バイアス)
行動経済学では「参照点バイアス」というバイアスも提唱されています(アンカリング効果とも呼ばれています)。
最初に提示された数字や印象が参照点(アンカー:船のいかり)となって強く残り、その後の印象や行動に影響を及ぼすことを指しています。
例えば、ある会社が新規で開発したある商品Aが1万円で販売されたとします。その1年後に別の会社から類似の商品Bが5000円で販売されたら、多くの人が「安い」と感じるでしょう。
しかし、それは商品Aが参照点となって判断しているだけなので、商品への客観的な評価ができているとは限りません。
このような心理作用がチームにおいてマイナスに働くことがあります。
本来は100のパフォーマンスを出せる人が、隣のチームメンバーが60しかパフォーマンスを出していないので、自分も60くらいでいいか、と意識的・無意識的に考えてしまうのです。
特にリーダーはメンバーの参照点になりやすいです。
「リーダーが遅刻しているから自分も遅刻して良い」
「リーダーがきちんと人の話を聞いていないから自分も人の話を聞かなくて良い」
などと都合の良い参照点としてメンバーがリーダーを使うことも多々あります。
■「あの人よりやっているから」という落とし穴への対策
この落とし穴にはまらないためには、チームの中で「基準」を明確に示すことが重要です。
「意義目標」「成果目標」「行動目標」「責任範囲」「評価対象」などについて、それぞれのメンバーにどれくらいの「基準」を求めるのかを曖昧にせずに明確に提示することです。
またそれだけでなく、チームの中で誰が「基準」を満たしているのか、満たしていないのかを共有することで、自分に都合の良いメンバーの成果や行動を参照点にさせるのではなく、チームとして「基準」にすべきメンバーの成果や行動を参照点にする必要があります。
プロ野球チームの阪神タイガースは1985年の日本一以降、1987年から2001年まで15年間で10回も最下位になるという「暗黒時代」でした。
しかし、2003年に星野仙一監督のもと、阪神タイガースは18年ぶりのリーグ優勝を果たします。その後は毎年優勝争いに加わる強豪チームとなり、2005年にも岡田彰布監督のもと、リーグ優勝しています。
この阪神タイガースの復活には選手の中にある「基準」が影響していると言われています。
阪神タイガースは弱くても関西では非常に人気のある球団で、選手はファンや支援者から、言葉を選ばずに言うと甘やかされていたようです。
そんな中で、選手も甘えた姿勢を持ってしまい、ちょっとしたことで弱音を吐いて練習を休んでしまうことも多かったと言います。
しかし、そんな状況が、ある選手の加入で変わります。
金本知憲選手です。
金本知憲選手は連続試合フルイニング出場の世界記録(1492試合)を持っている「鉄人」と呼ばれた選手です。
トリプルスリーと呼ばれる打率3割、本塁打30本、30盗塁を成し遂げた、打ってよし、走ってよし、守ってよしの三拍子揃った選手であることももちろん素晴らしいのですが、
阪神タイガースの他の選手に大きく影響を与えたのは、どんな状況であったとしても、練習や試合を休まずにストイックに野球に取り組む姿勢でした。
金本選手の加入によって、チーム全体の「基準」が変わり、選手たちの野球に取り組む姿勢が変わり、チーム全体の成績も変わっていきました。
「基準」が変わることにより、チームが変わった好例だと言えるでしょう。
チームが「“あの人よりやっているから”という落とし穴」に陥らないように、「基準」を明確に示す必要があります。
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