ビジネスパーソンインタビュー

「“表現”がすべてだと言っても過言ではない」光本勇介流・サービスの流行らせかた

話題の“価格自由”本『実験思考』の内容を一部公開

「“表現”がすべてだと言っても過言ではない」光本勇介流・サービスの流行らせかた

新R25編集部

2019/05/22

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最短2分でオンラインストアがつくれるサービス「STORES.jp」、目の前のアイテムが一瞬で現金に変わるアプリ「CASH」、あと払い専用の旅行代理店アプリ「TRAVEL Now」など、あの堀江(貴文)さんも舌を巻く発想力で世間を驚かせるサービスを次々と生み出す起業家・光本勇介さん

電子版を0円、紙の書籍を原価の390円(税抜)で流通させ、Webサイトで自由な金額を課金してもらうという前代未聞の売り方で話題となっている著書『実験思考』より、光本さんの頭のなかを覗くことができる4本の記事を連日公開でお届けします。

事業は「タイミング」が命

事業は本当にタイミングが重要です。タイミングをすごく重視しています。

ぼくは個人間のカーシェアリングサービスを「10年前」にリリースしました。でも、あれを出すべきタイミングは「1〜1年半前」だったな、といまならわかります。

いくらイケているサービスでも、タイミングを間違えたら流行るものも流行らないのです。

「未来を見通す目」が正しくても、マスが追いつく環境が整っていないとうまくいかない。感覚的には「時代の半歩先」くらいのものを出すのがちょうどいいと思っています。

「半歩先」がどれくらいのイメージかというと、自分のなかでの感覚は「1年未満」です。1年経たないうちにメジャーになる、ジワジワ来そうだな、というものがベストという感覚です。

サイバーエージェントの藤田晋さんは「新しすぎることをやると人がついてこないから、できるだけ業界の人が『いまさら?』と言うようなもののほうがいい」というようなことを言っていました。

カーシェアリングサービスのときはそういう意識がなかった。「新しいじゃん」「絶対こっちじゃん」と思ってやったけれど、早すぎたのです。

「宇宙人」になってしまうと、うまくいきません。もちろんそれできちんと事業として成り立たせられる人もいるので、そういう人は尊敬しますし、すごいなと思います。

ただぼくは一部の人たちに熱狂的に使ってもらう事業を作るよりは、みんなに理解してもらって、みんなに共感してもらって使ってもらうようなサービスが作りたい。

そうなると「半歩先」を狙うのがベストなのです。

「ズレが限界に達しそうな業界」を探す

その年のテーマとなる業界は「なんとなく」決めているのですが、あえてそれを言語化するなら「ズレが限界に達しそうな業界」かもしれません。

各業界にはビッグプレイヤーがいます。どの業界にも「大手」という存在があります。業界のビッグプレイヤーは、今年突然トップの地位を築いたわけではありません。

あたりまえですが、5〜10年前からその事業をずっと展開してきて、ようやくトップの地位を築いたわけです。ということは「5〜10年前の事業を、ずっと展開している」ということになります。

最近はびっくりするくらいのスピードで世の中が変わっています。消費者の感覚もものすごく変化している。それなのに、5〜10年前に作った事業をそのままやっていると、どうしても時代に合わなくなってくるでしょう。

時代がこんなに変化しているのに、ずっと同じビジネスモデルやサービスを提供していると、そこでのズレが大きくなったときに、その業界のプレイヤーがガラッと入れ替わるタイミングが来ると思っています。

その「ズレが限界に達しそうな業界」をいつも探しているのです。

「表現」次第で市場は広がる

サービスがうまくいくかどうかの大切なポイントとして「表現」があると思っています。

どんなに方向性とアプローチが正しくても表現が下手だと伝わらない。「このアイデアをどう表現できるか」「世の中にどう見せられるか」がとても重要です。

打ち出し方、見せ方、提供の仕方には、センスが問われます。どんな体験をしてもらえるかは、サービスの名前、アプリのUI(User Interface)、デザインなどの「表現」 にかかっているのです。

ぼくは「ドメイン」にこだわります。

ドメインとは、簡単にいえば、「インターネットの世界における住所」です。「stores.jp」や「cash.jp」というのが「南青山1丁目」「銀座4丁目」などの住所にあたります。

このドメインを「メジャー感」があるものにしておくことは有効です。多くの人にいい印象を与えることができる。

たとえば「六本木や銀座の一等地に土地を買った」と言えば「どんなビルが建つんだろう?」「何が始まるんだろう?」と期待値を上げることができます。「何かが始まる」という予感を生み出すことができるのです。

いいドメインを取得しようとすると数百万円かかることもよくあります。cash.jpは400万円かかりました。ぼくは安いと思ったし、すぐに回収できると思った。実際に一瞬で回収できました。

何よりも前例のないサービスは価値を伝えづらいから、説明コストを省きたい。

すぐに現金化できるという価値を一言で伝えるために、サービス名は「CASH」、ドメインは「cash.jp」にしたかった。

長々と説明しても聞いてくれないし、半分以上の人が理解してくれません。

だから、誰でもわかることが大切。説明書がいらないところまで簡略化するのです。

CASHもただの「買取」アプリ

言ってみればCASHだって、ただの「買取アプリ」です。

でも、くらは一貫して「買取」という言葉を絶対に使いませんでした。ずっと「目の前にあるアイテムが瞬間的にキャッシュに変わるアプリです」と言い続けています。

「目の前のアイテムが瞬間的にキャッシュに変わる」と言うと「魔法感」があります。新しさがある。ぼくはこうした表現を大切にしているのです。

CASHはモノの写真を撮ったら、そこに瞬時に金額が表示されます。たとえば「グッチのバッグ」の写真を撮ると「2万円」などと金額が出る。

ただ、ぼくらはすべての写真を確認して、「これは2万円だな」と判断して金額を提示しているわけではありません。写真は一切見ずに「ノールック」で買取をしています。

実は、写真は必要ないのです。財布なら「財布」と入力するだけで実はOKです。写真を見て買取をしているわけではありません。先にお金を振り込んでしまいます。

仮に写真を送ってもらっても、見てから振り込むわけではないのです。「グッチのハバッグ」を撮ったら、お金がもらえます。写真があってもなくても、結果は一緒。

それは「グッチのバッグです」という言葉を信用しているわけです。「アイテムを送ってくれるかどうか」も信用で成り立っています。ただ、嘘をついたら、不正をしたら二度と使えなくなります。

つまり「これがお金に変わった!」と思ってもらうためだけに写真を撮ってもらっている。

この「モノが瞬間的にお金に変わる」体験が気持ちいいのです。写真はその気持ちよさのために撮ってもらっているだけなのです。

どんなよいサービスでも使って気持ちよくないものは流行りません。表現がすべてだといっても過言ではありません。

触って気持ちよくなければやめる

ぼくは「こんなモノがあったらいいのに」というものは、まずはすぐにモックアップというデザインのみの状態のダミーアプリを作ってしまいます。

このスタイルは昔から変わりません。感覚的には、つねに「実験」なのです。

作って、出して、反応を見る。楽しい作業です。できたら触ってみて、どんどん改善していく。だから触ってみてやめたサービスがいっぱいあります。

いつも触ってみて判断するのです。ビジネスモデルとしては優れていても、気持ちよくなければやめます。大切なのは「見せ方」「表現」、そして「体験」です。

「気持ちいい」とか「これなら思ったとおりに表現できる」ということが大事なのです。ぼくが意図しているとおりにビジネスを見せることができるかどうか。

多くの人は、いいサービスだから、テクノロジーが画期的だからといって、使ってはくれません。それよりも「体験として気持ちいい」とか「ストレスがない」というほうがよっぽど大切です。

いつも「この見せ方だったら、驚きがあるな」「この体験だったら気持ちいいな」といった判断軸で考えています。

いかに「世界観」を変えるか

CASHは、ロゴをかわいくしたり、全体のイメージカラーを黄色にしたりして、ポップな雰囲気を作りました。

それは「金融」や「借金」といった、とにかく固くて悪いイメージを払拭したかったからです。

CASHも捉えようによっては、それに近いビジネスに見えてしまう。そんななかで、どれだけ違うイメージを与えられるか、いかにカジュアルにして、楽しい感じで提供できるか、が勝負どころなのです。

ぼくのところには「投資してください」という人がたまに来ます。あるとき、美容整形のアプリを作ろうとしている人たちが来ました。

ぼくは整形にすごく興味があります。なぜかというと、市場が大きいからです。こんなに需要があるのに、市場はあまり変わっていない。

整形をやりたいと思っているのにやっていない人が多いということは、市場は広がる一方です。価値観さえ変われば、多くの人がやってもおかしくないということです。

いまの「整形」という領域は、みんな興味はあって需要はあるのですが、「怖い」とか「痛い」というイメージが強すぎます。「整形した」なんてことはあまり大っぴらに言うことではありません。そこをどれだけ変えられるか、です。

見せてもらったアプリは、よく見るような痛々しい「ビフォーアフター」の写真が載っていて、いまの美容整形の世界観そのままでした。

これだと従来の市場を狙うことになるので、広がっていく可能性は少ないと思いました。

すでに多くの人は、メスを使う手術が行なわれることを知っています。それならば、そこでわざわざリアルなビフォーアフターを見せなくてもいいのかもしれない。

そこでぼくは「ビフォーアフターは、雑誌の『anan』で使われるような、かわいらしい女性のイラストでもいいんじゃない?」とアドバイスしました。

よくタクシーに置いてある美容整形のパンフレットを見せるのではなくて、女性誌でファッションのトレンドを見ているような体験をしてもらう。そうすることで興味を持ってくれるかもしれません。一歩を踏み出してくれるかもしれない。

生々しい写真を見ると、多くの人は引いてしまいます。美容整形を新しい「ファッション」のサービスとして表現し、世の中に出すのです。

いかにポップに、楽しく、カジュアルに、ファッションのように美容整形に興味を持ってもらうかが大切です。本当に「見せ方、表現、ブランド」次第で市場は変わるのです。

STORES.jp は「見せ方」の勝利

見せ方が大切だと実感したのは、STORES.jpを多くの人が利用してくれているのを見たときでした。

あれは仕組みが画期的だったわけではなく、見せ方の勝利です。パソコンに詳しくない人にも「お店を作れるサービスだ」と理解してもらえたことが強みになりました。

STORES.jp はいってしまえば、ただの「販売ページ生成サービス」です。それはヤフオクでもどこでもやっていることなのですが、「どう見せるか」「どう伝えるか」で差別化したわけです。

そのページを「世界にひとつだけのあなたのオンラインストアですよ」と「表現」しただけで一味違う体験になったのです。

ZOZOが「ツケ払い」というサービスを提供していますが、あれもただの「あと払い」です。

「あと払い」という決済手段は昔からありますが、それを「ツケ払い」と言い換えただけで、あんなに話題になったのです。そして、売上も上がった。

「ツケ」という、みんなが知っている言葉を使うことで、「え、そんなのやっていいんですか?」と思わせているのです。

何年も前からあるのに、みんな「ツケ払い、すごい!」と言っている。「いやいや、前からあるから」と。それほど表現というのは大切なのです。

表現によって伝わり方が変わるのは、すごくおもしろいなといつも思います。

いらないモノは極限まで「削る」

アプリを作るとき、表現を考えるときは、「普通の人」が使っているところをイメージします。「これ、伝わるかなあ?」とつねに考えるのです。

たとえばそのへんにいる主婦の方がダウンロードしてちゃんと使ってくれるか? 地方の女子高生が興味を持ってくれるかどうか?

主婦の方や女子高生をバカにしているわけではなく、彼女たちが日常的に触ってくれるかがすべてだと思っています。ちょっとでもめんどくさかったら、彼女たちは使ってはくれません。

よって、くがサービスを作るときは、「削る」ことのほうが多いです。「この情報いらなくない?」「このステップいらないでしょ?」と削っていくのも、ぼくの大切な仕事です。

ユーザーの思考を使わないようにする考えずに使えるようにするということです。

たとえば、TRAVEL Nowも、なるべくシンプルにしました。

通常、旅行代理店はいろんな情報を取得しないといけません。楽天トラベルでもじゃらんでも、個人情報を記入する欄がたくさんあります。

ハワイ旅行に行こうと思っても、まずパスポート情報を入れないといけない。英語と日本語とカナ表記の名前、生年月日、住所を入力して、とすごくめんどくさいわけです。

そのフォームを見ただけで「うぇ」となる。本当は「ハワイ行きたい! ポチッ!」と楽しく手続きをしたいのです。

そこでぼくらは、「そもそも漢字いるっけ?」とか「そもそもパスポート番号って、ないと予約できないんだっけ?」ということを一から見直しました。

この「そもそも」が大事です。実際に調べてみると、パスポート番号がなくても航空会社に予約は入れられます。

「じゃあいらないじゃん、取ろうよ」「これも外そう」「これも外そう」と言って極力シンプルにしていきました。

最後は「そもそも名前っている?」という話になったのですが、名前はさすがに必要でした。

ただ、カタカナの情報だけでも予約はできるとわかった。「じゃあ漢字はいらないじゃん。カタカナだけにしよう」。そこで TRAVEL Nowでは、カタカナしか書いてもらっていません。

とにかく表現と体験が大切なのです。サクサクサクサク、気持ちいい、となることが重要。

サービスの明暗を分けるのは、世界観、体験、表現だ」といつもぼくは言っています。

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