ビジネスパーソンインタビュー

「メンバーのモチベーションを高めるには、リーダーの情熱が大切だ」に潜む誤解

チームづくりの決定版『THE TEAM』より

「メンバーのモチベーションを高めるには、リーダーの情熱が大切だ」に潜む誤解

新R25編集部

2019/06/07

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「チームには、情熱や信頼が必要だ」

このように、これまでは個人の経験や感覚で語られがちだった「チーム」。

学校でも会社でも、チームづくりについて体系的に学ぶ機会はほとんどないと言っても過言ではありません。

“個人を輝かせる”チームの重要性が増している今こそ、「精神論」や「経験則」ではなく、理論的で再現可能な「法則」でチームを語ることが必要だ。

そんな思いをもって、モチベーションエンジニア・麻野耕司さん(リンクアンドモチベーション取締役)が「成功するチームとは何か」を科学的に解き明かした著書『THE TEAM 5つの法則』より、メンバーの力を最大限に引き出す「チームの法則」の数々をご紹介します。

チームづくりにおいて大切なモチベーション=「エンゲージメント」

チームメンバーには様々なモチベーションがあります。

「練習をせずに遊びに行く」「他の部に移籍して活動をする」などに対するモチベーションも持っています。

しかし、その中でも、チームづくりにとって大切なのは、「チームの活動に参加し、チームとしての成果に貢献する行動を選ぶ」ことに対する「モチベーション」です。

人事の関連用語では、チームに貢献しようとするモチベーションを、他のモチベーションと区別する意味合いもあり、「Engagement=エンゲージメント」と呼んでいます。

「エンゲージメント」は直訳すると「婚約」ですが、「チームとメンバーの結びつき」だと捉えるとイメージしやすいと思います。

Engagementの法則では、効果的なエンゲージメント、チームに対する貢献意欲の高め方を解き明かしていきたいと思います。

エンゲージメントを科学する ~気合いで人は動かない~

チームメンバーのモチベーションに関する誤解の1つに、

メンバーのモチベーションを高めるためにはリーダーが情熱的に語りかけることが大切だ

というものがあります。

特に日本においては、モチベーションを「気合」や「根性」のようなものと混同されることも多く、ひどい場合には

「気合を入れろ!」

「根性はあるのか!」

「モチベーションを上げろ!」

と言っていればチームメンバーのモチベーションやエンゲージメントが高まると思っている方もいらっしゃいます。

しかし、それは適切なアプローチではありません

メンバーのチームに対するエンゲージメントを高めるためには何が大切なのでしょうか?

チームのエンゲージメントを高める「4P」とは?

マーケティングでは、顧客の自社に対する購買意欲を高めるための4Pという考え方があります。

Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(広告・宣伝)の4つです。

同じように、エンゲージメントを高めるための4Pがあります。

Philosophy(理念・方針)、Profession(活動・成長)、People(人材・風土)、Privilege(待遇・特権)の4つです。

チームとしてのエンゲージメントの総量を高めるために、4Pのどれでエンゲージメントを高めるのかを戦略的に絞り込むことは有効なアプローチです。

例えば、マッキンゼー、リクルート、ディズニー。これらの企業で働く社員の自社や顧客への貢献意欲の高さ、つまりはエンゲージメントの高さは様々なメディアで紹介されています。

外から見ていて、これらの企業にはある共通点があるように私は感じます。それは、「社員のエンゲージメントの源泉」「提供している4P」にエッジが立っているということです。

マッキンゼーはProfession(活動・成長)の魅力で束ねています。

多くの社員が「若いうちから難しくて、大きくて、新しい仕事ができる」という動機で働いています。自分がどんな案件を担当するかということの方が、どんな同僚と働くかよりも大切だと考える社員が多い印象です。

一方、リクルートはPeople(人材・風土)の魅力で束ねてきたように感じます。

少し上の世代のリクルートの社員の方々に入社動機を聞くと、ほとんどの人が「魅力的な先輩がいたから」と仰います。一方で「情報メディアの仕事がやりたかったから」という方はほとんどいらっしゃらない印象です。

そしてディズニーはPhilosophy(理念・方針)の魅力で束ねているように見えます。

夢の国」「ハピネス」「ファミリー・エンターテインメント」などのコンセプトに惹かれて働いている人が多く、ディズニーで働けるのであれば施設や職種、給与は問わないという人もいらっしゃるように感じます。

これらの企業がエンゲージメント戦略という点で素晴らしいのは、働いたことのない私たちでも、マッキンゼーはProfession、リクルートはPeople、ディズニーはPhilosophyの魅力で束ねていると何となく感じられることです。

エンゲージメントを束ねる軸が4Pのどれなのかというのが非常に明確なため、社内だけでなく社外にも魅力が伝わっています。

結果として、応募者とのミスマッチ防止に繋がり、エンゲージメント効果を生んでいます。

もしもあなたのチームが「何に共感して、メンバーたちはチームで活動しているのか?」が不明確なのであれば、エンゲージメントを高める軸を明確にして下さい。

これから新たにチームに加わるメンバーに、チームとしてメンバーに提供できる魅力と、提供できない魅力がハッキリと語れるようになれば合格です。

※学術的背景に興味がある人はTheory「レオン・フェスティンガー『集団凝集性』」参照。

モノが豊かな時代、人は「感情報酬」で動く

企業が存続、発展していくためには「商品市場」「資本市場」「労働市場」という3つの市場から選ばれなければなりません。

市場というのは「他者との価値交換を行う場所」であり、商品市場では顧客から選ばれる、資本市場では投資家から選ばれる、労働市場では人材から選ばれる必要があります。

3つの市場の中でも労働市場適応の重要性は高まる一方です。社会全体で第二次産業(製造業)から第三次産業(サービス業)の比率が高まり続けています。サービス業の場合は商品をつくり、届けるために最も重要なのは人材です。

商品市場に適応するために、労働市場に適応することが重要です。

また、現在は多くの製造業にもサービス化が求められています。そして、労働市場の流動性(転職率)はかつてに比べると格段に高まっています。

企業への共感、エンゲージメントが低下すれば、社員はすぐに去ってしまうようになりました。このことからも人材のエンゲージメントを高める重要性は更に高まっています。

もちろん、依然として企業にとって商品市場への適応は重要ですし、顧客から選ばれることに力を注げない企業は滅びます。

一方で、労働市場への適応、つまりは人材から選ばれる会社づくりエンゲージメントに、これまで以上に力を注がなければならない状況が生じています。

中長期的な観点で見れば、すべての企業組織に、そしてすべてのチームにエンゲージメントを高めることが求められているのです。

また、先ほど紹介したエンゲージメントの4Pは実は大きく2つに分けられます。

金銭報酬地位報酬に位置づけられるPrivilege(待遇・特権)と、感情報酬に位置づけられるPhilosophy(理念・方針)、Profession(活動・成長)、People(人材・風土)です。

金銭報酬や地位報酬は目に見えやすいですが、感情報酬(理念への共感、仕事のやりがい、仲間との繋がりなど)は目に見えにくいものです。

今、時代の流れとして目に見えない感情報酬の影響力が高まり続けています。

社会全体が物質的に豊かになり、エンゲル係数(支出に占める食費の割合)が下がり続けている中で、多くの人が仕事に対して、物質的な豊かさだけでなく精神的な豊かさを求めるようになりました。

給料をもらっているんだから、つべこべ言わずにやれ」というようなチームは通用しなくなってきています。なぜならば多くの人が「給料のためだけに働いているわけではない」からです。

これからの時代のチームは、金銭報酬や地位報酬だけでなく、感情報酬を重視しなければいけなくなっていくでしょう。

エンゲージメントを生み出す方程式

エンゲージメントは目に見えないため、感覚的に扱われがちですが、エンゲージメントには方程式があります。

エンゲージメント=報酬・目標の魅力(やりたい)×達成可能性(やれる)×危機感(やるべき)

例えば、駅伝選手のエンゲージメントを考えてみましょう。

途中の道のりが苦しくても、チームの勝利に貢献しようとエンゲージメントを保ち、乗り越えられるのは、

駅伝で優勝した後の栄光を思い浮かべたり(報酬・目標の魅力)、

まずは次の1kmを3分で走ろうと考えたり(達成可能性)、

自分が後れを取ったら他の選手に申し訳が立たないと思ったり(危機感)するからです。

報酬・目標の魅力(やりたい)、達成可能性(やれる)、危機感(やるべき)はそれぞれWILL、CAN、MUSTと言い換えられることがあります。

先ほどご紹介した4Pそれぞれに、この方程式をどうあてはめるかを考えてみたいと思います。

ディズニーのようなPhilosophy型のエンゲージメントの場合は、

例えば「ハピネスを日本中の人々に提供する」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、

途中の目標を「1000万人、2000万人、3000万人の来客を集める」などのプロセスに分けます(達成可能性)。

そして、ゴールやプロセスへの貢献が少なければ組織に所属できなくなるなどのペナルティを課します(危機感)。

マッキンゼーのようなProfession型のエンゲージメントの場合は、

例えば「企業を変革するプロジェクトを実現する」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、

プロジェクト内の役割をアソシエイト、コンサルタント、プロジェクトマネジャーなどのプロセスに分けます(達成可能性)。

そして、自分に割り振られた役割に見合った貢献ができなければ役割が制限されるなどのペナルティを課します(危機感)。

リクルートのようなPeople型のエンゲージメントの場合は、

例えば「一体感のある組織をつくる」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、

職場内の役割をリーダー、マネジャー、ゼネラルマネジャーなどのプロセスに分けます(達成可能性)。

そして、貢献ができなければ職場で賞賛される機会をなくしていくなどのペナルティを課します(危機感)。

Privilege型のエンゲージメントの場合は、

年収1500万円になる」というゴールを定めたら(報酬・目標の魅力)、

給与ステップを年収800万円、1000万円、1200万円などのプロセスに分けます(達成可能性)。

そして、貢献が少なければ昇給や賞与が少なくなるなどのペナルティを課します(危機感)。

「メンバーのエンゲージメントを高めるためにはリーダーが情熱的に語りかけることが大切だ」

というのは完全に間違っているとは言えませんが、より重要なのは、

メンバーのエンゲージメントを高める方程式をチームに埋め込むことが大切だ

という考え方です。

もしもあなたのチームがメンバーのエンゲージメントが上がらない理由をリーダーのキャラクターやコミュニケーションにばかり求めているなら、すぐにその考えを改めて下さい。

そして、チームの中にエンゲージメントを高めるためのゴールやプロセスそしてペナルティを仕組みとして埋め込んで下さい。

※学術的背景に興味がある人はTheory「ビクター・H・ヴルーム『期待理論』」参照。

成功する「チームの法則」もっと知りたい方はこちら!

「自分のチームづくりがいかに整理されていなかったか、情けなくなった。もっと早くこの本に出会えていたら」(元サッカー日本代表監督・岡田武史)

週刊現代「これからの日本を変える経営者50人」にも選ばれた麻野耕司さんが、チームに関するノウハウを惜しげもなく公開している『THE TEAM 5つの法則』。

多くの組織に変革をもたらしてきた「チームの法則」が誰でも使えるようにまとめられた、チームづくりの決定版です!

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