ビジネスパーソンインタビュー
話題の“価格自由”本『実験思考』の内容を一部公開
給料を“先払い”したら、人はちゃんと働くのか? 光本勇介がトライしたい「実験」の数々
新R25編集部
最短2分でオンラインストアがつくれるサービス「STORES.jp」、目の前のアイテムが一瞬で現金に変わるアプリ「CASH」、あと払い専用の旅行代理店アプリ「TRAVEL Now」など、あの堀江(貴文)さんも舌を巻く発想力で世間を驚かせるサービスを次々と生み出す起業家・光本勇介さん。
電子版を0円、紙の書籍を原価の390円(税抜)で流通させ、Webサイトで自由な金額を課金してもらうという前代未聞の売り方で話題となっている著書『実験思考』より、光本さんの頭のなかを覗くことができる4本の記事を連日公開でお届けします。
さまざまな業界でやってみたい「実験」
ぼくは、なんだかんだ言って10年も事業を作ってきました。ぼくはビジネスが大好きです。
シンプルに「お金を稼ぐ仕組み」を考えることが好きなのかもしれません。
ひとつのアイデアがポンと浮かんだときに、「じゃあ、こういうことができるかも」「こっちにどんどん展開していけるかも」などと考えることが楽しいのです。
すごく深く考えているわけではないのですが、さまざまな業界について「この業界なら、こういう問題を解決したい」ということがあります。
具体的にいくつかご紹介したいと思います。
がん検査をもっとカジュアルに
医療業界を見ていて、ぼくが興味があるのはたとえば「がん」です。
2人に1人ががんになって、3人に1人ががんで死ぬといわれています。あまりそんなイメージはないのですが、これほどの人ががんで死ぬというのは、ものすごい事実です。
日本に限らず世界でいちばん人を殺している病気は「がん」でしょう。これはわかりきっている「事実」であって、自分は相当に高い確率でがんになることが目に見えているわけです。
それなのに「なぜみんな、1年に1回しか人間ドックに行かないの?」と思います。
たとえば、ものすごくカジュアルに月1回、がんの検査ができるサービスができないかなと考えています。
1ヶ月に1回検査をしたら、治る確率は上がります。
がんの種類によっては難しいものもあるかもしれませんが、ほとんどのがんは早期発見すれば治せるはずです。相当な数の人の命を救えると思うのです。
こんなにがんで人が死んでいるのに、1年に1回しか人間ドックに行かないというのは、とてもナンセンスです。
がんの検査を、時間をかけずに、超カジュアルに、安く、究極的にはタダで、マスの人たちにしてもらえるサービスを提供できたらいいな、と思っています。
人間ドックやがん検診は、あきらかに市場があります。しかし、既得権になっているため、なかなかイノベーションが起きません。そこを変えることができたら、いろんな可能性が生まれます。
多くの人は医療の検査を「高額なのがあたりまえ」「年に1回くらいがあたりまえ」「1日かかるのがあたりまえ」だと思い込んでいます。
でも、そんな常識にとらわれる必要はないのです。「人間ドックは月に1回、検査キットに唾液を垂らすだけ」という時代が来るかもしれません。
結果はアプリに表示されて、つねにスマホで、無料で健康管理をすることも不可能ではありません。検査をするたびに献血のように特典やお金がもらえたらさらに楽しいですよね。
現実味がまだないかもしれませんが、きっとそういう時代が来ると、頭の片隅にアイデアを置いておくだけで、点と点が線になって、具体的なサービスにつながることがあります。
セキュリティサービスをマス化する
セキュリティ業界も、一時期すごく興味があって、ネタ帳の「1軍」にしていたテーマでした。
セキュリティ業界の二大巨頭は「セコム」と「アルソック(綜合警備保障)」です。セコムのほうが規模が大きく、時価総額は1社で約1.5兆円もあります。
誰がお客さんかというと、ほとんどが「B」、企業です。企業か、ごく一部の超富裕層。
だから、このセキュリティというサービスを「マス化」することに、すごく興味があったのです。
セキュリティというサービスは、ごく一部のお金のある人しか受けられません。
では、上京したてのお金のない18歳の女子大生がセキュリティのサービスに興味がないかといえば、絶対にある。需要はあります。
ただ、月2万円もかかっちゃうし、「ワンルームのアパートにセコムなんて入れられないよな」とあきらめるわけです。現実的なのは、オートロックのマンションを借りることくらいです。
ただ、それだってやっぱりお金はかかります。
そこでたとえば、セコムのような監視カメラは無理かもしれませんが、ドアや窓が勝手に開いたらアプリで教えてくれるサービスなら安く作れるかもしれない。もしくは温度を感知して教えてくれるアプリでもいいでしょう。
本当に誰でも最低限のセキュリティサービスを受けられる、そういうものを無料でばら撒く、というのはできそうです。
玄関や天井に簡単なカメラキットをつけてもらえば、セキュリティをすべての人に提供できるかもしれません。
このサービスで壊したい「あたりまえ」は、「セキュリティというサービスは法人向けである」「一部の富裕層向けである」「セキュリティは高額である」ということです。
安全に過ごしたいという欲求は誰にだってあります。安心感は誰しもが欲するもの。
よって、これまで法人や一部の人だけに提供されていたセキュリティというサービスをマス向けにするだけで市場は大きく広がるはずなのです。
法人向けのサービスを個人向けにできないか?
一部の人にだけ提供されているサービスをマス向けにできないか?
ここに可能性は転がっているのです。
飲食・小売業界は、金融事業化すればさらに儲かる
飲食・小売業界は、金融事業に変換することでさらにお金を生み出す可能性があります。
全国に230店舗フランチャイズ展開している、売上約170億円、利益約3億円の飲食系上場企業がありました。従業員は2000人近くいて、人件費は年間なんと55億円。
この企業を知ったとき、「170億円も売上があるのに、利益は3億円しかないのか」というのが率直な感想でした。
もしぼくが経営者なら、利益を増やすためにこんなことをしてみたいと考えました。
1. 従業員向け「給料アプリ」を作成
基本的には給料が振り込まれるのは月に一度ですが、アプリを開くとその日に働いた給料を即日引き出すことができます。
2000人の従業員に支払っている年間55億円の給料のうち、仮に20%が日払いで引き出された場合、11億円が振り込まれることになります。
これに対して、早期払い手数料を数%もらうだけで、利益をぐっと増やすことが可能となるのです。
2. 従業員に対して「貸金サービス」を提供
従業員のなかには、「お金を一時的に借りたいけど、消費者金融は怖くて借りにくい」と思っている人も多いはずです。
そのような人たちに対して、融資サービスを提供し、金利でビジネスをしていきます。
従業員にとっては自分が働いている会社から借りるという安心感もあるし、会社側もすでに働いてくれている従業員ならばデフォルト(融資の踏み倒し)をする率も低いだろうと想定できます。
3. フランチャイズ店舗に「材料融資」を実行
材料費は先にお金が出て行くため、キャッシュフロー的に苦しんでいるフランチャイズ店舗も多いはずです。
そこで、材料の費用ではなく材料そのものを提供し、売上に応じて後から材料費をもらうという仕組みを導入してみます。
たとえば材料費が100万円かかるとします。もし100万円を融資しても、回収できる月利は多くて1万〜2万円程度。
しかし、100万円相当の材料をお金を取らずに提供し、その材料で300万円の売上が立った場合、店舗の利益は200万円になります。
そのうちの20%をもらう契約にしていたら、40万円儲けることができます。
これを毎月数百店舗に提供すると、お金を貸して金利をもらうよりも圧倒的に利益が出せるのです。
4. 顧客に対して「ツケ飲食」を提供
お客さんがお金を払わずにツケで食べることができるサービスで、食事代を通常の20%高くなるように設定します。
この店舗の平均客単価は2000〜3000円なので、20%高くなっても数百円程度。お客さんにとっては「このくらいなら払ってもいいかな」と思う金額です。
もし年間売上170億円のうち10%の17億円分、お客さんがツケで食事したとしたら、その20%の3.4億円が追加利益となります。
以上はほんの一例ですが、金融事業化することで収益を伸ばす余地はまだまだあると思っています。
給料先払いサービス「WORK」
最近、「人手不足倒産」という言葉をよく聞くようになりました。
売上も良く、利益も出ているのに労働力の確保がうまくいかないことが原因で倒産してしまう企業が後を絶たないということで、社会問題にもなっています。
これを解決するひとつの手段として考えたのが給料先払いサービス「WORK」です。
実は2018年にリリースしようと作っていたもので、CASHと同様、ユーザーを信じて先に給料を支払い、あとから仕事をしてもらうという性善説に基づいたサービスです。
アプリを開くと大量の日雇いバイトのリストが並んでいるのですが、ユーザーが入力する情報はたった2つだけ。「働きたい日」と「働きたい場所」です。
検索してヒットした日雇い仕事のうち、興味がある仕事のページで「WORK」というボタンを押すと、その瞬間に日給分の8000円がユーザーに振り込まれます。
ちなみに、この時点でユーザーから得ている個人情報は電話番号だけです。
世の中には日雇い労働力を求めている企業がたくさんあります。ぼくたちはそれらの企業から日給1万円をもらい、2000円を利益として得る。
ユーザーには「約束した日にちゃんと仕事場所に行って仕事してね」と伝える。とてもシンプルなモデルです。
途中で他の事業の優先順位が高くなったため開発をやめたのですが、どのくらいの人がちゃんと働き、どのくらいの人がバックれるのか、そもそもちゃんとビジネスとして成り立つのかを実験してみたいなと思っていました。
新幹線のワゴン販売をオフィスに展開
新幹線でよく見るワゴン販売。平均売上は1往復で7万〜8万円なので、数往復したら1日で数十万円もの売上になる計算です。
コンビニの1店舗あたりの平均売上が50万円前後と言われていて、これに匹敵する規模です。
ぼくはこれをオフィスでやりたいと思っています。
方法は至ってシンプル。1日中、ワゴン販売のお姉さんがオフィスをただぐるぐる回るだけです。
新幹線のワゴン販売もそうですが、特別欲しいものがなくても、隣に来るとつい何かを購入してしまうことがあります。
オフィスでも、真横をワゴンが通ったらついコーヒーやお菓子を買ってしまうという機会を大量に生み出せる気がします。
オフィス内でお菓子を売る有名なサービスに「オフィスグリコ」がありますが、年間50億円以上の売上があるそうです。
オフィスグリコはお客さんが来てくれるのを待つ 「受動的」なビジネスですが、ワゴン販売のようにデスク横まで行ってコーヒーを売るような「能動的」な販売方法にするだけで、オフィスグリコの数倍の売上はすぐ作れるのではないかと目論んでいます。
ランチを無料にする実験
数年前、格安お弁当屋さんを経営していたことがあります。
最終的に、400社で働いている方々に対して月間2万個を買っていただけるまでに販売数を伸ばすことができました。
ただ、1食500円で販売していたので、月2万個もの弁当を売っているのにまったく利益が出ませんでした。
当時ぼくは「このお弁当を無料にしたらどうなるだろう?」と考えていました。
「500円で2万個」も売れるなら、「無料のお弁当」にしたら10倍の20万個はすぐに配れる自信がありました。
毎月20万人に物理的にリーチできるのは、それだけで非常に価値があるので、マネタイズの方法はいくらでもあります。
お弁当をメディアにして広告を掲載してもらったり、お弁当に添付するサンプル品を提供してもらったり…。
結局、この「実験」をする前にお弁当屋さんの会社は清算してしまったので試せなかったのですが、いまでも無料ランチの「実験」に興味があります。
「車の名義」という概念をなくす
いま、個人間で車の売買をするのは、ものすごくめんどくさいです。
メルカリで服を売るように、カジュアルに車を売買できるサービスが提供できたら、個人間でもっともっと取引されるはずです。
いまはお金と車のやりとりだけではなく、さまざまな手続きをしなければいけないのです。
結局めんどくさくなって「新車を買ったほうがいいや」とか「中古車会社に売ったほうがいいや」となる。
とにかく法律がめんどくさい。手続きがめんどくさいのです。保険も名義変更をしないといけません。
このめんどくさい部分を裏でがんばって成立させられれば、アプリにすごく簡単な入力をしてもらうだけですむようになります。
ぼくが「個人で車を売買するのは難しい」という問題を解決するなら、ひとつ会社を作ります。
たいていの人は車を買うとき、その車の販売会社でローンを組むでしょう。そうではなく、欲しい車があったらぼくの会社に連絡して、そこでローンを組んでもらうのです。
ちゃんとメリットはあります。普通は100万円の車だと100万円のローンを組みます。しかし、ぼくの会社でローンを組むと100万円のローンが80万円になるのです。
そうなると、ぼくの会社を多くの人が指名してくれるようになります。そこで何が起きるかというと、車の名義をすべてその会社にさせてもらうのです。
車は実質、ぼくの会社のモノになる。
もちろん、これまでと変わらず普通に乗ることはできます。実際、車に乗っていて名義なんて意識しないでしょう。車検証の名前が違うだけで、たいした意味はないのです。
「日本中のすべての車の名義を所有する」ことが、この会社のミッションです。
すると、その会社がすべての車の名義を持つので、世の中から「名義変更」という概念がなくなります。
これはどう便利なのか?
たとえば3年経って「車を売りたいな」と思ったとき、買いたい人に直接売ることができるのです。
会社としては、保険の仲介ビジネスもできますし、「この人は、もう5年も乗っているからそろそろ売るだろうな」と思ったときに売却を促すこともできます。
これが実現すれば、巨大な中古車売買の市場をとることができます。
個人が個人に売るので、中古車会社に流れず、「CtoC」になるのです。厳密には「CtoC」に見せかけた「BtoC」です。「CtoCふう」のビジネスになります。
世の中のあらゆる車の名義が同じ会社だったら、すごく楽になります。
「車はいらない」と思ったら、アプリの「売るボタン」を押す。その瞬間に他の1200万人はいるだろうユーザーに向けて、「この車、出たけどいる?」と自動出品される。そんな仕組みも可能です。
「実験」しないともったいない!
ぼくは、ゲームをするように、知恵の輪を解くように、世の中の問題を「こうやったらいいんじゃない?」と思考して、実際に試してみることが大好きです。
はっきり言って、毎日がすごくおもしろい。毎日、社会実験をやっている感覚で、ワクワクが止まりません。
CASHも一度休止してから、約2ヶ月後に再開しましたが、最初の16時間の結果と、24時間サービスを回したときの結果とで、ユーザーの動向はぜんぜん違うのです。
詳細は企業秘密なので言えませんが、見ているだけでめちゃくちゃおもしろい。
これらの結果やデータは、蓄積すればするほど自分たちの資産になっていきます。世間でいわれる「失敗」もすればするほど、自分たちの糧になっていくのです。
「実験思考」が身につくと、世の中に課題があればあるほど、楽しくなります。
不便なこと、めんどくさいことが、ぼくにとっては「宝物」になり、世界が180度違って見えてきます。
しかも、すべての失敗が貴重なデータになっていくので、失敗という概念すらなくなります。毎日が楽しくならないはずがありません。
ぼくはまず、大きな時代の流れを「鳥の目」で見ます。すると、「人は思考しなくなり、所有しなくなる」など、未来のかたちがおぼろげながら見えてきます。
そして、「虫の目」で普通の人が日常的にどんなモノを欲しているのか感じるのです。すると、日常的に使われる新しいサービスのかたちが見えてきます。
それが見えたら、そのアイデアや仮説を実行してみて、検証します。そこで何が起きるのかを観察してみるのです。
先の見えない時代、混沌とした時代は、普通の人にとっては不安な時代かもしれません。しかし、実験思考の人にとっては、これほどおもしろい時代はありません。
さあ、実験をしよう
本書では「本の価格を読者の自由に委ねてみたら、定価で売った場合より儲かるのか?」という実験をしています。
通常1500円のところを原価の390円で販売し(電子版は印刷が必要ありませんので0円で販売させていただきます!)、「価格自由」でお支払いいただくことでお金を回収できるのか。
人は、購入した本を読み終わったあと、プラスでいくら課金するのか、あるいはしないのか。その結果にすごく興味があります。
皆さんにお支払いいただいたお金の総額はこちらのサイト上で公開させていただいていますので、ぜひご覧ください。
また、集まったお金の半分は新たな実験に挑戦しようとする方にプレゼントすることにしました。
新たな実験に挑戦したいと応募してくださった方の中から何名かに、100万円ずつ実験費用としてお渡しするので、自分が興味のある実験をしてくれたら良いなと思っています。
編集者の箕輪さんには「狂ってる」と言われましたが、思いついたら実験してみたくなってしまうのです。
どのような結果が出るか、ぼくもまったく予想できません。この記事の最後にあるQRコードを読み取り、皆さんからのお気持ちである対価をお支払いいただける特設サイトにアクセスしてみてください。
日本中の方がどれくらい対価を支払ってくださっているかもリアルタイムで見ていただくことができますのでぜひご覧ください。一緒に実験を楽しみましょう。
光本さんの『実験思考』をもっと知りたい人はこちら!
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「ビジネスは仮説を検証するための実験だ」。独創的なビジネスモデルを次々と編み出してきた光本さんの“実験を重ねながらビジネスを構築していく全技法”が詰まっています!
本に支払う金額を読者が自由に決めることができる『実験思考』の特設サイトはこちら。支払い総額もリアルタイムで更新されています!
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