ビジネスパーソンインタビュー
「人間は区切りをつければ忘れられる」
“1日3つ書く”習慣で思考が置き換わる。「ノート」で自己肯定感を高める3つの方法
新R25編集部
「最近、なんとなくうまくいかない」
「気持ちのモヤモヤが消えない」
「人付き合いが億劫になっている」
そんなことに悩んでいる人はいませんか? その原因はあなたの「自己肯定感」が揺れ動いているせいかもしれません。
「自己肯定感」とは、自分を価値ある存在として受け入れられる感覚。言わば、私たちの人生の軸となるエネルギーです。
しかし、自己肯定感の第一人者である心理カウンセラー・中島輝(てる)さんによると、自己肯定感は無理に高めようとすればするほど、潜在意識が反発してしまうそう。では、具体的にどうすればいいのでしょうか?
その方法を体系立てて学べる中島さんの著書『自己肯定感の教科書』より、「ノート」を使った習慣によりカンタンに自己肯定感を高める方法を紹介します。
ネガティブな感情は明確にすることで手放しやすくなる
失敗の責任を押しつけられたことが忘れられない30代男性
数年前、上司と組んで新規プロジェクトの立ち上げに携わっていた大谷さん。
残業や休日出勤も続き、しんどい毎日でしたが「チームのためになるから」「上司から求められているから」と懸命にがんばりました。
ところが、いざプロジェクトが始動すると、思ったような成果が出ず、頓挫。上司は「うまくいかなかったのは、君のせいだ」と大谷さんに責任を転嫁しました。
数年前のことながら上司に裏切られた思いは消えず、ふとしたときに思い出してはイライラする。そして、そんな自分の器の小ささに苛立っているという相談でした。
過去の怒りから解放される方法とは?
信頼していた相手から裏切られたときの驚き、悔しさ、虚しさというのはなかなか消えるものではありません。
一方で、数年前の出来事について思い悩んでいる自分を残念に思う気持ちもよくわかります。
相手へのネガティブな感情、自分へのもやもやとした想いがうまく処理できずにいると自己受容感はじわじわと低下。自己肯定感も低空飛行を続けることになります。
そんなとき、有効なのは自分が抱えている苦しい感情をしっかりと認識することです。
そこで私が大谷さんにすすめたのは、「エクスプレッシブ・ライティング」と呼ばれる感情を紙に書き出すテクニックでした。
これは1980年代に生まれた心理療法です。ポイントは自己受容感を損なう原因となった出来事とそのときの感情を思い出し、紙に書き出すことです。忖度は一切ナシで自分の思いの丈を正直に書きます。
大谷さんの場合で言えば、「上司の◯◯、ふざけるな!」「人のせいにするな!」 「信じてがんばったのに、心から裏切られた」といった言葉になるのかもしれません。
とにかく書き出すことで、抱えているネガティブな感情をしっかりと認識することができます。
すると、不思議なことに忘れたくても忘れられなかった記憶へのこだわりが、「ま、いっか」と小さくなっていくのです。
心に痛みがあるということは、大谷さんは、いまでも上司が気になる対象なのです。さまざまなことがありますから、バッサリと思いを断ち切ることは不可能です。
しかし、「ま、いっか。そんな人もいるか」と、自分で許すことを受け容れたことで、上司が気にならなくなり、怒りというネガティブな感情から大谷さんは自由になれたのです。
そして、新しい道に進むことができたのです。
人間は区切りをつければ忘れられる
なぜ、書き出すことで、いつまでも気になっていたことやいつもつきまとってくる不安に変化が生じるかと言うと、私たちの脳は、ぼんやりと気にかかっていることほど忘れられず、きちんと整理でき、区切りが付いたことは忘れられるという性質があるからです。
人間は区切りをつければ忘れられるのです。
アメリカの心理学者ダニエル・ウェグナーが行った「シロクマの実験」と呼ばれる研究があります。
この研究では、実験に参加した協力者を3つのグループに分け、シロクマの1日を追ったドキュメンタリー映像を見てもらい、その後、それぞれのグループに次のような異なる指示を出しました。
『何があっても「大丈夫。」と思えるようになる 自己肯定感の教科書』Aグループ:「シロクマのことを覚えておいてください」
Bグループ:「シロクマのことを考えても考えなくてもいいです」
Cグループ:「シロクマのことは絶対に考えないでください」
研究チームは1年後、実験の参加者を集め、映像の内容について覚えているかどうかを尋ねました。
すると、もっとも鮮明にシロクマのドキュメンタリー映像の内容を覚えていたのは、「シロクマのことは絶対に考えないでください」と指示されていたCのグループだったのです。
ウェグナー博士はこの実験の結果を受けて、「何かを考えないように努力すればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなる」という脳の働きを「皮肉過程理論」と名づけ、論文にまとめました。
つまり、私たちは「忘れたい」「こだわりたくない」と意識していることほど、「忘れられず」「こだわってしまう」のです。
しかも、自己肯定感が下がっているとネガティブな出来事への反応が強くなるので、ますます忘れられなくなります。
そこで、「エクスプレッシブ・ライティング」です。
感情を紙に書き出し、文章化します。自分で目視できるようにすることで、「忘れたい」「こだわりたくない」出来事とそのときに抱いた感情が明確になります。
すると、明確に意識したことで忘れやすく、手放しやすくなるわけです。
そうやって悩みを乗り越える経験によって、自己受容感も回復します。
「ネガティブな感情を抱くのは当たり前」「そんな自分も受け入れられる」「自分は乗り越える方法を知っている」といった心境になり、「だから大丈夫」と思えるようになるからです。
「グッド・シングス」を書き出して思考を置き換える
1日3つ「今日のよかったこと」を書き出す
自己肯定感を高めるトレーニングに、「スリー・グッド・シングス」と いうテクニックがあります。
やり方は簡単。ノートを1冊、用意しましょう。
もちろん、パソコンのテキストエディタやスマホのメモ機能、あるいはSNSへの書き込みでもかまいません。
ただ、ノートに自分の手で書くという具体的な行動をセットすることで、より強く記憶に刻まれ、アファメーション(肯定的な自己宣言)の効果が高まるので、できれば手書きをおすすめします。
1日1ページ、その日の「今日よかったこと」を3つ挙げて書き出します。
たとえば、
「書店でおもしろそうな本と出会い、買ってきた」
「取引先の担当者と世間話をするチャンスがあって、距離が縮まった感じがした」
「夕方、見た夕焼けがめちゃくちゃきれいだった」
など、どんな小さなことでもかまいません。
こうした新しい習慣を身につけるには、21日間続けると定着するという研究データがあります。
人間の皮膚が21日で生まれ変わるように、私たちの脳も21日間で書き換え可能になるのです。ですから、まずは「スリー・グッド・シングス」を3週間続けてみてください。
そして、慣れてきたという実感を得たら、「スリー・グッド・シングス」の内容に追加して、未来に起こしたいワクワクするような体験や自分なりの発見を妄想して、1つだけ書いてみましょう。
たとえば、
「明日は必ず営業で契約が1件とれる」
「明日は新しい出逢いがある」
「明日は子どもと楽しい時間を過ごせる」
などと書いてみてください。
そうやって一定期間書き続けていくうち
「朝早めに家を出ると、ラッキーな展開が多い気がする」
「営業に行った先の駅でぐるっとひと回り散歩すると、新しい経験が増える」
「◯◯さんと一緒にいると、本気で笑える瞬間がたくさんある」
といった変化にも気づきます。すべての行動がポジティブに肯定的になっていくのです。
すると、それが1日、1日と期待感を高め、あなたの脳は「グッド・シングス」を探すようになっていきます。
たとえば「自分にはいいことが起きない、楽しみがない」という潜在的な思考も、「自分にはいいことが起きるはずで、それを楽しみにしている」というものへと、書き換えがおこなわれるのです。
それはまさに、「私はツイてる!」というアファメーションが日常化している状態です。自己決定感や自己有用感が高まり、「自己肯定感の木」が育っていきます。
「スリー・グッド・シングス」と同じような効果をもたらすものに、自分を褒める「褒め日記」もあります。こちらは1冊の日記帳に、自分を褒める言葉を記していくもの。
どちらの方法でもかまいません。自分にアファメーションをかける習慣が、あなたを変えます。
小さなチャレンジの成功記録だけを残す
私たちは、周囲の人から信頼されたとき、「その信頼に応えたい」「信頼してくれた人に報いたい」という気持ちになり、実際に行動に移すという心理があります。
こうした人間の行動原理を心理学的に証明したのが、アメリカの教育心理学者であるロバート・ローゼンタールです。
彼は「人は期待されると、その気持ちに応えるような行動をとりやすくなる」という心理を論文にまとめ、「ピグマリオン効果」と名づけました。
以来、ピグマリオン効果は期待と行動と成果に関する基本的な仕組みとして、今も教育やビジネスの現場で活用されています。
そして、このピグマリオン効果は自分自身にかけることもできるのです。あなたがあなたを信頼することで、自分自身の信頼に報いたいと行動を起こせるようになるのです。
ポイントは、日常のなかにベビーステップとなる、小さな冒険を組み込むこと。
たとえば、ランチに行くとき、ネットの情報を見ずに、自分の直感に頼って知らない店に入ってみましょう。
もし、同僚と一緒に行ったことのある店に入ることになったら、これまで頼んだことがないメニューを頼んでみます。小さくてもいいので、とにかく新しい冒険にチャレンジするのです。
そして、その冒険があなたにとっていい結果だったときだけ、やった内容と感じたことをノートに記録していきます。
「ふらっと入ったお寿司屋さんのランチが絶品だった。ディナータイムに白木のカウンターで板前さんと向き合う勇気はないけど、ランチなら高くても数千円。これからは高級店も攻めてみたいと思った」など。
すでに紹介した「スリー・グッド・シングス」にも似ていますが、こちらは毎日綴る必要はありません。あなたが具体的に起こした行動にフォーカスして、良い感じが残ったときだけノートにまとめましょう。
または、あなたの手帳に、冒険の成功ペンはこの色と決めて書いたり、書いたことに冒険の成功シールを貼ってもよいでしょう。
このトレーニングがアファメーションとして効果的なのは、やればやるほどノートに冒険の成功事例が残っていくことです。
「冒険するといいことが起こる、成功する」という経験の蓄積によって自己決定感、 自己有用感が高まり、自己肯定感が強くなっていくのです。
あなたも今から、セルフ・ピグマリオン効果を使ってみてください。
一歩進むことで、こんなにも人生が変化し、こんなにも新しい発見があると感じるでしょう。そして、「私はできる! 大丈夫!」と思えてくるのです。
あなたの自己肯定感は自分で高められるのだと実感できるでしょう。
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