ビジネスパーソンインタビュー

「みんな聞いてる“つもり”なだけ」コミュニケーション能力の鍛え方を専門家に聞いてきた

質問の考え方と相槌のコツも

「みんな聞いてる“つもり”なだけ」コミュニケーション能力の鍛え方を専門家に聞いてきた

新R25編集部

2019/03/23

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最近は“コミュ障”を自負するビジネスパーソンも多く、「コミュニケーション能力」に悩んでいる人は多いよう。

かくいう私もそのひとり。「とっさに話題が浮かばない」「聞いてばかりになってしまう」など、課題をあげるとキリがありません。

仕事でもプライベートでも役に立つコミュニケーション能力ですが、これはそもそも自分の努力次第で高められるものなのでしょうか?

コミュニケーションの専門家・國武大紀さんに相談してきました。

【國武大紀(くにたけ・だいき)】1972年生まれ。滋賀県長浜市出身。株式会社Link of Generation代表取締役。様々な職業を経て、JICA(国際協力機構)に就職。以後、16年間にわたり発展途上国の国際協力に従事。その後LSE(ロンドン政治経済大学院)に留学し、組織心理学の修士号を取得。名古屋大学大学院(国際開発研究科)客員准教授として指導を行ったほか、現在はコーチングやプロコーチ養成、リーダーシップ開発や組織開発専門のコンサルタントとして活躍。著書に「『聞く力』こそが最強の武器である」(フォレスト出版)「評価の基準」(日本能率協会マネジメントセンター)などがある

コミュニケーション能力が高い=話し上手ではない。相手を深く理解できているかどうかが大事

川西

よく「コミュニケーション能力が高い」とか「低い」とか言いますよね。國武さんはその基準をどう考えていますか?

國武さん

その差は、話している相手への理解レベルが深いか、浅いかということにあると思いますね。相手の言っている内容だけではなく、相手の気持ち(感情)を深く理解できているかが重要です。

つまりコミュニケーション能力が高い人は、言語(話の内容)と非言語(相手の気持ち)の両方で相手を深く理解できている人だと思います。

川西

なるほど。コミュニケーション能力が高い人への一般的なイメージって、“鉄板ネタ”なんかを持っているなど、話すことが得意な人のような気がするんですが、そういう人はどうなんでしょう?

國武さん

うーん…むしろ、そういう人はコミュニケーション能力が低い人かもしれません。

川西

えっ、どうしてですか!?

國武さん

もちろん一概には言えませんが、話が上手な人って、「自分には言いたいことがある」「自分を理解してほしい」という気持ちが優先しがちです。要は自分本位なんです。

國武さん

それに自分が話すのって、相手を理解するのとは逆の行動ですよね?

だからいくら話術があっても、自分が話すばかりで相手を理解することができてないと「コミュニケーション能力が低い」ということになります。

川西

コミュニケーションで大事なのは相手を理解することなのに、話すことの比重が大きいと、一方通行になってしまいがちってことですね。

「聞くことはできている」は勘違い。相手の“気持ち”を理解できているか?

國武さん

だからコミュニケーションは、話すよりも「聞く」ことのほうが大事なんです。相手のことを聞けるから、相手のことが分かるわけですよ。

コミュニケーションに苦手意識を持っている人は、「話術を身につけなきゃ」なんて思うかもしれませんが、それよりちゃんと聞く力を磨くほうがよっぽど大事です。

川西

でも、だいたいの人は聞くことはできている気がするんですが…

國武さん

いや、聞けてないです。聞いてるつもりになっているだけですね。

國武さん

というのも、「聞く」のに必要なことがふたつあって、ひとつは話の内容を理解すること。これはほとんどの人が知っている聞き方だと思います。

もうひとつは、相手の気持ちを理解すること。コミュニケーションに苦手意識を持っている方は、こちらに意識が向いてないことが多いです。相手の気持ちを理解する聞き方は、学校で習っていないから、知らない人が大半なんですね。

ちゃんと相手の気持ちを理解するには、興味を持って相手の話を聞かないといけません。

川西

なるほど。よく「話すのが苦手な人は、とりあえず聞き役に」と言いますけど…

國武さん

そんな消極的な姿勢では、きっとダメですね(笑)

そういう姿勢は、目線や仕草などの非言語の情報として、相手に伝わります。結果、相手は心を開いてくれないでしょう。

「自分は聞くことはできる」と思っている人ほど、この罠に陥りがちです。

興味を持ちづらい相手に興味を持つには、共通点を見つけるのがおすすめ

川西

相手に関心を持って聞くのが大事なのはわかったのですが、正直なところ、あまり興味の湧かない人と話すこともありますよね

そういうときはどうしたらいいでしょうか?

國武さん

そういう場合は、そもそもその人とどういう関係を築きたいのか、自分自身に聞いたほうがいいですね。

必要なかったら、努力してコミュニケーションを取る必要はないと思います。

川西

でも仕事だと、興味ない人とも関係を築かざるをえない場面もありますよね。

國武さん

どうしても興味を持たないといけないなら、最初のステップとして自分との共通点を探すのがおすすめです。

國武さん

初対面の人と話すと、直感的に「この人とは合わなさそう」って思うことあるじゃないですか。

でも、その人と出身地がたまたま同じだったり、趣味が同じだったりするとつながる感覚がありませんか?

川西

それはありますね!

國武さん

そうなれば最初よりは興味を持てるはずです。まずは趣味や出身など、相手との共通点を見つける工夫をしてみましょう!

使いやすい3つの質問パターン。「縦の質問」と「横の質問」も使いわけよう

川西

もし、趣味や出身などのいわゆる“プロフィール”的な項目で共通点が見つけられなかったら、相手のどこを掘るべきでしょう?

質問のテンプレートみたいなものがあれば知りたいです!

國武さん

3つの質問のパターンを覚えておくと便利です。

質問のパターン① Having(所有)

國武さん

まずひとつ目は「Having」、つまり持っているものについて聞きましょう。たとえば、服、時計などの身に着けているもの、あとは髪型や家なんかもそうですね。

「その時計、ステキですね。どこのブランドですか?」「どちらお住まいなんですか?」と聞いてみましょう。

川西

たしかに相手と同じブランドの服が好きだったり、意外と近所に住んでたりすると盛り上がりますよね!

質問のパターン② Doing(行動)

國武さん

ふたつ目は「Doing」。文字通り、やっていることを話題にしてみましょう。

「今、どういう仕事しているんですか?」「最近、ハマっているものはなんですか?」など。それこそ「こうやって話すのは苦手ですか? 得意ですか?」とか、そういうのもテーマになりますね。

質問のパターン③ Being(あり方)

國武さん

最後の「Being」は考え方や価値観について聞くパターンです。

「話題になってるニュースに対して、どういう意見を持っていますか?」「食べ物の好き嫌いはありますか?」「尊敬している人は誰ですか?」とかですね。

川西

ちなみに、この中で特にオススメのパターンってありますか?

國武さん

カンタンに質問できて、盛り上がりやすいのはひとつ目の「Having」ですかね。初対面の人と話しはじめる話題としてオススメです。

「Having」や「Doing」について聞いてから、相手のことをより深く理解していく過程で「Being」の質問をするといいと思います。

質問は「縦」と「横」を使い分ける

川西

たとえば「Doing」のパターンで質問したときに、相手が「スカッシュやってます」と言ったとするじゃないですか。

僕がスカッシュを知らなかった場合、どうやって話を続けるのがいいんでしょう?

國武さん

話を続けるときは「縦の質問」と「横の質問」のどちらが向いてるのか考えましょう。この場合は、縦の質問ですね。

川西

縦の質問?

國武さん

縦の質問は、特定の話題を深掘りする質問です。先ほどのシチュエーションなら、「スカッシュってどんなスポーツなんですか?」「どんなところがおもしろいんですか?」とか。

自分がスカッシュのことを知らなくても、知らないものとして素直に聞けば大丈夫です。

川西

なるほど、ありがとうございます。

ちなみに、先ほど出てきた横の質問というのはどういうことですか?

國武さん

横の質問は、話の幅を広げる質問です。どうしても自分に難しい話題なら、「ほかには?」とか「ところで」と切り返して、ほかの話題に変えるんです。

スポーツの話題が難しいなら、音楽、食事などの話題を振ってみる。そのなかで相手の感情がのっていそうなところを見つけて、縦の質問で深掘っていきましょう。

質問のポイント

✔ はじめのうちはHaving、Doing、Beingの3パターンで質問してみよう

✔ 話を深掘りする「縦の質問」と話題を変える「横の質問」を駆使しよう

聞き上手になれる相槌のコツ

國武さん

質問をしたら、適切な相槌を打つのも大事です。意識するポイントは、4つあります。

相槌のコツ① 「話を聞きたい」という姿勢が最も大切

國武さん

まずは「話を聞きたい」という姿勢を出しましょう。これがもっとも大事なことです。

相手のことを知りたいという好奇心が伝われば、相手も一生懸命話してくれますから。

川西

そういう姿勢って自然と伝わりますよね。

國武さん

そうなんです。なので具体的なフレーズにこだわるよりも、まずは姿勢を意識するべきです。

「話を聞きたい」という姿勢を示すための手段として、下記のようなフレーズを参考にするのもいいと思います。

【共感のフレーズの一例】
「そうだったんですね」「楽しかったんですね」「ツラかったんですね」

【具体化のフレーズの一例】
「具体的には?」「たとえば?」「もっと聞かせて(ください)」

相槌のコツ② 相手の温度感に合わせる

國武さん

次に、相手の温度感に合わせることも大事です。

たとえば、話してる相手が(大きな声で、ニコニコしながら)「実は昨日まで旅行へ行ってきたんですよ!」とか「ちょっと前に見た映画がおもしろかったんですよー!!」って言っていたら、気分がアガってるのがわかりますよね?

川西

すごく楽しかったんだろうなーと思います。

國武さん

そうしたら、自分もそれに呼応するように、身を乗り出して「そうなんですね!!!」って、返せばいいんですよ!相手の感情の振れ幅に合わせるのが大事

相手と同じテンションで返してあげるだけで、だいぶ相手からの印象が変わると思います。話すのが苦手なら、そこにコメントを加えようとしなくても大丈夫です。

相槌のコツ③ 相手が使った言葉をそのまま使う(オウム返し)

國武さん

次に、相手が使った言葉をそのまま使うことも、ひとつの手段ですね。

たとえば「めっちゃ嬉しかったんですよ!」と言った相手に「へー! 感動したんですね!」と言い換えてしまうと「いや、感動したわけじゃないんだよ」って会話が止まってしまう恐れがあります。

微妙な解釈のズレが、円滑なコミュニケーションを邪魔してしまうわけですね。

川西

ああ、それは経験ありますね…

國武さん

一度はありますよね(笑)。そのリスクを無くすためには、「そんなに嬉しかったんですね!」と相手の発した言葉をそのまま使ってあげるのが一番ラクです。

相槌のコツ④ 長いフレーズを使わない

國武さん

あと、相槌は短いフレーズで打つようにしましょう。相手が話しているリズムを崩さないためです。

たとえば「昨日、テニスの試合で錦織がすごかったんですよ!最後、大逆転してさ〜」と嬉しそうに話してきたとします。

それに対して、「そうだったんですね! 実は僕も錦織圭が好きで、昨日は見れなかったんですけど、どんな試合だったんですか?すごく見たかったな〜」って長いフレーズで返されたら、相手のテンションは下がると思いませんか?(笑)

川西

「おい!こっちが話してるんだよ」ってなりそうですね(笑)。

國武さん

そう。なので、相手の邪魔にならないように「すごかったんですね!」などと端的に共感を示しましょう。

相槌のポイント

✔「話を聞いてる姿勢」が一番大事

✔ 相手の温度感や言葉に合わせて相槌を打つ

✔ 短いフレーズで相槌を返すことを意識

人を理解しきることなんてできない。大事なのは、理解しつづける姿勢

國武さん

ただ、こういったテクニックを身につけると陥りがちなのは、「もう相手のことは理解した」と思い込んでしまうこと。そもそも、相手のことを理解しきるなんて、できませんよ。

國武さん

無二の親友だとしても理解できないこともあるでしょうし、夫婦だって、理解し合えないことがいっぱいありますから(笑)。

ましてや上司や部下なんて、理解できないほうが自然ですよね。

川西

まぁ…そうですよね。

國武さん

ある程度コミュニケーションをとると「この人は、大体こういう人だな」ってレッテルを貼ってしまいがちなんです。これがコミュニケーションの落とし穴。

そうした瞬間、相手に対しての理解が止まっちゃうわけですよ。だから私は「この人のことを理解できた」と思ってしまったら人として終わりだなと、日頃から気をつけています。

川西

そんなストイックな心がけをしているんですね…

國武さん

人には職場の顔、家族といるときの顔、恋人といるときの顔、いろんな顔がありますよね。そのすべてを理解できることなんてありえないんです。

それなのに相手を理解したと思い込んでしまったら、関係が深まらないどころか、勘違いによって破局やいじめなど、大きな問題を引き起こすかもしれません。

川西

なるほど。

國武さん

だから、理解することを諦めないようにしましょう。ちょっとでも深く理解し続けるという姿勢が大事です。

コミュニケーションが上手な人と下手な人の差は、最終的にはそこに尽きると思いますよ。

コミュニケーションに苦手意識を持つ人は「自分には話すスキルが足りてない」と考えがちですが、國武さんが最も大切だと教えてくれたのは「相手を理解したいと思う姿勢」でした。

取材で大きな気づきを得て、これから人と話すときの意識が変わりそうです。

〈取材・文=川西龍之介(@ryunosuke_k124)/編集・撮影=葛上洋平 (@s1greg0k0t1)〉

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