ビジネスパーソンインタビュー

“無自覚な偏見”はどうなくせばいい? 人気ゲイツイッタラーが語る「偏見との付き合いかた」

偏見を持っている人が社会に順応していると思われがち!?

“無自覚な偏見”はどうなくせばいい? 人気ゲイツイッタラーが語る「偏見との付き合いかた」

新R25編集部

2019/02/26

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あなたは、自分のなかに「偏見」はあると思いますか? たとえば、同性愛者の人に対してはどうでしょう…?

今回は、Twitterのフォロワー数23万人超え! 「ゲイ風俗とゲイバーで働いていたオカマ」と自ら名乗り、当時のエピソードをマンガ化して人気を博しているもちぎさんに、偏見についてお話を聞きました。

もちぎさんのお話のなかに出てきた「無自覚な偏見」とは…?

〈聞き手:ライター・高城つかさ〉

『おっさんずラブ』がTwitterアカウント開設のきっかけ

もちぎさん提供

もちぎさん提供

高城

Twitterで3.2万RT・10.1万いいねされている上記のマンガ、「拝啓 母ちゃん ゲイに生まれてごめんなさい」でもちぎさんを知ったのですが、Web上での発信をはじめたきっかけを教えてください。

もちぎさん

ドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系列)の影響が大きいですね。

今のアカウントを開設するまえは、ゲイ同士で交流するような、閉鎖的なアカウントしか持っていなかったんです。

それがここ数年、複数の自治体で「パートナーシップ制度」が制定されたり、『おっさんずラブ』のような同性愛的ニュアンスのあるコンテンツがブームになったりという変化があった。それを見ていて、自分も、自分のセクシュアリティについて何か発信しよう…と思ったんです。

高城

『おっさんずラブ』ですか…!

もちぎさん

同性愛のようなニュアンスのあるコンテンツを見ても、正直リアルというよりは“ファンタジー”だと感じる部分はあるのですが、きっと数年前だったら「男性同士の恋愛なんて」と気持ち悪がる人が多かった

「気持ち悪がられない」ことに驚きましたね。

「ゲイの人ってセンスあるよね!」やさしい、無自覚な偏見って意外と多い

高城

もちぎさんの発信しているコンテンツって、ネタに走るわけでもジェンダー論を熱く語りすぎるのでもなく、バランスのとれた発信をされている印象が強いんです。

だからこそたくさんの人に届いていると思うのですが、“発信のコツ”などはあるんでしょうか?

もちぎさん

あえていえば、「自分を雑誌のようにコンテンツ化してしまうこと」ですかね。

ジェンダー論を熱く語る“活動家”的な人もいると思うんですが、一般の人との熱意の差がある。同じような考えを持った人だけに偏らず広く考えを広めようと思ったら、もっと「コンテンツっぽさ」というか、面白さが必要だと思っていて。

だからこそ、あえて「もちぎ」という“変わったオカマ”をキャラクター化して、いろんな話題の発信源になるように動いているんです。

高城

自分を雑誌のように…!

発信をはじめて、気付いたことなどはありますか?

もちぎさん

やさしい偏見」「無自覚な偏見」が予想以上にあるんだな…と思いましたね。

高城

無自覚な偏見、ですか?

もちぎさん

はい。たとえば「ゲイの人ってセンスがあるよね!」「アーティスト気質だよね!」とか。

たしかにテレビのバラエティ番組などにそういう人が登場することはありますけど、その役割はあくまでその人固有のもの

ゲイバーについて描いたマンガを読んで「ゲイバーに行ってみたい!」と言ってくださる方もいるんですけど、その意識のなかには、「オカマは人生経験が豊富そう」「男女両方の目線を持っているから、恋愛相談に乗ってくれる」みたいな、悪気のない偏見もあるんじゃないかなと思います。

高城

私もあるかも…

そうか、「私は理解してる!」みたいなスタンスが、相手にとっては“偏見の押し付け”なのかもしれないんですね…

「無自覚な偏見」は誰のなかにもある。自分のなかにも

高城

私も、たとえば街中で美少年を見たら「ゲイっぽい…」とか思ってしまっていたんです。

もちぎさん

自分は「老け専」なのですれ違う男で美少年だと思う人、めったにいないですけどね!(笑)

それは冗談としても、それも「ゲイはアーティスト気質」のようなレッテルと同じですよね。「見た目が普通のおじさんなゲイもいる」という当たり前の事実が一般的になればなと思います。

高城

何も言えない

もちぎさん

でも、そういう「無自覚な偏見」って、誰のなかにもあるものだと思うんですよね。

高城

え、じゃあもちぎさんにも…?

もちぎさん

もちろんです。もともと「ゲイというセクシュアリティは、隠して生きなければいけないものだ」という思い込みがありました。

自分の母親から「隠せ」と言われてしまっていたことが大きな理由だったんですが、地元から東京に出てきてゲイバーで働くようになって、カミングアウトして家族から認められている人と出会って、その思い込みから解かれました

高城

なるほど…

もちぎさん

それに気づいたとき「自分には差別意識や偏見がない」という人は多いし、かつて自分もそうだったけど、その思い込みが、無自覚な偏見を生むんじゃないかと思ったんです。

自分のなかに無意識な偏見があると認めたうえで「隣人や家族にもマイノリティな人がいるかもしれない」という発想が増えるといいですね。

「無自覚な偏見」を、どう乗り越えるか。カギは「生きづらさ」への共感

高城

う~ん、しかし、「無自覚な偏見」って自分だとなかなか気付けないですよね…無自覚だから

どうしたらいいんでしょう?

もちぎさん

性的マイノリティであっても、そうじゃなくても、「生きづらさ」を感じることってあるじゃないですか。そういった「生きづらさ」への共感がカギになるかなと思っています。

他者の「生きづらさ」を認めたうえで、相手に何かを押し付けるのをやめる…そんな意識を持つ人が増えれば、「偏見」は減るんじゃないかなと。

高城

それはたしかにヒントになりそう!

私も「早く結婚しないとダメだよ」と言われたり、セクハラを受けたと相談しても「大人な対応をしないと」と返されたりして、モヤッとしたことがあります…

もちぎさん

どんなマイノリティであろうとマジョリティであろうと、多かれ少なかれ「生きづらさ」を持っているもの。

自分の発信を見たことで気が楽になって、「生きづらさ」が改善されたと聞くこともあるので、それはうれしいですね。

もちぎさん提供

もちぎさん提供

高城

「モヤッとした自分がおかしいのかな?」と思い込みそうになっていたところで、私ももちぎさんのマンガを見て救われたことがありました。

もちぎさん

そもそも、偏見を持っている人が「社会に順応している人だ」と思われがちな現状があると思うんです。

「結婚するのが当たり前」「男と女がくっつくのは当然」とか。そういった既存のイメージに違和感を持たず従う人が社会的に正しい、と。

一方で、多くの人がそういう社会に疑問を持ちはじめている。だからこそ、「生きづらさ」をテーマにした発信が共感されるんだと思っています。

ムリにひとつになるんじゃなく、自分と違う人間との距離感を認識すればいい

高城

もちぎさんは、発信をはじめてすぐにTwitterのフォロワーが増えはじめ、今では23万人以上もいますよね(2月20日現在)。影響力ゆえに、批判もあると思うんですが…

もちぎさん

そうですね。発信をしていて「ゲイを拒まないでほしいと言うなら、俺たちもケツを差し出さなきゃいけないのか!」みたいな声もありました(笑)。

高城

極端…!

もちぎさん

いやいや、言っている本人たちは大真面目なんです。それは「ゲイを認めてあげる」と上の立場にいるように錯覚してしまうからこその発言だと思っています。

「偏見による押し付けのない社会になってほしい」だけなのに「受け入れてあげているのに、これ以上何を求めるのか」と言われることもあって。

マイノリティの生きやすさを認めると、自分たちの何かが奪われる」と思い込んでしまう人もいるんですよね。

もちぎさん提供

もちぎさん提供

高城

女性が痴漢をされたと訴えたときに「女性専用車両を用意してあげているんだから、普通車両で痴漢にあっても自己責任」みたいな話もそうですよね。

もちぎさん

そうそうそう。多様性はムリにひとつになることではなくて、自分と違う人間がいると理解して、距離感を認識するものじゃないですか。

自分が偏見にさらされても…悪意がなければ傷つく必要はない

高城

最後に、みんなが偏見を持って生きている社会で、傷つくこともあるじゃないですか。

無自覚な偏見に傷つかないようにするには、どうすればいいでしょうか?

もちぎさん

その人個人を変えようとは思わないほうがいいですね。社会を変えていくしかない

個人的には「気にするな!」としか言えないですね(笑)。

高城

人を変えるのではなく、社会を変える…

もちぎさん

あとは、無自覚な偏見にさらされても、相手に悪意がなければ傷つく必要はないと思っています。

その発言が本当に攻撃的な意味合いを持つのか…。悪意がある発言なら傷つこう、くらいの心構えでいいと思います。

高城

今までずっと傷ついてました!(笑) これから実践してみます。

Twitterプロフィールによると、現在「田舎で隠居生活中」だというもちぎさん。

今回はオンライン通話で取材させていただいたのですが、不定期開催されるWebラジオ「オンラインゲイバー」を聞いていたので、まるでバーで話しているような気楽な気持ちでインタビューを進められました。

もちぎさん、ありがとうございました!!

〈取材・文=高城 つかさ(@tonkotsumai)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

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