ビジネスパーソンインタビュー

「PDCAは万能じゃない」経営のプロにPDCAの基本を聞いたら「OODA」を教えられた

「現代ではOODAのほうが合ってます」

「PDCAは万能じゃない」経営のプロにPDCAの基本を聞いたら「OODA」を教えられた

新R25編集部

2019/03/27

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効率的に目標を達成する手段として、日本では「PDCA(サイクル)」という手法があらゆるビジネスシーンで使われています。

ビジネスだけでなく、プライベートでも活用できそうなPDCAサイクル。なんとなく理解しているつもりだけど、この機会に改めてきちんと学んでおきたい。

ということで、経営コンサルタントとして活躍する入江仁之さんに話を聞きに行きました。すると、万能だと思っていたPDCAの欠点を知らされることに…。

【入江仁之(いりえ・ひろゆき)】アイ&カンパニー・ジャパン代表。米国、シスコシステムズのシリコンバレー本社マネージングディレクターとして活躍。日本では、外資系戦略コンサルティングファームの日本・アジア代表を歴任。OODAループをはじめ、先進的な経営モデルの提言と導入を主導。最近はOODAループの第一人者といわれている。主なクライアントは、トヨタ自動車、日立製作所、GE、NTTなど。

PDCAサイクルとは「計画→実行→評価→改善」を繰り返す業務改善手法

ライター・サトー

入江さん!そもそもなんですが、みんなが使ってるPDCAサイクルについて改めて教えてください。

入江さん

PDCAサイクルとは「Plan(計画)」「Do(行動)」「Check(評価)」「Action(改善)」の頭文字を取った、業務改善の手法のことです。

今では多くの日本企業が、このPDCAサイクルを使っていますね。

ライター・サトー

職場でもよく、「PDCAを回せ」なんて指示を受けたことがあります。ただ、ぼんやりしか理解できてない気が…

入江さん

もっと具体的に説明しましょうか。たとえばある企業にAという売れ筋商品があったとしましょう。そこで「Aの販売数を前年比10%アップさせる」という目標を立てました。

それを実現するために、いつまでになにをしなきゃいけないのかを計画します。これがはじめの「計画(Plan)」にあたります。

次に、立てた計画にもとづいてPRなどを実行(Do)し、計画通りに売れているか評価(Check)します。目標との乖離があれば、改善(Action)する施策を考えるわけですね。

PDCAサイクルは現代には合っていない!?

ライター・サトー

PDCAのサイクルをうまく回せれば、仕事はもちろんプライベートの目標達成にも活かせそうですね!

入江さん

うーん、それはどうかな…?PDCAは、そんなに万能なものではないんですよ。

ライター・サトー

え、そうなんですか?

入江さん

そもそもPDCAは、1950年代に日本で生まれた品質管理の手法です。当時の日本の製造分野では、大量生産と品質向上の実現が急務の課題でした。

その解決のために開発されたPDCAという手法は、統計的なデータを活用してブレをなくし、製品の生産量と品質を向上させることに焦点を当てた方法です。

ライター・サトー

でも、みんなが使っているということは、万能な手法のように思えるんですが…?

入江さん

PDCAは、環境がほとんど固定されている状態で、より高品質な製品を作るようなところで強みを発揮します。

しかし私たちのまわりは、そんな風に条件が変わらない環境ばかりではないですよね?

ライター・サトー

たしかに…。いざ計画を立てて実行に移そうとしたら、想定とまったく違うことが起きて、はじめの計画が機能せず挫折したことが何度もあります。

入江さん

よくありますよね。新規事業など不確実性の高い状態で立てた計画は、ムダになってしまうことが多い。あるいは計画をムリに守ろうとするせいで、意味のない作業も多く発生するでしょう。

今は、ものすごいスピードで技術も環境も変化する時代です。おそらく多くの会社がPDCAサイクルの罠にハマっていると思います。

それなのに、なぜPDCAサイクルがもてはやされてるのかがわからない…私のほうがPDCAについて聞きたいぐらいですよ(笑)。

より直観的に行動できる「OODAループ」とは?

ライター・サトー

PDCAサイクルって、決して万能な手法ではないんですね。でもただ否定するだけだと日本中の社会人が困るので、何か対案を教えてほしいです!

入江さん

私が提唱しているのは、「OODA(ウーダ)ループ」です。

これは1950年〜1953年に起きた朝鮮戦争のときに、先の読めない状況でも作戦を成功へ導くため、アメリカの空軍大佐が開発したもの。

今では、シリコンバレーの名だたる企業の戦略の基本として定着しています。

ライター・サトー

そんなものがあったんですね!OODA“ループ”というくらいですから、いくつかの工程があるんですよね?

入江さん

はい。OODAループは、5つのプロセスに分かれています。

①Observe(みる)

入江さん

単に「見る」というだけではなく、状況を細かく感じ取り、吸収するというニュアンスです。このプロセスで大きな流れを「観る」。

②Orient(わかる)、③Decide(決める)

入江さん

状況をみたら、過去の経験などをふまえて、目指している方向に対しておこなうべきことが仮説としてぼんやりとでも「わかる」はず。それをやってみようと「決める」。

④Act(動く)

入江さん

みえてきた仮説をもとに、行動に移すプロセスが「動く」。

⑤Loop(みなおす)

入江さん

動いた結果もふまえて、改めて状況を「みる」。つまり、はじめのプロセスを再びおこないます。

まとめると、状況を「みる」(Observe)と、何をすべきかが「わかる」(Orient)。そしてどんな行動を取るかを「決め」て(Decide)、実際に「動く」(Act)わけです。

ライター・サトー

最初に計画から始まるPDCAサイクルと違うことはわかるのですが、正直あんまりイメージが湧きません…

入江さん

OODAループは、PDCAサイクルより直観的な対応をする手法なんですよ。

サトーさんは、格闘ゲームをやったことありますか?

ライター・サトー

ヘタクソですがよくやります!

入江さん

格闘ゲームは、相手の動きに合わせて攻撃や防御、回避をおこないますよね。熟練者になると、たった1フレーム(60分の1秒)でこれらの行動を瞬時に選択し、反射的にキャラクターを動かします。

数多くの情報や経験をインプットしておくことで、「こういうときには、こう動く」というパターンが蓄積されます。

それをもとに計画せずに操作するので、あらゆるシーンに対して臨機応変な対応が可能となるんです。これもOODAループといえます。

具体例で知る、PDCAサイクルとOODAループの違い

ライター・サトー

なんとなくわかってきたんですが、具体的に僕らの行動がどう変わるのかが、まだ…

入江さん

お母さんが夕飯を準備するシチュエーションで、比較してみましょうか。

2人のお母さんは、どちらも「家族においしいご飯を食べてほしい」と思っていたとします。

PDCA的に動くお母さんは、まずはじめに1週間の献立と必要な食材を洗い出して、計画通りのメニューを家族にふるまいます。

そして週末に家族の意見を踏まえて来週の献立を立てて…という流れで行動するでしょう。

ライター・サトー

計画的なお母さんって感じですね。

入江さん

一方、OODAループ的に動くお母さんは、まず家族を「みる」ことから始めます。すると勉強を頑張っていて、息子が疲れていることが「わかる」。

じゃあ疲れが取れるような料理を作ろうと「決め」て、疲労回復に効く、しょうが焼きを振る舞います。

そのときの会話や息子の表情などをふまえて、「肉料理は食べ飽きてそうだ」とわかって、次の日は魚料理を作る…みたいな感じですかね。

ライター・サトー

さっきのお母さんよりも、柔軟な行動が取れていますね。

ただ、話を聞いていて疑問に思ったことがあります。OODAループも「みた」あとは仮説をもとに行動して、その結果を受けて方向修正するわけですよね。これって、PDCAサイクルとしても捉えられませんか?

入江さん

そう捉えることもできますね。逆にいうと、PDCAサイクルだと思ってやっていたことが、実はOODAループだった、ということもありえます。

ライター・サトー

えーっと、じゃあまとめて「PDCA」という呼び名のままでいいのでは…?

入江さん

いやいや、最適な使い方をするには分けたほうがいいと思います(笑)。

入江さん

両者の大きな違いはふたつあります。ひとつは始め方。PDCAサイクルはまず計画を立ててから行動しますが、OODAループは状況を見てとりあえずやってみるところから始まります。

そのためOODAループは、計画を正確にしようとする作業のムダが発生しません

ライター・サトー

そこはわかりやすい違いですよね。

入江さん

また、進め方も違っていて、PDCAサイクルはP→D→C→Aと順番に進めるので時間がかかりますが、OODAループは状況の観察からやることを決めるまでが、ほぼ同時におこなわれることが多いです。

仮説をもとにやってみて確信がもてるようになると、状況をみてすぐに何をしたらいいか決められるようになるんです。

先ほど挙げたお母さんの例でも、息子の反応をみてすぐに次の行動を決めてましたよね?

ライター・サトー

たしかに! だから初めてのことで情報が不十分な場合や、状況が変わりやすい場合はOODAループを使うほうがいいってことですね。

でも、「『OOD』をほぼ同時にやる」って、組織じゃできなくないですか?

入江さん

大前提として、人間の行動までの「O」〜「A」は個人の頭のなかでおこなわれます。

組織の場合は、状況に合わせて管理職がチームの動きをその時々で素早く決め、現場は現場での対応を瞬時に決めて動く、というイメージになります。

この柔軟な朝令暮改こそが、競合を置いてけぼりにできる強みになると思います。

OODAループを機能させる大前提は、向かいたい方向が明確であること

入江さん

ただ、OODAループをうまく機能させるには、必須のポイントがあります。

それは、人生や仕事上の夢や目的が明確であることです。英語では「ビジョン(Vision)」と表現されています。

サトーさんは、なぜライターをやっているんですか?サトーさんのライターとしての夢はなんですか?

ライター・サトー

えっ、夢ですか!? そう改めて聞かれると、とっさに出てこないです…

入江さん

顧客にどんなサービスを提供したいのか。自分はどんな人になっていたいのか。これが明確なら、細かい計画など立てなくても、そこに向かって前進できるはずです。

ライター・サトー

夢…かぁ。いきなり「夢はなに?」と聞かれても、僕のようにパッと思いつかない人も多い気がするんですが、そういう場合はどうすればいいんでしょう?

入江さん

そんな人は「他人の夢を叶えるお手伝いをする」と考えてみましょう。職場のビジョンや他人の想いに共感できるのなら、ひとまずそれを自分の夢とするわけです。

たとえば身近な存在として、勤めている会社の夢が何なのか、直属の上司と探ってみるのもいいかもしれませんね。

上司と認識が共有できれば、ただ指示通りにPDCAを回すんじゃなくて、その先を見据えた提案ができるじゃないですか。

そうすれば仕事を楽しめない“指示待ち人間”から脱却できるはずです。

OODAループの精度を上げるには、ぼーっとすることが大事

ライター・サトー

PDCAサイクルは定量化した指標をもとに、行動の精度を上げますよね。OODAループはそういう風に精度が高くなるんでしょうか? ただ考えなしに動くことになっちゃいません?

入江さん

夢がブレたり、OODAループの各プロセスをなんとなくやっていたら、ただ動いてるだけになってしまいますね。 

でも向かう方向が明確で、きちんと行動の結果をふまえて「みなおす」ことができれば大丈夫。経験や情報が頭の中に蓄積されて、自然と精度が高くなっていきます。

ライター・サトー

経験や情報を蓄積させる、うまいやり方ってあるんですか?

入江さん

その日の出来事や行動を、日記やメモにまとめるのもいいでしょう。しかし一番いいのは、ちゃんと休んでぼーっとすることです。

ライター・サトー

え!? 何もしなくていいんですか?

入江さん

むしろ何もしない時間を作るのが大事なんです。私たちがぼーっとしているとき、脳は経験・知識を整理して、それぞれを紐づけてくれます。

忙しい人なら、食事中にテレビやパソコンを消して、食べていることに意識を向けるのでも十分です。

そんな風にして、あらゆる経験を活かして夢に向かっていけるのはOODAループのいいところ。まずは個人で取り入れてみてはいかがでしょうか。

PDCAはどんな場面でも使える万能なものだと思い込んでいましたが、決してそうではないよう。入江さんの話から、自分の夢を叶えるためには、OODAループのほうが最適な行動を取れるのではということを教わりました。

帰り道、僕も自分の夢を考えてみました。

「現状に悩む人々の力になりたい。その悩みを解決するための、小さな勇気ある一歩のきっかけを作ってあげたい」。

しばらくは、この夢に向かって仕事やプライベートを過ごそうと思います。

〈取材・文=サトートモロー(@tomorrow_p_sato)/編集・撮影=葛上洋平(@s1greg0k0t1)〉

お知らせ

OODAループをわかりやすく紹介した入門書『OODAループ思考 [入門]日本人のための世界最速思考マニュアル』が出版されました。読んでみてください!

※2019年9月30日更新

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