

復帰を支えたのは“不幸中の幸いリスト”
「車椅子ネタでまわりを困らせちゃうことも…(笑)」あの事故から1年、猪狩ともかの現在
新R25編集部
昨日まで動いていた自分の足が、今日はもう動かない。
2018年4月11日、アイドルグループ「仮面女子」のメンバー・猪狩ともかさん(@igari_tomoka)は、そんな現実に直面しました。
強風の影響で倒れてきた木製看板の下敷きになる、大事故。脊髄損傷による両下肢麻痺の重症を負い、車椅子生活を余儀なくされたというニュースは、多くの人を驚かせました。
しかし、そんな絶望ともいえる状況のなか、猪狩さんは入院中から積極的にブログで発信し、退院翌日にはヤフーのパラスポーツ新メディア「ACTIONS」の発表会で車椅子フェンシングを体験するなど、事故後も立ち止まることなく活動に取り組まれています。
いったいどうしてそこまで、明るく、強く、前向きでいられるのか。事故当時からこれまでのことを、ご本人にお聞きしてきました。
〈聞き手:ライター・田中さやか〉
【猪狩ともか(いがり・ともか)】1991年生まれ、埼玉県出身。2014年にアイドル活動を始め、2017年2月に仮面女子としてデビュー。2018年4月11日に事故で脊髄損傷を負い、リハビリを経て8月にステージ復帰。現在は車椅子でのライブパフォーマンスをはじめ、パラスポーツへの取り組みなど精力的に活動を続けている

田中
今日は取材にご協力いただきありがとうございます!
現在、お体の調子はいかがですか…?

猪狩さん
今は安定していますね!
病院へは週1~2回ほどリハビリをしに通っています。車椅子を動かすには手や腕の力も必要になるので、自宅で筋トレをすることも多いです。

田中
き、筋トレまで!
最近ではどんなお仕事をされているんですか?

猪狩さん
やっぱり、事故に遭う前とは仕事内容がガラッと変わって。
仮面女子のライブに出演する回数は減ったんですが…代わりに取材などの話す仕事や、パラスポーツ(身体障害や知的障害などの障害をもつ人が行うスポーツ)関係のお仕事が一気に増えました。
あと、5月1日に舞浜アンフィシアターで行われる仮面女子のワンマンライブでは、出演するだけじゃなく、演出にも挑戦しています!

田中
演出は、これまでにもご経験があったのでしょうか?

猪狩さん
ありません!(笑)
でも、もう演出のスタッフさんと一緒に会場の下見にも行って…とにかく、新しいことにもどんどんチャレンジしたいなと思っていて。
今後は作詞などにも挑戦していくつもりです。

田中
まだ事故から1年も経っていないのに、アイドルとして復帰するだけではなく演出のような新しい挑戦まで…すごいです。
「あの日、あの場所を歩いていなかったら…」事故当時の本音

田中
改めて当時のことを伺いたいのですが、足が動かないという事実を知ったときは、どんな気持ちだったのでしょうか?

猪狩さん
事故に遭った翌日に、医者から「脊髄損傷」という言葉を聞いたんですけど、それがどういうものか、そのときはよくわかっていなくて…
だから私、長くても3カ月くらいで治るものかと思っていたんです。治ったら何をしようかなって考えたりもしてた。
医者から「足の感覚がない状態です」とは言われていましたが、まさかそれがずっと続くとは思っていませんでした。

田中
そうだったんですね…ご家族から詳しいことは聞かされていなかったんですか?

猪狩さん
家族は最初、「足が二度と動かないかもしれない」ということは私に伏せていたんです。きっと、私がショックを受けないように、伝える時期を伺っていたんだと思います。
だけど事故から1週間くらい経って、携帯に触れるようになって、自分で「脊髄損傷」について調べていくうちに薄々勘づいてきて…最終的に母に確認しました。
自分がこれからどうなっていくのかわからずにモヤモヤしていた時期が、一番不安で辛かったです。

猪狩さん
正直、「なんで自分が…」と思いました。今でも、「あの日、あの場所を歩いていなかったら」と考えてしまうことはあります。
私、もともとメンタルがすごく弱いんですよ。ちょっとしたことですぐに落ち込んだりするし、表に出していないだけで、当時の心の闇は…やっぱり相当深かったと思います。
だから、どうしても家族に当たってしまう時期もあったし、それで罪悪感を感じてまた落ち込んで…悪循環になることも多かったです。

田中
きっと誰もがそうなってしまうはずです…
どうやってその辛い時期を乗り越えられたのでしょうか?

猪狩さん
うーん…それでもやっぱり、家族が私を救ってくれたんだと思います。
闇の中から自分を救ってくれたのは、家族とまわりの人たちの存在だった

猪狩さん
家族は、とにかくずっと前向きな言葉だけを私にかけつづけてくれたんです。それが何よりも救いになりました。

田中
ご家族からはどんな言葉が?

猪狩さん
たとえば父は、私が足を動かせないという事実を知る前から「車椅子でも活動を続けてほしいと事務所が言っているよ」と伝えてくれたり、私が「始球式をまたやりたい」と言ったときも「車椅子でやっている人もいるからさ」という言葉をかけてくれたり。
「“車椅子の猪狩ともか”としてこれから何ができるか」を考えるきっかけを作ってくれた気がします。
兄の「車椅子になっても人を幸せにしたり、元気付けたりすることはできる」という言葉も、同じく心に残っています。

猪狩さん
一方で、母と姉はいつもと変わらないフリートークとでもいうのか…(笑)。ずっとたわいもない話をしてくれて、私を安心させてくれました。

田中
ずっと励ましつづけてくれたんですね。

猪狩さん
きっと家族は家族で、私と会っていないときには落ち込んだりすることも絶対にあったと思うんです。
でも、もし家族が私の目の前で落ち込んでいたり、ネガティブな発言をしたりしていたら、私も前を向きにくかったかもしれません。
一番身近にいてくれる人が、暗い様子を見せず、前を向けるような明るい言葉をかけつづけてくれたことが、何より心の支えになりました。

田中
言葉の励まし以外では、ご自身の気持ちを整理するために何かしていましたか?

猪狩さん
「不幸中の幸いリスト」、ですね(笑)。

田中
不幸中の幸いリスト…?

猪狩さん
「事故現場にすぐに救急車が来てくれた」とか「病院食だけど食事制限がなくて好きなものが何でも食べられる!」とか(笑)。
そうやって不幸中の幸いを探しては、前向きに考えるクセをつけるようにしていました。
あとは「治ったらやりたいことリスト」をつくったり、毎日の出来事を日記につづったり…文章を書くことで気持ちの整理をしていたかなあ。

田中
私だったら文章を書いても心を整理しきれないかも…
そんなふうにリストを作っていたなんて、本当に猪狩さんは強いなと思います!

猪狩さん
もともとメンタルが弱いからこそ、辛いことがあったら逆に笑い話にしたいタイプなんですよね。
無理やりにでもポジティブにとらえないとどんどんマイナス思考になってしまって…メンタルが保てないんです。

田中
あの…失礼を承知で伺うのですが、「アイドルを辞めよう」とは思わなかったんですか?

猪狩さん
うーん、続けることに対しての不安はもちろんありました。
でも、事務所も「車椅子になってもできることはたくさんあるし、これからも一緒に仕事がしたい」と言ってくれたし、Twitterでずっと応援してくださったファンのみなさんが、「また一緒に楽しみたい!」と思わせてくださったので、仮面女子でいつづけることを自然なこととして考えられたのかな。

田中
そうだったんですね。
お話を聞くまでは、猪狩さんはまだショックの渦中にいるのだとばかり思っていました。すでにこれだけ前を向いていられることに驚きです…!

猪狩さん
「足が動かない」ということは、もちろんショックが大きかったです。
でも、家族のおかげで時間をかけて丁寧に理解をしていったので、実際はまわりの人が思っているほどショックを受けていないのかな…?と思います。
「車椅子=かわいそう」じゃない。乗って初めてわかったこと

田中
正直、まだまだ世間では「車椅子=かわいそう」というイメージを抱きがちだと感じます。
猪狩さんご自身は、もともと車椅子の方に対してどのようなことを思われていたのでしょうか?

猪狩さん
ほんとうに正直にいえば…特になんとも。
きっと、「ああ、大変そうだなあ」くらいにしか思っていなかったです。

田中
たしかに、それが正直な声かもしれません。何か機会があれば考えるけど、普段は「無関心」に近いのかも…

猪狩さん
実際、大変なことは多々あるんですが、車椅子に乗っていることは不便ではあるけれど、決して不幸ではないということは知っておいてほしくて。

猪狩さん
私自身、今はパラスポーツにも挑戦させていただいていますし、実際に車椅子でプロとして活躍されている方もたくさんいます。
でも、きっと多くの人は、そうやって障害がありつつもイキイキと活動をしている人の存在を知らない。だから、勝手に「かわいそう」と思ってしまうのだと思っていて。

田中
たしかに、障害者の方との関わりが少ないと、どうしてもイメージが偏ってしまいがちですね…

猪狩さん
もちろん健常者の方が経験しない大変さもたくさんあるので、不便だとは思います。
それでも、車椅子生活のなかにだって、幸せはたくさん転がってる。
そのことを、私が「車椅子でも楽しく過ごしているよー!」と発信することで、みんなにもっと知ってもらえたらうれしいですね。
車椅子になっても“私”は変わらない。普通に接するのが一番のコミュニケーション

田中
障害者との関わりが少ないことが理由かも知れませんが…「これを言ったら失礼かな?」と接し方について悩んでしまうことがあります。
コミュニケーションでの心構えを教えてください。

猪狩さん
こちらとしては、今までと変わらずに接してもらえることが一番うれしいです。
もちろん、道に物が置いてあったら、車椅子が通れるようにどかしてもらう必要があるし、そういう車椅子特有の場面もあります。
でも、もし困ったことがあったらこっちから言いますし、あんまり過度に気を遣ってもらわなくてもいいんです!

田中
そうか…!

猪狩さん
と言いつつも、逆に私が気を遣ってしまう場面もあります(笑)。
昨年の夏に、外へ出るときに「虫除けスプレーを足にかける?」と聞かれて、「いや、別に刺されても痒くないから大丈夫です」と答えたんです。
そうしたら、「え? それ笑っていいの…?」と言われてしまって。

田中
それは私も笑っていいか悩んでしまいそう…

猪狩さん
いきなりだとそうですよね(笑)。
私からしたら「笑ってください!」だったんですけど、車椅子をネタにすることで、「どう反応したらいいのか分からない」と相手を困らせてしまうこともあるんだなあと思いました。
なので、コミュニケーションで気を遣ってしまう気持ちも、とてもよくわかります。

田中
お互いを尊重し合いながら、できるだけ普段通りコミュニケーションをとれたらいいですよね。
「できた!」という小さな成功体験の積み重ねで不安を消す

田中
懸命なリハビリを続けて、猪狩さんは2018年8月26日、事故からおよそ4カ月で仮面女子のライブステージに復帰されました。
私、復帰ライブの映像を見て思わず泣いてしまいました…

猪狩さん
ありがとうございます。
ステージで、メンバーやファンの方に「おかえりー!」と言ってもらえたことがとてもうれしかったです。

田中
車椅子でライブに出ることに対しては、どんなお気持ちだったんですか?

猪狩さん
初めはとても不安でした。
でもライブの回数を重ねて「みんなと一緒にフォーメーション移動ができた!」「今回は失敗が少なかったな」という、小さな成功体験が増えてきたことで不安な気持ちが薄れてきましたね。

田中
成功体験を積み重ねることで自信をつけていったんですね!

猪狩さん
はい。でもこれはライブだけではなく私生活でも一緒なんです。

田中
どういうことですか?

猪狩さん
私は最初、車椅子に乗った状態では落ちた物が拾えなくて、マジックハンドが手放せなかったんですよ。
でも、事故から4~5カ月経過して一生懸命リハビリをした結果、今は落ちた物をかがんで拾うことができます。
やっぱりできることが増えるのってとってもうれしいし、自信にもなるんですよね。

田中
なるほど~! ちなみに、最近できてうれしかったことはありますか?

猪狩さん
ありますあります! この間…
…あれ? なんだっけ!?

田中
え…思い出してください!(笑)

猪狩さん
些細なことすぎて忘れちゃった!
事故があってからは、「落ち込んでるんじゃないか」って思われることが多いんですけど、今は昨日できなかったことができるようになったり、まわりに応援してもらえたり、日常に些細なうれしさがいっぱいあって。
そういうことが毎日ありすぎて、忘れちゃう。もう日々、そういうことだらけですね(笑)。
「忘れちゃった!」と笑う猪狩さんの笑顔を見て、なんて強い人なんだと思いました。
つい憶測で「車椅子=かわいそう」というイメージを抱いてしまいがちですが、もうすでに彼女は私たちの想像よりずっと前を向いていて、キラキラの笑顔で歩みを進めていました。
車椅子はかわいそうでなければ不幸でもない。そして猪狩さんも、不運だったけれど不幸ではない。
”車椅子の猪狩ともか”がこれからどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、ずっと応援しています!
〈取材・文=田中さやか(@natvco)/編集=サノトモキ(@mlby_sns)/撮影=藤原慶(@ph_fujiwarakei)〉
お知らせ
そんな猪狩さんが出演・演出をする仮面女子ワンマンライブが、5月1日、舞浜アンフィシアターにて開催! 詳細は下記リンクにてご確認ください!

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