ビジネスパーソンインタビュー
どうやったらそんなに自由に旅できるの?
週末で世界中を旅する“リーマントラベラー”が熱弁する「ビジネスに効く旅のメリット」
新R25編集部
学生のころに何度も聞かされたセリフ。「社会人になったら旅行なんてそうそう行けないんだから、今のうちに行っときな!」。その言葉通り、多くの社会人にとって、自由に旅することは難しいものです。
しかし、大手広告代理店に勤務しながら、5年あまりで54カ国(110都市以上)へ旅した「リーマントラベラー」なる男がいるらしい。おもに土日を使って旅行に行きまくり、2016年には、3カ月で「週末だけで世界一周」という偉業(?)をやってのけたとのこと…。
いったいどうやったら、会社勤めをしながらそんなに旅行に行けるのか。そして、彼がそこまで旅行にのめり込む理由はどこにあるのか。
もしかしたら僕らも自由な“旅人”になれるのかも?そんな期待を胸に、仕事帰りのリーマントラベラーを直撃しました。
〈聞き手:天野俊吉(新R25編集部)〉
【東松寛文(とうまつ・ひろふみ)】1987年生まれ。大学卒業後、新卒で大手広告代理店へ入社。現在、平日はサラリーマンとして働くかたわら、週末で世界中を旅する生活を続ける。「リーマントラベラー」を名乗り、ブログや書籍の執筆など多岐に渡り活躍中。これまで54カ国に渡航
天野
(「旅人」というよりは、ゴリゴリの代理店営業マンみたいな人が来たな…)
東松さんが旅の魅力にハマったきっかけは何だったんですか?
東松さん
入社3年目に、ロスに1人旅に行ったんです。
僕はバスケが好きなんですが、NBAのプレーオフのチケットが取れまして。ロサンゼルス・クリッパーズというチームの試合を観に、ゴールデンウィークに「人生初の1人旅」に行くことになったんですよ。
天野
東松さんは某大手広告企業にお勤めとのことですが、ゴールデンウィークは普通に休めたんですか?
東松さん
会社は一応暦通りには休みでしたが、“中日”に休みを取って連休をつなげる…なんてことは誰もしてませんでした。
でも、チケットがあることで休みを取る勇気が出たんですね。普通だったら躊躇していたところが「もうチケット買っちゃったし」と思って、休みを申請した。
結果、4連休に1日足して、5連休でロスに行くことができました。
東松さん提供
NBAプレーオフ会場の様子
東松さん
でも、ロスの空港に着いた瞬間、『地球の歩き方』を日本に忘れたことに気付いたんです。はじめての1人旅、TOEIC400点台で英語も全然喋れない。
必死で「I want to go to…!」とか言ってコミュニケーションを取って、ホテルを予約したりレストランに行ったり。
それが、予想してたより遥かに楽しかったんです。目的のバスケ観戦は大興奮でしたし、ビーチにも行けたし、短い休みで十分楽しめた。
東松さん提供
天野
楽しかったポイントは何だったんでしょう? やっぱりそういった“冒険感”?
東松さん
それもありますし、僕にとっては“人生を楽しんでる大人”をたくさん見られたことが大きかった。平日なのに、早い時間から試合会場に人が集まって、バスケの試合を楽しんでるとか。
当時の僕は、朝は誰よりも早く出社して、夜は2~3時まで飲み会という生活をしてましたから…。そんな自分は一体何なんだ?と。
天野
そこにワクワクしたんですね。
東松さん
こんな生き方をしてる人たちがいるんだ…!って衝撃を受けたんです。
それまで、休日はしょっちゅう合コンに行ってたんですけど、これは合コンより刺激があって楽しいなと。
それで旅の魅力にやられてしまって、翌年は韓国、インドやジャマイカなど、海外旅行に8回行きました。
天野
なるほど…。ただ、インドとかって大学生のときに行く人も多いですよね?
学生時代にはそういう旅はしてなかったんですか?
東松さん
僕はもともと、旅行にまったく興味がない人生だったんですよ。大学4年間はアメフト部にいて、部活に打ち込んでましたし、卒業旅行も当時の彼女とイタリアに行ったぐらい。
1人旅なんて考えたこともなかったですね。
天野
へえ、じゃあ急に旅に目覚めたんですね。
東松さん
というか僕、1人でごはんも行けない人だったんですよ。
天野
え?? ラーメン屋とか牛丼もですか?
東松さん
恥ずかしくて無理でした。「こいつさみしい人だ」って思われるのが怖かったんです。
すっごい人目を気にする人間だったんですよ。
正直そういうキャラクターに見えませんが…(失礼)
東松さん
じつは14歳のとき、イジメにあってたんです。
バスケ部のキャプテンだったんですけど、急にイジメの標的になってしまって。
そこから、人の顔色をうかがって生きるようになったんですね。
天野
そうだったんですね…
東松さん
大学のときも、卒業単位は取れてたのに、まわりの部活メンバーが留年するから自分も留年しようとしてたぐらいの人間でしたから。
天野
まわりに合わせすぎ。
東松さん
今思えば、海外に1人旅をしたことで、「人目を気にしなくていい場所があった!」という気持ちになれたのも大きかったと思いますね。
お金は? 休みは? リーマントラベラー流「旅行に行くテクニック」
天野
しかし、忙しい社会人が海外旅行に行くってかなりハードルが高いじゃないですか。どうやってそんなに旅行に行きまくってるんですか?
東松さん
ちょっとした“マインドチェンジ”をすればいいんです。
僕は、「日本にいるのはトランジット(乗り換え、乗り継ぎ)」だと思ってます。
天野
トランジット…
東松さん
つまり、週末の旅行のために、一時的に日本にいて働いていると考えるんです。
金曜の仕事が終わった時間から、旅がスタート。月曜日の仕事始まりまでが旅なので、64時間の旅行が楽しめるわけです。
多少強引だが、理論としてはわかりました
東松さん
細かいテクニックもいろいろあります。たとえば「オープンジョー」。これは、行きと帰りの空港を違うところにすること。これによって、「元いた場所に戻る」ようなムダな移動をしなくてすみます。
行きの飛行機内では、疲れを取るためにノンカフェインの栄養ドリンクを飲み、着圧スパッツをはいて足のむくみを防ぎます。
天野
いろいろ対策されてるんですね…「お金」についてはどうなんですか?
そんな旅費、サラリーマンではなかなか出せない気が。
東松さん
それについては、自分の“軸”を旅行に置いてからは、不要なものに使うお金がなくなったという感じです。
たとえばなんとなく行かなきゃ…と思ってた飲み会を断れるようになりました。あとは、服を必要以上に買うこともなくなりましたね。
旅を通じて、自分に必要なものがわかったと思ってます。
天野
土日だけじゃなく、有給を使って旅行することもあるとのことですが、職場的には大丈夫なんでしょうか…? 「あいつまたかよ」ってイラッとされてるんじゃ…
東松さん
自分を「旅行キャラ」にしてしまうことが大事ですね。SNSにもガンガン旅行の写真を上げて、「あいつはそういうキャラだから」という認知を広める。
KPI(目標測定指標)は、会社の人から「次どこ行くの?」ときかれるようになることです。
天野
それで自由に休みやすくなりますかね?
東松さん
あと、有給を取るときのコツは、「夢を語る」ことです。
単純に「今行きたい」というよりも、「小さいころからの夢で…」「一生に一度は行きたいイベントがある」と語ると、“時間の重み”がありますから、上司もムゲにはしないはずですよ。
実際、僕が最初にロスに行けたのも「小さいころからNBAのプレーオフが観たくて…」と夢を語ったおかげですから。
天野
(その手の内バラしちゃって大丈夫なのかな…)
旅することのメリット1「話が面白くなる」
天野
すっかり「人生を旅に全振りしてる」って感じですが、旅することのメリットって何なのでしょうか?
東松さん
メリットはめちゃくちゃあるんですが、まず「話が面白くなる」。
若いうちって、会社のなかでいえば1年目より2年目が、2年目より3年目の人のほうが話が面白いじゃないですか。
“年次の壁”ってけっこう厚いと思うんですけど、旅行に行くとその壁を超えるエピソードトークがたくさん手に入るんですよ。これは仕事にもいい影響がありますね。
天野
たとえば、どんなふうに役に立ったんですか?
東松さん
アフリカのウガンダに行ったとき、現地のバーに入ったんです。Wi-Fiが飛んでますって書いてあるんですけど、パスワードがわからないんですよ。
よくよく聞いてみると、「パスワードはビールの栓の裏に書いてある」と。
つまり…?
東松さん
つまり、「ビールを注文したらWi-Fiがタダで使えるよ!」っていう企画だったんですね。
ウガンダにこんなアイデアがあった!ってツイートしたら、けっこうバズりました。
上司やクライアントとの会議で、こういうエピソードをアイスブレイクとして使うと、かなり食いついてもらえるんですよ。
旅することのメリット2「離職率を下げる効果がある」
東松さん
ほかにも、旅には離職率を下げる効果があると思ってます。
また大きく出ましたね…
天野
どういうことです?
東松さん
仕事のアウトプットって、慣れたりスキルが上がったりすると、徐々に上がっていくじゃないですか。
ゆるやかには上がっていくんですけど、でも大きく規模を変えるほど劇的には上がらない。
ところが、そんなふうに同じ仕事を続けていると、会う人や触れる話題がマンネリ化して、インプットはどんどんカスカスになっていく。
天野
あ~、それはわかりますね。
東松さん
旅は、そのインプットがカスカスになった状態に効くんですよね。
単に疲れているというレベルなら、リフレッシュの意味でハワイなどに行けばいいし、本格的にインプットが枯渇しているなら、もっと想像もできないところへ行くべきです。
僕の経験から、サラリーマンって、インプットが尽きたときに「仕事辞めたい」っていう気持ちが出てくるものだと思うんです。社員が旅に行けている会社は、離職率も低いと思いますよ。
旅することのメリット3「自信が持てるようになる」
東松さん
まだあります。一番大きいメリットは「自信が持てるようになる」こと。
天野
たしかに東松さんと話してると、ものスゴイ自信を感じます。
東松さん
僕は旅はドラクエだと思っていて。
日本で仕事を頑張ってレベル30まで上がったと思ってても、知らない国に行ったらレベル1に戻るんですよ。
毎回レベル1になるけど、いろんなトラブルがあるから、それを乗り越えてすぐレベルが上がる。つまり成功体験を繰り返せるわけですよね。これは自信になります。
天野
ダーマの神殿で転職して、すぐレベル上がりまくるみたいな。
※ドラクエをご存じない方へ 転職する(=キャラクターのジョブ設定を変える)とレベルが1に戻るが、敵を倒すと経験値がたくさん入り、すぐに元のレベルぐらいまで上がるのです
東松さん
それまで、いくら会社のなかで頑張ってても、どこか自分に自信がなかったんです。
たとえば同僚と比較して優れてる部分があったとしても、自信を持つ基準が“他人基準”だから、キリがないですよね。
天野
それもすごくわかります…
東松さん
でも、旅に出れば“自分基準”で動くしかないから、軸が見えてくる。
それがブレない自信につながるんですね。
東松さん
僕は、「帰りの飛行機こそが自分探しの旅」だって思ってるんです。
旅したなかで、自分が何にそそられたのか? どこに興奮したのか? 帰りの飛行機でそれをじっくり考えて、レベル1になった自分と向き合う。その時間が大事なんです。
天野
自分が本当に興味あることを考えると。
東松さんの場合は、どこにそういう「軸」があったんですか?
東松さん
まず気付いたのが、「自分は世界遺産に興味ないな」ってことでした。そういう「名所」を、ある意味確認作業のように見てもテンションが上がらない。
かわりに、一緒に遊んだりごはんを食べたりして、今まで知らなかったような、「人の生き方に触れたとき」が一番テンション上がるなって気付きました。
「自分の好きなことを突き詰める人生を選んでみよう」
東松さん
今、僕貯金1ケタ円しかないんですよ。
天野
え!?!?
やっぱり、ほかのことにお金を使わなくなったとはいえ、旅費がかかりますもんね…
東松さん
でも、旅でいろいろな体験や気付きを得ているから、問題ないと思ってます。
僕は「浪費と投資の違い」は、軸がどこにあるかだと考えていて。
他人基準でほしくもないものにお金を使っていたら浪費、自分基準で使っていれば投資になると。
天野
貯金もそうですし、週末はほとんど海外に行ってるなど、正直まわりの人とはけっこう異なる生き方を選ばれていると思います。
不安はないんでしょうか?
東松さん
28歳から「リーマントラベラー」と名乗って活動を始めたんですが、そのときに「いわゆる社会のレールから完全にはみ出るな」と不安だったんです。
ワクワクと不安が同時にあったのが正直なところで。
それで、さまざまな知り合い合計120人に「どうしよう!?」って相談したんですね。
天野
おお…
東松さん
それでわかったのは、誰も「この道を選んだら絶対にこうなる」という結論は言ってくれないということ。誰にもわからない。
だから、不安の量は変わらなかったんです。でも、ワクワクする気持ちは大きくなっていた。
だったらとにかく、自分の好きなことを突き詰める人生を選んでみようと思ったんです。
天野
そのスタイルを選んでみてどうでしたか?
東松さん
ひとつ言えるのは、自分軸ができたおかげで「明日が来るのが楽しみになった」ってことです。
それまでは極端に言えば、休みの日も会社のために休んでたわけですよ。
それが自分の旅のために休めるようになっただけで、人生は変わりましたね。
2018年には自らの活躍を書籍として上梓した東松さん。
「貯金1ケタ円」は怖いなと思いましたが、「今のスタイルで活動し始めてから、それまででは想像もつかなかった仕事が舞い込んでくるようになったので、不安視はしてないですよ」とのこと。
最後に、読者のビジネスパーソンに東松さんからアドバイス。
「有給を取るときは、職場の皆さんに喜ばれるようなおみやげを買っていくのを忘れずに!」。
少しのコツさえつかめば、もしかしたら僕らも自由な“旅人”になれるのかも?
〈取材・文=天野俊吉(@amanop)/撮影=福田啄也(@fkd1111)〉
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