

無個性化した社会なんて、魅力的じゃない
日本では“価値ある人物像“が固定化している。乙武洋匡が語る「自己肯定感を持つ方法」
新R25編集部
ボクは、自己肯定感の低い人生を送ってきました。
…突然すみません。あなたは自分のことを「価値のある人間」だと思いますか?
財団法人日本青少年研究所が発表した2017年の調査データによると、高校生に「自分は価値のある人間だと思うか」という質問をしたところ、「そうだ」「まあそうだ」と回答した日本の高校生は44.9%。アメリカ・中国・韓国ではいずれも80%台だったのに対し日本は約半分という結果になったそうです。
実際日本の若者の多くは、ハッキリした「自己肯定感」がないのでは? それはなぜなのでしょうか。今回は、2013年に『自分を愛する力』(講談社)を上梓した乙武洋匡さんにお話を伺ってきました。
〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
日本の若者が自己肯定感を持てないのは、「価値ある人間像」が一定化しているから

福田
いま、自己肯定感を持っている若者が少ない原因は何だと思いますか?

乙武さん
日本は「価値のある人間像」というものが一定化していて、凝り固まっているからだと思いますね。
いい大学を出ていい会社に入り、真面目に働いて結婚する。日本では、そんな人間がストライクゾーンのど真ん中に位置していて、そうでない生き方はボールと判定されたり、時には危険球で退場させられたりしてしまうイメージですね。

福田
そのイメージから外れてしまうと、自己肯定感が得づらいんですね。

乙武さん
そうですね。日本はふるいにかけられる社会なんですよ。当たり前とされる“太い道”から外れてしまった人は、自己肯定感を持つのは難しいように思います。

福田
それは、日本に限った話なんでしょうか?
たとえば海外の貧しい国なんかは、すごく競争が激しそうだから、「どんな人にも価値がある」って感じられない気がします。

乙武さん
私は昨年、37の国と地域を放浪して、その国々の文化を見てきましたが、貧しい地域ほど家族や近隣の人々との結びつきが強く、しんどい思いをしてる時は誰かが手を差し伸べてくれるという環境がありましたね。
そうした地域では、家族や、周囲の人が自己肯定感を育んでくれるように感じました。
“太い道”からそれずに生きてるつもりだけど…それでも自己肯定感がないのはなぜ?

福田
ボクは、すごく普通に“太い道”を生きてきたつもりですけど、あんまり高い自己肯定感があるとは言い切れません。多分、日本の若者にはそんな人が多いと思います。
それはなぜなんでしょう…?

乙武さん
“太い道”にすがっているからじゃないですかね。
評価の軸を「道からそれないこと」「他人に評価されること」にしていると、「まだ評価されてないんじゃないか」と不安になる…という。

福田
う…その通りかもしれません。

乙武さん
この前、神楽坂でめちゃくちゃいい感じの和食器店を見つけて、店主さんと話してみたら、彼はもともと大手百貨店の社員だったんですって。
ただ、あるとき和食器の担当になり、そこでドハマリしてパッと辞めたそうなんです。
それって、他人から評価される「大手の社員」ということより、「自分」が軸になってるから“太い道”を外れられるんですよね。

福田
なかなかできない決断ですね。

乙武さん
今はそれが認められる、いい時代になってきてると思います。
昔は大企業に入ったのに辞めて起業する人がいたら、「もったいない」とか「バカじゃないの」みたいな感覚だったと思うんですけど、だんだんそういうのも認められるようになってきましたよね。

福田
“細い道”を社会が許容するようになってきたと。

乙武さん
太い道を外れるのに必要な勇気の量が、以前よりは少量で済むようになってきているように感じますけどね。時代の空気が変わってきたというか。
要は、人と同じ太い道を歩んでいないと不安…という気持ちを捨てきれるのかどうか。

福田
うーん、でもやっぱり道をそれる勇気が出ない人もいる気がします…

乙武さん
イジワルな事を言うようですけど、その勇気を持てない人は、無理して太い道から外れる必要はないと思います。
無理やり人から背中を押されたり、自分を変な形で追い込んだりすると、失敗したときに絶対後悔すると思います。

福田
確かに…

乙武さん
基本的に、どちらにもリスクがあると思ったほうがいいと思うんです。
太い道を歩き続けるということは、簡単に他者と置き換えられてしまうというリスクがあります。「別にお前じゃなくてもいいよ」と。
一方、細い道で生きていくっていうのも、それはそれでやっぱりリスクがある。

福田
リスクを減らすには、どうしたらいいんでしょう?

乙武さん
「いかに自分が他者と置き換え不可能な人材になっているか」ということを追い求めることですね。
これは太い道でも細い道でも共通していることです。
“会社員をやめなきゃいけない”と言われたら、明日からどうやって生きる?

福田
置き換え不可能な人材になるためには、自分の個性を伸ばしていく必要がありますよね。
では、自分が無個性だと悩んでいる人は、どうすればいいですか?

乙武さん
じゃあこんな質問をします。
福田さん、今「会社員として生活してちゃダメ」って言われたら、明日からどうやって生きていきますか?

福田
えっ!? う〜〜ん…
(30秒考える)
とっさには何も思いつかないです…

乙武さん
何かやりたいことってないですか?
(カメラマンのほうを向いて)たとえばフリーのカメラマンさんは、いろいろな不安もあると思いますが、それ以上に「自分はカメラがやりたい」という強い思いがあるからフリーランスでやられていると思うんですよ。
そういうものがある人は強いですよね。

福田
なるほど…。自分がリスクを取ってでもやりたいことが、個性だということですね。

乙武さん
本当は、教育現場で子どもたちにこの質問を投げかけるべきだと思うんです。
「何をして食べていきたいか」「何をしていたら人生が楽しいのか」といった将来のビジョンについて、10代のうちにたくさん考える機会を作っていかないと。
親や教師の仕事は「こうしなきゃダメ」といったレールを敷くことではなく、「何がしたいの?」という問いを何度も重ねたり、「こんな道もあるよ」と様々な選択肢を提示してあげることだと思うんですよね。

福田
じゃあボクらは、自分自身でそれを常に問いつづけなければいけないですね。

乙武さん
子どものころより経験も積んでいて、考える材料はいっぱい持っているはずですよ。
それができれば、一人ひとりの個性というのはもっとビビッドになっていくと思うし、日本の若者が自己肯定感を得ることにつながっていくと思うんです。
乙武さんのテーマは「無個性化したほうが生きやすい社会なんて魅力的ではない」

福田
お話、ありがとうございます。
会社勤め以外でどう生きていくか。答えられない自分がちょっと恥ずかしかったです。

乙武さん
教師をしていたころ、ある知り合いから「個性を大事にしろなんて考えるな」と言われたんです。
「日本の社会は無個性化したやつのほうが生きやすいシステムになってるのに、お前が個性を大事にするっていう教育をしたことで、子どもたちはかえって生きづらくなるんじゃないか」と。
それですごく悩んだんです。

福田
“太い道”に従って生きていくほうがラクなんじゃないかと…。まさに今日のテーマに通じる問いですね。
どう答えたんですか?

乙武さん
僕は「無個性化したほうが生きやすい社会なんて魅力的ではないし、健全ではない」と思ったので、そう伝えました。そんな社会を肯定したくなかったんです。
綺麗事だと言われるかもしれませんけど、海外と比べると、どうしても日本の無個性化が気になってしまうんです。
一人ひとりが個性を発揮し、その結果、社会が活性化していく。それが僕の理想なんですよね。

福田
改めて自身の価値観を再認識したと。

乙武さん
そうですね。
教員時代の自分の決断が正解だったのかはわかりません。でも、時計の針を戻したとしても、きっと同じ決断をするだろうなと思ってます。
〈取材・編集=福田啄也(@fkd1111)/文=池田麻友菜/撮影=小野直樹〉

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