ビジネスパーソンインタビュー
「まずは1週間、毎日1時間聴いてほしい」
吉田尚記アナ「ラジオは寂しさを埋めてくれる。絶対になくならない成長産業です」
新R25編集部
ボクは小さいときから、ずっとラジオを聴いてきました。
中学生のころは深夜ラジオのハガキ職人として青春を過ごし、今でもラジオは生活に欠かせません。ただ、同世代でラジオを聴いている人は圧倒的に少ないんですよね…。このまま、ラジオはオワコンになってしまうのでしょうか…?
今回は、ニッポン放送の名物アナウンサー吉田尚記さんに「ラジオってこれからどうなるのさ!?」というモヤモヤをぶつけてきました!
〈聞き手:福田啄也(新R25編集部)〉
【吉田尚記(よしだ・ひさのり)】1975年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。『ミュ〜コミ+プラス』(月〜木曜日24時より放送中)のパーソナリティとして「第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞」を受賞。「マンガ大賞」発起人および選考委員。マンガ、アニメ、アイドル、落語、デジタルガジェットなど、多彩なジャンルに精通しており、年間100本におよぶアニメやアイドル、ゲームなどのイベントの司会を担当している
「ラジオはなくなる」って言われて50年以上… はたして未来はあるのか?
福田
テレビやネットメディアに比べると、「ラジオは勢いがない」とずっと言われています。
このまま衰退の一途をたどってしまうのでしょうか?
吉田さん
よく聞かれる質問ですね。ニッポン放送は、開局してからまもなく65周年を迎えますが、すでにその時代にはテレビが普及していたんです。
テレビが出現してからは、ずっと「10年後にはラジオがなくなる」って言われつづけています。
福田
そんな長い期間言われているんですか!? やっぱりオワコン…
吉田さん
違います。「10年後にはラジオがなくなる」って50年以上言われつづけているってことは、つまり、なくならないんですよ。
というのも、ラジオに求められていることは、テレビとまったく別なんです。
福田
どういうことですか?
吉田さん
ラジオには、“寂しさを埋める力”があるんです。
これはボクの持論なんですが、人間って「群れ生物」なんです。だから、自分が群れから離れていると、本能的に「すごく危険なこと」って感じているはず。
群れから離れていると、寂しいって感じますよね。寂しさっているのは、「群れからお前は離れているよ」っていう「ゆるいアラート」なんです。
福田
ゆるいアラート。
吉田さん
そうです。この「ゆるいアラート」って言うのは、結構誤作動を起こすんですよ。
都会で一人暮らしをしていたら、寂しいって感じますよね。でも実際に、それで死に直結するわけではない。
福田
その誤作動を防ぐのがラジオだということですね。
吉田さん
そうです。でも、一人暮らしの部屋で音楽を再生しても、あんまり寂しさって変わらないじゃないですか。
ただ、不思議なことに、ラジオをつけると寂しくなくなるんです。
福田
確かに…。それって人の話を聞いているからでしょうか?
でも、それだとテレビと同じなのでは?
吉田さん
テレビはあくまで“ショー”なので、寂しさは埋められません。
感覚的な話ですけど、テレビのなかでみんながワイワイやっているのって、自分のことを見てくれている気がしないでしょう?
福田
それで言うとラジオは、リスナーである自分自身に直接語りかけてくれていますね。
コミュニケーションを取りたければ、メールを送ればパーソナリティが見てくれますし。
吉田さん
そうです。まあ、実際にメールを送ってくれる人ってほとんどいないんですけどね。多分100人に1人くらいだと思います。
大事なのは、窓口があること。その窓口があることで、寂しさはかなりまぎれるんじゃないかなって思います。
リアルタイムの共感性。作業しながらも触れられるのはラジオの強み
吉田さん
ラジオの面白いところは、番組で曲を流すじゃないですか?
それが自分の知ってる歌やダウンロードしている音源、CDで持っている曲とかだったら、うれしいですよね。
福田
「おお!この曲知ってる!」って思って聴いちゃいます。
吉田さん
ですよね。でもよく考えると、ダウンロードして持っている音源をわざわざラジオで聴く理由はないでしょう?
なぜラジオで流れると聴いちゃうんだと思います?
福田
言われてみれば、確かになんででしょう?
吉田さん
それは、ここでかかっている曲は、ラジオのディレクターやパーソナリティの誰かが選んでかけているもので、無意識に僕らは「これは誰かと共有している」と判断しているからなんです。
そうすると、全然違って聴こえるんですよね。
福田
ああ~超わかります!!
吉田さん
あと、ラジオはこれからのライフスタイルにハマっていけるメディアだと思うんですよ。
福田
どういうことですか?
吉田さん
何か作業をしながらでも触れられるメディアってことです。
人間のライフスタイルは効率化されていく一方ですが、それでも「片付け」「料理」「移動」は絶対になくならないと思うんですよ。
この間ってほかのメディアに接することができない。でも、ラジオなら聴けますよね。
福田
言われてみると、同時に別のことができるメディアってラジオだけですね。
吉田さん
そうなんですよ。それなのにみんな聴かない。もったいないなあと思います!
ラジオは斜陽ではなく成長産業。課題は「聴くトレーニングが足りてない人が多い」
吉田さん
先ほど、ラジオは絶対になくならないって話をしましたが、さらに言えばラジオは成長産業なんです。
福田
そうなんですか!?
吉田さん
2016年3月に発表されたNHK放送文化研究所のレポートで、「1週間に5分以上ラジオを聴く」人の割合を示す「週間接触者率」が日本は37%でした。
それに対して欧米各国は90%以上。世界で見ても、70%以下の国はほとんどないんです。
それってつまり、90%くらいまで伸びしろのある成長産業だって言えませんか?
福田
見方を変えれば、確かに…
では、ここから上昇させる戦略などもすでにあるんですか?
吉田さん
見立てはあります。ただ、大きな問題があるんですよ。
ラジオを聴くって、実は非常に難しくて、みんな簡単にはできないんです。
福田
えっ、聴くのが難しい?
吉田さん
ラジオは人のリアルな話を聴くわけです。
だから、その人の発言の意図をくみ取るのは、訓練されてないとできないんですよ。もちろん、話す側の努力も必要ですけどね。
その聴く能力が、20代~30代は壊滅的なんです。
福田
どうして我々R25世代が抜け落ちてしまったのでしょう?
吉田さん
彼らが10代だった2000年代は、ネットの匿名掲示板の全盛期だったからです。
放送作家の笹沼大さんという方は、「2ちゃんねる(現5ちゃんねる)は、伊集院光である」って言っていました。
福田
どういう意味ですか?
吉田さん
2ちゃんねるで使われている用語のかなりの部分は、伊集院さんがラジオ内で使って、初めて日本語に付け加えたものなんですよ。
ネットで流行った中二病という言葉も、伊集院光さんとみうらじゅんさんが生み出したものですからね。
つまり、ラジオのリスナーや文化が、ネットの匿名掲示板に流れてしまったことで、ラジオらしさが匿名掲示板に奪われてしまったんです。
福田
言われてみれば、リアルタイムでつながれる感じもラジオに近いですね…
それで、2000年代に10代だった我々はラジオを聴かずに、匿名掲示板のほうをよく見ていたと。
吉田さん
そうです。
今のネットの匿名掲示板は大衆化されてアングラ感がなくなりましたから匿名掲示板とラジオが食い合うことはなく、フラットに捉えられるようになっています。
10代なんかは、radikoの普及でラジオリスナーが増えていますよ。
聴くトレーニングが足りないのは、ラジオ側にも問題がある
福田
では、聴く能力が壊滅的な20代~30代が、これからラジオを聴きはじめるのは難しいのでしょうか?
吉田さん
これは正直言って、聴いて慣れるしかない。
ある調査機関で、ラジオを聴いたことがない人に「1日1時間ラジオを聴かせる」という実験を2週間行ったんですけど、ほとんどの人が実験後もラジオを聴く習慣ができたという結果がでました。
とにかくラジオのスイッチを付けさせればいいんですよ。
福田
うーん。でもそれって、無理やりラジオを付けるってことですよね。絶対にやらない気がします…
吉田さん
そうなんですよね。それは、ラジオ業界側に問題があって、ラジオを聴くに至るほどの魅力をユーザーに伝えきれてないんです。
面白いラジオ番組があっても、それを知る方法がない。その情報流通を整えないといけないなって、ずーっと考えています。
福田
そこに関して、何か答えは見つかりましたか?
吉田さん
業界の力が足りないなら、ラジオリスナーと協力していくしかないってなりました。
2016年から、面白いラジオ番組を共有する「ラジオ情報センター」という番組をツイキャスで始めたんです。その番組では、ラジオ好きに「#ラジオ情報センター」とハッシュタグをつけて、自分が面白いと思う番組をバンバン発信してもらっています。
昔は面白い番組を後から聞くのは大変でしたけど、今は面白い番組があったら、radikoのタイムフリーURLで簡単に共有できるようになりましたからね!
ラジオ好きが、ほかのラジオ好きにどんどん情報を発信していく。その輪が広がっていったら、「ラジオを聴かない人」にも広がるんじゃないかなって考えています。
福田
リスナーと共犯になっていくってことですね! うまくハマっている実感はあるんですか?
吉田さん
ラジオ業界にどっぷり浸かっているボクも、まだまだ知らない番組があったんですよ。
それをもっと広めたい。だから次は、大々的なラジオメディアができればいいのにって思っています。
福田
大々的なラジオメディアというと、どんなものですか?
吉田さん
例えば毎週ラジオ番組のランキングが発表されて、人気の番組がすぐにわかるというもの。もっと情報共有されやすくなれば、業界も活性化されるはずです。
福田
現状だと、ラジオのランキングって、個人ブログとかでしかやってないですよね。
吉田さん
そうなんです。現状のラジオ業界では、面白いことをやった人が報われるシステムになっていません。ラジオブームを起こさないと、これは解消されないでしょう。
ラジオ業界は、Voicyの誕生をどう捉えているのか?
福田
話が変わりますが、ここ最近「Voicy」というサービスが話題に上がってきています。
これで音声メディアの注目度も上がっていると思うのですが、ラジオ業界ではVoicyはどう捉えているんですか?
吉田さん
個人的にですが、Voicyに可能性は感じますね。ラジオにない流通方法を持っているので、これまでラジオを聴いていなかった層が音声メディアを聴いてくれてますよね。
ただ、ラジオ業界の人間からすると、まだまだだなって思うこともあります。
福田
ほう…と言いますと?
吉田さん
ラジオ番組はほとんどの場合ディレクターがいて、あまりに偏ったものや公共性がなさ過ぎるもの、いくらなんでもつまんないだろう、というものが流されることはありません。
ただ、Voicyでは個人的に、「さすがに…!」って思うものが混ざってはいます。あくまで個人メディアだなと。
でも、そのなかで新しい発見がありました。
福田
何ですか?
吉田さん
はあちゅうさんのVoicyを聴いたあと、「伊集院光のラジオのほうがおもしろい」って、自分のVoicy上であえて言ってみたんですよ。そしたら、「はあちゅうさんのほうが面白いと思います!」って人が現れたんです。
ラジオ業界のボクからしたら、プロのパーソナリティの伊集院光さんのラジオのほうが、企画力もトークも圧倒的に面白い。でも、はあちゅうさんのファンからしたら、伊集院光さんのラジオは「50代のおっさんが話しているだけ」にしか聴こえないのかもしれないって気づいたんです。
ブログやSNSでその人のことを好きになって共感できることで、面白さにつながっている。それにかなり衝撃を受けました。
福田
その人のファンかどうかで、面白さの判断が変わるってことですね。
吉田さん
そう。だから、ラジオであれVoicyであれ、まずは「ファンになった人の音声メディア」を聴いてもらうことに価値があるなって思っていますね。
そこで聴くトレーニングを積んだら、ほかのラジオも聴いてもらえるようになるって期待はしています。
福田
最後に、吉田さんが思い描くラジオの未来を教えてください。
吉田さん
「好きなアーティストは?」っていう質問と同じくらい、「好きなラジオパーソナリティは?」という質問に答えられる人が増えるといいですね。
プロフィールに好きなラジオ番組がみんな書けるようになって、それであーだーこーだ言い合えるのって超理想的じゃないですか。
福田
みんながラジオを当たり前に聴いている社会…いいですね!
吉田さん
この読者の方々で、ラジオを聴いたことがない人には、「とりあえず1週間でいいから、毎日1時間つけっぱなしにしておいて」って言いたい!
「ラジオがつまんない」とか「時代遅れ」って言っているのは、自分が情報やメディアを使いこなせてないって言っているのと同じですよ。
まるで1時間の生放送を聴いているかのようなインタビュー。ロジカルな思考と内に秘める熱量で、食い入るように話を聴いていました。
帰り際に、「今回はボクも新しい気付きがありました。よかったら音源をください」と申し出てきた吉田さん。斜陽産業のように見えるラジオ業界ですが、吉田さんのような方がいれば未来は明るい!と言い切れるようになりました。
今回のインタビューは、ボクがラジオが好きすぎて敢行された企画です。これを読んで、少しでも多くの人にラジオを聴いてもらえればうれしいです!
〈取材・文=福田啄也(@fkd1111)/撮影=藤木裕之〉
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